第18話『帰還』

 北の国からじゃなく、北の大陸を出発して二日。

 戦艦ミカサは魔国に帰還する前に、ちゃっかり乗艦していたスピカさんとアメリアさんを大陸北部の平地で降ろした。


「乗せて頂きありがとうございました。このお礼はいつかどこかでさせていただきますね〜」


「そう思うなら、敵対するの止めて欲しいですよ。なんなら銀の翼メンバーに入りませんか?回復役募集中ですよ」


「ちょっとエイルさん!私が居るじゃないですかぁ!」

 ティファが涙目で慌てて視界に入って来る。


「フフ、お誘いは嬉しいですけど、お断りしておきますね〜。古い友人達も放っておけませんので。平和的に解決できないか、相談してみますよ。厳しいとは思いますが……」


 やはり、戦わねばならないみたいだな。

 俺やミカさんにしても、リュウタロウ以外は別に恨みないから、どうでもいいのだけど。

 結局、リュウタロウが絡んで来るので、戦わないと行けないわけだ。

 リュウタロウだけ、サクッと倒せれば良いのだけど。そんな簡単に行かないわけで……。


 なんとも、お互いに気まずい雰囲気ではあったが、笑顔で別れた。





 再び戦艦ミカサは浮上し、魔国へと向かった。




 魔国のドックに戦艦ミカサが帰艦したのは昼を過ぎた辺りだった。

 戦艦ミカサから続々と水兵さん達が降りて行く。家族が迎えに来ている人も居たりと、ドック内は魔族の人達で溢れかえっていた。


 その人混みをかき分けて。と言うより、弾き飛ばしながらミカさんがこちらに向かって来る。怖いよ!


「ミカエル様!戦艦ミカサ、無事帰還致しました!北の大陸にて竜族からの献上品を持ち帰りました!」


 ジスが、真っ先にミカさんの元へと走り、帰還報告をしていたが、献上品って言うほどの物じゃないよね。

 中身は酒だ。


「お疲れ様ジス。悪かったわね、私の代わりご苦労さま。ゆっくり休んでね」


「ハッ!」


「ミカさんただいま。何とか無事にアルテミスの剣は手に入ったよ。それで、早速だけど、ノアさんの所に向かいたいんだけど」


「うん。分かったわ。私も一緒に行くから、部屋で待ってて」


 ミカさんは、戦艦ミカサの点検に立ち会うみたいだ。

 運用の聞き取りをして、改善すべき箇所が無いか確認するらしい。

 竜族との戦闘データは役に立つだろう。



 ◇



 しばらくして、ミカさんと合流し、ノアさんの家に繋がる直通の転移魔法陣から、ミカさんと二人でノアさんの家に転移した。

 アポ無しだけど大丈夫かな?


 転移先はノアさんの家の小部屋だ。いきなりリビングとかではない。

 小部屋を出ると、リビングだ。だが、ノアさんが見当たらない。外出中?


「あれ?ノアさん居ないのかな?」


「困ったわね……まぁ、少し待ってみましょう。その内帰るでしょ」


 ミカさんと二人リビングでノアさんの帰りを待つ事になった。他人の家で勝手に待っているのも落ちつかない。


「あ、俺ちょっとトイレ借りるわ」

「うん。場所分かる?」

「多分大丈夫だよ」


 対して大きな家じゃないから、大丈夫だろ。

 そう思い。リビングを出て、転移魔法陣のある部屋とは違う扉を開けると、浴室の脱衣場があり、ノアさんが居ました。裸で。


 ノアさんは丁度、お風呂から上がったばかりの様でして、タオルを手にしようとしている所でした。


「あらぁ、エイルちゃん来てたの?ごめんなさいね。お風呂入ってて気付かなかったわ。ミカエルも一緒?」


「え?あ、う……一緒です!ご、ごめんなさい!」


 俺は慌てて扉を閉めてしまった。

 ノアさんは300歳以上とは思えない若々しい容姿であり、純血の吸血鬼ヴァンパイアである。

 先々代の魔王だったりする。

 その裸をモロに見てしまった――

 まさかこの展開はスキル『ラッキースケベ』のせいでしょうか?


 先にリビングに戻り、挙動不審で座ると。

 ミカさんが。


「どうしたの?トイレ行けた?」


「え?あの……ノアさんが居て……お風呂入ってたみたいで……」


「……それで?」


 あれ?何かミカさんが冷たくなって来ましたぞ?


「……」


「ねぇ?どうして黙るの?見たんでしょ?ノアさんの裸」


 尋問だ。


「はい……見ました。少し…いや、モロに…」



 リビングでミカさんに釘バットで殴られてると、部屋着に着替えたノアさんがやって来て、死なずに済んだ。



 ◇



「これがアルテミスの剣です。これで良かったですよね?」

 空間収納から、緑色に光る巨大剣を取り出し、床に置いた。

「ええ。間違いないわ。正真正銘アルテミスの剣ね。これでエイルちゃんの刀も修復が可能になるわ。それで、肝心の刀鍛冶だけど、まだ存命だったわ」


「存命って!人族じゃないのひょっとして?」


「人族よ。でも、居た場所が場所だけに不思議ではないしら」


「一体どんな場所なんです?」


「妖精の国ミストリア」

 なんだそれ?聞いた事もない国をノアさんが言い出す。


「実在する国なんですか?ミストリアって?」

 ミカさんもあまり詳しくは知らないみたいだ。


「実在するわよ。ただ、存在と場所があまり知られていないから、正式に国家としては認められていないの。知り合いが、ミストリアに居るから、行き方なら分かるわ」


 妖精の国ミストリア――


 場所はセイコマルクにある『迷わずの森』を抜けると妖精の国に転移するらしい。

 国自体が、隠世。つまり現世とは全く違う空間にあるらしく、時の流れ方が違うとか、そうじゃないとか。

 そこに刀鍛冶がいると言うのなら行くしかない。


「じゃあ、ミストリアに行って来るよ!」


「え?今から行くつもり?」


「うん。善は急げだ!と、思ったけど、一度須弥山の家に戻るよ。椿つばきちゃん心配だし。掃除とか」


「まぁ確かに。なら私も付き合うわ」


「気を付けなさい。と言っても特に害は無いけど、性格の悪いハイエルフが居るわ」


 性格の悪いのはミカさんで慣れてるから大丈夫だ。



「転移、椿ちゃん家……あれ?」


「どうしたの?」


 おかしい。転移魔法陣が発動しない。一度行った事のある場所へは行けるはずなんだけど……。

 使えなくなった?バージョンアップのせいかな?

 スキルを確認してみると、ちゃんと転移スキルは残っていた。


「転移が発動しない!ノアさん!なんででしょう?」


「変ね。アチナ呼んでみなさい」


「は、はい!アチナ!アチナー!」



「なんだい?ボクはこれでも忙しいんだけど……あれ?ノアんちじゃないか。どうかしたの?みんなしてシリアスモードになってるね」


 アチナが玄関から現れると、皆を見て場の空気を読んでる様で読んでない。相変わらずだ。


「アチナ!大変なんだ!椿ちゃんの家に転移出来ない!どういう事かな?教えてくれ!」


「えぇ?」


 アチナは俯き考えてから、転移魔法陣を発動させようとするが、発動しなかった。


「なるほど……考えられるのは、この場所に結界が張られてる場合と椿ちゃんの家付近に結界が張られている二つだ。でもボクがここに来れたって事は……」


「椿の所に結界って事ね」


 ノアさんがアチナの説明を遮り、結論を出した。


「まさか……」


「ミカさん何?なんか心当たりあるの?」


「えぇ。セブールに潜入させている、シュリからの報告で数万の正規軍が旧帝国方面に向かったって言ってて……ひょっとして?」


「狙いは……結界石か!」


 十二天将が、ここまでやるとは思ってなかった。まさかセブールの正規軍を動かして剣聖を討ちに行くなんて想像もしてなかった。スピカさんが、北の大陸に居たので、どこかで安心していた。

 それに椿ちゃんなら大丈夫だと思うと楽観視していたかもしれないけど、不安がよぎる。


「俺、須弥山に行って来る!」

「なら私も行く!」


「ボクらも行くよ」

「ら?私も含まれているのね?支度するから先行ってなさい。アチナは私と一緒ね」


 ノアさんは風呂上がりのラフな格好なので着替えるみたいだ。着替える所を見てるわけにも行かないので、いや、早急に須弥山に向かわないといけないのでだ。


「じゃあ先に行ってます!」


 ノアさんの家を出て、翼を広げ飛び立つ。


「無事で居てくれ……」


 俺とミカさんは椿ちゃんの居る須弥山へと向かった。



 ◇



 神聖王国セブール領内のマリーの古城に帰って来たスピカとアメリアは驚愕した。


「おかえりスピカ、アメリア!無事に帰って来て嬉しいよ!さぁ、座ってくれ!疲れたろう?今飲み物用意するから待っててくれ!おーい!レグルスー!スビカとアメリアに冷たい飲み物を!」


 妙に爽やかな振る舞いのリュウタロウである。


「おう!任せとけ兄弟!おっと!キッチンは何処だ?」


 その上、リュウタロウと意気投合しているレグルスである。つい最近まで、エイル達にやられて、塞ぎ込み、自信を無くして引きこもりがちになっていたレグルスの復活が妙だ。


「あの、リュウタロウ様?一体どうなさったんでしょうか?」


「ん?君達が無事で嬉しいんだよボクは!」


 やべぇ気持ち悪い。

 スピカは心底そう思ったそうな。


 リュウタロウとレグルスの異変とは?


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