幕間『勇者様御一行』



勇者として召喚されてから一週間程が過ぎた。

その間、王様?とか、この国セブール神聖王国の偉そうなヤツら、女神教会の幹部?みたいなヤツらとの会食等、騎士団との訓練、魔術師団との訓練で忙しく過ごしていた。


 城内の一室で殆どを過ごしている為、退屈である。

 退屈な理由は色々あるが、娯楽がさっぱり無い事が大きい。文明が中世的な為か、テレビやパソコンの類いは当然無い。


 夜の方の生活は満足している。よく懐いている聖女が世話をしてくれている。便利な女だ。

 それくらい勇者と言うのは大事にされていると言う事の証明だな。


 魔王討伐のパーティーを編成する為、朝から選定に忙しく、未だ城下に降りてもいない。

 そもそも希望者が多過ぎる。聖騎士、神殿騎士、一般兵、魔術師、芸人、鍛冶師、娼婦、宿屋の主人、メイド、商人、農民等、様々だ。

 非戦闘職のヤツらは何なんだよ!宿屋の主人が何出来るって言うんだ!

「昨晩はお楽しみでしたね?」とでも言うつもりか!

 こんなヤツらボクからしたらNPCでしかない。

 死んでも何も感じないし、棺桶が増えるだけだ。


「おい!スピカ!あと何人いるんだ?」


「はい!えぇーと……2000人弱はいますね〜、まぁ大変!」


 おどけた感じでサラっととんでもない事を言いやがる。可愛いから許すが。


「スピカ。その2000人全員連れて行けば楽勝で魔王に勝てないか?」


 大軍でフルボッコにすればボクは後方でのんびりしてられる事だし、肉盾は多いに越したことはない。


「完全に予算オーバーですよ!まず町や村に入れて貰えないですよ?仮に入れても宿の手配だけでも大変です。3から4人に絞って下さい」


「むぅ。楽出来ると思ったんだがな……なら男は全て除外と非戦闘職は不採用だ。頼んだ」


 仕方ない。あとは顔と実力で選ぶしかないようだ。

 それと、研修と称して部屋に連れ込めるかもしれないな。ぐふふ。


「部屋に連れ込むとかは駄目ですよ」


 何故か心を読まれた!


「…………」



 ◇



 数日後、3人の女冒険者を採用した。

 いずれもゴールドランクで実力は申し分ないらしい。

 ただ、残念な事にエルフが居ない。

 どうやらこのセブールには人族しか居ないらしく、他種族は他の国に行かないと会えないらしい。

 セブールは人族至上主義であり、入国すら厳しいそうだ。エルフと亜人に囲まれたハーレムは出来なかった。


「さて、皆さんお揃いになったと言うことで、先ずは自己紹介しましょうか!私は女神教の神官をしていますスピカです。一応、今代の聖女を仰せつかってます。まぁ、主に後衛で皆さんのサポートをさせていただきます」


「紹介されなくても、あんた有名人だから知らない奴はいないよ。今月も月刊冒険者の表紙だっただろ?しかし、実物も可愛いねぇ。羨ましいよまったく。あ、アタシはユリア。戦士だ。武器は両手剣だけど盾役もこなせる。よろしく!」


 筋肉質の体だが、スラリとしていてアスリートのように引き締まった感じだ。長い髪を束ねたポニーテールが良く似合う美人である。


「私はマミヤ。元魔術師団序列三位で、今はフリーの冒険者よ。使える属性は火、風、水の三属性よ」


 グラマラスな体の持ち主で、大きく胸の空いた黒いドレスに紫の髪が妖艶さを引き立てている。誘ってるのか?

 しかし、この世界で属性複数持ちは稀らしい。ゆくゆくは賢者と言われる逸材の様だ。


「ウチはリン!武闘家だよ!流派はセイコマルク流の免許皆伝貰ってるよ!でも寝技が一番得意かも〜」


 青髪のショートヘアで活発な印象だ。是非とも夜の寝技を体験したい。


「ではリュウタロウ様お願いいたします」

 後ろに控えるスピカが耳元で囁く。スピカの良い香りがする。このまま押し倒してしまいたくなるが、今は我慢しよう。


「えー、僕が勇者リュウタロウだ。僕達はこれから世界を救う為、魔王軍と戦う事になる。だが、心配は要らない。君達は既に英雄である。この僕に選ばれた時点で英雄になる事を約束された。何故ならば、僕は必ず勝つからである。未来永劫、君達は歴史に名を刻むはずだ。だから僕に着いて来ればいい。以上だ。スピカ!今後の予定はどうなってる?」


「はい。今日は王都を出発する前に国王と謁見。聖武器を賜り、トアール村へ向かいます」


「うん。キャンセルだ!」


「はい?」


「僕らはこれから決起集会の為、城下に降りて親睦を深めるんだ!王様に言っておけ!また今度なと!」


 スピカにそれだけ伝え、リュウタロウは三人を連れて部屋を出て行ってしまった。


「ま、まじですか!……あ、アーロン王になんて言えば……うぅ」


 スピカは生まれて初めて胃が痛くなった。

 あぁ、これがストレスって言う現象なんでしょうか?

 スピカの苦労の始まりである。


 仕方なく、スピカはアーロン王に事を説明し、リュウタロウの代わりに謝罪した。

 聖武器の贈呈式には、女神教から教皇並びに元老院。神殿騎士団、聖騎士団等、錚々たる顔ぶれが配列する予定であった。

 スピカはその全てに謝罪回りする事になり、部屋に戻ったのは日付けが変わる頃であった。


「ただいま戻りました……はぁ……ん?」


 スピカがリュウタロウの部屋へ戻ると異様な匂いを感じた。酒の匂いはもちろんだが……それに加えてツンとした匂いを感じた。


「何か聞こえますね……」


 スピカが耳を澄ますと寝室の方から女性の少し荒い吐息と泣き声の様な高い声が漏れる。


「……はぁっ♡んっ、んっ」


 まぁ、何となく察してしまったスピカは寝室には入らず、リビングの灯りをつけると、そこら中に女冒険者達の衣類やら下着やらが脱ぎ捨てられていた。


「ちゃんと片付けて欲しいですね」


 やれやれと呆れながらも衣類を集め、洗濯カゴにまとめ、ソファに腰を下ろし疲れた体を癒した。

 だが、やはり聞こえて来る男女の営みが気になり、落ち着かない。


「しばらく時間潰すしかないですかね」


 スピカは気づかれないようにそっと部屋を後にした。

 向かった先は古い友人の所有する屋敷であった。



 ◇



「こんな夜更けに来るなんて珍しいな。勇者と喧嘩でもしたのか?それとも私が恋しくなったのでしょうか?」

 少し長めの紫色した髪の男はスピカの急な来訪にも嫌な顔せず迎えた。


「そのどちらでも無いですよ。でも少々時間を潰したいのと、お風呂使わせてくれますか?もうクタクタで」


「構いませんよ。なんなら御一緒に入りますか?昔みたいに」


「昔一緒に入った覚えないですけど……一人で入りますから借りますね〜」



 ◇



「よかったらどうぞ」


 男はバスローブに身を包み、ソファに座るスピカにグラスに入れた葡萄酒を手渡した。


「あら、気が利くわね神殿騎士団長さん」


「その呼び方はやめて欲しいな。普通にアルゴでいいよ。ところで勇者……リュウタロウだったか?使い物になるのか?ろくな噂を聞かない」


「いやもう、元気いっぱいですよ!今日も顔合わせした冒険者さん達に手を出してますし!絶倫って言うんですかね?弱体化させる薬とか無いですか?相手してたら身が持ちませんよ!」


「……そっちの意味じゃなくてだな……勇者として、いや、我らの目的の鍵として最後まで使えるのかと」


「あぁ……そっちでしたか。それは流石、勇者の加護持ち。て言う程の強さを持っていますよ。そう簡単には死なないでしょうね」


「そうか。ならば問題ない。引き続き、聖女として手網を握っておいてくれ」


「はい。それが私の任務ですから……」



 ◇



 翌日、予定より一日遅れで勇者達一行は王都を出発し、セブール領内の町や村へと慰問活動に向かった。

 勇者として、世間に存在を示す為と、勇者自身の戦闘訓練も兼ねていた。


 最初の目的地は人口1000人程のトアール村である。

 その道中、早速魔物に遭遇した。


「おっ?ゴブリンが三体だね!アタシ一人でも楽勝だけど、どうする?」

 ユリアが抜剣しつつ、リーダーであるリュウタロウの指示を仰ぐ。


「ご、ゴブリンか……折角だからボクがやってみよう」


「リュウタロウ様!初ゴブリンですね!ファイト〜♡」

 スピカはリュウタロウの強さは承知の上だが、初の実戦戦闘である。一応応援してみた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!スターライトバスター!」


 リュウタロウの聖剣から繰り出される光属性の魔法剣だ。威力は剣の直線上の敵を一掃出来る弩級クラスの技だ。はっきり言ってゴブリンに使う様な技では無い。


 ゴブリン三体は光の中に跡形も無く消えて行った。


「あっスライムだ」


「天光瞬殺剣!」


 聖剣が光の速さで無数に突き出される光速剣。

 スライムは正に光の速さで蒸発した。


「どうだ!」


「「「…………」」」


「いや、どうだ!じゃなくて!強いのは分かりましたけど、加減ってのをした方が良いと思いますよ!リュウタロウ様!辺りの地形がおかしくなりますよ!」


「む。そうか。気を付けよう」


 リュウタロウはただ技の威力を試すつもりではあったのだが、力が入りすぎた様だ。


「そんな事より、そのトアール村はまだなのか?もう随分歩いたはずだが」


「はぁ?まだ王都出て一時間も経ってないよ?日が暮れるまでには着くと思うよ」


「そ、そんな遠いのか?ボクは五分以上歩いた事無いんだ!早くしろ!」


 リュウタロウは自宅とコンビニの往復しかしない主義である。


「リュウタロウの世界って随分狭いんだね」




 日も暮れる頃、ようやくトアール村へと到着した。


「勇者御一行様歓迎」と書かれた横断幕が村の入り口に堂々と掲げられており、村人総出で出迎えられた。


「つまらんな……なんかこう、如何にも困ってます!みたいな村を見たかったんだがな」


「リュウタロウ様は人の不幸が好きなんですか?」


 一行は村長宅へと案内された。



 つづく


 かもしれない

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