幕間『エイルはキャンプしたい①』

 サンク市の屋敷にて。


 俺たちは、ちょっと遅い夏休みをサンクの街で過ごしていた。


「ねぇミカさん、キャンプしたくない?」


「え?キャンプ?」


「うん。キャンプ。テント張ってさ」

 とりあえず暇なんです。異世界には娯楽が少ないので、仕事してない俺には退屈過ぎるのだ。


野営キャンプなんかする必要あるのか?」

 セリスが俺の提案を不思議に感じたのか、異を唱える。


「いや、そのキャンプじゃなくてさ、遊び?みたいなヤツ」


 この世界では、娯楽としてのキャンプはない。

 基本的に野営キャンプは冒険者等が、旅の途中で夜を過ごさないと行けない場合や、商人が物資を運ぶ途中に野営したりする。その場合は冒険者に護衛を依頼するらしい。

 お外はとても危険だからだ。

 魔物や、盗賊に襲われる危険が伴うため、冒険者だって見張り役を二人とかたてるのだ。


「そもそも野営は楽しいものではないぞエイル。何して楽しむつもりなんだ?」


「そりゃあ……BBQしたりとか釣りしたりとか?」


「肉あるなら賛成なのです!たくさんぶっ殺すのです!」

 リオが魔物狩りと勘違いしているみたいだし、血の気の多いセイコマルクの姫だ。


「釣りなら任せるっス!」

 海神のマリンなら魚には困らないが、一体、道具無しで釣るのかは謎だ。


「皆一緒なら賛成ですよぅ」

 ティファは基本的にはイエスマンだから問題ない。


「まぁ……ティ……ファ?が寝ないで結界張っていれば、なんとかなるわね」


「ミカエルさん!私の名前忘れかけてますよぅ!しかも寝ないで結界とか、私は楽しめないじゃないですかぁ!」


「黙りなさい人間!ミカエル様に名を呼んで頂けるなんて光栄に思いなさい!魔国の民なら失禁レベルよ!」

 ミカさんとジスは相変わらずティファに酷い。

 嬉ションする魔族とか見たくないな。


「フン……雑魚の話は置いといて、エイル、キャンプって言っても何処でするの?山とか川とか海。色々あるでしょう?」


「うーん……やっぱり森で寝泊まりして、川で釣りして、砂浜で遊びたい」


「無茶苦茶な立地条件ね……湖とかは?」


「おっ!ミカさんナイス提案!」


「待て待て!湖はこの前エイルが魔法で吹っ飛ばしただろう?今は正規軍総出で、復興中だ。そんな中、破壊した張本人が、遊んでたら、流石にユリウスも怒るぞ!」


「あー……そうでしたね。て事は湖はパスで」


 キラーイール討伐戦で派手にやらかしてしまったが、無事討伐は完了したので、お説教だけで済んだ件をすっかり忘れていた。報酬も没収されたし。

 ウナギはたらふく食べたけど。


「なら、魔国の森はどうでしょうか?人族の国よりよっぽど安全でミカエル様もゆっくり休んで頂けるかと」


 と言うわけで、ジスの提案で俺たちは、世界で最も平和な国。魔族国デスニーランドでキャンプして遊ぶ事にした。

 魔界が一番平和って、何だか変な気もするが、事実だ。

 魔物に襲われる事もなく、盗賊やら山賊の類いも居ないし。正に理想郷だ。


 エイル達一行は大陸の西側に位置する魔国へと向かった。

 転移で直ぐだが。


「え?森に行かれるんですか?」


「そうよ。森で皆とキャンプして過ごすの、ラム太郎も来る?」


「あ、ありがとうございます!ミカエル様!このラム太郎、身命を賭して、森の案内をさせて頂きまする!」


 ミカさんの従魔ペットの巨大チワワ、ラム太郎が尻尾を振りながら感激している。

 遠くから見るとチワワだから可愛いんだけど……

 近くだと、巨大過ぎてちょっと怖い。息荒いし。


「ライトニング君も来るよね?来るよね?」


 ラム太郎が背に乗る俺の従魔ペットライトニングに話しかけた。因みに猫だ。


「うむ……我も、あっ……ニャー」


 あれ?今、喋らなかったか?

 気のせいか。


 そうして、俺たちはラム太郎の案内で、森へキャンプしに向かったのだった。

 この時はまだ、あんな恐ろしい恐怖を味わうとは思わなかったのだ……



 続く


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