第15話『バージョンアップ』

 


「あれ?」


 気が付くとマリンの膝枕だった。


「ご主人様!生き返ったっス!」


 いや、死んでないから。


「G並の生命力のようね」


「どれくらい寝てた?」


「10分くらいでしたよ。突然倒れたので心配しましたが、気分はどうですか?」


「うー……胸が苦しい……ん?」


 起き上がってみると、違和感がある。


「あれ?」


 視界が今までより、高くなっている気がする。

 そして少しばかり苦しい胸を覗く。


 成長している!


「あら、エイルさん背が高くなってませんか?」


「み、みたいですね……」


 高くなったと言っても、10センチは伸びていないと思う。胸も多少膨らんだが、貧乳の部類は寝け出せていない。安心した様な、残念な様な?

 しかし、今してるブラジャーは窮屈なので、脱ごうとすると、ジスに止められた。


「エイル!人前で脱ぎ出すのはやめなさい!そこに変態ドラゴンが居るのよ!」


「人を勝手に変態扱いすんなや!エイル嬢ちゃんのストリップに興味ないわ!」


 あっ、ライズさん生きてたんだ。

別に見られても気にしないが、ジスにこれ以上怒られたくないので、視界に入らない様に着替える事にした。

代えの下着は下しかないので、ノーブラになった。

胸当てがあるから大丈夫だ。


「ミカサに帰ったら、ミカエル様の小さい時の下着を貸してあげるわ」


 結局、子どもサイズなのか?それともミカさんの成長が早かったのか分からないが、何故、ジスが持ち歩いてるの?

しかし、これで少しは刀も使いやすくなるし、店でも年確される事も減るだろう。


 ステータスは後でこっそり、確認しよう。


「さて、とるもの盗ったし、帰ろうか」


「了解っス!」

「早いとこ魔国に帰りましょう。ミカエル様が心配しているはずよ」

「そうですね」


「あ、あの〜、こちらの目的を忘れてませんかー?宝物殿に用があるんですけど〜。約束したじゃないですか〜」


 そうだった。スピカさんも何か探しに来ていたのだった。

「スピカさん、ごめん、忘れてたよ。じゃあサクッと行きますか!」


 俺達は再び、宮殿の中に向かおうとすると……。


「そうは問屋が卸さないよ!この盗賊共!ボクが成敗してやるさ!」


 なんかいた。


「とうっ!」


 庭園の噴水の上からジャンプして、シュタッと降りたのは、どうやら俺と変わらない背丈の金髪藍眼の少女だ。

何で、こんな遺跡に少女が居るのだろう?

その疑問は直ぐに解決した。



「メロ?」


「す、スピカちゃん?え?ほ、本物?」


「本物ですよ!メロ……生きて、生きていたのですね……良かった……」


 スピカさんは、そのメロと言う少女を抱きしめ、再会を喜んだ。


「で、何もんなんや?その子は」


 真っ先に口を開いたのはライズさんだ。


「この子はアルテミス様十二天将、双子座ジェミニのネロ……の双子の妹メロです」


 スピカさんからメロについて説明された。

 メロは十二天将のネロの妹だが、戦闘能力は無いらしく、主に宝物殿の管理をしていたりする雑用係だった。


 メロは邪神戦争後も、この宮殿に残り、仲間がいつか帰って来る事だけを信じて待ち続けたらしい。


「でも、コロッサスさんを倒すなんて、そこのチビは強いんだね!」


「誰がチビだ!対して変わらないじゃないか!」


「でも、ありがとう。コロッサスさんにアルテミス様の剣持たせたら、ボクでも手が付けられなくて困ってたんだよね」


 お前が原因か!大変だったんだぞ!パンツ砂だらけになるし!


「そうか……われが原因でウチの竜族は死んだんか!ガキでも許さへんで!覚悟しいや!」


 ライズさんの表情が一気に変わり、今にも掴みかかろうとするが


「竜族?来てないですよ。庭園まで来れたのはスピカちゃん達が初めてですよ」


「な、なんやて!そ、それじゃ奴らは何処で死んだっちゅうんや!」


「落とし穴じゃないかしら」


 ジスがサラッと言って、皆が凍りつく。


 落とし穴で死ぬドラゴンて、なんだか哀しいね。

とりあえず、この話題には触れず、宝物殿を目指す事になった。



 ◇



「ここが宝物殿だよ。スピカちゃんの探し物は完全回復薬フルポーションだったよね?確かまだ残ってたはずだよ」


「良かった。来た甲斐がありました……ところで守護獣ガーディアンさんはどうしたのかしら?」


「ああ……随分前に死んじゃってね……」


「死んだ?!守護獣ガーディアンが?一体何かあったのですか?」


「ええと……急に何か食べたいって言うから、毒サソリのスープ作ってあげたら、死んじゃった」


 毒殺ですね。

そもそも毒サソリを入れる時点でおかしい。


「毒耐性あると思ってたんだけどなぁ」


 そういう問題じゃない。



 宝物殿の扉を開けると、様々な魔道具や武具が所狭しと並んでいた。


「お宝っスー!全部くれるっスか?」


「いや、それは困るので、一人一つにしてくれませんか?」


「え〜?じゃあウチはこのハンマーでイイっす!」


「トールハンマーですね。どうぞ」


「トオル?って誰っス?」


 トオルじゃねぇよ!


「私はフルポーション見つけましたので、頂いて行きますね〜」


「この剣は何かしら?」


 ジスがピンク色の剣を手に鞘から少し抜くと、妖しいオーラが刀身に漂っていた。絶対ヤバい武器だ。


「あぁ、それは性剣エロスカリバーだよ。その剣で斬られるとエロエロになるとか……」


「もらったわ!フフ……♡」


 あ、なんかジスが考えてる事分かる気がする。

ミカさんに使うつもりだろ。

でも淫魔に効くのか?


 皆それぞれ宝を頂いた様だ。俺はアルテミスの剣を手に入れたから、あまり興味ない。

 あー、ミカさんにお土産として、なんか持って行くとしよう。手ぶらで帰ったら殺されそうだし。

 俺は近くにあった小さな箱に入った指輪を手に取り懐にしまった。



 ◇



 俺たちと、スピカさんは互いの目的を果たし、戦艦ミカサで北の大陸を後にした。

 メロはライズさんが竜族の里に連れて帰った。


 スピカさんとしては、メロを巻き込みたくないらしく、他の使徒にはメロの生存を秘密にしたいそうだ。

 こっちとしても、敵に使徒が増えるのは困るので、双方納得の上、ライズさんに預ける事になったのだが、スピカさんが、メロに手を出したら竜族は皆殺しにしますからと、念をおしていた。

 とても聖女のセリフとは思えない。



「風が気持ちいいですね〜」


 ちゃっかり、戦艦ミカサで帰路につくスピカさんと艦上のデッキで風に当たっていた。


「まぁ、そうですけど、下の海の光景は凄いですよ」


 戦艦ミカサに乗っていると穏やかな空の旅だが、海上を見ると、巨大なクラーケンが、やはり巨大な魚やら、サメやらと激しい戦いを繰り広げていた。

そんな光景があちこちで見える。

海路が危険な理由が分かる。


「アメリカさんは?」


「アメリヤですね。アメリヤさんはお借りした船室に居ますよ〜」


 アメリヤさんはまだ目が見えないままだ。

 完全回復薬フルポーションを持ち帰って直ぐに使おうとしたスピカさんだったが、アメリヤさんから拒否されたのだ。


「一番最初に見たいのはリュウタロウ様でございます」


 だそうだ。

アメリヤさんからすれば、リュウタロウは紛れもなく勇者で、命の恩人だ。

彼女はリュウタロウに救われたのは事実だし、そんな彼女がリュウタロウに想いを寄せるのを俺たちがとやかく言う事もなんか出来ない。

あの女たらし勇者め!俺は大嫌いだ!

今なら倒せるだろうか?

ステータスを確認してみる。



 名前:エイル(16)

 種族:天族(大天使)

 Lv1

 体力8000(12000)

 力 8000(12000)

 敏速8000(12000)

 魔力8000(12000)


 スキル ものまね 銀翼 竜の咆哮ドラゴンロア 竜の拳ドラゴンブロウヘブンクロス 剣術 魅了 誘惑

 魅了誘惑耐性 淫魔式マッサージ壱の型 女神の加護

 海神の逆鱗 剛剣 バトルマスター 縮地 剣聖 神速

 魔力感知 身体強化 思考加速 痛覚無効 精神攻撃耐性

 媚薬耐性 快楽耐性 次元飛行 シールド 錬成

 スターライトバスター 秘剣木枯らし

 雷刃の太刀 暴れ太鼓九連撃 火剣焔 ラッキースケベ

 ロケットパンチ




「……」



 やたらスキルが増えていて訳分からんが、レベルが1になっている。クラスアップ?バージョンアップだかをした影響だろうか?

なんか大天使とか言うのになっているし……。

いや、レベル1でステータスが8000って!

確か最初はレベル1の時2000だった様な気がする。

 2倍?いや、えーと4倍か……。


 リュウタロウとの差は埋まっただろうか?

次は勝ちたい。

まだまだ強くならないとだな。


 頑張るのは苦手なんだけど……。




 ◇



 一方その頃、魔国デスニーランド


 ミカエルの元に神聖王国セブールに潜入中のシュリから報告が届く。


 内容はこうだ。


 やっぽ〜wミカエル様元気?

シュリは元気なんだよ。セブールにはイケメンがあまり居なくて退屈なんだよ(泣)

 でもでも〜頑張ってるんだよ〜。

 なんか二万くらいの兵隊さんが、帝国の方面へ向かったみたいなんだよ♡

 そんな感じ〜?バイバーい♡


 PS、エイルちゃんたまには貸してね〜



「貸さねーよ!」


 ミカエルは報告書を床に叩きつけ、更に踏み潰した。


 だが……。

 セブールの軍隊が二万規模で帝国に移動?

 革命の治安維持にしては多すぎる規模である。

 何らかのの作戦行動と考えるのが、普通だが……。


「何かしら?」



 神聖王国セブールが動き出す。









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