第13話『機動天使コロッサスさん』


用を足していた。我慢からの開放感と言うのは素晴らしい!幸福を感じませんか?どうもこんにちわエイルです。そんな幸せの絶頂にいた俺の背後に迫る何かがいた。


ズシン……ズシンと、迫る足音。一歩、また一歩と近付く度に、風化した石造りの花壇や、噴水の台にヒビが入る。何か来てるのは分かるけど、振り返るのが怖い。もうすぐ後ろに居るだろう、その存在の影が目の前に映る。


大きな影が俺を包んだ所で、その足音は止まった。あれか?と、トイレの花子さん?

だったらまだ良い。

とてもじゃないが、花子さんなんてレベルの奴じゃない事は、影からして明白。

恐る恐る……後ろを……振り返った。


振り返った瞬間に何か大きな物でいきなり叩かれ、空中に放り出された体は、人形の様にクルクル回転し、見える景色は空、地面、空を数回繰り返した後、砂だらけの地面に落ちた。


「ぐあっ!……ペッ」


口の中に砂が入り、ジャリジャリする。

膝まで下ろしていた縞バンツも砂だらけになっていて、履いたら絶対ザラザラしそうなので捨てた。


俺を吹っ飛ばした奴の方を見ると、10メートルくらいの巨人?が立っていた。

黒い全身鎧は緑色のギタリズム模様が光っていて、兜から覗くモノアイも緑色に輝きを見せていた。


あの野郎、外道か?普通、美少女が用を足している所を攻撃したりしないよね?酷いよね?

せめてパンツ履くまでは待って欲しかった。


スキル『ラッキースケベ』獲得。


何?なんか変なの覚えたみたいだ。

ハーレム主人公が絶対持っているであろうスキルのようだ。有難く頂戴致します。そんな事より……


「絶対に許さないからな!覚悟しろよ!」


「……」


無視か!謝る気は無いみたいだな!なら仕方ない!

殺るしかないみたいだ……みんなが来てからな!


と、こちらの都合など気にしてくれない巨人は背中のビームサーベル……じゃなかったが、何やら緑色に光る大剣を構え襲いかかって来た。


「させるか!天雷!」


巨人の足はあまり速くないみたいなので、近くに来る前に先制攻撃のオリジナル魔法『天雷』を巨人目掛け発射した。見事命中かと思いきや、放った天雷が倍速で戻って来た。


「あぶねっ!」


身を捩りなんとかかわしたが、頬をかすめ天雷が後方の瓦礫に着弾した。なんか威力が明らかに上がっている気がする。瓦礫が粉微塵に吹っ飛んだ。


スキル『倍返し』獲得。


あっ!そういう事か!しかし何だ?その半沢直○みたいなスキルは!まぁ使えそうだからいいけど。

いや、納得してる場合でなくて……


「魔法を跳ね返しやがった。ひょっとしたら物理しかダメな感じ?」


巨人が背中の大剣を横薙ぎに斬り込んで来たので、空中に飛び躱した。


巨人から高さ10メートルくらい離れ、宮殿の方を見るが、まだ皆さん来てくれてない。まだかな?


すると巨人が大剣を持っていない方の手をこちらに向けると、腕が飛んで来た。

予想外の攻撃に回避出来ずモロにくらってしまう。


「ぐへっ!」



スキル『ロケットパンチ』を獲得。



ロケットパンチ?それってスキルなのか?機能じゃなくて?

それより、生身の俺がロケットパンチ打てるのか?腕ちぎれちゃうだけじゃないの?使うの怖いわー。


飛んで来た腕は有線式らしく、シュルシュルと音を立て巨人の元へ掃除機のコンセントみたいに戻った。

便利だな!


「とりあえず斬ってみるしかないかな……」


巨人との間合いは15メートル。多分そんくらいだ。

俺は魔剣の柄に手を添え、抜刀術の構えをとる。

ジリジリと砂漠の陽射しが肌を焼くように暑い。黒い全身の巨人も暑そうだ。知らんけど。中の人大丈夫かな?


抜き、即、斬。


俺は頭の中で、繰り返し、そう呟き、集中する。

狙うは巨人の左足の膝関節。

巨体を支える足を破壊してしまえば、崩れ落ちるだろう。前に椿ちゃんが言ってた。


一気に間合いを詰め、飛び込もうとした時……


「ご主人様、ウンコっスかー?遅いっスー!」



「マリン!」


出て来るタイミングがマリンらしいと言えばマリンらしい。

巨人はマリンに反応し、マリン目掛けて走って行く。



「何すかコイツ!」


「マリン逃げろ!そいつヤバイぞ!」


だが、既に巨人の大剣がマリンに振りおろされた。


「シールドっス!」


マリンはシールドで巨人の剣を受け止めたが、一撃でマリンのシールドは破壊された。


俺は神速でマリンに飛びつき、間一髪、巨人の剣を回避した。


「大丈夫かマリン?」


「ご主人様、こんな所でなんて♡でもウチはいつでもカモンベイベーっス!」


何を勘違いしてるのか、マリンが上に乗った状態の俺に抱きついてくる。


「ちょ、やめ、ら、らめー!」



「何しとんのや、お前ら……」

「帰りが遅いから心配して来てみれば、こんな所で発情するとは、相変わらず猿ね!」

「そ、外でなんて良くないですよエイルさん!」

「あらまぁ♡中庭でなんて……ってあれは!……」


どうやらスピカさんが巨人に気付いた。て言うか皆さんも気付くの遅くないですか?デカいよアイツ。


「おお!なんやそいつ!ごっついやんけ!」


「なるほどね。お楽しみ中だったわけね」


いや、ジスはそっち系の話題から離れようか!

スピカさんが、巨人を知っているみたいだ。


「スピカさん!アイツ知っているんですか?」


「ええ……知っているんですけど……名前が思い出せないんですよねー、ここまで来てるんですよ!えーと……」


スピカさんが自らの首元を指さし、思い出しそうアピールをしているが、待っててくれる程、巨人さんは優しくはなかった。

巨人の背中に緑色に光る翼が生えた。その翼が大きく広がる。


「みんな散れぇぇ!」


巨人は翼を広げ、その羽が大量に放出され、無差別攻撃を開始した。アイツ、銀翼も使えるのか!銀色じゃないけど。


俺は銀翼を盾にして、マリンを守った。

皆それぞれ散って行ったが大丈夫か?



「何なのコイツ!」


ジスはククリナイフで巨人の羽を弾き落としていて無事のようだ。


「せいやぁ!」


シズカさんは剣聖らしく、刀で羽を斬っていた。さすがです!


ライズさんは……


「うおりゃああああああああぁぁぁ!ドラゴンダイブ!」


何故か巨人に突っ込んで行ってた。

だが、ある意味正解かもしれない。灯台もと暗し。

発進元が一番手薄だ。そこまで考えている様には見えないけど。


ライズさんの無謀なダイブは巨人の顔面に強烈な頭突きを噛ました。少しだけど巨人がグラッとし、無差別攻撃は止まった。


「ライズさん!ナイスダイブ!」


「おう!任せとき!」


親指を立て振り返ったライズさんは頭から大量の血を流しながらも笑顔だ。

大丈夫じゃなさそうだけど。


「あっ!思い出しました!」


宮殿の中に回避したらしいスピカさんが、出て来るなり、巨人を思い出したみたいです。

建物内に逃げるとは懸命ですね。


「あれは……機動天使コロッサスさんです!」


「コロッサス!……さん?」


なんで、さん付けなのかは置いといて……


「スピカさん!アイツなんなんですか?」


「あれは……アルテミス様が暇つぶし……いえ、拠点攻略用にお造りになった破壊兵器です。ですが、魔力供給に欠陥があり、稼働は中止になったはずです。しかし、何故稼働を……って、あーっ!」


今暇つぶしって言いかけてませんでした?

アルテミス作の破壊兵器ってヤバくない?勝てんのかな?スピカさんが何かに驚く。


「どうしたんですか?」


「あ、あの……コロッサスさんの持っている剣……」


「剣?あー……緑色に光ってるヤツ?」


「ええ……あれはアルテミス様の剣、アルテマソードです!……なるほど、アルテマソードの魔力が、コロッサスさんの魔力供給を可能にしてしまったみたいですね」


ちょっと何言ってんのか分からないけど……

アイツ……コロッサスさんだっけ?の持っている剣が、俺達が北の大陸まで来た理由である事は分かった。

どうやら倒さないといけないらしい。


「結構ヤバイですか?」


「ヤバイです……十二天将の上位クラスの強さは保証します」


マジか!それは面倒臭い通り越して、いきなりピンチだよ!上手くやらないと誰か死ぬ。


「はは……どうしましょう?」


「しっぽ巻いて逃げますか?」


「いや、殺るしかないですよ。あの剣奪い取ります!」


殺るしかない。ここまで来て、諦めて帰るとかはカッコ悪いからな!



「みんな!コイツぶちのめすぞ!」


「合点承知之助っス!」


「勿論よ!ジスに背いた時点で殺る以外の選択肢はないわ!」


「が、頑張りまーす……」


「いてもうたるぞ!どうやらコイツが同胞の仇なんやろ?なら死ぬまでやったるわ!」



シズカさんが、若干頼りなさげだが、皆さんヤル気充分だ。


機動天使コロッサス討伐戦開始――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る