第9話 『死の大地戦終結』
エイルと邪竜バースが死の大地の大爆発を見る少し前。
白銀の騎士の天魔法で地中深く落とされたミカエルが黒翼を広げ、地上へと戻り、目にした戦場はそれはもう悲惨な状況だった。
「え?何この火の海!まさか母様?」
辺り一面火の海と化し、尻に火がついて走り回る魔族兵と、業火に焼かれた帝国兵の死骸が、異様に臭いを出し、酷い悪臭でミカエルも顔を顰める。
こんな有り様に出来るのは母サクヤしかいない。
炎と言うよりマグマに近い超高温度の
母サクヤと叔母である魔女ノアだけだ。
とにかく、これがサクヤの仕業なら、一ヶ月は消えないだろう。
「だから、後方に居てって言ったのに!もう!」
「ムカつく!ムカつく!ムカつく!」
ミカエルは倒れている剣聖シズカに八つ当たりで蹴飛ばす。
白銀の騎士にはまんまと逃げられてしまい、悔しい気持ちも合わさり、余計に腹ただしい。
ならばこの戦を直ぐに終わらせて、エイルを一晩中抱きしめて癒されたい。
その為には……敵将を逃がす訳には行かない!
ミカエルは再び黒翼を広げた。
◇
「なんだ!これは!何なんだよ!アイツらヤバすぎだろう!おい!速く逃げるぞ!」
帝国軍第一軍バルバトス大将は完全敗北の戦場から逃げるつもりだ。
参謀達も揃って、司令室を後にし、砦の外に出た所に、
銀髪と黒髪の美少女が口角を上げて待ち構えていた。
「あら?バルバトス将軍閣下、部下を連れてお逃げになるのかしら?」
まだ、歳若い少女であるが、妖艶な魅力は年相応とは言い難い程だ。
「うっ!ミカエルっっっ!」
「ひっ!」
絶対絶命と言う言葉がこう言う時の為にあるのだとバルバトスは思ったが……ミカエルの姿を見て、ちょっと前かがみになってしまう。
見ると参謀達も皆、少し前かがみになり股間を抑えていた。
「……?何みんなして変な所抑えてんの?」
「い、いやその格好は流石に目のやり場に困る!」
「え?」
ミカエルはハッとして自身の格好を見ると、天魔法の所為で軍服はボロボロ、下はまだ良かったが、上はほぼはだけてしまい、下着が露になっていた。因みに色は以外にもピンクだ。
「きゃぁぁぁっ!」
思わず可愛らしい声を発してしゃがみこむ姿は魔王とは思えず、バルバトスらも、申し訳無い気持ちになりつつも、心の中ではガッツポーズだ。
「ミカエル様ぁ!大丈夫ですか!」
そんな中、明らかにお前が大丈夫じゃないだろう位に頭から血を流したジスが、これまた引き裂かれたメイド服姿で現れた。
「ミカエル様!まさかこの中年閣下共に暴行されたのですか?いや、されましたね!この下衆が!」
「決めつけるの早すぎだろ!その格好で来たんだよ!不可効力だ!無実だ!」
「そう……なら死んで無実を証明なさい!」
「無茶苦茶だなおい!とにかく速く服着てくれ!」
そう言うと、バルバトスは自身の勲章やたら付いてる軍服を脱ぎジスに渡した。
「臭い!却下!ミカエル様にこんなオヤジ臭のするもの着せるつもり?やっぱり死になさい!」
「酷いなおい!ワシだって傷付くぞ!」
「ジスやめなさい!」
流石にジスが暴走しそうなのでミカエルは仕方なくバルバトスの服を羽織りジスを制止した。
「バルバトス閣下、有難くお借りします。で、話の続きと行きますが、宜しいかしら?」
「う、うむ。……完敗だ。投降するので条約に従い捕虜として扱って頂く」
「条約?そんなもの守る義務無いわね」
「な!何を言っている!国際法を無視する気か?」
「あら?魔族は所詮魔物の群れ。国家としても認めていないのだから条約は無効。そう言って休戦を無視して軍事行動して来たのは何処の国だったかしら?」
「ぐっ!しかし……」
「今貴方達が、ここで死んでも魔物の群れに襲われた程度の事かしらね〜♪」
「ま、待ってくれ!きちんと話をする機会をくれるなら帝国の情報も提供する!」
「……言ったわね。言質とったわよ!なら話は後ほどするとして、投降を許可するわ。指揮官としてやる事やりなさい!」
◇
『帝国兵に告ぐ、私は帝国軍バルバトス大将だ!我々帝国軍は敗北した。速やかに武装を解除し投降しろ。繰り返す。私は……』
砦からの放送で、死の大地にて戦闘中の帝国兵は武器を捨てて、投降を開始した。
死の大地戦は魔族側の勝利で終結した。
バルバトス大将ら参謀達計八人は捕虜として要塞にそれぞれ監視付きだが個室を用意した。一般兵とは待遇が別である。
その他帝国兵の捕虜は奴隷兵と正規兵で分けて収監した。奴隷兵達は収監と言うよりは保護目的の為、テントを用意してある程度の自由を与えている。
数は約800人程。殆どが犬や猫の等、亜人族の男性だった。
「さてと、母様には後で説教するとして……この戦場の有り様は酷いわね」
既に戦いの終わった戦場ではあるが、未だ消えない炎が夕暮れの空を明るくしていた。
時折、残された弾薬に引火して爆発を起こしている。
これでは安心して夜寝れないし。
どうするか考えてた所に聞き覚えのある声がした。
「やっぱりミカエルっス!ヤホーっス!」
この無駄にテンション高いアホな口調は……
海神マリンだった。
「!え?なんでマリンが此処にいるのよ?ってセリス達まで!手紙ちゃんと読んだの?」
手紙。実は帝国軍との開戦に先立ち、ミカエルはセリス達に、ある依頼をした。
依頼内容は、セイコマルクに行き、魔族との同盟交渉の席を作る事だ。その際にリオを必ず連れて行く事。
亜人が居た方が、話はし易いだろうと一応手紙に書いた。理由はそれだけでは無いが。
それよりも、本来なら既にセイコマルク入りしていても良い筈のセリス達。普通に行けば、死の大地は通過しないのだが……
「み、ミカエル久しいな、息災か?」
ちょっと罰の悪そうにセリスが近付いて来た。
「ミカエル!久しぶりなのです!」
リオが姿を見るや尻尾をフリフリしていた。
「ミカエルさん、ひ、久しぶりですぅ」
誰だっけコイツ?あぁティファか。
「ち、ちょっと今一瞬誰だっけみたいな顔しましたね?」
「セリス……まさか道迷ったとか、かしら?」
「すまん!その通りだ!」
「どうやったらファミリア王都からセイコマルク行くのに死の大地まで来るかなぁ?普通に北上して帝国抜けるだけでしょう?なぜ西側の魔族領?」
魔族領は大陸の西側。帝国が中央。東側はセブール。ファミリア王都は帝国とセブールの中間の南側だ。
サンクはファミリア王都から西で、その南側に港街サクルがある。
そしてセイコマルクは大陸の北側。帝国の直ぐ上だ。
つまり、最短ルートは帝国とセブールの間を通り北上するのが、普通だ。
だが、普通じゃ無かったらしい。
セリスの方向音痴は異次元クラスの様だ。
「信じた私が馬鹿だったわ……」
「そ、それより戦場の火が凄いな!ミカエルがやったのか?」
話逸らしやがった。
「違うわ。これはうちの母の仕業よ。消せなくて困っていた所よ」
「ならウチに任せるっス!」
「止めて!また津波とかだったら被害増えるだけよ!」
「大丈夫っス!
するとマリンが魔力を集中して空に水の球体を創り出した。
「清らかなる水よ、我が元に集まれっス!」
みるみる球体は増幅し、戦場の中央付近を包み込んだ。
そしてゆっくりと降下した。
「「おお……!」」
流石、海神と言われるだけあって水属性の魔法の規模は規格外の様だ。これなら火も鎮火出来るだろう。
但し、それが普通の火だったならと気付くのが遅すぎた。
炎は四天王の放った、獄炎。黒炎。更に煉獄と言う灼熱の炎だ。
マリンの放った水の球体の様子がおかしくなって行く。
「や、ヤバいっス!爆発するっス!」
慌てて土魔法で近くに穴を空け、皆で穴に避難した。
「速く!穴へ!」
球体が沸騰して大爆発を起こす。
いわゆる、水蒸気爆発を起こしてしまった。
白い爆発が、辺りに爆風を飛ばし、大気が爆発の威力で波動を生む。空高く上がる水蒸気がキノコ雲の様になっていた。
結果的には鎮火に成功したのだ。
だが、爆風で連合砦が吹っ飛び、デストロイ要塞付近の砲台やトーチカ、有刺鉄線等も吹っ飛んだ。
デストロイ要塞の外壁は鋼鉄でコーティングされていたので損壊は免れた。
「い、一応火は消えたっス!」
どんなもんだいと、言わんばかりのマリンだ。
「やり過ぎよ!まったく!ホント馬鹿ばっかり!」
ぷりぷりと怒る仕草だが、まぁ何時もの事だしと諦めの表情だ。
それでも、やはり仲間だ。『銀の翼』メンバーといると魔王である事を忘れてしまえるのが心地よいのだ。
「せっかくだから、今日は泊まって明日出発すればセイコマルクなら二日位で行けるわ」
「「「やたー!」」」
マリンとリオはデストロイ要塞を見て目をキラキラさせている。
「お願いだから要塞内部では大人しくしててね!」
「了解っス」「はいなのです!」
すると……
上空に強大な魔力を感じて、上を見ると……
金色のドラゴンがこちらに降下して来た。
邪竜バースさんだ。今更帰って来たか。
「ミカさん!みんな!さっきの爆発大丈夫だった?」
「「エイル!」」
エイルが邪竜バースさんの背中から降りてきた。
なんで二人が一緒に?
それは気になるけど……
「ミカエル様ただいまなの!たまたま、この子に会って連れて来たなの!では役目は果たしたなので、失礼するなの!おやすみなさいなの!」
一方的に喋り、この場をそそくさと去ろうとしている邪竜バースだったが……
「ちょっとバースさん!後で司令室で待ってるから!」
「か、かしこまりなの……」
お説教が必要です。説教しないとならない人ばかりだ。
「で、エイルは何しに来たの?」
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