第18話『魔天狼』


 剣聖と拳聖の共闘で事態は有利に進むかと思われた。

 ところが、レグルスの強靭さは周囲の予想の遥か上を行く。


 剣聖ウメの二刀剣撃を素手で掴み、空いた懐に左足で蹴りを入れ、剣聖ウメを遠くに飛ばす。


「ぐえっ!」


 雑魚キャラの定番セリフの様なやられ声を発した剣聖ウメは近くの民家の壁に体を打ち付けられた。


 レグルスの剣聖ウメへのカウンター後の隙を狙った、トラビス王子の強烈な拳がレグルスの顔面を捉え、まともに受けたレグルスは吹っ飛ぶが、空中で反転し、スーパーボールの如く速さで再びトラビス王子の元へ戻り、弾丸の様なヘディングでトラビス王子を突き飛ばす。


「ハッハー!おもしれぇな!闘いってのはよ!」


 まるでスポーツを楽しむ様な爽やかな笑顔でレグルスの声は辺りにひびきわたる。


 周囲に展開しているセイコマルク正規軍が、信じられない光景を目の当たりし、後ずさる。


「まだ終わってねぇぞ馬鹿野郎……」

「牙狼族を甘く見るなよ?これくらいではまだまだ!」


 剣聖ウメとトラビス王子はまだ屈せず戦闘を継続する様だ。そこへ、銀の翼feat.椿つばきがようやく現れた。


「あっ、まだ生きてた!」

「割りと生命力はG並みたいね」

「あれが使徒なのです?」

「汗臭そうな顔だな」

「あれは絶対、頭悪いっス」

「でも、結構イケメンですよぅ」


 メンバーそれぞれの見解の様だ。

 だが、俺は使徒の姿を見て、心が踊った。

目立つ事しか取り柄のない金色の甲冑に武器の類の無い、格闘スタイル。金髪の髪に整った顔。


 まるで、黄金聖闘士ゴールドセイントじゃないか!


「チッ!今更ご登場かよ!ってツバキまで!」


「久しいな。まだ剣聖でよかったか?ウメよ。息災か?」


「この状況で息災は無いだろ……それにまだ剣聖だよ」


「なんだ?ゾロゾロと。剣聖のファンか?」


 レグルスが俺たちを見て、剣聖ウメの応援に来た連中と勘違いしている様だ。


 無いわー、マジで無いわー。まぁ、こんなに女の子がゾロゾロ出て来たら、そう見えるんですかね?


「おい!銀髪!これは俺の戦いだ。とりあえず手を出すな!あっ、トラビス王子は手を出して良いですぞ!」


 なんだ!その若干甘えが入っているセリフは!

良い所を見せたいのか、無様な負けっぷりを晒すのか。

 多分、後者だと思うけど。


「どうする?手を出すなって言ってるけど」


「仕方ないわね。なら見てるだけにしましょう」


「だ、そうだ。さっさと続きをしろ。この戦い、剣聖椿つばきが立ち会い人となろう。潔く散れ!」


 あっ!この人自分も狙われてるの忘れてませんか?名乗ってしまいましたよ!


「よし!早くやろうぜ!」


 レグルスは首をコキコキと鳴らし、やる気満々の様子だ。そして椿つばきちゃんの発言はスルーした。


 どうやら気付いてないみたいです。バカかもしれない。


「リオよ!叔父さん頑張るから良く見ておけ!牙狼の戦い方をな!」


 リオが見てるからって異様にやる気出したトラビス王子にリオはちょっと苦笑いだ。

「あー、はいです。見てるなのです」



「むぅ、ならば余も牙狼の真髄をリオに見せねば!」


 突然、国王陛下まで参加しようと前にでるが、近衛騎士達に、必死に止められている。


 国王まで戦っては駄目でしょ!何かあったらどうするの!凄いな孫パワー!



 場にあまり緊張感が無いが、使徒と剣聖&トラビス王子の戦いが始まった。



「超身体強化!」


 剣聖ウメが、身体強化の更に強化版なのか、俺もまだ持って無いスキルを使用した。


 ビキビキと筋肉の組織が音を出して膨れ上がる。

剣聖ウメの顔は相変わらずおっさんだが、苦痛に顔を歪めていた。反動が凄そうなスキルだが……。


「どぉりゃぁ!」


 剣聖ウメが二刀でレグルスに斬り掛かる!

二刀をクロスさせて、力任せの斬りこみだ。それに対してレグルスは躱さずに左手の篭手で受ける。


 ガンッと低い衝撃の音と同時にレグルスを支える足の地面に亀裂が入る。


 レグルスはその体制から剣聖ウメを回し蹴りを剣聖ウメの脇腹に入れた。


「がっ!」


 そのまま剣聖ウメは吹っ飛ばされ顔面を地面に擦りながら30メートル位先で倒れた。死んではいないみたいだ。


 トラビスは精神集中し、力を溜めている様だ。


「我、命滾らす蒼い狼。吐き出す煙、神秘の吐息。鳴り響け魂、宿れ狼。魔天狼!」


 トラビスの体に蒼い雷が宿り、体はひと回り大きくなり、半獣化した。


「おお!強そうじゃねぇか!かかって来いや!」


 レグルスは半獣化したトラビス王子を見ても余裕がある表情だ。それよりも戦闘を楽しむ戦闘狂か、ただのバカか。


「ハッ!」


 トラビスはその場で拳を突き出すと、衝撃波でレグルスを吹っ飛ばした。


「ぬおっ!っと!おもしれぇ!」


「参る!」


 トラビスがレグルスに突進する。トラビスの拳がレグルスの顔面を捕える。モロに顔面に入り、グシャッと鈍い音がする。


 更に容赦なくレグルスに連打を与えるトラビス。

 一方的な戦いを繰り広げている様に見える。


「トラビス王子は勝てねぇな」


 いつの間にか背後から剣聖ウメが、ミカさんの肩に捕まり立っていた。立っているのが、やっとの様だが……。


 その刹那、ミカさんの裏拳が剣聖ウメの顔面にめり込んだ。そのまま、糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。


「汚い手で触るな。死ね」


「おーいウメちゃん、大丈夫?」


「…………」

 返事が無い。死んだかもしれない。


 剣聖ウメの人生は幕を閉じました。さよなら。剣聖ウメ……。


 とはいえ、このまま放っておいて死なれたら困るので、仕方なく回復させる事にした。


「ティファ、すごーく面倒だろうけど、回復してあげてくれ」


「はぁ、分かりましたよぅ。えー、手抜きヒール!」


 ティファがやる気無い回復魔法を剣聖ウメにかけて、何とか死なずに済んだ。もう少し放置したらやばかったらしい。


「三途の川でツバキが手を振ってる景色が見えたぜ」


「ウメ。私はまだ生きているし、お前なんかには何があっても絶対に手など振らんぞ」


「冗談だよ!全く冗談の分からねぇ連中だな!肩掴んだくらいで裏拳入れるとかな!あとそこの治癒術師ヒーラー!あからさまに手抜きしてんじゃねぇよ!なんだ、手抜きヒールって!」


「回復代、2万ジルですよぅ。現金でお願いしますぅ」


「金取るのかよ!冗談じゃねぇぞ!ふざけんな!しかも高ぇ!」


「まぁまぁ、ウメちゃん。ティファは孤児院を1人で切り盛りしているんだ。寄付だと思って払ってやってよ」

因みに切り盛りしてるのはシスターであって、ティファではないが。


「くっ!仕方ねぇな。だが、今は5000ジルしかないから、それで勘弁してくれ」

 渋々懐から金を出してティファに渡す。



「チッ、これじゃ下着しか買えないですぅ」


「舌打ちしやがった!聞いた?ってか寄付はどこ行った?私腹を肥やしてないか?おい!詐欺か?お前ら詐欺集団か?」


 やかましい剣聖ウメは無視して、レグルス達の戦いに再び目を向ける。


 見ると凄まじい程のトラビスの拳がレグルス打ち続けられていた。一方的に見えるんだけど。


「おい!銀髪!さっきの話の続きだが……」


「ちょっと、何勝手に私のエイルに話かけてるの?やっぱり殺そうかしら」


「魔王いちいち出て来んじゃねぇよ!話進まなくなるだろうが!」


「ミカさん、悪い。一応ウメちゃんの話聞いておこう。それで?なんでトラビス王子は勝てないの?」

「ふんっ」

 ミカさんがぷいっと少しむくれた。


「あ、あぁ。トラビス王子のあの獣化も凄ェが、永くは持たねぇ。あれは体中の魔力マナの消費が早い。それと、あの使徒のヤツはダメージを受けても回復してやがる。生半可なダメージは意味が無い。やがて撃ち疲れてトラビス王子は負ける」


 剣聖ウメの言う通り、トラビスの動きは次第に鈍くなって行った。今まで防戦一方のレグルスが反撃に出た。


「シャァァッ!」


 レグルスの拳がトラビスの拳と激突する。

するとトラビスの拳が弾かれ、懐に隙が出来る。その隙を見逃さないレグルスの強烈な一撃がトラビスを捕えた。ドンと低い音がしてトラビスの体が前のめりに倒れた所をレグルスが支える。



「お前、結構強かったぜ」


 レグルスはトラビス王子を抱えて俺たちの所に寝かせる。むぅ。中々のイケメンだ。ユリくんと良い勝負だな。


「まだ死んでないから治してやりな。それと剣聖マメ!もうやらねぇなら出すもん出しな!別に殺しに来た訳じゃないからな。結界石が手に入れば用はない」


「くっ!今日はちょっと前の戦いの怪我が完治してなかったから苦戦しただけだ!体調が万全なら良い勝負だった筈だ。本気を出せてなかったからな。残念だが今日の勝ちは譲るぜ」


 物凄い負け惜しみと言い訳の理由が遠回しに、俺のせいにしてる所が剣聖ウメの駄目な所だね。


「なぁ、ちょっと聞いていいか?」


「ん?なんだチビッ子。言ってみろ」


 チビッ子と聞いてミカさんが少しピクリと一瞬怖い顔をしたのはスルーしておこう。


使徒の目的は何?」


「目的?んー、余り喋るなと、アルゴに言われているから、言えないな」


 はい!アルゴって人がいるのを喋りました!


「使徒は5人だろ?それぞれ役割りが違うのかな?」


「いや、5人じゃないぞ!俺を入れて4人だ。お前も数字苦手なヤツかチビッ子」


 コイツ……チョロいな。使徒は4人居るのか……


「ねぇ!家は何処なの?教えて!」


「家?アジトにしてる古城は……えーと。って言わねーぞ!」


 なるほど。古城がアジトなのね。場所までは聞けそうにないが、こんな所かな。


「おい!チビッ子!大人をからかうなよ!そうやって頭使うヤツは、あれだ?策士、策に、踊れるってヤツになるぞ!」


 踊れる?で合っていたかな?なんか違う気もする。


「ねぇ、エイル。いい加減コイツぶちのめしても良いかしら?さっきから、チビッ子チビッ子、うるせぇんだよ!」


 あ、ミカさんキレてた。ミカさんの怒りの沸点は低いの忘れてた。


「あ?なんだ、女!俺は女も平気で殴るぞ。大体なんだその髪の色は?パンダか?おい?」


 レグルスもキレて睨み返す。パンダって!いるの?パンダ見に行きたい。


「お前こそ、何、全身金色の鎧着てんの?ダッサ!百式かお前は!」


 2人、険悪なムードに、なって来ました。これは戦闘開始かな?因みに百式好きだよ。俺は。

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