幕間『リュウタロウがゆく』

 勇者パーティを引き連れ、と言うか連れ出された勇者リュウタロウは、神聖王国セブール王国の領内にある、トアール村へとやって来ていた。


 手厚い歓迎を受けたリュウタロウ達は、村の集会所で宴を開いてもらっていた。

「おい。村長」


「はい。なんでございましょう?勇者様」


「今すぐ、村の若い女を集めろ」


「そっ、それは一体どう言う事でしょうか?村の娘達が何か御無礼を致しましたのでしょうか?」


「何。別に無礼討ちをするわけじゃない。ただ、ボクは勇者だ。この村を守る義務がある。だからその対価として、女を差し出――」

「あはは!リュウタロウ様は大分酔ってるみたいですねー!村長さん、気になさらずに。ちょっとお酒弱いみたいです勇者様は!」

「は、はぁ……」


 スピカが咄嗟にリュウタロウの口を塞ぎ、クズ発言を阻止した。

「スピカ!ボクは酒なんて一口も飲んでな――」

「――黙れって言ってんですよリュウタロウ様。勇者が盗賊の頭みたいな事言ってないで、勇者らしく振舞って下さいよ!でないと……あの事バラしますよ」


「うっ……」


 スピカに何らかの弱みを握られているリュウタロウはスピカには逆らえないのだ。他の女達はリュウタロウが『魅了』のスキルでも使えば、扱うのは容易い。だがスピカには何故か『魅了』が通じないのは『聖女』だからなのだろうか?


「村長、何か困った事は無いのか?このボクが解決してやらんでもない」


「お心遣い感謝致します。ですが、特に困った事などございません故……」


「むぅ……そうか、分かった。下がれ」


 フン。つまらない村だ。娯楽も無ければ、美女も居ない。ありがちなイベントも無しと来た。これでは勇者としての活躍の場が無いな。

 どうにかして、恩を売りたいところだが……



 ◇



 その夜、スピカは村の共同浴場の帰りに、リュウタロウの姿を見かけた。何やらコソコソと周囲を気にしている様子だ。


「リュウタロウ様?」


「!?す、スピカか!脅かすなよ。ちょっと涼みに外に出て居ただけだ。もう寝る」


「はぁ……おやすみなさいませ」


 リュウタロウはそそくさと、寝泊まりしている屋敷へと戻って行った。


 こんな場所で一体何を?

 近くには村の井戸しか無いはずであるが……

 スピカは疑問に思いながらも、屋敷に戻った。


 屋敷に戻るとユリア達の三人は酒浸りになりながら、リュウタロウに絡んでいた。いつもの光景だ。


「ちょっとお!リュウタロウの一番は誰なんらのぇ?」

「ハッキリさせやぁ!このスケコマシがァ!」

「ウチはどーでもいいけどぉ?」


「フム……別に一番とかは無いな。気にするな。じゃあ寝る」


「最低っだぁスケコマシ!」


 まったく。人様のお宅なんですから、もう少し勇者パーティらしくして欲しいのですが、こんなもんなんでしょうか?



 翌日――

 村に異変が起きた。


 体調不良を訴える村人が現れ始める。

 皆、体の痺れを訴え、中には起き上がれない村人までが続出した。

 個人差は有るが、年老いた村人には死者も出始める。


「勇者様!どうかお助け下さい!」


 村長が凄いけんまくで、事態の収拾をリュウタロウに懇願する。


「……あぁ、任せろ村長。だがな、相応の礼を約束してくれないだろうか?」


「れ、礼と言われましても、村の資金は困窮しておりますし……」


「なぁに、金以外でも構わないよ。……そうだな。確か村長、娘が居たな?アレを暫く貸してくれれば良い。どうだ?」


「困ります!娘は来月に嫁入りが決まったばかりで……」


「んー?村長ぉ、村人より自分の娘を優先すごあっ!」

 スピカがリュウタロウを蹴飛ばすと、壁を破壊し外に消えた。

「村長さん。無償で何とかしますので、御安心下さい。リュウタロウ様の発言は聞かなかった事に」

「は、はぁ……どうかよろしくお願いいたします聖女様」


 スピカは直ぐに治療にあたった。

 どうやら、麻痺毒による症状であったが、スピカの回復魔法により、解毒は簡単に済んだ。

 調べて見ると、被害者に共通する事は同じ井戸を使用している住民だけに麻痺毒の症状が見られたため、該当する井戸の浄化を行い、解決した。


「あの井戸……確か昨夜リュウタロウ様が居た場所……偶然でしょうかね?」


 スピカはおそらく、犯人はリュウタロウだと言う事に気付いてしまったが、今それを公にするつもりはなかった。リュウタロウには勇者として最後まで働いてもらわねばならない。


 翌日、リュウタロウ達一行はトアール村を出発して、大陸中央に位置する、ローゼン帝国を目指した。

 その道中。


「リュウタロウ様、井戸の毒の件ですが、何故あんな事を?」

「ん?ボクは知らないぞ。そもそも毒なんて持ってない」

「え?でしたら井戸に居た理由を説明して下さい!」

「それは……村長の娘に会っていた。それだけだ」

「手を出したんですか?」

「ん?うーん……まぁ結果的にはそうなるな。済んだ事だ気にするな」

「はぁ……分かりました」

 え?なんで私が納得させられる側になってるのでしょうか?しかし、リュウタロウが犯人ではないとすると……


 スピカは考えるのを辞めた。


 勇者一行の冒険は続く……かもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る