第10話『ミカさんのお母さん』
「何しに来たの?って。いやあの……心配で来てしまいましたが……迷惑だったかな?」
何か思っていたより、ミカさんの冷たい態度が来てしまったのが迷惑だった様な気がしてしまい、モジモジしながら答えた。
「修行はどうしたのよ!こんな所に来てる場合じゃないでしょう?」
「修行は一段落着いた所だよ……ミカさんに何かあったらと思ったらいてもたっても居られなくて気付いたら飛び出してた」
「エイル……ありがと」
ミカさんが近付いて来て手を握り笑顔になった。
その頬はうっすらと赤い。
「ん、んーコホン!一応私らもいるのだから二人の世界作るなよ!」
セリスが抗議して来た。すまん!忘れてたよ!
「久しぶりのエイルなのです!」
リオが勢いよく抱きついて来た!
んー、よしよし。頭を撫でてあげるとリオの変化に気付く。
「あれ?リオおっきくなってない?」
「んふふ〜背、伸びたなのです!」
「はっ!僅かに超えらてる!なんてこった!」
「ご主人様が一番チビっス」
「エイルさんは背も胸も一番小さいですぅ」
くっ!胸は別に良いけど身長までもリオに負けるとは!
リオが、女の子から女性へと成長して行く……
容姿も綺麗だから、ちょっと心配だ。学校では大丈夫だろうか?
◇
いつまでも外にいる訳にもいかないので要塞内部のミカエル専用の住居スペースに案内されて待っているようにとの事だ。ミカさんはまだ仕事があるそうだ。
「みんなはなんでデストロイ要塞にいたの?」
「それは……えーと」
セリスの歯切れ悪い受け答えが気になる。
「セイコマルクに向かう途中っス。セリスが道間違えたっス」
うん!分かりやすい。
セイコマルクに行く事になった経緯をセリスから聞いた。
「なるほどね……」
政治的な事は良く分からないが、帝国を討つにはセイコマルクの協力が必要不可欠って事か。
しかし……
お腹空いたな。ミカさんまだかな?
◇
デストロイ要塞司令室
「んで四天は?」
「ベリアル様は全身大火傷で重体。頭髪が全て燃えた事にショックを受けているそうで……死者王シピン様は死にかけましたが一命を取り留めました。骨には異常無しだそうです」
実家が農家のルー・ペタジーニが四天王の被害を説明する。獄炎のベリアルが火傷。死者王が死にかけると言う、何とも情けない報告を聞いてミカエルは呆れていた。その原因を作ったのは母サクヤだが……
「んふー♡やっぱり私が一番ね!」
やっぱり悪びれた様子は微塵もない。
「違うなの!一番はバースなの!」
自分こそが一番だと言い張る、金色の長い髪をポニーテールにした美女は人化した邪竜バースだ。
サクヤにも負けない豊満な双丘を揺らし、バチバチとサクヤと睨めっこしている。
「それよりもバースさん?なんで戦場に居なかったのか説明して!」
邪竜バースは勝手に里帰りして不参加だった。ベリアルが代役のドラゴンを立てたが、帝国軍にあっさり殺られ敵の士気を著しく上げたのは、戦局にも影響があった。
「実は母から急な連絡があったなの!母が危篤だから至急帰って来いって言われたなの!死に目に会えなくなるのは悲しいなの!でも行ったら末期の胃腸炎だったなの!」
うん?危篤の母から連絡?末期の胃腸炎?
それは、危篤でも無いし、末期の胃腸炎って……治りかけじゃないか!要するに大した事じゃ無かったみたいね。
「はぁ〜」
怒る気にもなれなく、深いため息しか出ないミカエルだった。
「それよりミカちゃん。例の子来てるんでしょ?お母さんに紹介してくれないのかなぁ?」
「う……。分かった。連れて来る……けどっ!変な事しないでねっ!」
「もちろん♡」
◇
コンコン……ガチャ
ミカさんが何やら神妙な顔で戻って来た。
「エイル……ちょっといいかな?お母さんが呼んでる」
「ええっ!?」
予想外の単独指名に慌てふためいて部屋の応接セットのテーブルに膝をぶつけた。
「痛っ!」
……お母さん。ミカさんは確かにそう言った。いや、聞き間違いかもしれない。オカさんかもしれない。誰だそれは!いやいやいや、現実逃避は良くない。
「う、うん分かった……」
仕方ないのでミカさんに付いて行く。
正直に言う。逃げたい。だが、ミカさんが逃がさんとばかりに手を繋いでくる。やはり、魔王からは逃げられないらしい。
好意を寄せている異性、又は既にお付き合いをしている場合の両親に会うのは難易度高い。
この場合に至っては、両親ではなく、母親であるが……
それでもやはり、怖いものです。
ミカさんは俺をどの様に紹介するのだろう?
「お母さんは全部知っているから……」
全部?全部とは何だ?転生の件も含めてなのか?
そんな事を無い頭で考えてもぐるぐるしてくるだけである事は自分自身が良く知っている。
そうこうしている間に着いてしまった。
目の前には禍々しいドクロの装飾が施された重厚な扉がある。如何にもこの先危険と言わんばかりのデザインは魔族スタンダードですか?
そして扉が開かれると、強烈な魔力が流れ出るかの如く紫色のオーラを漂わせた美女が、部屋のソファに横たわっていた。
「貴方がエイルね」
「はい……エイルと言います。初めまして」
少しぎこちない礼をしてしまった。
「私が、ミカエルの母サクヤよ」
うん。ミカさんに顔が良く似ているので血の繋がりは確かなようで。ミカさんに比べると目付きは優しげな印象と成長しきった豊かな胸が存在をアピールしている。
妖艶を極めたと言っても良いくらいの魅力が溢れ出ている。ミカさんもいつかこうなるのでしょうか?
サクヤは立ち上がり近づいてくる。
思わずビクッとしていまう。
「この子……可愛いっ!」
突然キリッとした表情から一転、愛玩動物を見るような顔で抱きついて来た。
顔をスリスリしてくるが、完全にホールドされて逃げられない。
「ち、ちょっと母様!離れてよ!」
予想外の母の奇襲に慌てるミカさん。
「えぇー、ちょっとくらいいいじゃない♡」
「ダメったらダメっ!」
「もう、ケチね!」
そんな淫魔親子のやり取りを只黙って見ていた。
と言うより何か圧倒されて動けないだけだ。
「それにしても……この子がミカちゃんの探してた子って事よね?お母さんビックリよ。まさかミカちゃんは、そっちの趣味だったなんて……てっきりイケメン来るかと思ってたのに、こんな可愛い女の子が。死んだお父さんになんて言えば良いのかしら?」
「う、うーん。否定は出来ない元々男はあまり好きじゃないし」ちょっと照れくさそうにミカさんが言う。
「エイルくん。それともエイルちゃん?なんて呼べばいいかしら?」
「ど、どっちでもいいです……」
もはや、俺は男だ!って言いきれないので別にどっちでもいい。
「なら、エイルちゃん!ミカちゃんなんて辞めて私の物にならない?なんでも好きな物買ってあげるわよ♡悪いようにはしないわ♡」
「え?えー……」
「母様!何言い出すのよ!私の大事な奴隷……じゃなかった。エイルを横取りしないで!」
今一瞬、奴隷って聞こえた様な……?
それに、このサクヤ。さっきから魅了を使ってくる。
魅了耐性が発動しまくりだよ。本気で落としにかかって来ているのが、怖い。
「私にも愛玩奴隷貸してくれてもいいじゃない♡ね?一日!一日で良いから貸して?」
「嫌よ!絶対に貸さない!色々な手や薬とか使ってエイルを隷属するつもりでしょ!」
何、薬って?怖い事言わないでくれ!
「チッ!ミカちゃんはお見通しね」
するつもりだったんですね?
「ちょっと!私の意思は無視かよ!ところで何の用事で呼ばれたんでしょうか?」
淫魔親子に若干、置いてけぼりくらっていたので吠えてしまったぜ!
「ふふ♡そうだったわ。あまりな可愛さに少し我を忘れていたわ。さっきのは冗談よ♡」
いや、ガチでしたよね?
「ミカちゃん悪いけど、エイルちゃんと二人にしてくれるかしら?少しエイルちゃんと、しっぽりと話をしたいの」
しっぽりが余計な気が……
「……分かった。けど、変な事しないでね!」
そう言って、こちらを気にしつつもミカさんは部屋を出て言った。
い、行かないで!一人にしないでぇぇぇ!
そんな心の声は届かず、背後に迫るサクヤの獲物を見る目が光る。ジュルリ……僅かにそんな音がした。
「さてと……本題に入ろうかしら。エイルちゃんはミカちゃんには相応しいとは思えないの。ミカちゃんは魔王よ。そしてエイルちゃんは天使。分かるわよね?」
「う、それは関係ないです」
「関係なくないわ。だって神の意思が人族側になったらエイルちゃんはどうするの?ミカちゃんを守るだけの力を持っているの?私にはエイルちゃんが、その力を持っている様には見えないわ。母として、裏切るかもしれない貴方に側にいて欲しくはないの」
裏切る?俺がミカさんを?ありえない。
「絶対にそれはないです!たとえ神の意思だろうが、何か知らないけど、ミカさんの敵は俺の敵です!世界滅ぼしても変わらないです!」
俺自身、何でそこまで言いきれるか分からないし、根拠の無い自信かもしれない。でも、俺がミカさんを敵にまわす未来は見たくない。この世界では何としても、それだけは守ると決めた。
「そう.......言うのは簡単だけど、強くなって証明しなさい!魔王と肩を並べるだけの存在になったら許しましょう」
無理です。と言ってしまいそうになったが……
「なります。必ず」
決意してしまった。
「なら、なれなかった時は……私の愛玩奴隷ね♡」
なんで?そうなるの?
「えー?それはちょっと……」
「約束出来ないって言うの?貴方のミカちゃんへの想いはその程度なのかしら?」
「わ、分かりました!」
「フフっ決まりね♡」
何だか不平等条約を結ばされた気がしないでもないが、強くならないといけないのは分かった。
エイルは自らの貞操を賭けた。……のかもしれない。
エイルが去った後
「チョロいわ♡」
サクヤはあまりにもチョロ過ぎるエイルが少し心配になった。
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