第20話『セイコマルク炎上』


 前回までのあらすじっス


 もふもふの都でミカエルがリオの爺ちゃんと同盟を結んだっス!宴で一番美味かったのはローストボア肉っス!

 朝起きたら、街に使徒襲来っス!ご主人様も合流して見に行ったら、リオの叔父さんと汚いおっさんがイケメンと喧嘩して負けたっス!ミカエルが凄い殴り合いしたけど、ご主人様に代わり、イケメンが穴に落ちたっス!

泣かしてやったっス!したらスピカ来たっス!

 

ではどうぞっス!



「……マリン。誰と会話してるの?」


「秘密っス」


 マリンの独り言はさておき、上空から銀色の竜が地に降り、その背からスピカさんが降りた。


「んしょっと」



「セイコマルク王は今すぐにこの場から離れて下さい。あと、住民の避難をお願いします」


 いくら街の郊外でも竜とスピカさんと戦闘になったら辺りの被害は甚大だ。それと、守りながら戦う余裕は無いだろう。出来る事なら戦いたくないけど……ミカさんが殺気立っているので無理そう。触るもの皆傷つける雰囲気だ。


「皆さん、お久しぶりですね〜、ツバキ様までいらしたのですね。あと、そこの浮浪者は存じませんけど?」


「浮浪者じゃねぇぞ!剣聖ウメだ!」


「……では浮浪……剣聖ウメさん。結界石を譲っていただけませんか?直ぐ帰りますので」


「残念だが、それは出来ねぇな!なんせ既に持ってないからな!」

 剣聖ウメが、チラッと俺の方を見る。バカか!こっち見んな!


「ひょっとしたらエイルさんが持っているのかしら?」


 ほらー、バレちったじゃないか!


「……はぁ。そうですよ。俺が持ってますね」


「エイル!なんで言っちゃうの?」

 ミカさん達には結界石が既に無効化してるの言ってなかったから驚くのは当然だ。


「そうですか〜、ならもう此処に用はないですね」


「どういう事?エイル知ってるなら説明して!」


「えーと、結界石は剣聖から離れると、効果が無くなるみたいなんだよ。だから、剣聖ウメから奪った時点で……」


「「「…………」」」


 銀の翼のメンバーはやっちまった感で沈黙した。



「それで、スピカ。最後の結界石は私が持っているが、どうするつもりだ?今ここで奪うか?」

 椿つばきちゃんが刀に手をかける。


「いえいえ。それは厳しいので今回は遠慮しますよ〜。こちらに分が悪いですから〜」


「逃がすとでも?」


「もちろん♡」


 その刹那、椿つばきちゃんが刀を抜きスピカさんに神速の刺突を繰り出す。

 速い!


 が、スピカさんはそれに反応し、双剣で止めた。


「怖い怖い。いきなりなんてズルいですよ〜」

 ニコニコと微笑みながら椿つばきちゃんと剣を押し合う。


 その時、スピカさんの真後ろからミカさんが釘バットでスピカさんの頭目掛けてスイングする。

それをスピカさんは体制を低くし、ノールックで躱すと


「クロスオーバー聖天!」


 双剣の剣技で、椿つばきちゃんとミカさんを飛ばし、距離をとった。……強い。


「聖女にしておくには惜しい剣技だな」


「あら、剣聖に褒めて頂けるなんて嬉しいですね。ですが私、あまり体力ないので勘弁して下さい」


「逃がすつもりはないわよ!」


 ミカさんは殺る気だ。

ひとたび殺る気スイッチの入ったミカさんは本当に怖い。前世から魔族だったんじゃないかと思う事がある。


「皆さんには素敵なプレゼントを用意したので、受け取って下さいね〜」


「「???」」


「……何か来る!」


 急に何か、禍々しい魔力を感知した。

すると上空には黒い渦の様な物が浮かんでいた。


 渦の中から何かが出て来る気配。

案の定、召喚されたのか引きずり出したのか分からないが、魔獣が渦から出て来る。


「「っ!」」


 ミカさんと椿つばきちゃんが魔獣を見て驚愕する。


「大したプレゼントだな!」


「シャレになってないわよ!」


「私の可愛いペットです♡可愛がって下さーい!」


「ベヒーモス?」


 渦から出て来たのは牛みたいな獅子みたいな巨大な魔獣ベヒーモスの様だが……


「ベヒーモスなんて可愛い者じゃないな……あれは神獣キングベヒーモスだ!」


 30メートルは超えるであろう巨体がセイコマルクの建物を潰し、召喚された。


 その威圧感、魔力の規模は赤龍がただのトカゲに感じる程であった。


 神獣がその巨大な口を大きく開けると大気中の温度が上昇し始める。


「みんな逃げろぉぉぉ!」

 危険を感じ、咄嗟に退避を叫んだ。


 カッ!


 神獣がレインボーゲロを吐いた。

 と一瞬思ったが、違うらしく眩しい閃光の後、波動砲の様な物が街を通過した。

 威力凄まじく、地はえぐれ、建物はバラバラに吹き飛び、瓦礫が散乱した。


「うわっ!」


 辺りは砂埃と小石が舞い、視界不良だ。

爆風で飛ばされたが、翼を広げ空中で停止して難を逃れたが、皆は?


 ガガガガガガガガッ


 ガトリング砲の銃声が聞こえる。セリスは無事みたいだ。銃声のする方で神獣と椿つばきちゃんが戦っていた。


「ギャャァァ」


 椿つばきちゃんが神獣を翻弄しつつ、切り込むが、致命傷までダメージは与えられない。


 ミカさんが神獣の上に氷塊を形成する。

 氷結の槍アイシクルランスを神獣に向けて放つ。その巨体に氷塊が刺さり血が吹き出す。

効いているのか、神獣が暴れ出し、大地が揺れる。

神獣の巨大な尾がミカさんを襲う。


「危ない!」

 咄嗟に神速でミカさんに接近して突き飛ばす。

「エイル!」

 間一髪間にあったが、俺は神獣の尾を背中にモロに受けてしまい昏倒する。


 かなりダメージを負ったが我慢出来るレベルだ。

だけど衝撃の影響か、手足が痺れて動かない。ヤバいかもしれない。

「エイル!動けないの?大丈夫?」


「あ、ああ。今動けないけど、問題ないよ。それより、回復するまで時間稼げるかな?」


「分かった。やってみるわ!」


「頼んだ。ちょっと離脱するね。……転移!」


 体が動かないので、とりあえず転移で離れた場所に離脱した。

「ご主人様!無事っスか?」

「マリン。それにティファも無事みたいだね。俺はちょっと動けないけど大丈夫だよ」

「エイルさん!回復かけますよぅ!」


「ありがとう。それよりスピカさん達は?」


「銀色の竜に乗って飛んで行くの見えましたよぅ」

「クソっ!逃げられたか!」


 逃がしてしまったが、今はあのクソでかい神獣を何とかしないと……。




 エイルが神獣の討伐を考えていた頃。

ミカエル、椿、ウメは神獣と対峙していた。


「この化け物デカいくせに速いからムカつく!」


「ちまちま斬っても街の被害が増えるばかりだな……おい!ウメ!自爆して何とかならないか?」


「自爆前提で聞いてくるな!大体自爆魔法とか使えるわけないだろが!俺は剣士だよ!」


「そうか……折角、自爆して死んでくれたら妻になってやろうかと思ってたんだがな……振られちゃった」


「えっ?……って!おかしいだろ!自爆して死んでからって!しかも俺が振ったみたいな事言ってんなよ!ひでーな!お前!」


「そこ、ふざけてないで、真面目にやってくれるかしら?」


「だそうだ。潔く散ってくれ。お前の事は少しの間は忘れない」


「なんかもう嫌いだ。突っこむのも疲れたよ」


「とりあえず、あの化け物の足止めしてこいや!剣聖2人!こっちはエイル傷付けられて気が立ってんだよ!」


「どうやら魔王様はお怒りの様だ。策はあるのか?」


「巨体には巨体をぶつけるまでよ!フフ♡」


「そうか……何だかよく分からんが、行くぞウメ!」


「え?あ、ああ」


 椿つばきとウメが街に近づく神獣に切り込んで行った。


「さてと、遂に使う時が来たわね」


 ミカエルは空間収納から巨大なゴーレムを出した。

 ゴーレムは鋼鉄で造られた赤い装甲で約15メートルの身長だ。腹の部分のハッチが開く。

コクピットに颯爽とミカエルが乗り込み、魔力を流し起動させた。

するとゴーレム頭部にあるモノアイが赤く輝く。

「コイツ。動くぞ!」


 もちろん動くのは造ったミカエルが良く知っているのだが、言って見たかっただけである。


「魔導アーマーMS302インマ・インマ試作一号機、発進!」


 魔導アーマーはミカエルの造った搭乗型ゴーレムである。動力は搭乗者の魔力を回路化した魔石を使用して起動させる。ゴーレムと魔力をリンクさせる事で手足の稼働を実現させているのだ。


 故に搭乗者の魔力に依存してしまう為、使い勝手は良くは無い。魔力が豊富なミカエルだから出来るだけだったりする。



 ドシン!ドシン!


 重厚且つ巨大なゴーレムが進む度に大地は揺れる。

 貧相な建物は、それだけで崩れ、倒壊していく。

 はっきり言って迷惑である。


 赤く巨大なゴーレムが右手に握る武器は、巨大な釘バットだ。ミカエル曰く、ヒート釘バットだそうだ。

 釘部分に火の魔石を使用して、熱攻撃を追加してあるだけの粗末な仕様だ。魔導アーマー様の飛び道具は開発中であり、現在はまだ実装されていない。


「往生せいやぁぁ!」


 インマ・インマの釘バットが神獣の横腹を抉るように打たれ、神獣がよろめく。

「グガァァ!」


 流石に効いているのか神獣が悲鳴を上げる。

だが、ターゲットをインマ・インマに変え襲いかかる。


 激しい神獣とインマ・インマのド付き合いが始まると、辺りの建物は次々に倒壊して行く。


「ハッハッハー!インマ・インマが量産の暁には帝国なんて、あっという間に叩いてくれるわ!」




「か、怪獣大戦争みたいになってるけど……」


 離れた場所でティファに回復魔法をかけてもらっていたエイルが呟く。


 とりあえず後始末が大変そうだなと、ため息しか出ないエイルだった。

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