第5話『椿ちゃんと〇〇』



椿つばきちゃんの家に来てから一週間が過ぎた。

朝は早く起きて、井戸水で顔を洗い、また新しい井戸水を桶に貯めておく。師匠……椿つばきちゃん用に用意しておいてあげる。弟子だからな!


顔を洗った後は、上半身裸になり、乾布摩擦をする。

冷えた身体がポカポカと暖まる。

上半身裸と言っても下着は着用している。

如何に山奥で人が居ない場所でも、乳丸出しは抵抗があったのだ。見せる程のサイズじゃないけど。


身体が暖まると、近くに流れている川へ朝食用に魚を釣りに行く。

雪解けの川はかなり冷たい。

だけど朝食のためだ。きっと忍耐力も必要だと思い、耐える。

川に入り、銀翼を広げ、魚が来るのを待つ……


魚を発見すると銀翼の羽を飛ばして、仕留める。

その様にして毎朝、魚を数匹持ち帰る。


家に戻り、魚の内臓は捨て、水洗いしてキッチンのグリルに入れて焼く。

ミカさんの作ってくれたシステムキッチン最高です。


ついでにミカさんの用意した味噌で味噌汁を作る。

出汁はないですが。適当に余ったドラゴン肉を入れておく。


白米もミカさん提供でストックされているので、ミカさんの造った、ご飯炊き用の鍋で炊く。質素だが、朝食の出来上がりだ。

朝食の支度が出来たら椿つばきちゃんを起こしにかかる。



相変わらず、良く寝る狐だ。

俺は椿つばきちゃんの身体をゆさゆさして起こす。

「朝ご飯出来たよー、椿つばきちゃん起きてー」



返事が無い。ただの屍のようだ……



なかなか起きないのは想定内だよ。ホントだよ。

ふふふ、奥の手で起こすとしようか……



もふもふ攻撃だ!

俺は椿つばきちゃんの太い尻尾をモフりあげる。あ〜♡このもふもふたまらん♡


「……んっ、うっ、ううん……え、朝か」

起きました。やはりコレが一番効きますね。


「朝だよ。ご飯出来てるから顔を洗って来て」


「……あい」

目を擦りながらふらふらと顔を洗いに行く姿はとても剣聖の威厳を感じない。



朝食を摂った後は、お洗濯の時間です。

洗濯機は流石に無いので、手洗いです。水が冷たいんですよ。椿つばきちゃんの下着は意外にもセクシーなものが多い。無駄な事を。

ツルツル素材だったり、スケスケ素材が多くて洗うのに気を使うのだ。

ブラとバンツが揃いじゃない所がガサツさを物語っている。しかし、ブラはデカい。メロンかよ、けしからん。

別に悔しくないし……


洗濯が終わったら部屋と風呂、トイレの掃除だ。

椿つばきちゃんはコタツで寝てる。


掃除の後は薪を取りに森へ。

刀で木を伐採して燃やし易いサイズにカットしておく。

薪置き場に置いて乾燥させる。


その後は昼ご飯食べて、お茶して、お昼寝して、晩酌しながら夕飯を食べて、二人でお風呂入って、椿つばきちゃんにマッサージしてると寝てしまいます。

布団に入り就寝。


そんな毎日を過ごしています。

こうして二人で穏やかな日常を過ごして幸せだ。

ずっとこのまま死が二人を分かつまで……



って、違ーーう!

何このスローライフ!

俺は剣聖の元に修行に来たんだよな?

何の修行だこれは?花嫁修業か?

ていうか椿つばきちゃん寝すぎじゃね?

食事と風呂以外寝てるよね?

このままではダメ人間まっしぐらだ。いや、ダメ天使?堕天使か!


「おい!剣聖!いーかげん剣を教えやがれ!」


俺は相変わらず寝てる椿つばきちゃんをコタツから引き離す。


「な、ななな!え?剣?あっ、すっかり忘れておったわ。面倒くさいが、やるとするか」


今面倒くさいって言った。コイツ絶対ただのズボラだ。


俺達は刀を持ち、家の外に出て刀を構える。


「まずは、お前の実力をみせて貰おう。打ち込んで来い。遠慮はいらん」



さて、ようやく剣術の稽古っぽくなってきました。

まずは、打ち込みか。

刀を構える椿つばきちゃんを見るのは初めてだ。

だが……不用意に踏み込むと殺られる威圧を感じる。

剣聖ツバキ……三人いる剣聖の中でも最強と言われている。だが、その素顔はただのダメ人間、いや、ダメ狐であったが……


今は自分の持てる力を発揮して打ち込むしかない。

スキル同時発動だ。

剣術 剛剣 縮地 バトルマスター 竜拳


「やっ!」

突進からの横薙ぎの一撃―――


「遅い」

刀の切っ先で簡単に弾かれた。

だが、連撃で打ち込む。


「遅い、軽い、弱ーい!」

「うきゃー……」

剣撃は全て軽くあしらわれ、顔を掴まれ放り投げられ、顔面から落ちた。


「いてて……」


「エイル。お前、弱すぎるぞ……」


ガーン!

俺弱い?これでも竜殺しドラゴンスレイヤーだけど。あっ、でも倒したの魔法だった。まともに剣で倒したのは、ゴブリンとか、キラーボアくらいか。


「まず、お前の剣は基本に忠実過ぎる。それ故に読み易い。スキルに頼り過ぎだ。それに殺気すら感じない剣は軽い。一刀に込める気組が無い。そうだな……例えるなら死んだ魚を捌く技術みたいなものだ。ただ刀を持って斬ったり刺したりするだけでは、生命のやり取りに置いては絶望的に弱い」


えぇー?


「て言うのが、攻撃面についてだが……次は防御面を見る。これからエイルに打ち込むので防いで見せろ。手加減してやる……行くぞ!」


トッ

軽い、本当に軽い突進で間合いを詰めて来た。

気付いたら刀の先が目の前に来ている。

「くっ!」


ギリギリ躱すが頬を少し、かすった。

刺突の後、間髪入れずに上下左右あらゆる方向から連撃がやってくる。

「やっ!やっ!」

キンキンと刀のぶつかる金属音が響く。


「…………」


徐々に剣閃が速くなり、次第に防ぎ切れなくなっていく。

やがて、全く反応すら出来ずに峰打ちで打ち込まれ始めた。

「うぐっ!」

全然見えない……なんだこれ?

あの時と同じだ。リュウタロウに腕を切り落とされた時、俺はリュウタロウの剣が見えなかった。


「うぅ……」

ダメだ……意識が……





気が付くと家の中だった。

天井……見えない。何だこれ?

俺は目の前にある物体に手を伸ばした……


ポヨン

ポヨン、ポヨン


おっぱいですね。


「そんなに私の乳が恋しかったのか?」


「あ、ごめんなさい……」


どうやら椿つばきちゃんの膝枕でした。

触り心地は中々でした!ミカさんのとはまた違って、何と言いますか、えーと、いやそんな事より……


「今日はもう稽古は出来んな。また明日にしよう」


「……はい」

悔しい……自分の弱さを痛感する。

悔しくて泣いてしまいました。椿つばきちゃんの股の間に顔を埋めて。


「ちょっと!エイル?泣くな!いや、泣くのは良いが、そこはちょっと……んん!」


「くんかくんか」


「匂いを嗅ぐな!やはり嘘泣きか!離れろ変態め!尻を掴むな尻を!」

ガッチリと尻を掴み泣いているんです。ふふふ泣いてるんだよ!悔しいから、ちょっと仕返しなのだ。


「クソっ!ミカエルに言うぞ……」


「すいませんでした!」

サッと離れ土下座謝罪までの速さは神速だった。



◇お風呂タイム


いつもの様に二人仲良く風呂入ってます。

拝啓ミカさん、これはセーフですか?アウトですか?

無駄に嫉妬深いミカさんの事だから万死に値するのでしょうか?


「エイル。防御面の事だが……ひょっとして魔力感知していないのではないか?」


「マリョクカンチ?」

初めて聞いた単語に小首を傾げる。


「まさか魔力感知知らんのか?寧ろ今までどうやって戦って来たのだ?」


「どうって言われても、ふ、普通に見てだけど?」


魔力感知ないと不味いのですか?あると違うの?

因みに昔から動体視力には自信あったけど。


「いいか?目に見えるものだけでは、これから先の戦いでは生き残れない。確実に死ぬ、場合によってはミカエルが死ぬかもしれない。エイルを庇ってな」


それは嫌だ。そこまで必要なスキル?なら普通標準装備じゃないの?

欠陥だらけの天使だよ。リコール出来ますか?

アチナの事だから、そう言う仕様だよ。とか言いそうだな。それより……魔力感知覚えないとだな。


椿つばきちゃんは魔力感知あるの?」

「当然だ。エイルの攻撃なんて寝てても防げる」


いや、こないだミカさんに、思いっきり寝込みを蹴飛ばされてましたよね?


「じゃあ目つむっててください」

「うむ……んー」

瞳を閉じて唇を突き出して来やがったが、チューはしないから!


そーっと椿つばきちゃんの、たわわに実った胸に手を伸ばすと……

パシンっ!

おお!見えてないはずなのに防いだ!


「もっかい行くよ」


次は尖った耳に手を伸ばす……

ガシッと手を掴まれた。


「エイル。これは意味あるのか?」

「う、うん。次最後ね」


さて、どうしようか?


椿つばきちゃんの唇に近付くと……


ガシッと顔の両側を掴まれ、強引に唇を重ねて来た。

「んーっんーっ!」

バシャバシャと湯船で暴れるが離してくれない。

「んーっぷはぁ」


……魔力感知を獲得しました。


「あ、ありがと……魔力感知覚えたよ……」

これ以上は身の危険も感知したよ。


「なんと!ズルい奴だな。スキルだけじゃなく、私の初めても奪うなんて♡」


「ち、違うだろうが!奪って来たの椿つばきちゃんからだし!」


ちょっと妙な思い出と共に魔力感知をゲットしたエイルだった。





◇一方その頃


マリーの古城からスピカより早く旅立ったレグルスは、町の入り口にたどり着いた。既に二週間は経っていた。


「ようやく着いたみてぇだな!」


レグルスは近くを通った男に声をかける。

「おい!おっさん!剣聖は何処にいるんだ?この辺にいるんだろ?」



「ああん?何言ってんだ兄ちゃん。この町に剣聖様なんていねぇよ?」

男は急に声をかけて来たレグルスに答える。


「なんでだよ!セイコマルクだろう?」


「いや、ここはサクルだよ。港町サクル!」


「クソっ!何処で間違えた?ちゃんとフォーク持つ手の方向で来たんだけどなぁ」

腕を組み小首を傾げるレグルスだが。


左右と東西南北がごちゃごちゃになっている事に気付いていなかった。


「兄ちゃん大丈夫か?セイコマルクはずっと北だぞ!分かるか?北!」


「北は……?」

レグルスは右手と左手を交互に見て、考えているが、分からないようだ。


「兄ちゃん。とりあえず、あっち行けば山見えてくるから、山に向かって行けば北だよ」


「おお!山に行けばいいんだな?良し任せろ!おっさん!ありがとう!強く生きろよ!じゃあな!」

レグルスはそう言って再びセイコマルクへ向けて走りだした。


「あの兄ちゃん、海神様よりバカかもしれないな……」



十二天将の目論見は未だに進まないのだった。

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