第12話『アルテミス城』

 


 戦艦ミカサで2時間程、西に行った場所に遺跡、アルテミス城があった。城は砂漠の砂で大部分が埋まっているようだ。それでもピラミッド程の大きさがあり、かなりの巨大な城であった事が分かる。


 アルテミスが君臨していた300年前は、この巨城が空に浮かび、世界を支配していた。


「まるで天空の城ラ〇ュタだな!」


「なんやそれ?」


「え?あー、気にしないで下さい」


 遺跡探索には、俺とマリン。スピカさんとライズさん。あとジスにシズカさんの6人で行く事になった。

 ティファとアメリアさんは戦艦ミカサで待機だ。

 戦艦ミカサは遺跡の近くに浮上したまま待機。何かあった時に、直ぐに出発出来る様にしてある。


 入口はスピカさんの案内であっさり見つかった。

 巨大な扉ではあったが、人が通れる程に開いていた。前に侵入した竜族が開けたのだろうか?

 遺跡の中は当然だが、明かりはついていない。


「罠とかは大丈夫なんですよね?」


「大丈夫です!十二天将の私がいれば作動しませんから、安心して下さい!」


 先頭を歩くスピカさんが自信満々に言い切り、こちらを振り返った瞬間、足元の床が開き、スピカさんが地の底へ消えた。


「ぎぃえええぇぇぇぇぇぇ………………」


 なんとも情けない悲鳴を上げながらスピカさんはかなり深く落ちて行った。


「スピカさぁぁぁぁん!」




 少しして、スピカさんが銀翼で羽ばたき、落とし穴から帰還した。

「ゆ、油断しました……」



「どういう事よ!十二何とかだから安心とか言ってなかったかしら!とんだホラ吹き聖女ね!役立たずが!」

 ジスがスピカさんを罵倒し始め、皆の空気が重くなる。


「ジス、とりあえず皆は無事なんだから、その辺にしとこう」


「皆さん、すみません……どうやらセキュリティが作動してしまうようで……」


 すっかりスピカさんもしょぼくれてしまっている。

 まぁ、あれだけ自信満々だったのに、しかも自分が古典的な罠にかかってしまったのだからしょうがない。


「それより、罠が作動するっちゅう事は警戒せなあかんやろなぁ」


「そうですね。ここからは慎重に進もう。特にマリンは何もするなよ!絶対だぞ!」

 余計な事しかしないマリンが一番危ないので、念押ししておく。


「了解っス!でも逆に何かしなければならない使命感をビンビン感じるっス!」


「そんな物は気のせいだから、じっとしてろ!」


「いいから、早く奥に進むわよ!着いて来なさい!役立たず共!」

「ジスさん、なんで私を盾にしているんでしょうか?」


 着いて来なさいとか言っておきながら、シズカさんを先に歩かせ、シズカさんの背中に隠れ進むジスは意外と臆病なのかもしれない。



 通路を進むと再び扉があった。こちらの扉は開いてない。


「開けた瞬間に罠が発動するかもしれないから、みんな警戒してくれ」


 俺は重厚な扉を押したが、ビクともしない。

「ふんぬっ!…………ダメだ。開かない」


「非力なエイルでは無理のようね!どきなさい、シズカ!開けてしまいなさい!」


 ジスはやらないのね。


「え?私?む、無理だと思いますけど……」


 シズカさんが、扉に近づくと、スピカさんが何か思い出したみたいだ。


「あっ、確かその扉、引き戸でした」


「引き戸かい!そりゃ押しても開くわけないやん」


「しっかりしなさいよ!このポンコツ聖女が!」


 酷い言われ様である。


 カラカラと、意外にも安っぽい音をたて、扉が左右に開き、その先はどうやら中庭のようだった。中庭はかつては庭園であったのだろうか?花壇や噴水らしき残骸が砂漠の砂から少し顔を出していた。


「しかし、ここまで罠らしい罠はスピカはんが、マヌケなツラして落ちた落とし穴くらいやな」


「そ、そんなマヌケな顔でしたか……」


「まぁ、スピカさんのマヌケな顔は別にいいとして……あの落とし穴で、前に来た竜族の人達が帰って来れなくなったとは思えないよね」


「エイルさんまで……」


 すっかりスピカさんは落ち込んでしまったようだ。


「つまりや!この先になんかやばいのがあるっちゅう事やな!」


「警戒は怠らずに進みましょう。この先何事もなく辿りつけると良いけど。シズカ、念の為、ジスの前を歩く事を許すわ」


 ジスがさりげなくフラグを立てたが、聞こえないふりしておこう。


 荒れ果てた庭園を進み、宮殿の前へとやって来た。

 扉には装飾が施されていたが、300年の年月が輝きを失わせたのか、主無き城は、なんだか寂しさを感じさせる。

 造りは城と言うより、大聖堂みたいな感じだ。


「スピカさん。ここには何人くらい住んでたんですか?」


「え?えー、14人でしたね」


「たった14人で、この城は広すぎね。メイドも居なかったのかしら?」


「居ませんでしたね。作業用のゴーレムが居たくらいで、毎日、穏やかに暮らしていました。今考えると、あまりにも退屈な日々でしたよ。数千年は居ましたから」


「「数千年!」」


 皆でハモってしまったが、普通に驚くよね?

 異世界来て数百歳の人達は割と見て来た。椿ちゃん、ノアさん、あとマリンとか。

 1000年を超えて生きて来たスピカさんや十二天将の生き残りの人達。

 悠久の時を過ごし、尽きる事の無い生命を持ち、何を思うのだろうか?


「結構ババアだったんやなスピカはん」


「おい!ライズ、女の子にババア呼ばわりは失礼よ!」


 あら以外。珍しくジスがミカさん以外の味方をした。


「使徒はやっぱり歳とらないの?」


「ある程度の成長はしますけど、今の容姿になってからは変わりませんね。私にも子どもだった時がありましたし、今のエイルさんみたいに」


「子どもって……」


 スピカさんから見ると俺はまだ子どもなのか……

 でも成長する余地があるって事だな!


「良かったわね。少しは胸も成長するかもしれないわね」


 胸は要らない。もう少し背が欲しいの。


「ご主人様は今のままが良いっス!」


 なんかマリンに励まされた。


 そんな会話をしながら俺たちは宮殿の内部へと進む。入った先は吹き抜けでドーム型の天井には、なんか訳分からん壁画が描かれ、巨大なシャンデリアがぶら下がっている。なんか西洋のなんとか宮殿とかみたいだ。海外行った事ないけど。


 とにかく天井が高い。そしてかなり奥行きがあり、上に上がる階段まで100メートルはありそうだ。

 壁には剥き出しの太い柱が等間隔で無数にあり、柱と柱が天井で尖頭アーチ型になり繋がっている。

 縦長のステンドグラスが、柱と柱の間にあり、外からの光を宮殿内に取り込み、中は意外にも明るい。


 階段の踊り場の正面には、女性の肖像画が飾らていた。

 長い銀髪の美女だ。紫紺の瞳がこちらを見つめている。

 なんだか吸い込まれそうになる程に美しい姿だ。

 この描かれている女性は……



「アルテミス様……」


 スピカさんが瞳をうるわせながら呟く。


 そうか……この描かれている美しい女性が、邪神アルテミスのようだ。


 気のせいか、誰かに似ている気がするけど、忘れた。

 よくある事なので、気にしない。



「コイツが邪神アルテミスなんかぁ。偉いべっぴんさんやな」


「アルテミスなんて大した事無いわね。ミカエル様の美しさには到底及ばないわよね、エイル!」


「え?あー、うん」


 いきなり俺に降るなよ!比較する様な事じゃないよ。


「ご主人様!ウチはどうっス?」


「えぇ?きれーだよ、超美人」


 黙っていればな!

 マリンは喋らなければスタイルも抜群だし、容姿も整っている。

 だけど、頭の方が残念だ。人の事言えないけども。


「そのミカエルっちゅうのに会ってみたいわー」


「ライズさんは、そうやって、女の子ばかり追いかけるから、奥さんに逃げられるんですよねー」


「なんで、スピカはんが、その事知っとんや!」


「私が使役している、銀竜。メイサさんが言ってました。旦那の浮気が酷いから帰りたくないと」


 あー、あのスピカさんが乗ってた竜の事か。

 北の大陸に銀竜で来てないのは、そんな理由だったんですね。

 世界は狭い。と言うより、竜族が希少だからかな。


「嫁に伝えてくれんか?お前が一番なんやで」


「多分それ、二番以下もいますよね?そんなんじゃ奥さん帰って来ませんよ」


 そんなしょうもないやり取りもあったが、緊急事態が訪れた。




「みんな悪い。オシッコしたい!スピカさん!トイレどこですか?」


 先程から、少し我慢していたけど、限界のようだ。

 男の時は我慢が出来たレベルでも、今の体だと我慢が辛い。今、激しく動いたら、多分、少し出る。

 いい歳して漏らす訳にはいかない。これでもリーダーのつもりだ。リーダーとして、オシッコ漏らすのはイメージダウンでしかない。少し冷や汗が出てきた。


「エイル……貴方ね、だからあれ程言っておいたでしょう?出発前に済ますようにって!ホントに世話の焼ける子どもだわ!それにせめて女なら、花を積みに行くと言いなさい!」


 ジスに怒られた。まぁ確かに、出発前に済ましてなかったのはミスです。


「ごめん……」


「エイルさん。このフロアにはトイレは無いので……中庭に戻った方が良いかと……」


「わ、分かりました!ち、ちょっと行って来るよ!みんなはここで待機しててくれ!超速でしてくるから!」


 俺は全力で来た道を戻り、宮殿の外へと出た。

 誰も見てないから、中庭でする事にした。


「どこがいいかな……」


 さすがに入口は恥ずかしいな。帰る時に、した場所が皆にバレてしまう。


「噴水の所でいいかな」


 干からびた噴水の台の上に乗り、小便小僧の様にはいかないが、小便少女となり、用を足した。


「あー……」


 俺が我慢していた物を解放し、この上ない幸福を感じていた時、何か……得体の知れない何かが近付いていた。




 ズシン……ズシン……ズシン……



 明らかに巨大な足音を立て、その影が地に映る。




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