第12話『セイコマルク王国』



セイコマルクへは、ミカさんを除く銀の翼メンバーで行く事になった。ミカさんは捕虜をデスニーランドに移送した後に合流する予定だ。

俺はセイコマルク経由で椿ちゃんの所に戻る予定だ。

セイコマルクまでの行程はデストロイ要塞から2日間程らしい。陸路だと案外時間かかるみたいだ。


剣聖シズカさんから、刀を貸してもらった。

流石に丸腰では危険だろうと言うことで、ミカさんが拾った刀だからと言って渡されたのだが、剣聖シズカさんの愛刀だったらしく、渋々貸してくれた。

先祖代々受け継がれた刀で銘は「鬼切丸」だ。

雷電丸より長く、細身で反りの深い太刀だ。





陸王に跨り、デストロイ要塞を後にする事2日。

俺たちは亜人の国セイコマルクに到着した。


「もふもふの都セイコマルクかー」

俺の中で亜人=もふもふ

と言う図が出来ている為、何だか心が踊る。


「時々、エイルの目がやらしく見えるなのです」

ジト目で俺を見るリオもセイコマルクは初めて来るみたいで、楽しみなのか、尻尾が左右に揺れっぱなしだ。



セイコマルクは主に獣系の亜人を中心にハーフエルフ、ドワーフなどの多民族国家だ。

中立国として栄えており、魔族領とも貿易をしているらしい。故に今次大戦には参加していないとの事。

亜人に対する差別の激しい、帝国やセブールとは、あまり国交は宜しくないらしい。

帝国に至っては亜人奴隷が盛んなだけに、セイコマルク国としては仇敵の様なものだ。



王都の入口は重厚な門があり、まるで要塞の様な外壁が、王都を守っている。また、山の麓にあるため、自然溢れる天然の要塞とも言える。

入国管理が厳しく、特に人族に対しては警戒心が強いのか、入国待ちは長蛇の列だ。

二時間程待たれされ、ようやく俺達の入国手続きだったのだが……


「おい!そこの子どもの首から下げている物を良く見せろ!」

衛兵さんが、リオのネックレスに妙に反応する。

渋々リオが、ネックレスを外し、衛兵さんに渡すと

身柄を拘束されてしまいました。


何でこうなる?



と言う訳で皆で地下牢に閉じ込められました。

なんか俺は捕まるの多くない?


「何でいきなり捕まるっスかねー」

「リオのネックレスを見て急に態度が変わったみたいだが、何か関係あるとしたらティナ関連か……」

「ティナって誰なんですかぁ?」

「リオの……お母さんなのです……みんなこんな事になってごめんなさいなのです……」

リオの耳と尻尾が垂れ下がってしまい、本気で落ち込んでいるようだ。


「んー、別にリオのせいじゃないから気にすんな。それより、ミカさんの親書を届けに来た使者って事すら聞いて貰えなかったな。あまり永くなるようなら脱獄すれば良くない?」


「それっス!」

「そうだな!暴れてやろう!」

「そ、それは逆効果だと思いますよぅ」

「それよりお腹空いたなのです!」


事を穏便に済ます事を考えない『銀の翼』は健在だ。

そもそも魔族国の使者として来ているので暴れたらまずいと言うことが抜けていた。


「そだ、剣聖の何とかって人も探して倒さないと行けないんだよな!」

「いや、倒す必要はないだろう?結界石を奪うだけで良いのだ」

「ワクワクっス!」

「いえ、そこは話し合いで譲って頂くのが、いいですよぅ」

「ご飯まだなのですー?」

リオが空腹に耐えられず牢の鉄格子をガシャガシャし始めた。


暫くして、数人の騎士と、身なりの良い亜人のおっさんが牢の前にやって来た。


「紋章を持っていたのは、この牙狼の少女で間違い無いのだな?」

「はっ!左様にございます」


「なぁ、なんで、お、私達は理由も分からず、牢に入れられてんの?」


「貴様っ!頭が高いぞ!この方はセイコマルク国王陛下であるぞ!」


普通なら皆驚き「ハハーっ!」となる場面だが、『銀の翼』は特に驚いたりはしない。

むしろだから何?お腹空いたんですが?と言わんばかりのスタンスだ。唯一ティファが少し慌てた態度をしている程度の反応である。


そんな中、エイルが思い出した様にミカエルの親書を出す。

「あっ、これ魔王ミカエルからの親書です」


「何っ?貴様ら魔王ミカエルの使者であったか!何故それを早く言わん!」


いやー、いう暇すらなかったのですが!


ひとまず地下牢からは解放され、王宮の客間に移動した。勿論食事付きだ。


「えー、余はルドルフ・セイコマルク。この国の王じゃ。お前達も良ければ自己紹介してくれんか?」


既に食事を食べ始めてしまったが、仕方ないので自己紹介をする事に。


「私はエイルです。今は椿つばきちゃんの弟子です」


「私はファミリア王国騎士団サンク防衛隊副隊長のセリス・アレクサンドロワです」


「リオなのです。ファミリア王国士官学校生なのです」


「海神のマリンっス」


「私はティファですぅ」



「ふむ、親書によると、軍事同盟についての交渉となっておるが、ミカエルが直々に来る様であるなら、その時にでも良いだろう。もう一つの剣聖ウメへの面会については、今使いを出しておるので直に到着するであろう。……して、こちらの本題であるが、リオと言ったな。そのネックレスは何処で手に入れた?」


「…………これは形見なのです」

リオは父であったギャレットから受け継いだ形見のネックレスをギュッと握り締めた。


「その件については私が説明させていただきます」

セリスが珍しく敬語を使って説明をした。


リオが、ギャレットとティナの娘である事。

ティナはリオを産んでから直ぐに亡くなってしまい、リオは母の顔を知らず、奴隷として盗賊団の頭であるギャレットに育てられた事。

セリスとティナの関係は冒険者時代の仲間であった事など説明した。



「……そうか。ティナはもう、死んでしもうたか……そうか」

セイコマルク王は肩を落とし涙を堪え、ただ一点を見つめていた。


「あのー……それでティナとはどの様なご関係ですかね?」


「ティナは余の娘だ。ティナはこのセイコマルクの王女、ティナ・セイコマルクだ。そしてそのネックレスは王族の証である」


あっそうなんだ。中々値打ち物だったのね。

……って?


皆なんとなく気付いていたが、あえて無言を貫いていた。誰か先に言えよとばかりに皆チラチラと目だけ動かしていた。


「って事はリオのじっちゃんッすか?」


マリンが直球を投げた。ナイス!偉いぞ!

さすがムードクラッシャー!


「うむ。そういうことじゃ。リオよ、余を親と思っても良いのだ。しばらくはゆっくりして行くと良い」


「リオが跡目争いに巻き込まれる事とかはないのでしょうか?」


「それには心配及ばんであろう。世継ぎは王子がおるし、代々世継ぎは男子と決まっておる」


とりあえずリオは王族ではあったが、跡目争いとは無縁の様で安心した。


ルドルフは優しげな顔でリオを見ているが、リオは複雑な顔をしていた。

無理もない。いきなり血の繋がる祖父が現れ、尚且つ王族だったのだ。つい一年前まで盗賊の奴隷をやっていただけに、頭の整理が出来る理由がない。


しかし、ミカさんがリオをセイコマルクに連れて行く様に指示した事は、こうなる事も想定内だったと言うことか。



「さて、正式な調印はミカエルが来てからになるが、同盟の件、受けさせて頂く。リオを使者にする所が流石ミカエルと言った所か。断れる理由がない」


「ミカさんの事は良く知っているのですか?」


「ああ、ミカエルは子供の頃からよくセイコマルクに来ていたよ。頭脳明晰な子であったな」


まぁ、実質30年くらい生きてるからね。

実はミカさんの方が年上になってたんだなぁ。



コンコン


「失礼します。剣聖ウメ様、到着されました」


待機していた兵士に案内され、剣聖ウメが入室する。


「ルドルフ王、お呼びですかい?」


入って来たのは長い黒髪をポニーテールの様に縛り、着流しに草履、30代くらいの時代劇から出て来た様な、如何にも剣豪と言った風のおっさんだった。





「と言う訳で結界石を下さい」


「いや、何が、と言いう訳だ?ちゃんと説明しやがれ!て言うかお前誰だよ!自己紹介も省きやがって!」


チッ。こっちの都合で面倒な説明を省いたつもりだったが、通用しないみたいなので、仕方ない。


「えー、私達は冒険者の銀の翼メンバーで、私はリーダーのエイルです。実は邪神の使徒の生き残りが、結界石を狙っていて、それを守るために来ました。以上」


「じ、邪神の使徒だと?その話を信じろってのか?」


「ええ、既に剣聖シズカさんは結界石を奪われた挙句、ボコボコにされて重体です。そうなりたくなければ結界石を私達に預けて下さいませんか?」


因みに剣聖シズカさんを重体にしたのはミカさんだが、そこは敵のせいにしてしまおう。


「剣聖シズカが?…………それ程までに使徒って強いってのか……だがよ、お前らなら安心って理由でもあるのかい?というか、お前さんが俺より強いとは思えねぇ。違うか?」


確かに、使徒の強さについては未知数だ。ミカさんが強いと言ったのでかなり強いとは思う。

だが、結界石を使徒に奪われるのを防ぐには……


「なら試してみますか?これでも剣聖椿つばきの一番弟子です」

多分一番弟子だと思う。弟子とった事ないって言ってたし。それに剣聖ウメが自分より強ければ、安心できる。

弱ければ、奪えば良いのだ。


「剣聖ツバキの弟子だとっ!あの女狐の弟子か!なら問答無用でたたっ斬る」

ツバキの名が出るやいなや、怒りをあらわにして睨んでくる。


あれ?なんか目の色変わりました。

師匠……あんた何したんですか?




と言いう理由で、剣聖ウメと剣の勝負になり、一行はセイコマルク城内の訓練所に移動した。

剣聖の試合?が見れるとあってか、多くの兵士達が話を聞きつけ集まって来ていた。

だが、相手がどう見ても子どもにしか見えないらしく、首を傾げてる人も少なくない。


剣聖ウメは二本の刀を抜刀した。

どうやら二刀流らしい。


「殺す気で行くからよ、死んでも文句言うなよ」


ビリビリと剣聖ウメの持つ威圧感が、辺りの空気を一変させる。



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