第21話『雷天ノ太刀』
「なんだこのふざけた色のゴーレムは!ひょっとしてミカエルか?」
「何する気かと思えば巨大ゴーレムかよ!めちゃくちゃすんなおい!」
「シャアアア!」
ミカエルの操縦するインマ・インマの一撃が神獣の足を捉え、骨を砕いた。
だが、神獣も負けてはいない。
神獣の前足による攻撃で機体の損傷が激しくなる。
カッ!
神獣の口から、魔力の波動砲がインマ・インマの頭部を打ち消した。
「まだよ!まだメインカメラがやられただけよ!」
メインカメラ以前に、カメラがそれしか無いので、実は結構ヤバい状況だったりする。
「吹っ飛べゴラァ!」
最後の渾身の一撃を神獣に向けて放つ。
だが既にモニターは作動していない中、魔力感知のみでの攻撃は捕えきれておらず、会心の一撃とはならなかった。
インマ・インマの最後の攻撃は躱され、機体はバランスを崩し、倒れる。
その瞬間を狙ったかのように
抜刀術で放たれた一閃は神獣の胸から肩を斬り裂いた。
飛び出す鮮血が辺りに血の雨を降らす。
痛覚が無いのか、それとも自己防衛の行動か、胸を裂かれてもカウンターの攻撃が
「ぐあっ!」
「ツバキっ!!」
剣聖ウメは身動き取れず、只、見ている事しか出来ない。
神獣の威圧感で、足はすくみ、金縛りの様に固まってしまう。
「格が違い過ぎるってよ……」
一方、エイルは自己再生とティファの回復魔法で、全快していた。
「さてと、試してみるしかないかな」
通常の斬撃では、致命傷は厳しい。且つ、神獣の自己再生で、無意味に終わる。現に最初の傷は既に回復している様だ。
ならば、再生させない位の大ダメージが必要だ。
剣と魔法。2つを同時に使って斬るしかないかな。
出来るはず。
剣聖ウメの精霊魔法による、火剣。
スピカの聖魔法と天魔法を同時に使った、聖天。
俺に出来るのは天魔法だけだ。だけど雷電丸の雷属性も併せれば……
問題は刀身が持つかどうかだけど。
やるしかない。
◇
ガガガガガガガガッ
「くそっ!これでは弾の無駄遣いだな。全く効いてない!」
セリスはミカエル達の援護射撃をしていたが、巨大な神獣にはガトリング砲の弾すらも小石程度のダメージしか与えられずにいた。
「ぶん殴って来るなのです!」
「リオ!無理するな!あれは私達で何とかなるレベルじゃない!」
「やってみなければ分からないなのです!リオだって牙狼族なのです!」
リオはセリスの制止を振り切り、神獣へと突進して行く。
「ギミックスーツ!リミッターカット!」
リオの着ているギミックスーツに散りばめた魔石が青く輝く。ギミックスーツはエイルが造った人工的な身体強化を可能にしたリオ専用の防具であり武具である。
普段は過度な強化を与えない様に成長に合わせたリミッターが設定されている。
通常の使用でも倍の力が出せる為、使用後の筋肉痛などで体への負担は大きい。
リミッターカットをすると通常時の10倍近く身体強化される。だが、その反動も10倍だ。
リミッターカット状態で動けるのは1分が限界だ。
それ以上は身体が耐えられない。
10倍に身体強化されたリオが閃光の如く速さで神獣に飛び込む。
「うおりゃああああああああぁぁぁ」
渾身の一撃を神獣の腹に入れると、神獣の体がくの字に曲がる。下がった頭部をリオの回し蹴りがクリーンヒットし、神獣の巨体がよろめいた。
よろめく神獣が巨大な足でリオを踏み付けるが、リオはそれに耐える。
「ぐぎぎぎぎ……」
徐々にリミッターカットの反動がリオの身体を蝕む。
体中の筋肉組織と骨と内蔵が悲鳴を上げる。
バキバキと体が壊れるのを感じる。
「ごふっ!」
リオが吐血する。
活動限界に近づく。これ以上は体力をすり減らして行くだけだ。
「ヘブンクロス!」
天から落ちる光の柱が、エイルの刀に落ちるのをリオは視認した。エイルの姿が光り輝く天使の様だ。実際天使なのだが。普段の振る舞いが、それを忘れさせているが、今はまさしく天使に見えた。 神獣を飲み込む程の光の柱が剣となり、神獣に向かって振り下ろされた。いや、まだだった。
「天雷の……いや、雷天?うーん……」
どうやら技の名前を悩んでいるらしい。
「エイル……どっちでもいいから……早くするなのです……」
「あっ!ごめん。じゃあ雷天ノ太刀!」
何とも締まらない形で放たれた光の一閃が神獣を斬り裂いた。神獣キングベヒーモスはガラスが粉々になるみたいにキラキラと消滅していった。
「リオ!大丈夫か?」
エイルがリオに駆け寄るとリオは前のめりに倒れる。
魔力も使い切ってしまったみたいだ。
「大丈夫……なのです……でもさっき……本気で殴りたくなった……なのです……」
「いや、ホント悪かった!」
なにわともあれ、神獣キングベヒーモスは倒したから良いのだ。エイルは反省しつつも、やっと終わった戦いに安堵した。
「エイル!さっきの一閃凄かったけど、刀ボロボロね」
「え?……あーっ!雷電丸がァ!」
雷電丸を見ると刃はこぼれ、刀身にヒビ割れ、今にも折れそうな状態になっていた。
「つ、
「いや、無理だな。多少の刃こぼれなら大丈夫だろうが、それは既に朽ちてしまっている。残念だが、新たに見つけるしかないな」
「えぇ……」
ガックリと肩を落とすが、新たに見つけると言われても刀自体が珍しい存在であり、至難の技だ。
そもそも刀鍛冶が居るのかすら分からないし。
「心当たりはあったりする?」
「うーん。刀自体が別世界から渡って来た代物であるからなぁ。仮に見つけても雷電丸以上の業物でなければ、先程の技に耐えられるかどうかだが……」
「その刀下さい」
「やらん!これは我が師匠から頂いた大事な刀だ!いや、待てよ。確か師匠はもうひと振りの刀を持っていた筈だ。魔女ノアに聞いてみると良いかもしれんな」
「魔女ノア……あぁ、あの人か……」
以前に
「エイル。ノア様に会うなら一緒に行くわよ!」
「ありがとうミカさん。道案内頼むよ」
「任せなさい!」
何だか嬉しそうにしている。魔女ノアに久しぶりに会うのかな?
「とにかく次の目的地は魔女ノアさんの家って事かな?皆はどうする?セイコマルクは、とりあえず何とかなったけど……」
「ガゥガゥ」
「私は少しリオと滞在してから一度ファミリア王都に戻り、事の顛末をユリウスに伝えようかと思う」
「ガゥガゥ」
「分かった。ユリくんの方は頼んだ。
「ガゥガゥ」
「うーん。とりあえずアチナに会い、スピカ達の動向を調べてみるとしよう」
「ガゥガゥ!」
「それより、エイル。さっきから居る、その小さな獣はなんだ?」
「え?」
見ると、確かに変な獣が俺の服の裾に噛みついていた。
犬?いや、猫かな?
「猫かな?魔獣かな?」
「猫じゃないかしら?でもなんかちょっとベヒーモスっぽいから殺す?」
「ガゥ!?……に、ニャー……」
「やっぱ猫か。どうした?家無くなっちゃったのか?」
抱き上げると尻尾をプルブルさせていて、かわいい!
なんか癒されるぞ!
「ニャ!ニャー」
(おのれ!この神獣である我を、操られていたとは言え、負かすとは、この少女は何者だ!フフ、今は弱体化して、この様な幼体になっているが、力を取り戻すまでは猫のフリをして、観察してやるわ!)
「じゃ、箱に入れて、その辺りに置いておけば誰かに拾われるんじゃないかしら?」
「ガニャっ!?」
(待て!連れてくだろ普通!ほら!こんなに愛くるしい幼体だぞ!)
「えぇーっ?連れてっちゃダメかな?」
ジーっとミカさんを、子猫を抱えて見つめる。
「くっ!そんな目で見ないで!ウチに犬いるからなぁ。分かったわよ!」
「やったなぁ!猫!」
「ニャー!」
(ククク、上手く行ったわ!)
「なぁ、それさっきの神獣じゃないのか?」
ウメがなんか言っていたが、誰も聞いておらず、皆で猫をモフモフしていた。
「名前はどうするっス?」
「あー、やっぱり猫だからサカモトかな?」
「猫だからサカモトっておかしくない?何のキャラよ!」
「うーん……じゃぁ、ライトニング」
「なんか強そうだな」
「無駄に長いっス」
「いいの!お前は今日からライトニングだ!」
「ニャー?」
従魔ライトニング獲得。
Lv1
神獣キングベヒーモス(幼体)
体力500 力600 敏速500 魔力500
スキル 神獣の咆哮(使用不可)
ん?何か追加された様な……。まぁいいか。
とりあえず、十二天将レグルスの撃退。スピカさんとレグルスは逃してしまったが、神獣キングベヒーモスを撃破した。セイコマルクの被害は建物の損壊は甚大だったが、死者を出す事なく済んだ。
だけど、愛刀雷電丸を失う事になり、新たな武器を求める羽目になってしまった。
スピカさん達の今後の動向も気になる。次のターゲットは
先手を取りたいが、情報が足らない。
十二天将の所在も調べなければならない等、忙しくなりそうだ。
とりあえず俺はミカさんと魔族国デス二ーランドへ向かう事になる。
◇某所
「マリー。ソレは使えるのか?」
「問題ないぜ旦那!勇者級の強さは保証するぜ!」
「ククク。天使量産化計画の大事な試作品ですね。私の目的は必ず……ククク」
「アルゴっち?」
「いえ、何でもありませんよ。引き続きソレの調整を頼みましたよマリー……」
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