幕間『エイルはキャンプしたい③』
ミカさんの消える魔球もあっさり打ち、やや自信喪失気味のミカさん。
野球対決は俺の勝ちで終わった。
◇
「フフ……貴様らは魔王ミカエル様の贄となるため、地獄の業火に焼かれ苦しむがいい!あははは♡」
「ジス。普通に肉焼いてくれ」
「エイルに食わせる肉など無いわ。自分で焼きなさい!」
「エイルのは私が焼くから待っててね」
「ミカエル様!」
ミカさんが焼いてくれるなら安心だ。
「エイル焼けたわよ。あーんして」
なんだと?
「ミカさん。それは流石に恥ずかしいよ。自分で食べ……」
「あ?」
笑顔から一転、憤怒の表情へと変わる。怖い。
ミカさんを怒らすと怖いし、仕方ない。言う通りにしようか。
「じ、じゃあ頂こうかな……」
「はい♡あーん♡」
「あー……」
ちょっと恥ずかしかったが、肉を美味しく頂けました。
「お腹いっぱいだよ、もう」
「エイル。もう限界なのです?たくさん食べないと大きくなれないなのですよー」
リオが挑発してきた。
「むぅ……」
最近、めっきり女らしく成長著しいリオ。
体型も丸みを帯びて女性らしい体つきになっていた。
身長も既に頭半個分、俺より高い。
「最近、ブラがキツくなってきたなのですよ〜。良かったらお下がりあげるなのです」
バカにしやがって!俺だって少しは成長してるよ!
「コラコラ、リオ。エイルをからかうのはやめなさい。それにお下がりのサイズも合わないだろう?」
セリスのフォローが余計だ。
別にいいもん!
◇
「さて、テント建てないとだな」
まだ明るいうちにテントを設営する事にさした。
一応、皆冒険者なので、自前のテントは持っている。
長期移動用に陸王で引く馬車の荷台を改造したキャンピングカーみたいな物もあるが、今回は使わずに各自テントを用意した。
大抵は一人用か二人程度の小型な物が主流らしく、俺のも一人用だ。立木に吊るして設営するタイプなので、支柱も無くコンパクトだ。
セリスとリオは士官学校の訓練でもしてるらしく、手馴れた感じで設営していた。
マリンとティファが悪戦苦闘しながらも何とか設営出来たみたいだ。
ミカさん達の方を見ると……
巨大な天幕をジスが一人で設営していた。
なんだアレは!
なんか遊牧民の家みたいな天幕。
あぁ、よく軍隊が陣を張った先にある、仮説司令部みたいなやつだ。流石魔王。
「エイル!私達用のテントよ!中にベッドもあるし快適且つ夜もお楽しみな空間よ♡」
何をするつもりでしょうか?
「いや、今日は一人で寝るつもりだから遠慮しておくよ……」
怒るミカさんを宥めるのに苦労したが、今日はキャンプなのだ。八つ当たりでマリン達のテントは壊された。
◇
陽が沈み、夜になった。
森の方は闇に包まれているが、川の方は月明かりで少し明るい。
「さて……怖い話とかしようか」
「な、何を言っているのよ!ち、ちょっとやめてよ!私そういうの苦手なんだけど!」
意外にもミカさんがビビっている。
「ほう、怖い話とは興味あるな」
「ワクワクっス!」
「この森なんか出そうで怖いですよぅ」
「この森、バリバリ出ますよ」
ラム太郎が衝撃発言をした。
まぁいい。気にせず俺は怖い話をした。
あれは俺が深夜コンビニの勤務の時だった。
深夜2時過ぎ、特にやる事も無くなったので、事務所で休憩をしていた時だ。因みに当日いたのは俺だけだった。
「ちょっと待て。コンビニとはなんだ?」
セリスが当然の質問をして来た。
「えーと……夜中も営業している商店みたいなもんだよ」
「夜中もだと!夜中も客が来るのか?危なくはないのか?」
「セリス。質問は後にしようか。話進まないから」
「うむ。分かった」
休憩中に入店ブザーが鳴り、誰か来たのかと思い、売り場に出た。
だが、人の姿は無く、入口ドアも閉まったままだ。
誰も居ない店内に入店音が連続で鳴る……
「ピンポーン……ピンポーン……ピンポーン」
「ヒィっ!」
ミカさんがカタカタと震え、ジスにしがみついている。
俺は勇気を出し、入口に向かった。
すると……
感知器の前にちっさい蜘蛛がプラーンと居たのだった。
「……」
「蜘蛛?お化けじゃなくて?」
「うん。蜘蛛が感知器に反応してただけだった」
「ぜ、全然っ!怖くないわ!ビビって損したわよ!」
「あはははっ」
◇
皆それぞれのテントに入り就寝して暫く経った頃。
俺のテントにミカさんが訪れた。
「エイル……起きてる?」
「……寝てる」
「あの……ちょっといいかしら?」
「え?どしたの?」
何やら神妙な顔をしているので何事だろうか?
ジスでも死んだのかなと、思ったが違った。
「ちょっと……トイレ行きたいんだけど、つ、着いて来てくれないかな?」
意外と怖がりな魔王も居たらしい。
「ジスは?」
「あの子、寝たら起きないのよ。昔から」
護衛として大丈夫か?
仕方ない。付いていってあげるか。
ミカさんと二人、深夜の森を歩く。
本当に怖いのか、ミカさんがガッシリと手を繋いで来る。なんか……逆に肝試ししている気がするのだけど。
テントから少し離れた河原までやって来た。
「す、するから、ちゃんと見ててね!」
「え?あー、分かったよ……」
ミカさんがキャミソールを捲り、しゃがみこんだ。
俺はミカさんの正面に立ち、様子を見る。
「なんで正面に立つの?丸見えになるじゃない!」
「だって……見てろって……」
「バカ!見張っててって意味よ!もう!なんで、する所を見て欲しいとか思うの?どんなプレイよ!」
「ご、ごめん……ミカさんなら有り得るかと」
「失礼ね!いいから向こう向いてて!あと耳塞げ!」
言われた通りに耳を塞いで、ミカさんと逆の方を見ていると、河原の反対側の先に何やら動く明かり……火の明かりが見えた。
え?何?怖いんですけど。
「ミカさん!あっちに明かりが……」
「こっち見んな!」
ミカさんは咄嗟に河原の石を投げて来て、俺の額に勢いよく当てた。
「いだっ!」
額からドクドクと血が流れた。
怒らせてしまいました。因みに暗いから、見えちゃいけない部分は見てないよ?
「で?何?」
不機嫌なご様子ですが、済んだみたいで、川で手を洗いながらこちらを睨む。
「いや、だからあっちに明かりが見えたんだよね。動くの」
「え……明かりが?動くの?……そ、それって、ひ、ひ、ひとと、ひと……」
「人魂?」
「そっ、そう!それよ!え?マジ?」
「うん。マジだよ」
俺とミカさんは、明かりの正体を暴くため、向こう岸の森へと入って行ったのだ。
「ねぇ?やっぱりやめない?ほら、ラム太郎も出るって言ってたし!言ってたし!」
最早、手を繋ぐと言うよりしがみついているミカさんの怖がり様が、やっぱり女の子なんだなと思うけど、しがみついている手の力が入り過ぎて爪がくい込み痛い。
掴まれている腕の骨がミシミシと音をたて、今にも折れそうです。魔王怖い。
「ミカさん!確認しないと気分よく眠れないよ多分。それに、もしも他国からの侵入者だったら大変だよ」
「う……そ、そうね……」
ただでさえ白い顔が真っ青なミカさんだ。
そんなミカさんの手を握り俺たちは森へと進んだ……
やがて、明かりの動く先に辿り着くとそこは墓地だった。
「墓地?」
すると急に森の陰から何かがガサガサっと近づいて来た。
真っ先に反応したのはミカさんだった。
「きゃあああ!」
ミカさんが近付く音の方へ超弩級魔法、
「み、ミカエル様?それにエイル殿!」
「あれ?シピン!」
目の前に現れたのは魔王軍四天王の一柱、死者王シピンだった。
何度か会った事はあるが、見た目が大柄な骸骨の騎士であるため、夜に会うとやっぱり怖い。
どうやら動く明かりの正体は松明を持ったシピンの様だった。
だが、時既に遅く、ミカさんの放った
「あわわわ!ミカさん!大変だ!消さないと!」
ミカさんを見るとシピンの登場で驚き魔法を放った後、気を失ってしまったみたいだ。
ヤバい!どうしよう!俺、水魔法は使えないのですが!
「シピンさん!火、消せます?」
「お任せ下さい!我が魔剣デスサイズの黒炎で吹き飛ばしてくれますぞ!」
「ダメぇ!それは逆効果だよ!」
「くっ!ならばどうすれば良いのだ!」
「森が……」
火の廻りが速く、辺りは一面炎に包まれていく……
このままでは、森が全て灰になる。
その時だった。
「うちに任せるっス!」
マリンが、突然背後から現れた。
え?なんでコイツここにいるの?ひょっとして付けて来てたのか?
「
「あ!」
マリンは俺が制止する前に、水魔法を使用した。
発生した大津波は炎を包み込み、更に俺たちも一緒に巻き込み、押し流して行く。
◇
あの後、俺たちは流されたが、何とか空へと離脱して難を逃れた。
大津波の影響で河川が氾濫。当然、セリス達のテントも浸水して大惨事となり、キャンプは台無しになった。
あの夜から死者王シピンが行方不明だったが、港町サクルにデカい白骨死体が流れ着いたと新聞の一面を飾る事件があったらしい。
あの森の墓地はアンデッド軍団の居住区らしく、夜な夜な、仕事を終えたアンデッドが魔都から帰宅するらしい。ラム太郎がバリバリ出ると言っていた意味が分かったエイル達だった。
キャンプ編~完~
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