第7話『死の大地燃ゆ』
「……ジスを殺ったの?」
剣聖シズカは、この戦場で一番会ってはならない存在と会ってしまった。
魔王ミカエル。
その存在は既に人知を超越した域にある存在。
この世界における最凶の存在だ。
魔王を超える存在は勇者か神しかないだろう。
だけど……私は剣聖シズカ。
勇者には及ばないが、世界の守り手。
魔王を倒せば戦争は終わる。
ならば、自分の剣で、終わらせる!
「そ、そうよ!私がその魔族を、き、斬ったわ!次は貴方の番よ!悔い改めるがいいわ!」
って聞いてなーい!
剣聖シズカがガチガチな緊張しながらミカエルに対して挑発したものの、当のミカエルはスタスタと倒れるジスの元へ行き、容態を確認する。
「ジス?良かった。まだ息があるみたいね。これ飲んで」
懐からポーションを出したが、吐血している為、自力では飲めそうにない。かなり重症だ。
止むを得ず、ジスのメイド服を引き裂き、刺された腹部に直接ポーションをかける。
すると、傷は塞がり出血も止まった。
残ったポーションをミカエルが口に含みジスの口に直接流し込む。
意識朦朧としていたジスの目が見開き、ガバッとミカエルに抱きついた。
「ミカエル様ぁ♡もっとぉ♡」
「調子に乗るな!」
ゴッと頭突きの鈍い音がして、ジスは頭から大量の血を流して再び倒れた。
剣聖シズカは、女の子同士の口付けを見てドキドキしていた。
こ、これが百合ですか?私、は、初めて見てしまいましたよ!戦場だと言うのを忘れて、つい見とれてしまいました。が、口付けの後の頭突きでメイドの子は再び瀕死になってしまいました。
「よくもジスをこんな目に合わせてくれたわね!自分から死にたいと思う程痛ぶってやるから覚悟しなさい!」
「いや、私の剣より、今の頭突きの方がダメージ大きいですよ!」
刀を構え、魔王ミカエルの正面に立つと威圧感がヤバい。額から汗が顎先へと流れ、ぽたぽたと落ちる。
膝はガクガクしてる。いつ失禁しても可笑しくない位だ。これがガクブルってやつ?
でも殺らなきゃ殺られる!
「剣聖シズカ参る!秘剣!桜吹雪!」
先手必勝!
攻撃は最大の防御なり!
剣聖シズカが縮地で間合いを詰めながら連撃剣でミカエルを襲う。対するミカエルは不意をつかれたか、構えてすらいない。
秘剣桜吹雪がミカエルの身体に無数の傷を刻んで行く。
行ける!魔王ですら私の秘剣は躱す事が出来ない!
間髪入れずに剣聖シズカの猛攻は続く。
「秘剣!木枯らし!」
「秘剣!ダ……」
「いちいち、うっせーんだよ!」
ミカエルは業を煮やし、左手で剣聖シズカの顔面を掴み、そのまま力任せに地に叩きつける。
「へぶっ!」
剣聖シズカはアイアンクロー状態のまま、持ち上げられる。メリメリと頭蓋が軋む。
一体何が起きた?私の秘剣は間違いなく、魔王ミカエルを捉え、切り刻んで、刺したはず?
掴み上げたまま、ミカエルは釘バットで剣聖シズカを容赦なく叩く。
ボギっと、腕やあばら骨、腰など、あらゆる骨が砕かれる音と感触。
「うがァああぁぁぁ!」
最早、悲鳴にもならない位に力弱い声が、戦場の音にかき消され、誰の耳にも届く事は無い。
ガチガチと震え、涙流すが、やがて意識を失っていた。
その光景を見ていた騎兵隊は恐怖し、只見ている事しか出来ずにいた。
満足したのか、拍子抜けしたのか、ミカエルは掴んでいた手を離した。
剣聖シズカは地へ落ちる。
腕と足が在らぬ方向へと向いた姿は壊れた人形の様だ。
「ヒィ!逃げろ!て、撤退だぁーっ!」
騎兵隊は方向転換し、直ぐ様この地を離れ始める。
だが、みすみす見逃す程、ミカエルは慈愛に満ちた存在では無い。
「
無数に並列展開された氷塊が逃げる騎兵隊に突き刺さって行く。全て一突きで胸を貫かれ絶命して行き、見えなくなる頃には、馬上に人は乗って居なかった。
「……さてと、この剣聖どうしようかしら?」
このまま放置する訳にも行かない。
剣聖が死のうが構わないが、結界石の事もあるから、気が進まないが捕虜として連れて行くのが良しかな?
だが、その時ミカエルの元に白銀の鎧を身に纏う騎士が高速接近していた。
◇
戦場の中央部では四天王ベリアルが帝国兵相手に蹂躙していた。
「帝国軍に猛者は居らんのか!我と戦え!ハッハッハ!」
ベリアルは剣と呼ぶには大きすぎる身の丈程の鉄の塊を振り下ろし、たじろぐ帝国兵に向かってその存在を示していた。
「ふん!腰抜けの集まりか?この四天王最強のベリアルを倒し、武功を上げようと言う奴は出て来い!」
すると後方から近付く騎士がいた。
「貴様が四天王最強だと?笑わせるつもりか?四天王最強はこの死者王シピンよ!」
漆黒の禍々しい甲冑に身を包み、巨大な馬の様な魔物に跨る騎士は死者王シピンだ。
「シピンか……気でも狂うたか?ふむ、良い機会だ。此処で貴様のその骨だらけの身体、骨抜きにしてやろうぞ!」
「望む所だ……貴様の様な脳筋など、叩き潰して墓場の清掃係にしてくれよう!」
というわけで、突然に四天王最強決定戦が戦場の中央で始まってしまった。
完全に無視された帝国兵はその光景をただ、見守る事しか出来なかった。
だが、四天王の戦いが両軍を混乱に貶める事態にさほど時間はかからなかった。
「骨まで燃えろ!地獄の火炎!どうりゃ!」
火弾と言うには巨大過ぎる火炎弾が五発。
死者王シピンに向けて放たれる。
「笑止!我が魔剣デスサイズの錆的な物にしてくれる!」
死者王シピンはその漆黒の絶対呪われているだろう魔剣で、ベリアルの放った地獄の火炎を弾き飛ばす。
帝国軍にとって不幸な事に、その弾かれた地獄の何某が帝国軍の布陣している所に飛来した。
着弾するや、正に地獄何某。業火に焼かれ火炎一つ着弾する度に、大隊規模が消滅した。
更に
「次は我のターンだな!黒炎死滅斬!決して消えぬ炎に焼かれよ!」
死者王シピンの魔剣デスサイズが黒炎を纏い、ベリアルに向けて黒炎が襲いかかる。
「この程度、我が剣で切り裂いてくれるわ!」
で、その通りになって、切り裂かれた黒炎はと言うと
二つに別れ、帝国軍の左翼と右翼に向けてまっしぐら。
帝国軍の左翼、右翼の兵達は慌てふためいて散り散りに逃げるも、武器弾薬に黒炎が引火、更に誘爆して行き大惨事となった。
◇
魔王軍後方待機中のサクヤの元に伝令が届く。
「報告します!ベリアル様とシピン様、ご乱心!現在戦場中央にて喧嘩中です!如何なさいますか?」
サクヤはネイルの手入れをして居たが、その手を止めた。
「……そうか。二人が妾を取り合って争っているのですね?」
「は?言え、その様な事は言ってませんが……サクヤ様?」
「んもぉ!仕方ないわね♡妾はまだラファエル様に禊を立てているって言うのに!」
そう言ってサクヤはピューっと戦場に走って行った。
◇
「ななな何が起きている!我が軍の陣形が崩れとるぞ!」
司令部で観戦していたバルバトス大将は先程まで膠着状態だった戦場が、一瞬にして混乱して行く様を見て、何が起きたのか、理解出来ずにいた。
「中央部にて、四天王ベリアルと同じく四天王シピンが仲間割れをしており、その余波で我が軍の六割が消失。現在も被害拡大中です!」
「……めちゃくちゃだ……撤退だ……極秘資料の処分を!」
「り、了解しましたっ!」
だが、悲劇はさらに訪れた。
◇
ベリアルとシピンの迷惑な死闘が戦場を火の海にしている所に迷惑な淫魔が一人追加された。
「喧嘩は辞めてー♡」
炎の未亡人サクヤ登場である。
魔王ミカエルの母にして前魔王ラファエルの妻。
ミカエル曰く、一番前線に居て欲しくない人。
「燃えろ!萌ろ!全てを焼き尽くせ!
火に油を注ぐ所か、火に更に強い火で覆い辺り一帯を焦土にして行く。その勢いは、ベリアルとシピンを黒焦げにし、更に帝国軍中央まで燃やし尽くした。
もう怪獣同士の戦いみたいな戦場である。
◇
その少し前。
ミカエルと白銀の騎士は激突していた。
「その剣聖を連れて行って、どうするつもり?」
「……」
白銀の騎士は無言のまま、剣聖シズカを左手で抱えながらミカエルと戦闘していた。
「何とか言いなさいよ!」
ミカエルは釘バットで渾身の一撃を白銀の騎士の頭目掛け振り下ろすが、剣の腹で易々と受け流す。
あの黒竜を一撃で仕留めたミカエルの一撃を受け流す。
しかも、片手である。
一体何者?片手で流された……。
強い……今まで見た中で一番に。
白銀の騎士。
中身はスピカである。喋ると正体バレそうなので黙り決め込んで奮闘中だ。
いやー、ミカエルさん、一撃が重いですよ。
ビリビリと痺れてます。危ない危ない。
さすがは魔王に覚醒しただけあって桁違いの強さになって居ますね。
剣聖シズカさんの身柄は諦めて結界石だけ持って逃げるしかなさそうですね。
えーと何処ですかね?
ん?これかなー?
スピカは剣聖シズカの衣服の中を抱えていた手で物色すると、ネックレス状の結界石を引き抜き、剣聖シズカを下ろした。
そして銀翼を展開し、飛び立ち全速で逃げた。
だが、
「逃がさないわ!」
ミカエルは黒翼を広げ、白銀の騎士を追う。
「げっ!」
まさかミカエルが飛べるとは、思っていなかったスピカは驚くが、止むを得ず魔法を放った。
「ヘブンクロス!」
光の柱が天からミカエル目掛け、落とされた。
「……っ!」
広範囲の天属性魔法を躱す事叶わず、まともに受けてしまう。
そのまま地へ落とされ背中からバウンドした。
大地に穴を開ける程の轟音と光に包まれミカエルは地の底に沈んだ。
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