第20話『一旦落ち着く』
エイルとミカエルに遅れる事数分、アチナとノアが須弥山の山中にやって来た。
「椿ちゃんは?」
「グースカ寝てるよ。でもかなり重症なんだ。回復魔法をかけて!」
「ああ、分かったよ。
椿の身体の傷が、消え失せて行く。もう大丈夫そうだ。
とは言っても、極寒の山中で寝かせておくわけにはいかないが……。
「椿は私の家に連れ帰るわ。それであなた達はどうするつもり?」
「椿ちゃんを頼みます。勿論、神聖王国潰しに行きます!」
「私も行くわ!皆殺しにしてやるわよ!」
俺とミカさんはヤル気MAXだ。
「ち、ちょ、ちょっとそれはボクとしては困るよ!穏便に解決出来ないかな?」
「無理だよ!だって向こうは軍を率いて椿ちゃんを……」
「そうよ!殺し尽くしてやるわよ!」
「そんな事してエイルがボクの子だって知れたら、怒られるのボクだよ!邪神にされちゃうよ!」
我が身の保身に走るアチナだ。
「ちょっと落ち着いて話せないかしら?ここじゃなんだし。アチナ、転移で私の家へ。結界は無くなっているからイけるでしょ?」
因みに結界はエイルが破壊した。
「う、うん。そうだね。転移!」
◇
転移でノアさん宅に移動し、椿ちゃんは寝室で爆睡中だ。逞しい師匠で良かった。泣き損だが。
「今回の件。十二天将の誰かが裏で動いてるのよね?
」
「はい。スピカさん以外の十二天将だと思います!スピカさんは北の大陸で一緒でした」
「何それ?私聞いてないけど!なんでスピカ一緒なのよ!」
あー怒り出した。
と言う訳で、スピカさんが一緒だった経緯と結果的に一緒で助かった事も説明したが、不機嫌だ。
「スピカが今回の椿襲撃に関わってないとすると、あちらの狙いは恐らく……大戦への大義名分でしょうね」
「どういう事です?」
ノアの見解はこうだ。
今回の件にスピカさんが関わっていれば、理由無くとも
最高司祭、あるいは国王を操り、椿ちゃんの討伐が可能だ。
逆にスピカさんが関わって無い場合は、討伐の正当性を用意する必要がある。
「つまり、エイルちゃんが椿を倒された復讐として、聖都に襲撃でもしたら相手の思う壺って事よ。標的にする事が出来るわけよ。要するに火種が欲しいって事」
なるほど。とりあえず喧嘩売って、挑発してるのか。
「なら、どうすれば良いの?このまま黙ってろって言うのは無理だよ!」
「そうよ!少なくとも聖都を火の海にしてやらないと気が済まないわ!」
「相手がされては困る事は?」
「困る事?んー……悪口とか風評被害とかかな?」
「子どもの喧嘩じゃないのよ!バカかよ!」
「ボクなら生玉子投げるかな!」
「親子揃ってバカか!」
「リュウタロウの殺害よ」
「あっ、そうか!リュウタロウが死ねば、アルテミスの封印は解けない。でしたよね?」
「でも殺せるなら、とっくに殺ってるわ。ムカつくけど強いし!」
そうだ。勇者チートで強いリュウタロウを殺すのは大軍と戦うよりも難しい。
仮に殺しても、直ぐに蘇るらしいし……ん?
直ぐに蘇る……確か……
「白の宝玉!」
白の宝玉がある限り、勇者は何度でも蘇るふざけたアイテムだ。それをなんとかしないとリュウタロウを殺しても無意味だ。
「その白の宝玉って確か教会本部にあるんだよね?」
「うん。教会本部の召喚の間にあるよ」
「じゃあ。ちょっと行って来るよ!」
「ま、待ちなさいって!他にも行かないとならない場所あるでしょ?刀の件とか」
何故かミカさんに首根っこ掴まれた。
「あっ、そうだった。どうしようか?」
「先に刀を頼みにセイコマルク経由で妖精の国行く?」
「悠長にしても居られないし、素材の合成は私がやるつもりだから、刀の事は私に任せなさい」
「ノア様、よろしくお願いします!」
という訳で、セブールの聖都セブンスヘブンへは俺とミカさん。あとアチナ。
妖精の国ミストリアにはノアさんが行き、マリンとティファは迷惑をかけそうなので留守番だ。ジスに見張っててもらおう。
「それで聖都セブンスヘブン?だっけ?普通に入れるのかな?」
聖都セブンスヘブンの入国はかなり厳しく、ギルドカードは勿論の事、他国からの入国は冒険者の場合はギルドからの紹介状が必要である。これは依頼の為に入国せざるを得ない場合にのみ有効らしい。護衛依頼とかだそうだ。
次に貴族の紹介状で入国する方法だ。
これはセブール国内の貴族が他国の要人を招く時に使用するケースらしい。因みに伯爵以上だそうだ。
後は各国の王族の紹介状等がある。これは外交の際に使うらしく、一般的ではないそうだ。
「ユリくんにお願いして、なんとかならないかな?」
お友達にファミリア王国の王様が居た事を思い出した。
ユリくん元気かな?かれこれ一年くらい会ってない気がする。
「バカね。王族の紹介状なんて持っていたら、潜入どころか、国賓レベルの扱い受けて目立つ事この上ないでしょう?」
ノアさんにバカって言われた。
「もう普通に空から侵入出来ないかしら?」
「それは無理かなぁ。聖都には対空防御結界があるんだよ。ドラゴンも侵入出来ない程の強力な結界だよ」
勢いで突っ込まなくて良かったと思う。俺エライ!
「じゃあどうするのよ!聖都ごと破壊すれば良いのかしら!」
ミカさんがブチ切れてます。
「あのさ、そういう乱暴なやり方やめて欲しいな。ボクだって一応、神様なんだからさぁ!」
「アチナ。貴方確かセブールの出身よね?そのつてでなんとかならないかしら?騒ぎにしたくないなら、正当な入国が必要よ」
「はっ!そうだった!ボクの実家に協力して貰えばなんとかなるかもしれない!」
アチナに実家あったんだ。
現在の神であるアチナはセブールの貴族出身なんだそうだ。人だった時の名は、アチナ・セイクリッド
男爵家の三女だったらしい。
セイクリッド家は聖女アチナの輩出による功績で、現在は侯爵の爵位で、セブールでも有力な貴族になっているみたいだ。
アチナの実家、セイクリッド家の養子として、神聖王国セブールの聖都セブンスヘブンへと潜入する事になった俺は、ミカさんと二人で一度ファミリア王国戻る事になった。
養子縁組の手続きの後、セイクリッド家から馬車で迎えが来るそうで、ファミリア王国から出国にする必要があった為だ。
一応、ファミリアの爵位を持っていたりするからでもある。その辺は適当にユリくんに説明しないとならない。
人材の流出は国としては、困るみたいです。なんか知らんけど。
そうして俺達は久しぶりのファミリア王国へと帰還する。全てはリュウタロウを倒すために。
また新たな冒険が始まるのです。
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