幕間『エイルはキャンプしたい②』
俺たちはキャンプをするため、魔国の森へ向かった。
森の案内はラム太郎だ。
巨大チワワのラム太郎は一応魔物ではあるが、弱い上に見た目の問題もあってか、他の魔物と馴染めずに、この森でひっそりと暮らしていた事があるそうだ。
幼少時のミカさんに拾われて今に至るらしい。
そのラム太郎の案内で森を抜けた先にある河沿いにテントを張る事にした。
「良いね!ここなら釣りも出来そうだし!」
「そうね。では早速、セリスとリオは森で薪の代わりになる物を探して来なさい!マリンとティファは水汲み。エイルはテント張って!」
ミカさんがリーダーシップを発揮し、皆に指示を飛ばす。因みに『銀の翼』のリーダーは俺なんだよ。
「流石ミカエル様!野営の指示も的確です!」
ジスがミカさんに日傘を差しながら、やたら褒める。いつもの光景だ。
ミカさんはと言うと、いつの間にか用意されたテーブルとチェアに収まり、早速、酒を飲み始めました。
「ラム太郎は川で水遊びでもしてなさい」
「はい!ありがとうございますミカエル様!」
ラム太郎はライトニングを連れ、川に行ってしまった。
ミカさん、ラム太郎には甘くないですか?
「川下りっス〜!」
マリンが早速遊び始めました。
ボートにも乗らずに川下る姿はただ流されてる人にしか見えない。
「マリンさん!危ないですよぅ!」
置いてけぼりをくらったティファが一人で水汲みに励む事になった。頑張れ!
暫くしてセリス達が戻り、火を起こし始めた。
「肉!肉!なのです!」
「コラコラまだ焼けてないぞリオ。少し待て」
俺は釣りをしていたが、さっぱり釣れない。
「クソう!」
「釣りも出来なんて、役にたたないエイルは用済みのようね」
ジスにも言われ放題だ。
結局釣れなかったので、マリンに魚を採ってきてもらった。
見るとミカさんが魔法で釜戸を作り何やら焼いている。
「ミカさん。何作ってるの?」
「ビザ焼いてるの。酒のつまみに。エイル!焼けるまで野球やるわよ!ジス!キャッチャーやりなさい!」
「了解です!」
ミカさんが荷物からバットとか野球道具を出して来る。
「エイルはバッターね」
ジスが完全武装でミットを構えてしゃがむ。
「エイル。ヘルメット被らないと頭飛ぶから被りなさい」
え?何それ怖い。
ミカさんがワインドアップで振りかぶり第一球を投げた。
「うおりゃああああああああぁぁぁ!」
弾丸と化したボールが閃光の様に走り、低めからえぐり込む様に向かって来る。
「ヒッ!」
思わず仰け反る。ヤバい!コレは死ぬ。
バスン!
ジスの構えるミットに煙を上げながらボールが収まる。
「ストライクっスー!」
いつの間にかジスの後ろでアンパイアをしていたマリンだ。何故野球をしっている?
「ミカさん!今の何?」
「フフ……ジャイロボールよ♡」
ジャイロボールって!漫画か!
「ミカエル様のジャイロボールは初見では打てないわ。謝るなら今のうちよ」
何故謝らないといけない?舐めるなよ。これでも野球部に居たことあるんだ。
「ミカさん、もっかい今の投げて。打つから」
「む……」
ミカさんが、少しムッとしたのか、顔が怖い。
再びミカさんが振りかぶり第二球を投げた。先程と同じジャイロボールだ。
コースもさっきと同じ、低めからストライクゾーンにえぐる様に伸びて来る。
「よっ!」
カーン!
打球はミカさんの真上を抜け、遥か彼方に飛んで行った。球場なら場外ホームランだな。
「はあぁぁぁぁぁぁ?なんでアレ打てんのよ!」
「なんでって言われても……打てたんだからしょうがないでしょ」
「ムカつく!次のは絶対打たせないわ!覚悟なさい!」
まだやるみたいだ。
新しい球を用意したミカさんは、こちらを睨み続けている。そんなに悔しいか?
「いくわよ!消える魔球よ!」
消える魔球だと?
昭和の魔球の代表的な扱いをされる消える魔球。
そんな魔球が普通にある訳が無い。
消える様に速いか、そう感じる様に変化するかしか無いはずだ。
だが――
その消える魔球は明らかに消えた。
ミカさんの指先を離れた途端に消えたのだ。
正に消える魔球であった。
反則じゃないの?
つづく
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