第17話『使徒襲来』



 ◇セイコマルク


 同盟締結の宴の翌日


 ミカエルら『銀の翼』メンバーは王宮内の客室で朝を迎えた。爽やかな朝であれば良かったのだが……

 突然の轟音で目が覚めた。


「何っ?」


 慌ててベッドから起きる。今日は全裸ではない。ちゃんと着てます。セイコマルクは寒いので。


 部屋の窓から外を見ると、街中で煙が上がっていた。

 一瞬、帝国の襲撃かしらと、思ったが、どうやら違う様だ。

「何があった?」

 やはり轟音で起きたのか、セリス達も眠い目を擦り起きて来た。


 少しすると、王宮内も慌ただしく兵士が行き交っていた。

「すみません!何があったのですか?」


 兵士の1人を捕まえて事態について問いただす。


「ハッ!なんでも剣聖ウメ様のご自宅が襲撃され、現在戦闘中との事で……」


 まさか使徒襲来?

これはチャンス!かな?それともピンチ?

結界石は既に剣聖ウメの手元に無い。

ならば敵の襲撃は無意味だ。剣聖ウメを守る必要は無いけど、スピカ以外の使徒かも知れないので、とりあえず行ってみようかしら。

こういう時にエイルが居ないのはついてないけど。


 呼べないかな?念話みたいなやつで。


(エイル!エイル!おーい!)




◇須弥山



 またいつもの修行の日々が始まった。

朝の乾布摩擦と天突き体操を済ませ、朝食を椿つばきちゃんを起こしてから朝食。

今日は昨日の鍋の残りを使って雑炊にした。


「うん。美味しいね!」

「なかなかだな。エイルも料理の腕を上げたな!」


 そんな他愛も無いいつもの朝食の時に異変が起きた。


(エイル!エイル!おーい!)


 ん?ミカさん?頭の中に直接ミカさんの声が響く。

 幻聴かな?


(ミカさん?)


(お!通じた!今、念話的なもので話してるんだけど……)

(念話?おー!便利だね!)

(それで、今セイコマルクに使徒が来てるみたいなの!アチナ使って転移とかで来れないかな?)

(転移覚えたからやってみるよー)


椿つばきちゃん!今ミカさんから念話?があって、使徒がセイコマルクに出たって!ちょっと見に行きませんか?」


「ちょっと催しを見に行く感覚で言うな!剣聖ウメに会いたくないが、仕方ない行くとするか。着替えるから待っておれ」


 よし!これで戦力は充分だな。いざって時に椿つばきちゃんと言う最終兵器リーサルウェポンが居れば安心だ。


「準備出来たら肩に捕まってくれますか?」

「うむ。良いぞ」


 俺は2本の指先を額に当て、集中する。何となく瞬間移動ってこんなポーズ必要そうだよね?


「転移、セイコマルク!」

 足下に魔法陣が輝き、吸い込まれて行った。



◇セイコマルク市街地


 剣聖ウメは突然の訪問者に有無を言わさず襲われ、住居が破壊された。明日から何処で寝泊まりすればいいのかと考えたが、それよりも、この狂った様に暴れる金髪の若造を何とかしなければならない。

 銀髪のエイルが言っていた邪神の使徒ってヤツか?

 まさか本当に来るとは……。


 破壊された家から飛び出し、屋根伝いに走って街の郊外を目指していた。密集した市街地での戦闘は不利だ。

敵も馬鹿正直に追いかけて来る。


「待てゴラァ!」


 レグルスは逃げる剣聖ウメを屋根を破壊しながら追いかける。やがて逃げるのをやめ、広場に出た。


「お前、何なんだ?人様の家を壊しやがって!」


「あぁん?俺はレグルス!絶対神アルテミス様の十二天将が1柱、獅子座レオのレグルスだ!お前に恨みはねぇが、結界石を貰いに来た!だからよこせ!別に殺したりはしない!」


「はい、そうですかと、結界石を渡せるかってんだ!俺にも意地ってもんがあるんだよ!」

 が、内心は出来るだけ話を延ばして兵士達とか、滞在中の魔王とかが来てくれるのを期待していた。

エイルにやられたせいで、まだ完全に回復していないのもあるが。


「だったら早く剣を抜けよ!俺はいつでもいけるぜ!」


「ま、まぁ待て!結界石なんて、何に使うんだ?」


 まだか!まだ誰も来ないのか!これ以上は延ばせない!


「知るか!取って来いって言われただけだ。行くぞ!」


 これ以上は流石に苦しいので、仕方なく2本の刀を抜刀し、構える。

クソっ!やるしかねぇ!最初から全力だ!


「身体強化!」

 身体強化と共に火の精霊を集める。


「火剣、焔ぁ!」


 業火に包まれた剣聖ウメの剣がレグルスを襲う。

それをレグルスは避けもせずに両手をクロスさせ防御する。

「うわっ!熱っ!でも!我慢出来るレベルだろ!」


 とか言ってるが、炎は容赦なくレグルスを包む。

「ぐおおおぉー!」


 レグルスがただの痩せ我慢で耐えてるが、剣聖ウメの攻撃は休まない。


「火剣、暴れ太鼓九連撃!」


 壱!弐!参!肆!伍!陸!漆!捌!玖!


 全ての剣撃がレグルスにヒットし、火炎に包まれながら、レグルスは空高く舞い、吹っ飛ばれた。


「はぁっはぁっ、見たか馬鹿野郎!」


「ウメ様!ご無事ですか?」


 ようやく到着したのはセイコマルク王子トラビス率いる騎士団だった。後に続いて近衛騎士団とルドルフ王であった。

「殺ったのか?」

 ルドルフ王が言ってはならないフラグを立てる。



 ◇



「おっ!」

 エイルと椿つばきがセイコマルクの王宮に転移した。

場所は王宮の客室だった。

ミカさんと『銀の翼』メンバーは絶賛着替え中だった。

まさかスキル。ラッキースケベ発動か?

持ってないけど。


「んっ!エイル本当に来た!恥ずかしいからこっち見んな!」

 ミカさんは黒い下着姿が良く似合ってますね。

 パンツはローライズのボクサーパンツみたいなやつだが、レースが付いてて色気がある。妖艶さはメンバーの中でもぶっちぎりです。淫魔だし。


 見るなと言われたので顔を背けるとセリスとリオの下着姿が目に入った。

セリスは白で地味な下着姿だが、相変わらず足が長い。

白い下着と相まって神秘的な美しさがある。さすがエルフ!

リオは意外にもピンクのチェック柄のかわいい感じの下着だった。1年前までボロ雑巾の様な格好をしていた頃に比べたら大進歩だ。成長したな。胸も……。

 悔しくなんか無いからな!


「エイル……羨ましいのです?」

 リオがこっちを見て成長した胸を見せ付ける。

「くっ……そんな事ない!」


 現実から逃げる様に、別の方向を見るとマリンとティファの下着姿が目に入る。なんで皆んなして下着姿なんだよ!

マリンはいつもの、アレだ。貝殻と言うヤツだ。因みにそれしか持って無い。毎日風呂場で洗ってるので清潔っス!と言っていたが、下着のカテゴリーで良いの?

相変わらず尻みたいな胸をしやがって、けしからん!


 1番驚いたのはティファだった。

黒い網タイツにガーターベルトを装着したボンテージな下着姿。女王様の仕事でもしてるの?

清楚な顔立ちに、その下着姿はギャップが凄い。

純白の法衣の下は、まさかの下着!

一体、ティファに何があったのだろうか?

銀の翼のモブ治癒術師ヒーラーの心の闇が心配だ。



「何着て行こうかな。エイル、何着て欲しい?」


 ミカさんが、着る物に悩み中のご様子です。今現在、剣聖ウメが使徒に襲われてるのに、呑気なものです。


「うちも何着て欲しいっスか?」

 マリンはメイド服しか持ってないだろうに!


「マリンはメイドじゃないのになんでメイド服着てるんだ?」


 セリスが今更な事を言い出す。確かにそうなんだが、確か初めて会った時にミカさんがあげたのがメイド服だった。以来、メイド服を着ている。


「たまには別の服貸そうか?」

 ミカさんがマリンに提案した。

「よろしくっス!なるべく布の無いやつで頼むっス!」

「じゃ、バニーガール貸したげる」


 なんでそんなん持ってるの?


「じゃあミカさんは裸エプロンで」

「死ね」


「お前達、身だしなみは乙女の嗜みだが、些か気長過ぎるぞ、別にウメの安否など、どうでもいいが、使徒を逃す訳には行かない。ウメはどうでもいいがな」


 椿つばきちゃんが、珍しくまともな人に見えた。確かに言う通りである。使徒を捕まえる好機だ。


「うちはあの、オッサン嫌いっス。昨日ずっと胸ばかり見て来るんでキモいっス」

 確かにキモいが、マリンの胸は仕方ないと思う。俺も見てるし。

「リオも尻尾触らせてって言われたのです。死ねなのです!」

 ごめん、俺も触りたい。

「私は近付いたら殺すって言ったから大丈夫だったわ」


 剣聖ウメ……中々の嫌われようだ。ミカさんはやめて正解だ。本当に死ぬぞ。


 結局ミカさんは久しぶりに制服。JKスタイルだ。

 マリンはバニーガール。

 セリスは迷彩服。リオはギミックスーツ。

 ティファは聖教会の法衣。

 以上だ。


「じゃあ行こうか」


 ようやく銀の翼feat椿つばきは、市街地へ。



 ◇市街地



「とうっ!」


 剣聖ウメの必殺剣をまともに受けたレグルスは、まるで無かった事の様に起き上がり、跳躍して再び剣聖ウメの前に立つ。


「中々痛かったぜ、剣聖マメ!」


「ウメだ馬鹿野郎!名前くらいは覚えろ!クソッタレが!」


 勢い良くレグルスにツッコミを入れるが、剣聖ウメに余裕は微塵もない。冷や汗しか出て来ない状況だ。


「剣聖ウメ様!助太刀致します!」


 そんな時、トラビス王子が素敵な言葉を発した。


 セイコマルク王位継承第一位。トラビス・セイコマルク

 彼は王子にして、セイコマルク最強の武人。

英雄、拳聖ライオの子孫だ。牙狼族に伝わる武術は世界屈指の格闘術。日の目を見ないのは亜人故に蔑まされていたからである。


「宜しく頼むぜ!トラビス殿下!」

(やったー!死ぬ確率が減ったー!わーい!)


 剣聖ウメのピンチはとりあえず回避出来たようだ。


「第2ラウンド開始だな!」

 レグルスが拳を構える。


「「行くぞ!」」


 第2ラウンド開始-----------

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