第22話『振り返れば奴がいる』


 セイコマルクの一連の襲撃から一夜明け、復興作業が本格的に開始された。


 復興作業の増援部隊に魔族国からオーガ兵を派遣させた。そのオーガ兵を連れて来るのに俺が転移魔法で使ったのだが……。いくら転移で楽だからとは言え数百人の転移は一度では無理で、10往復くらいさせられて流石に疲れたのだ。


 とは言え、俺に出来るのは、それくらいしか無いので仕方ないのだが。



 ミカさんは土魔法で建造物の作成等をしていて大忙しだ。


 マリンは水魔法で昨日、消火作業を一晩中していたので今は爆睡中だ。たまには役に立つことあるみたいだ。


 ティファは怪我人の治療にあたっていて忙しく動いていた。いつもは頼りないけど、こういう時は頼りになる。多分無料でやってると思う。


 セリスはリオに付きっきりで、全身疲労困憊のリオの看病をしている。リミッターカットの反動は凄まじく、全身の骨が砕けた状態で、ティファの回復魔法で生命の危険は回避したが、疲労までは魔法では回復できないので、要介護状態だ。


 椿つばきちゃんは剣聖ウメと同じ空気吸いたくないから帰ると言い出したので、俺が転移魔法で須弥山の家まで送った。


 その剣聖ウメは、レグルスに家を壊されたのを機会に、セイコマルク城に居座り、正式にセイコマルク軍に所属する事になった。トラビス王子と共にセイコマルク軍の強化にあたるそうだ。まぁ頑張ってくれたまえ。



 という訳で今、暇です。



 なので、客室でゴロゴロして過ごしていたりする。

 昨日拾った猫と一緒だ。


「なぁ、暇だから遊ぼうか!ライトニング〜」


「ニャー」



 突然、我を従魔にした主のエイルと名乗る少女が、遊ぼうとか言い始めた。

 ククク、仕方ない。我も暇を持て余しておったわ!

 遊ぼうではないか!隙あらば、痛い目に合わしてやろうぞ!



「うーん。やっぱり猫ならボールとかかな?」



 ボール?


 すると主は魔法を行使してボールと言う名の玉を造りだした。

 成程、その玉を使った遊びを猫らしくすれば良いのだな!


「ライトニング〜。行くよ〜」


 主が玉を転がして来た。

ククク。それを猫らしく扱えば良いのだな!任せろ!

 転がって来る玉をそっと前足で受けようと、足を出したが……。


 ドガッ!


「フギャッ!」


 足が弾かれまともに顔面直撃した。


 まさかの鉄球だと?

この娘、馬鹿か?ペットに鉄球投げるとか、ありえないだろう!

いや、まさか我の正体に気付いているのか!

我の力を、試しているのかもしれぬ。

ククク、ならば全力を持って、相手をしてやろうではないか!

くらえい!


「ニャー!!」


「おっ!」

 バシッ


「ライトニング、ナイス〜。それ!」


 ゴロゴロ


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!←心の中ではこんな感じ


「ゲフッ!」


 う、受け止めきれずに、まともに腹に……!

 あばら骨が何本か折れたかもしれん。

 くそっ!幼体でなければ、こんな玉!


 ガチャ


「あ〜っ!疲れたわ」

 ミカさんが復興作業から戻ってきたが、何やらお疲れのようです。


「ミカさん、お疲れ様!もう終わったの?」


「終わってないけど、後は任せて来たの。土魔法使い過ぎで体が砂だらけよ!お風呂に行くけど一緒に行く?特別に洗わせてあげるわ」


 えっ?洗わせてあげるって?それはまさかの展開ですね。何のご褒美でしょうか?ジスに自慢出来るな!グフフ……

「おう!行く行くー!」


「エイル……あんまり女の子がイクイクって大きな声で言わない様にね」


「あ……はい」

 なんの事だか分からないがあまり大きな声で喋ってはいけないみたいだ。気を付けよう。


「悪いけど先に行っててくれる?すぐに向かうから」


「ほーい」


 別の階にはある浴場へ行くため、先に部屋を後にした。




「おい猫!」


「ニャー」


「お前、猫じゃないだろ?神獣キングベヒーモスよね?何が目的でエイルに近付いたのかしら?言わないと殺すわよ!」


「……ククク。気付いておったか……流石に魔を統べる者であるな。近付いた目的など他愛ない興味でしかない……。我を倒した、あの娘に少しばかりの興味が沸いた。それだけだ」


「本当にそれだけかしら?もしエイルに害なす存在ならいつでも殺す!」


「随分とあの娘に熱心の様だな、魔を統べる者よ」


「当たり前よ!エイルは私がこの世界に存在する理由そのものなの!」


「ククク。興味深いな。ならばお前達2人を見て行くとしよう……魔を統べる者と神の子か……」


「言っておくけどエイルはお前を猫だと思ってるわ。だからエイルの前では猫を演じる事ね」


「……猫じゃないとダメなのか?」


「猫じゃないとダメ」


「……善処します」




 ◇セイコマルク城来客用浴場



 風呂場には他に誰も居ないみたいだ。

 来客用の為、侍女さん達とかは居ない。自由に何時の時間でも解放されている。もちろん男女は別だ。


 浴場は無駄に広くて、狼の石像が口を開けて湯がダーって流れてる。あれってゲロにしか見えないよね。


 何だか緊張して来たな。ミカさんと風呂に入るのは初めてじゃないけど……

 面と向かって洗わせてくれるって言われると、何だか変な気持ちになる。

 1人湯槽でブクブクと泡を立て気を紛らわしていた。


 カチャリ


 浴場の扉が開くとミカさんが一糸まとわぬ姿で浴場に入って来た。


「お待たせ」


 何を待たされたのか、俺は何を待っていたのか?

 その、「お待たせ」の一言が妙に艶っぽく感じてしまう。


 ミカさんは長い二色の髪を頭の上で結ってあり、普段の姿とはまた違う色っぽさが、俺のブクブクを加速させた。


「先に洗ってあげるから来なさいよ!」


「は、はい」


 何故だか、はいとか言っちゃうんだよね。威圧感ですかね?


 浴槽から出て、ミカさんに背を向けて椅子に座る。


「あら?背中の紋章無くなっちゃったの?」


 背中には以前、翼の紋章が描かれていた。


「ああ、今は使徒モードで翼だけ、隠せる様になったから、紋章も消せるんだよね」


「アホ毛は治らないのにね」


「うっ!そこはトレードマークみたいな物で……」


「わたしにアホ毛は無かった筈なんだけど。君がアホだからかな?アホ毛の天使くんw」


「むーっ!アホなのは自覚してるけど、やる時はやる男だぜ!って女の子になったけど……」


「知ってるよ……君は私のヒーローだったから……」

 ミカさんが、小さな声で囁いたが、聞き取れなかった。


「ん?なんて?」


「なんでもないよ!頭洗うから下向いて!」


 頭をミカさんにガシガシと洗ってもらう。


「あーあ、長くて自慢の髪だったのに、何で短く切っちゃうかな」

 ミカさんが今更な事を言い始めた。


「ごめん……長いのは、違和感あり過ぎてさ」


「オマケにアホ毛まで出来てるし!」


「悪かったよ!でも、長いのは無理かな。それよりミカさん……背中に柔らかい物が2つ程当たってますが……」


「当ててんだよ!もっと喜べ変態!」


「その……ミカさんは今の体に転生して満足?」


「え?……うーん……満足かな。前世では無かった胸があるし。前世では散々馬鹿にされてた貧乳だったからねー」


「でも、モテてたよね。ミカさんのレジはいつも並ぶし。スマホの番号とか聞かれまくってたよね?意外なのが、ちゃんと番号書いた紙を渡してたのだけど……」


「あぁ、あれね。あれは電柱に貼ってある怪しい業者の番号を渡してただけよ」


 なんと酷い事を!その後の彼らは無事でしょうか?

 そもそもミカさんは何でコンビニでバイトしてたのだろう。いつも客をゴミを見る様な目で見て接客していたし、客の前で舌打ちするし。とてもじゃないが、店員向いてなかった。接客業しては行けない人だ。


「君は転生して、しかも前世の私の体になって嫌かな?」


 ミカさんが、後ろから俺の体をギュッと抱きしめ、みみ元で囁いた。


「嫌とかじゃないけど……やっぱり女の子の体はまだ慣れないと言うか、正直怖い。最近は男の目線がキモイし。このまま心まで女の子になってしまったらとか思うと……」


「それは嫌だ。エイルが女の子として男とイチャイチャしてたら、この世界滅ぼす!」


「しないから!世界を滅ぼすとか言わないで!」


「……エイル。あ、愛してる……ぜ?」


 鏡ごしに写ったミカさんの顔が真っ赤だったけど、何故に男口調?照れ隠しなのかな?


「ありがとう。俺も愛してるよ。この世界よりミカさんを優先するし」

 中々恥ずかしい事を言ってしまう。

 ポンポンと肩の上に乗ってるミカさんの頭を叩く。


「エイル……♡」


「ん♡」


 2人の顔が自然と向き合い、唇と唇が重なり合う。


 筈でした。



「シャーっス!マリン復活っス!ご主人様とミカエル、2人で何してるっスか?何しよたいっスか?」


 振り返るとやっぱりマリンだ。

 スパーンと浴場の扉を勢い良く空けマリンが現れた。

 久しぶりのムードクラッシャーの登場に半ばやっぱり感と、相変わらず元気なマリンを見て笑顔になる。


「チッ!鍵は閉めたはずなのに……」


 ミカさんが何やらブツブツと言っているが、聞き取れなかった。


 そんな感じで3人で風呂に入り、客室に戻った。




 翌日、俺たちはセリスとリオを残して魔族国へと旅立った。と言っても転移魔法で直ぐなので、また少し離れるだけだ。


「じゃあ行くよ。転移!」




 これから先、再び邪神の使徒達との戦いに備えなければならない。それとリュウタロウも動向も気になる。

 すっかり表舞台から消えてしまったが、スピカさんとの繋がりがあるので、再び立ち塞がる相手だ。何よりリュウタロウを殺すのは俺とミカさんの目的でもある。


 そして世界は少しづつ、俺たちにとって悪い方向へと回り始めて行く……




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