第11話『朝チュン』



 宴は野外で行われた。里の中央にあるかがり火を囲み、何だかキャンプファイヤーみたいな感じだが、たまには良いかもしれない。


「まぁ飲めや。竜の里名物ドラゴントニックや」


 ライズさんが、隣りに来て渡された杯に酒を注いでくる。ドラゴントニック……何だかヤバい酒の様な気がしてならないが、覚悟を決めて、一口頂く。


「ん?普通に美味しい……」

 ドラゴントニックとか物騒な名前なので火でも吹くのかと思いきや、フルーティな味わい。飲みやすくてゴクゴク飲める。


「失礼やな!不味いもんなんか出すかい!」


「いや、名前からして怪しかったから」


 ミカさんにお土産として持って帰ろうかな。喜んでもらえるといいな。


「嬢ちゃんに聞きたい事がある。ちょっとええか?」


「嫌です」


「即答かいな!なんかいちいち嫌がるな。反抗期か?」


「違うよ別に!言ってみただけだよ!なんですか?聞きたい事って?」


「あんなぁ、嬢ちゃんワイとやった時、竜族のスキル使わんかったか?めっちゃ気になるねん」


 確かに使った気がする。分かっちゃいましたか。

 しかし、言ってしまっても良いのだろうか?


「使ったよ。前に倒した……赤龍?だったかな。その時に覚えたんだ」


 言ってしまいました。

 隠し事は良くないのです。


「赤龍やと!そうか……そりゃ、ありがとうな。竜族を代表して礼を言わして貰うわ。ホンマありがとう」


「ん?なんで?」


「あいつは……赤龍はな、ウチの里の出なんや。血の気の多い奴でな。里を飛び出して南の大陸へ渡り、暴れまくっておったみたいや。何とかしよう思ってたんやが、里を離れるわけにも行かんくて、バースに期待しとったんやがな。バースはバースで忙しいみたいや」


 いや、暇そうですよ。と思ったが、言わない事にした。


「はぁ……」


「それでや!なんで赤龍のスキルが使えるんやって話や。それが一番気になるんや」


「それは私も気になりますね〜」


 スピカさんまで会話に入って来た。一応敵なんで聞かれたく無い。


「なんでエイルさんが、この短期間で強くなったのか?気になる所です」


「えぇ〜、スピカさんに知れたら、絶対リュウタロウに言うんでしょ?やだもん」


「言いませんから、ね?」


「とりあえずもっと飲めや」


「う……」


 ライズさんとスピカさんの圧力に負けていまいそうです。ここまで来たら言わないといけない空気なわけで……だが?


「エイル飲みます!」


 お酒に逃げる事にしたのだった。

 ドラゴントニックを瓶でそのままラッパ飲みしてしまいました。



 ◇



 窓から差し込む朝日が眩しい。

 昨日、ドラゴントニックを一気飲みしてからの記憶は無い。まだ意識がふわふわした感じで、酔いは覚め切っておらず、とりあえず辺りを見渡すと……


 ベッドの中、隣りにいたのはスピカさんでした。

 しかも絶賛腕枕された状態であり、スヤスヤと眠るスピカさんはどうやら、下着すらつけていない有様。

 さも当然の様に俺も素っ裸なわけです。


 部屋を見渡すとベッドはもうひとつあり、そこにはアメリアさんだっけ?が、スヤスヤとお眠りになってました。ちゃんと服は着てました。


 さて、この状況を考察してみた。なんか酔いも一気に覚めたので、頭は回転する。


 まず、何故にスピカさんが隣りにいるのか?


 多分、酔いつぶれた俺を介抱してくれたのだろう。うん。優しいなスピカさん!


 でも何故にスピカさんと俺は全裸で寄り添い、更には腕枕されているのか?


 き、きっと寒かったんだろう。


「……」


 いや、服着ろよ!なんて自分にツッコミ入れたりしていたらスピカさんが起きた。


「……あ、おはようございますエイルさん……」


「お、おはようございます……」


 二人の間に少し気まずい沈黙が流れる。

 意を決して俺は昨日の夜の事を訪ねる事にした。


「あの……あれから覚えて無いんですけど……この状況は……ええと……一体何が?」


 スピカさんは少し困った顔をして語り出した。


「ええと、酔いつぶれでもしまったエイルさんを里の方が提供して下さった屋敷にお連れして……そのまま、おやすみになったのですが……」


 ふむふむなるほど。やっぱりそうですよね!

 介抱してくれただけのようですね!良かった!


 更にスピカさんが語り出した。


「あいにくベッドが二つしかありませんでしたので、エイルさんと御一緒したのですが……その……エイルさんが……」


 え?何ですか?


 恐る恐るベッドのシーツを見ると赤いシミが……



「エイルさん初めてだったみたいで……その……可愛いかったですよ♡」



 血の気がサッと引いた。


 え?初めてだった?可愛いかった?何を言ってるの?

 確かに、俺はまだ処女でしたよ?今までも危うい場面はあったが、ミカさんともしていないのである。

 だって怖いし。

 それを酒の勢いとは言え、敵であるスピカさんに処女を奪われたのでしょうか?


 ヤバい……どうしよう。絶対にミカさんに殺される!

 浮気したら殺すとか言ってたような気がする。

 そして何故か、涙が溢れて来た。悲しいのか、悔しいのか分からないけど、涙が止まらない。



 ◇



 あまりにも簡単にエイルさんを騙せてしまいました。

 エイルさんが、酒に酔いつぶれて介抱したのは事実ではありますが、弱みでも握って、エイルさんから上手く情報を聞き出すなんて、思いついてしまいました。

 シーツの血痕は私の鼻血なんですが、上手い事勘違いしてくれたようですね!

 寝相の悪い、エイルさんの拳が顔面にヒットしたんですよ!痛かったです!

 咄嗟にこんな事を考えて騙すなんて悪い女ですね私は。

 さて、どうしてくれようかしら?

 なんて考えていたら、エイルさんが泣き出してしまいました。



 ◇



 どうしよう!お酒のせいとは言え、スピカさんと……おセックスしてしまった様だ。何も覚えてないのだけれど、だからと言ってノーカンって訳には行かない。

 責任を取らねばならない。いや、責任を取って貰うのか?処女喪失がこんな事で訪れるとは思わなかった。初めてはやっぱり好きな人と……って何考えてるんだ!

 女の子の発想だな!まぁ女の子なんだけど!

 この事がミカさんにバレたら確実に死が待っているだろう。死ぬまで釘バットで殴られる事必至。ならば――


「スピカさん……逃げましょう!二人で何処か遠くに!」


「はい?」


「南の大陸にはもう戻れません。このまま北の大陸で暮らすか……いや、ダメだな。北の大陸すら滅ぼされる可能性がある……」


「ち、ちょっとエイルさん?何故逃げるのですか?急過ぎてついて行けないのですけど……」


「そうだ!いっそ次元の狭間に……!」

「エイルさん!」


「は?はい!……?」


「話……聞いて下さい!……その……嘘ですから!ちょっとからかってみただけです!何も無かったですから安心して下さい!」


 あー、ダメだ。どうしてか、エイルさん相手だと悪い事出来ないのでしょうか?私、向いてないのかな?


「え?で、でもシーツの血は?」


「私の鼻血です。寝てる時にエイルさんに殴られました」


「腕枕は?」


「寝相の悪いエイルさんを抑える為です」


「ホントに?」


「はい。ホントです」


 本当はそれだけじゃなく、エイルさんが可愛いくて抱きしめたかっただけですが、余計な事は言わない事にしましょう。


「良かったぁ……死なずに済んだわぁ…」


 そんなにミカエルさん怖いんですかね。

 何もなくて喜ばれたの初めてで私的にはショックですよ。私結構モテるんですよ?



 ◇



 とりあえず何もなくて安心した俺は部屋を後にし、戦艦ミカサの自室へと戻った。


「ただいま〜」


 ジスは既に起きていて、顔を見るなり、鬼の形相へと変わった。


「エイル!あなたね、酒飲んで朝帰り……いえ、朝チュンとはとんだビッチね!」


「わざわざ言い直すなよ!しかもビッチとか酷くない?何もしてないし!記憶ないけど、スピカさんの所で寝てたよ!」


「ふん!どうだか!もし隣りで寝てたのがライズだったら、何も無かったなんて言いきれないでしょう?少しは自重しなさい!乙女として!」


 確かに、隣りにライズ寝てたら自殺するわ俺。

 乙女としてか……なんだかなぁ


「ジスは昨日どうだったの?」


「私はさっぱり覚えてないわ」


「お前こそ自重しろよ!人の事言えないだろうが!指揮官だよね?」


「う……ミカエル様に黙っててあげるから、エイルも黙って……」


「う、うん」


 なんか初めてジスと意見が合った気がする。



 ◇



 戦艦ミカサの会議室には、俺、マリン、ティファ。

 ジスと剣聖シズカさん。

 それとスピカさんにアメリアさん。

 案内役にライズさん。が集まっていた。

 皆二日酔いではあったが、アルテミス城攻略会議を行う事になった。


「遺跡は実は結構昔から知ってたんやが、遺跡に行った奴らは皆戻らへんので、竜族としては危険やから遺跡調査は禁じてんのや。どうやら出るらしいで」


「で、出るって何がですか?」


「バケモンや」


 ドラゴンにバケモン言われる存在とか怖いな。


「スピカさんは何か知ってますか?バケモンの事」


「ええと、多分ですけど、アルテミス城には侵入者を排除するゴーレムみたいなのが居ましたね……あとは宝物殿を守る特別な守護獣ガーディアンが居ます」


「ガーディアン?って何?」


「私も見た事は無いのですけど……使徒には作動しないセキュリティですので安心して下さい」


「なるほど!じゃあサクサク行けるわけですね!」


「なんや。心配して損したわ!じゃあ気楽に行こうかいの!」



 俺たちはアルテミス城に向け竜族の里を後にした。


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