第14話『エイルVS剣聖ウメ②』


身体強化によるステータス向上で剣聖ウメの動きが格段に上がる。


「行くぞ!オラァ!」


間合いを一瞬で詰めながら上段から唐竹割りに斬りかかってくる。少し後ろに飛び、それを躱す。地を割る様な重い一撃の後、直ぐ二刀の二の太刀が横払いに斬りかかってくる。

それを刀で受ける。

ギィン!と重い金属音と共に軽い身体が、真横な飛ばされた先に、更に剣聖ウメの連撃が、待つ。


躱して間を取る俺と間を詰めようとする剣聖ウメの攻防はある一定距離を保ちながら並行して訓練所を駆け抜ける。


「ちょこまかと逃げてばかりじゃ俺を斬れねぇぞ!」


「何か狙ってるかもしれないですよ?」


二人超速に翔ける中、隙を伺いながら剣を交える、


「焔っ!」


二刀で火炎を連続的に飛ばしてくる。


「炎は効かないってば!」


まだ何か持っているだろう事を考えながら焔を躱していく。


「火剣!暴れ太鼓九連撃!」


剣聖ウメが跳躍し、クルクル旋回しながら炎を纏う剣を振り回してくる。


暴れ太鼓九連撃獲得しました。


あんまりいらない……。


暴れ太鼓って!ふざけた名前の必殺技だが、身体強化による超加速による連続剣は脅威的だった。


とはいえ、神速と思考加速で全て躱して剣聖ウメから間をとった。


「あれも躱すのかよ!」


そろそろ決着をつけたい所だ。

だけど、なんかシメになる必殺技とか無いんだよね。


うーん。


少し、考えてから、刀を鞘に納めて抜刀術の構えをとる。


「この一撃で決めます!」


考えた結果。椿つばきちゃんなら抜刀術だなと思い、師の一刀流を模倣する。


剣聖ウメは二刀を防御体勢に構え、カウンター狙いで待つ。


集中……。



剣聖 神速 思考加速 身体強化 一刀流


場を静寂が包む中、エイルの姿が僅かな砂煙と共に消える。

剣聖ウメはエイルが消えた瞬間、エイルの姿を見失ってしまう。だか、そう気付いた時にはウメの身体は剣撃で宙に飛ばされていた。


「ああ……クソ強ぇ……」




エイルはゆっくりと刀を鞘に戻す。

落下してきた剣聖ウメに駆け寄り、声をかけるが、意識はないようだ。


「死んで……ないよね?」



セリスらが集まり、気絶している剣聖ウメを取り囲み衣服の中をまさぐり結界石を探す。

やっている事が盗賊の類である。


「ん〜?なんか二つあるっス!」

一瞬剣聖ウメがビクッと動いた。


「マリン、それは違う。股を探るな」

セリスがマリンのナチュラルな痴漢行為を止める。


「とりあえず全部ぬがしましょうよぅ」

ティファがスルスルと帯を解く。顔が変態です。


「金目の物ないなのです。死ねなのです」

金目当てじゃないよ?


結局、剣聖ウメは身ぐるみ剥がされてから、首から下げていた結界石をエイル達に奪われて訓練所に放置された。酷い扱いである。

リオが、二本の刀を持って帰ろうとしたが、流石にセリスが止めた。



「結界石はとりあえず手に入ったし、俺は一足先に椿つばきちゃんの家に戻るよ。ミカさんに宜しく。あと、シズカさんに刀返しておいて」


「ああ。任された。エイルも修行頑張ってな。私達は暫くの間、セイコマルクに滞在している。何かあればいつでも来てくれ」


折角、リオの肉親が見つかったのだ。感動の対面と言うわけでは無いが、積もる話もあるだろう。

セイコマルクが味方に付けば魔族国にとっても帝国との戦争を優位に立てるかもしれない。


俺はセイコマルクを出て、椿つばきちゃんの家へと飛び立った。







一方デストロイ要塞では、捕虜と保護した奴隷の国内への移送が始まっていた。


捕虜と奴隷達は要塞の裏側の通路を通り、門を抜ける。

門の先は魔界。誰もが初めて見る魔界の風景に驚く。


そこは言い伝えや、想像とは余りにもかけ離れた美しい自然に溢れていた。


「綺麗……」

剣聖シズカは、素直にそう呟いた。魔界は書物で書かれていた、暗黒世界ではなかった。

この世界の中で、どの国よりも美しい花畑と草原が広がっていた。


一行は街道を南下し、魔都を目指し歩いていた。

更に驚いたのは、道中に民家が幾つも建っていた事だ。

この世界で町は必ず高い塀に囲まれており、町以外で住居を構えるのは自殺行為だ。

魔物や盗賊に襲われるからである。

見れば子ども達が、草原を走りまわる姿もあった。

まるで物語に出てくる理想郷だ。



魔都に到着してバルバトス大将と参謀ら幹部。加えて剣聖シズカは魔王城デスパレスに入城した。


奴隷達は健康面のチェックと体力の回復の為、仮設の収容所に移動した。


その他、帝国兵の捕虜は強制収容所『デスプリズン』に収監された。


「お前らには、これから地獄の強制労働が待っているぜ!労働は週に5日、休みは週に2日だけだバカヤロウ!1日8時間もの地獄の労働だバカヤロウ!飯は3食とおやつしかないぜ!時給は最低賃金の900ジルだ!ザマーミロ!脱走は自由だが、門限は0時だから気をつけろ!収容所はバストイレ付きの個室だ!寂しくて泣きたくなるだろ!掃除は自分でやれよ!シーツは毎日交換だ!精々地獄を味わえ帝国兵ども!」


「「「え?」」」


帝国兵達は絶句した。想像を超える地獄が待っていると覚悟していたが、まさかの高待遇だ。給料貰えて食事付き。労働後は自由な外出可能。

帝国に帰還するより捕虜でいた方が良いかもしれないと皆、思っていたのだった。

帝国兵がミカエルに心酔して行くのにさほど時間はかからなかった。





「ジス。収監した捕虜の様子はどうかしら?」


「はい!ミカエル様のグッズを購入する者も多く、プリズン内ではファンクラブが非公認ですが、発足したとの事です!さすがミカエル様!ミカエル様の美しさは人種も超えるようです!」


「…………」


思ってたのと違う方向に帝国兵達が変わって行くのに複雑な気持ちになったミカエルだった。



◇ミカエル



バルバトス大将からの尋問で分かった事。


まずは、此度の戦争は皇帝ニコライからの勅諚によるものであり、大本営は反対派も多かったらしい。


国民の反発も多く、国民感情を開戦に持って行く事叶わず。だが、強行突破して開戦させたのは皇帝ニコライだった。故に国民の支持無きままの戦争であり、士気は著しく低いそうだ。

バルバトス大将曰く、帝国は永くは無いらしい。


戦費調達のための増税が国民の生活を圧迫しており、帝国の財政難は深刻な上、革命が起こる気運が高い。


その反面、軍事技術に関しては著しく向上している。

原因は元勇者リュウタロウが、兵器開発部門にいるらしい。異世界人の知識で、数世代先の技術が軍事に流れている様だ、


そして、皇帝ニコライを動かす、謎の女の存在が噂されている。その女が、スピカである可能性が高い。

それに、スピカの考えている事が分からない。

帝国を手なずけただけで魔族国は落ちない事は分かっているばずだが……。エイルに情報をリークしてデメリットしか無いはず……。


リュウタロウを殺せば、こちらの勝ちならば、敵の次の行動は?…………リュウタロウを隠す。

既にバルバトス大将からの情報で、リュウタロウが帝国にいる事は分かっている。当然、敵もリュウタロウの所在が、こちらに流れた事は分かっているはずだ。


早めに帝都に行くしかない。


ミカエルはセイコマルクに向けて飛び立った。



◇剣聖シズカ



暇だ。魔王城に軟禁状態にされているが、私には尋問がないので、一日中部屋でゴロゴロしている。

駄目になりそうだ。

部屋の掃除などは全てメイド達がしてくれるし、三食昼寝付きの生活は快適過ぎる。城の中は21階以外は自由に歩ける。夜は骸骨兵が怖いので部屋に篭っているけれど。



コンコン


「入るわよ。ジスがケーキを作ってやったわ。飢えた犬の様に食べなさい」


言葉悪いが、毎日ケーキと紅茶を持って来るジスはメイドとしては、きちんと仕事をしている。


「あの、お願いがあるのだけど……」


「何かしら?楽に死ねる薬が欲しいのかしら?」


「死ぬ気はないわよ!」


「では何?さっさと吐きなさい!」


「私を……雇ってもらえないですか?」


どうせ帝国に帰れないなら、ここにいる間は魔族について少し知りたい。暇だし。


ジスが、目を見開いてガシッと手を掴んで来た。


「貴方もミカエル様の魅力に虜になったのね!いいわ!特別にミカエル様付きメイド兼親衛隊桜花おうかの一員にしてあげるわ!」


ミカエル親衛隊『桜花おうか


主にミカエルの身の回りの世話をしているが、戦闘メイドとしての役割が強い。暗殺から盾役、ミカエルの邪魔になる物は排除する。

ミカエルの命令は絶対で何よりも優先する。

夜伽や血の提供は当番制になっている。


身も心もミカエルに捧げる狂信者部隊それが『桜花おうか』だ。

因みに夜伽はまだ声がかかった事がないそうだ。

シズカはちょっとホッとした。


「特別にジスの秘蔵コレクションを見せてあげるわ」


ジスに連れられジスの自室へと向かう。

別に秘蔵コレクションに興味無かったが、断ったら殺される気がしたので、付いて行く事になった。


ジスの自室は20階にあった。


ジスの部屋に入って正面にミカエルの等身大ポスターが貼ってあり、その隣りには先日会ったエイルの写真が貼ってあった。だが、何故かナイフが刺さっていた。

仲悪いのかな?


その後、ミカエルの幼い頃からの写真を見せられ、ミカエル愛を語られた。

剣聖シズカは今更引っ込みつかなくなり、ミカエル親衛隊に入隊してしまったのだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る