第11話『剣聖シズカさん』


サクヤとの話のあと、先程までいたミカさんの部屋に戻る途中なのだが、道に迷ってしまいました。

来る時はミカさんに連れてかれたので、どうやって辿り着いたのか、全く覚えてなかった。


気付くと要塞の通路に骸骨騎士みたいな人?がウロウロしているエリアに迷いこんでしまった。

話しかけてみたが、普通に無視されています。

困りました。


シクシクシク……


すると、女性のすすり泣く声が聞こえた。

え?やだ怖い。

アンデッドな方々がいるエリアですすり泣く声……

超ホラーな雰囲気じゃないですか?

気のせい……俺はこの安心できる魔法の言葉を脳内で呟く。だが……


シクシクシク……


気のせいではないらしい。

どうやら、骸骨騎士が二人立つ部屋の中から聞こえてくる。立ち止まって扉の小窓から中を覗こうとしたが、小窓が高い位置にあり届かずだ。チビなもんで。


俺は見張りの骸骨騎士さんにジェスチャーで意思疎通を試みて、踏み台になってもらった。

小窓から見ると、栗色の髪をした女の人がベッドの上で泣いていた。身体には包帯が巻かれており、重症なのは一目で理解した。


兵隊さんかな?魔族には見えないので、恐らく帝国の捕虜だろうか?個室な所を見ると、ある程度高い階級の帝国兵なのかもしれない。

とりあえず、ジーッと見ていた。



◇剣聖シズカ



目が覚めると知らない場所だった。

体中が痛い。

見るととりあえず手当はされているみたいだったが、完全回復はされていない所を見ると、敵の施設らしい。


意識を失うまでの記憶を辿り、魔王ミカエルとの戦闘を思い返す。全く歯が立たなかった。

幼き頃より剣聖になる為、剣の稽古は欠かさずに鍛錬したが、あのザマだ。


……悔しい。だけど、努力しても到達出来ない壁を見せられた位の実力差。お前ごときが、魔王を倒せるなと思うなと言われたようなものだ。そうです無理です。

私はこれからどうなるのかな?

処刑されて、魔物の餌にでもされるのかな?


怖い。お家帰りたい。神様、どうか私をお助け下さい。

無事に国に帰して、それから、イケメンと恋に落ちて幸せにして下さい。出来れば裕福な貴族の次男辺りで……

と考えていたら、視線を感じた。


「……」


見ると、扉の小窓から、こちらを見ている銀髪の少女?

ですかね?


「……」

「……」


お互いに目があっているのに動こうとしない。


さて、あの少女は何ですかね?まさか監視?

監視にしては見すぎじゃないかしら?不思議と敵意は感じないし、魔族に対する憎しみの感情もない。

すると……


ガチャ


扉を開けて入って来た。


「お邪魔しますね」


入って来たのは小柄な子どもの様な少女だ。

武器は持っていないみたいだ。





泣いていた女性と目があってしまい。

このまま去る訳にも行かないので、見張りの骸骨騎士にドアを開ける様に、お願いしたらコクコクと頷き、開けてくれた。なんてセキュリティの甘さだ。

骸骨騎士さん、ありがとう。


とりあえず室内に入ると女性は少し警戒しているみたいだ。

「えーと……こ、こんにちは?」

しまった!今は既に夜だった。


「……貴方は?」


「えー……ミカエルさんの友達でエイルと言います。貴方は帝国の人ですか?」


「私は帝国軍大尉、剣聖シズカよ」


「剣聖?!そうなんですか?実は私、剣聖椿つばきの弟子です!」


「ツバキ様の?それは凄いですね!お弟子を取らない方と聞いてましたので……」


そう言えば弟子をとるのは初めてと言ってたな。

あのダメ狐の弟子になるのは大変だよ。


「あの、何で帝国軍に入ったんですか?」


「それは……正義の為よ。永く続く戦争を終わらせて、魔族の脅威から世界を守る……筈だったんだけどね。魔王に敗れてこのザマよ」


魔族の脅威か……。


「帝国に正義があるとは思えないんですが」


「どう言う意味?魔族は悪で人族はそれに対抗し、平和を勝ちとる為に戦う。それが正義な筈よ」


うーん。頭カチカチな返答だ。

これも種族設定による影響なのだろうか?

うちもミカさんとティファの仲はあまり良くないが、ここまでカチカチではない。

帝国で育った環境とかもあるのだろうか?


「えー、でも帝国が一方的に戦争仕掛けてるんでは?」


「平和の為なら仕方ないわ」


「それはおかしくないですか?」


「そんな愚物に何言っても無駄よ」


急に後ろから会話に入って来たのは、頭に包帯巻いた桃髪のメイド……ジスだ。


「あなた!あの時のメイドっ!何しに来たの?」


「食事を持って来ただけよ。仕方なくだけど。わざわざミカエル様がお作りになった料理を無駄にする訳にも行かないので、食べなさい」


「魔王が?毒でも入ってそうね……」


「失礼な!因みに食後のデザートはジスが作ってやったのよ!感謝しなさい!」


そう言いながらもティーカップに紅茶を注ぐ姿はメイドらしく、きちんと仕事をしている。


「ねえ、お、私には無いの?お腹空いた」


「エイル達の分は今ミカエル様が作っているわ、相変わらず飢えた犬みたいな奴ね!」


ジスって何か俺に冷たくない?


「ほら!サッサと行くわよ!どうせ戻り方知らないのでしょう?不快だけどジスが連れて行ってあげるわ」


「あ、よろしく。シズカさん、じゃあまた」


ジスに手を掴まれ部屋を後にした。



剣聖シズカは、魔族の施しなど受けたくはなかったが、空腹には耐えられない。

恐る恐る魔王ミカエルの作ったとされる料理を口に入れた。


「……美味しい」


見た事も食べた事もない料理だった。

味付けから何から知らない料理だ。魔族はこんな美味しい物を食べているのか。

魔族は血肉を喰らい、人族ですら食べると聞いていた。

真実は違うのかもしれない。

捕虜と言う立場ではあるが魔族の文化に触れる機会かもしれない。





ジスに連れられ、無事に部屋に戻り、ようやく食事にありつけた。久しぶりの皆での食事だ。


「美味ーっス!」


「相変わらず美味いな」


「肉ーなのです!」


「ホント美味しいですぅ」


食事も一段落して、食後のデザートを食べていた頃に、ミカさんが徐ろに語りだした。


「一つ残念な知らせがあるわ。剣聖シズカの結界石を使徒らしき者に奪われたわ」


「「「……」」」


「使徒らしき者って言う事は顔は見ていないって事?」


「ええ、顔も兜で隠された銀色のフルプレートアーマーだった。分かったのは女って事くらいと強いって事かしら」


女?まさかスピカさんかな?しかし、使徒は複数いる筈だ。思っていたより早く動き出してしまったな。


「あのさ、皆に言ってない事があるんだけど……」


「何かしら?」


「実は使徒の一人はスピカさんだ」


「「「えっ!」」」

「……やっぱり」


ミカさんは薄々気付いていたみたいだ。



「何でエイルはそれを知ったの?何で黙ってたのか説明してくれない?」

ミカさんが鋭い眼光でこちらを睨む。


俺は全て話した。

意識を取り戻した時にスピカさんから直接、使徒である事を告白された事、そして使徒は複数いる事。

アルテミスの封印の鍵は勇者。つまりリュウタロウだ。


「困ったわね。使徒が複数いるって事は残りの剣聖も危ないわ」


「セイコマルクにいる剣聖ウメも危ないな」

セリスが腕組みしながら天井を見る。


椿つばきちゃんは大丈夫だと思う。多分居場所を知られていないから」


「それでもいつかは見つかるでしょう?」


「剣聖ウメから結界石盗んで逃げるっス!」


「「「それだ!」」」


満場一致で方針が決まった。

やってる事が使徒より姑息だが、誰も反対しないから良いのだ。

剣聖ウメは使徒と銀の翼、両方から狙われる事になった不幸な剣聖かもしれない。



「そうだ、デスニーランド産のお酒あるけど飲む?」



「おー、飲んでみたい」

「私は少しで良い」

「セリスは弱いっスからね」


「これがデスニーランド産の酒。その名もデスーラよ」


ジスが、ショットグラスと禍々しいデザインの瓶を持って来た。テキーラみたいな奴か。


リオ以外の全員にショットグラスが配られ、デスーラが注がれる。

色は無色透明でパッと見は飲みやすそうな酒だ。

だが、異様な瘴気を漂わせている。

大丈夫かこれ?


「死なないよね?」


「……多分。大丈夫じゃないかしら。私もデスーラは飲んだ事ないけど」


初見ですかい!まぁ、ものは試しだ。


「じゃ、死の大地戦勝利に、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」


グイッと一気に飲み干す。

思っていたより飲みやすくて、美味しい。

「うん、美味しいね」


だが、そこから記憶がない。


朝起きたら寝室のベッドの上だった。

ミカさんの腕の中で寝ていたようだ。


「くしゅん!」


寒い……。


全裸で寝てたみたいだ。

自分で脱いだのか、脱がされたのか、覚えてない。


デスーラはもう飲むのやめよう。


寝室を出るとリビングで皆寝ていた。

リオを除いた全員が全裸と言う光景だった。


一体、何が起きたのか考えたくはない。





十二天将の居城(マリー所有)


「ただいまでやんす」


「マリー。早かったですね」


「うん。剣聖ツバキの居所が分かったよん♡」


「さすがはマリーですね。それで場所は?」


須弥山しゅみせんの山中でっせ」


「……そうですか。分かりました。盛大に相手しなければなりませんね」


「そだねー。単独じゃ厳しいね。何か作戦ありかな?アルゴの旦那?」


「ふふ、勿論ですよ。しかし準備に少し時間が必要です。私はこれからセブールに向かいます。スピカが戻りましたら伝えて下さい」


「あいよ!」


案外あっさり居場所がわれた椿だった。

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