土用の丑の日特別編

 

 異世界に来てから三回目の夏を迎えた。

俺たち「銀の翼」は生活拠点(と言ってもかなり久しぶりの帰宅)始まりの町サンク市の自宅に集合していた。


 俺たちは一応冒険者なのだ。

たまには依頼をこなさないとランクダウンしてしまうらしく、定期的に集まり活動していた。


 現在のランクは未だにシルバーランクである。

実力的にはプラチナ級ではないかと噂されてはいる。

とは言ってもサンク周辺の魔物はシルバーランククラスの魔物しか出没しないので、数をこなさないと評価は上がらないらしい。


 より強い魔物は北部の山や、海中だったりと、簡単に行けない場所が多く、ゴールドやプラチナはかなり少ないらしい。昔ミカさんの母サクヤがプラチナランクだったと言う話を聞いた事があるが、魔王軍四天王クラスがたくさん居たら大変だよね。居なくて正解だ。


「ローザさん、お久しぶりです!」


「あらぁ!エイルちゃん!久しぶりね〜!サンクに帰って来たのは、噂になっていたから知っていたけど、また会えて嬉しいわ!」


 ギルドの受け付けのメガネ美人ローザさんはにこやかな営業スマイルで迎えてくれた。因みに目は悪くないらしい。セリス情報だ。


「今日はどうしたのかしら?依頼受ける気になったのかな?」


「えぇ、なんか依頼無いかなと。メンバー揃ってるので……討伐依頼とか?」


「ちょうどいいのがあるわ!人手が足らなくて困っていた所なのよ〜」


「えと、どんな依頼ですか?」



 ◇



「たらいまー」


「エイル早かったわね。それで、依頼あったの?採取とかはダルいから嫌よ。派手なやつしかやらないわ」


 相変わらずミカさんは討伐依頼以外は嫌いみたいだ。


「討伐依頼受けたよ!キラーイール?てのが、近くの湖に大量に現れてるんだってさ!なんと一匹1500ジルだって!」


「キラーイール?それって多分、ウナギ科の魔物ね。異世界ウナギか……良いわね、狩りまくって蒲焼きにしましょう!」


「ウナギか!久しぶりに食べたい!ミカさん頼んだ!俺は白焼きが良いなぁ」


「おい待て!キラーイールって、あんなの食べれるのか?」


「こっちにはウナギを食べる文化は無いみたいね。私とエイルの居た世界だと古くから夏の時期に食べる文化があってね。夏バテ防止とか精力が付くとか言われてるのよ」


「せ、精力!淫魔のミカエルが、それ以上精力つけてどうするつもりだ?」


「べ、別に変な意味じゃないし!本当に精力つくとかは分からないでしょ!それに淫魔言うな!ダメエルフが!」


「よし!表出ろ!今日こそその無駄な胸を切り取ってやる!」


「ちょ、ちょっと喧嘩すんなって!久しぶりの魔物討伐なんだからさぁ!」

 ホントに仲悪いミカさんとセリスである。


「でも湖なら水着の方が良くないですかぁ?」


 ティファがベタな提案をして来る。確かに!水着の方が良さげだな。ウェットスーツ的なのも無いしな。


「ウチ水着持って無いっスから真っ裸でイイッス!」


 いや、マリンは貝殻有るだろ。むしろマリンは何か着て欲しい。


「一応今回はウチらだけじゃないらしいよ。他の冒険者と共同だってさ」


「早く食べたいなのです!他のパーティには負けないのです!」


 リオの競争心は食い意地だけらしい。



 キラーイール。なんか良く分からないけど、毎年夏くらいになると、海から川へ入り、湖や水田に出没して暴れるため、農業組合から依頼が入るらしい。


 一応、海の魔物のため、シルバーランク以上じゃないと厳しく、軍も出動して討伐戦となる。




 ◇



 翌日、依頼を受けた俺たちはサンク市から陸王二台で一時間程北上して、キラーイール発生現場であるパス湖に到着した。


 既に他の冒険者パーティとサンク市防衛隊は到着しており、何やら作戦会議中のようです。

混ざった方が良い感じかな?


「あー、どうも銀の翼です〜、今日は宜しくお願いします」

 怖そうな人がいっぱいなので、低姿勢だ。


「銀の翼!?ってあの?」


 フフ……どうやら俺たちも冒険者として名が知れているみたいだな!


「竜殺しで、海神を手懐けて王都大火の原因で美術館と時計台を破壊して、国宝を幾つも紛失させた挙句、セイコマルク王国で神獣と暴れて多大な被害を与えた、災害級パーティの銀の翼ですか?」


「え?……ええと」


 なんか少し違う気もするけど否定出来ないだけに、対応に困る。


「そんなもんじゃないぜ!ユリウス国王に婚約を迫らせて、魔王軍で圧力かけて慰謝料を踏んだくった美人局疑惑に、泳いで北の大陸に渡り、竜族の里を襲撃して、竜族を全て隷属化したとか噂だぜ?」


 いや、それなんか違う。尾ひれが付くにも程がある。

慰謝料なんて貰ってないし!


「あう〜……」


 俺が対応に困っていると、大柄な騎士が割り込んで来た。


「親睦を深めるのも良いが、討伐戦の打ち合わせをしたいのだが」


 フレオニールだ!今回の討伐戦は防衛隊も参加していると聞いたけど、フレオニールも来てたのか!

ならば、この状況をおすそ分けしてやろうじゃないか!


「パ、パパぁ〜助けてぇ〜」


 俺はフレオニールの背後に回り、抱きついてみた。


「「パ、パパ?」」


「や、やめろエイル!抱きつくなぁ!」

「パパぁ、あの人達がイジメる〜」


「フレオニール隊長の娘さんだったんですか?」

「ち、違う!まだ父親になると決まったわけじゃ……って、そうじゃなくてだな、離せ!」


 ゴチン!


 フレオニールにゲンコツされました。


「全く、ふざけてる場合ではない!作戦会議するぞ!こっち来い!」


 首根っこ掴まれ、各冒険者のリーダー達が集まり、指揮を執る防衛隊の指示を待っている所へ連れてかれた。


「作戦はこうだ!とにかく狩れ!以上だ」


 自信満々のセリスが考案した作戦案のようだ。分かりやすいが、作戦なのか?


「キラーイールは個体差によってDランクからBランクと幅が広い。決して無理はするなよ!質問はあるか?」


 フレオニールからも注意喚起があったが……ランクって何だろう?


「はーい!」


「何だエイル言ってみろ」


「ランクってなんですか?」


「お前が今更それ聞くか?まぁいい。簡単に説明してやろう」


「やっぱいいです。長そうなんで」


「……」


 因みに。

 魔物ランクは下からF〜SSまであるらしく、ドラゴンがSで、神獣とかがSSだそうです。

 そう考えると、銀の翼メンバーは化け物揃いだね。


 ◇


 作戦会議も終わったので、皆の所に戻ると皆さん既に着替えが済んでいました。残念。


 ミカさんは黒いタンクトップビキニで、下はトランクスみたいな感じだ。ミカさんって結構露出少なめなんだよね。淫魔なのに。


 セリスは緑色のワンピース水着だが、胸の下から腰にかけて、両サイドが大きく開いていて、後ろから見るとビキニみたいだ。相変わらず足は長い。


 マリンは水着と言うか下着と言うか、いつもの貝殻だ。

 見慣れているせいかインパクトに欠けるが、相変わらずの爆乳が、目に付く。


 リオは水着じゃなく、ギミックスーツだ。まぁ確かにわざわざ水着着ることないよね。いつもと違うのは、何故か浮き輪を腰に巻いている点だ。

ひょっとしたら泳げないのか?


 ティファは後衛だから水着着ることないのに水着だ。

白のワンショルダーのトップに下はまさかのTバックと、相変わらず地味な顔して、脱ぐと凄い。

最近貴族の間で守銭奴神官とか言われてるらしい。

教会でかなりぼったくり、悪名高い神官だ。


「さてと俺は……」


 勿論着替えるのであるが、見た目が美少女でも中身が男なので、水着なんて着たくないのだ。裸を見られる事に抵抗は無いが、ミカさんに怒られるので、とりあえず用意した物に着替える。


「じゃじゃーん!どうよ!これがウナギ漁の正装だぜ!大漁間違い無しだ!」


 藍色の着物の上着に赤い腰巻き、白い短パンだ。

ドヤ顔で無い胸を貼り、自慢するが、冷たい反応だ。


「エイル……その服装って海女さんよね?」


「うん。そうだけど?」


「海女さんってウニ漁とかじゃなかったかな?あなた素潜りでウナギ採るつもりなのかな?」


「(‘ jjj ’)じぇじぇじぇ!」


 思わず古いネタで反応してしまったが……。


「そうなの?」

 セリスに聞いてみると……。


「私は知らんが、可愛いから大丈夫だ!」


 大丈夫だって!

ならば問題ない。狩りまくろうではないか!異世界ウナギをな!



 俺たちが、のんびりしてる間も他の冒険者と防衛隊の騎士さん達は荒れ狂うキラーイールと戦っていた。

体長は1mから2mくらいと、かなり大きい。それがヌメヌメしてて捕まえるのも大変そうだ。

剣でも上手く切れないらしく、一撃で仕留められないため、騎士さん達も疲れが見えていた。



「さて、行きますか!」

 いよいよオラの出番だべ!と腰の愛刀に手をかけると、ミカさんに襟を掴まれた。


「待ちなさい!出来るだけ傷つけずに狩りなさい!刀は禁止ね!食べる予定なんだから」


「あっそうか。分かったやってみるよ。マリン!」


「おいっス!」


 ドリ〇みたいな返事をしてマリンが湖に向かって走り出す。

「海龍の逆鱗っス!」


 マリンの重力魔法が湖の水面を押し潰し、その反動で周りの水面が勢いよく舞い上がる。

水中にいたキラーイールが大量に空中へ放り出された。


「今だ!ロケットパーンチ!」


 スキル『ロケットパンチ』でキラーイールを殴り岸の方へ飛ばして行く。

ロケットパンチは離れた敵も殴れる強力なスキルだ。

肘から下がポンッと離れ、ロケットの如く飛ぶ。

だが欠点がある。生身の人間の腕が飛ぶのが、信じられないらしく、周りの人が大抵驚く。


「う、腕が飛んだ!」「ウソだろう?」「本当に人か?」

 こんな反応になる。


 それと、もう一点。

飛んだ腕を自分で回収しに行かなければならないのだ。

これが、結構めんどくさい。


「エイル、効率悪いわよ!」

「すんません」


 ミカさんはと言うと、金属バットでノック打ちの如く、空中戦を繰り広げていた。バットに釘は付いていない仕様だ。


「し、しまった〜!」


 セリスの声の方を見ると、セリスがキラーイールの群れに体を蹂躙されていた。水着の中にキラーイールが入り込み、何かよくある展開になっています。


「やっ、やめろっ!そ、そこはぁ!ら、らめー♡」


 何か気持ち良さげなんで放っておこう。


 リオは浮き輪で水面を移動しながら上がって来たキラーイールを得意の徒手空拳で確実に成果をあげていた。

 相変わらずマイペース!


 マリンはキラーイールを胸に挟み、捕まえていた。

他に方法無いのか?

すると暴れるキラーイールがマリンの貝殻水着の紐を食いちぎり、凶悪な胸が露わになると、湖にいた男性冒険者達の視線がマリンへ向く。


 予想通りのポロリ展開に野郎共の士気は爆上げだ。


「この闘い、絶対勝つぞ!」

「あぁ!やってやるさ!」


 まるで加護を受けたかの如く男性冒険者達がキラーイールを次々と討伐していく。


「男って単純ね」


「俺もやるぞー!」


 どうやら俺にも、加護が舞い降りたので、負けてられず、魔力を集中させる。


「エイル?ちょ、ちょっと!皆んな離れなさい!」


「ヘブンクロス!」


 天属性の広範囲弩級魔法『ヘブンクロス』が光の柱となってパス湖に落とされると湖の水は全て吹き飛び、キラーイールは水の無い湖で、大量に打ち上がった。



 ◇



 少しやり過ぎたみたいで、フレオニールとギルドマスターからお叱りを受けたものの、討伐自体は完了したので、お咎め無しである。

パス湖の形が変わってしまい、地図を書き直すとか言ってた気がする。ファイト!


 そんな事より、俺たちの目的である。


 土用の丑の日と言う概念はこの異世界には無いけど、夏にウナギを食べれるので満足である。


 ミカさんが手際よくキラーイールを捌き、串を刺して火魔法で焼く。


 ミカさん手製のタレを付けて焼いた蒲焼きと、タレ無しで焼いた白焼きの二種類がテーブルに並ぶ。


「「「いただきます!」」」

「いっス!」

「いただきますなのです!」


「白焼きはワサビで食べてね。お酒に合うわよ」


「うん。酒は飲めんが、白焼きはあっさりしていて美味いな!」

 セリスは酒弱いので基本的には飲まない。


「蒲焼きは御飯がすすむなのです!」

 リオはガツガツ食べていく。太らないから不思議。

「たくさん有るから、ちゃんと味わってねリオ」

「はいでふ!」


 皆で美味しく頂きました。



 その夜。





 皆が、寝静まった頃、隣りで寝ているミカさんの様子がおかしい。

「んんっ!……はぁっ……」

 こちらに背を向け何やらモゾモゾしている。

 いつも、こっち向いて寝てるのに、妙だ。お腹痛いのかな?

「ミカさん?」


「あっ!え、エイル!起きてたの?」

「さっきからどうしたの?苦しそうだよ」

「えっと……その、が、我慢出来なくて……」

 何だ?おしっこでも我慢してたのかな?きっと一人でトイレ行くのが怖いんだな。

「我慢しなくても良いよ。一緒に行こう!」

「えっ?本当に?いいのエイル?」

「もちろん!」

「一緒にイッてくれるの?」

「じゃあ行こうか……」


 起き上がった途端、ミカさんに押し倒されました。

 え?トイレ行くんじゃないの?


「あたし……もう我慢出来ない!」


 ミカさんに衣服を剥ぎ取られ、下着姿にされると、精力がブーストした淫魔がそこにいた。


「え?え?」


 コレはヤラれる!だが、魔王にマウントポジションを取られた状況は絶望的である。

 最早、淫魔神と化したミカさんを止める術はなく、ミカさんに蹂躙されて行く……



 しばらくして、体の至る所にミカさんの印を付けられたエイルは戦闘不能になり、ぐったりとしてベッドで放心状態だ。


 エイルは思った。


 淫魔にウナギは食べさせちゃダメらしい。


 更に性欲が爆発しているミカエルは他の寝室へ向かった。

 エイル達の屋敷では明け方まで、泣き声の様な悲鳴が響いたと言う。



 おしまい

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