第4話『開戦前夜』
◇デストロイ要塞
デストロイ要塞は魔族領と人族領の境にある、魔界の門の様な存在だ。
デストロイ要塞と人族領に挟まれた草原は死の大地と呼ばれている。
邪神戦争後300年間、魔族はデストロイ要塞の前にある戦場となっている死の大地で防衛を繰り返していた。
魔族達からすれば、人族が攻めて来るから守っている。
それだけである。
今時、世界を征服しようとか、領土を増やそうなんて阿呆らしい。というのが、先代魔王ラファエルの考えだ。
先代魔王が不慮の事故で死に、ミカエルが継承する事になった。
ミカエルの考えは完全なる平和。
対話による戦争の終結を望み、4カ国の話し合いの末、休戦協定は結ばれたのが1年前だ。
そこまでは良かった。
とりあえず、平和になった訳だから、魔族領を出て本来の目的、咲野くん探しを始めた。
実際の所、家出同然で内政は母サクヤに丸投げして姿を眩ませたのではあったが……
帝国がまさかの侵攻開始である。
一応は領内を抜け出すついでに砦を改築して、近代的要塞にし、万一に備えた。
ミカエルの知識の中では、これ以上の強固な造りはないと断言出来る要塞だ。
帝国一国で攻略出来る筈はない。絶対にない。
だが、帝国だけなら無理と言ったスピカの一言が、ミカエルの中で、帝国を裏から操る存在がいる事を匂わせた。その可能性は極めて高い。
何故ならば、如何に帝国であろうと、休戦協定を破ってまで魔族に対し侵攻を開始する利点がない。
裏で操る存在が何者か知らないが、スピカは恐らく、そちら側だろう。
それよりも帝国なんて、サッサと潰して、エイル達とまた一緒に冒険がしたい。
そして、リュウタロウを殺したい。
デストロイ要塞には魔族軍5万が集結していた。
通常時は約三千の兵で防衛にあたっているが、今回は5万である。
勇者参戦以来の大規模な布陣だ。
そして魔王軍幹部は全員招集された。
そして……
デストロイ要塞内部に設けられた壇上にはミカエルの姿があった。
血の様に赤い軍服姿で、凛とした雰囲気がミカエルの美しさを際立たせる。
「……今日まで、この要塞を、我ら母国を守り続けた、諸君らの働きに満足している。
我々魔族は、この地を300年に渡り、守り続けて来た。
先の戦の後、私は人族と対話による戦争の終結を試みた。結果は皆も知っての通り、休戦協定は結ばれた。
だけど、それは帝国によって破られた!
これでは、戦争は終わる訳がない……
対話で駄目なら潰すのみ!それが我々魔族の真の平和を勝ち取る方法だ!
私は戦争の無い真の平和を実現する事を誓う!
その為に、皆の力を貸して欲しい。我々は今は戦わないと平和は手に入らないんだ!私が、このミカエル・デスラーデが帝国を粛清する!同胞よ!戦え!自らの未来のために戦え!
明日、我が軍は帝国に対し侵攻を開始する!
存分に暴れろ!……以上だ」
「「おぉぉぉぉ!」」
「ミカエル様万歳!」「我らが魔王ミカエル様!」
「ミカエル!ミカエル!ミカエル!ミカエル!」
なり止むことない拍手と喝采が要塞に響き渡る。
そして、国歌の大合唱が始まっていた。
カツカツとブーツの音を立て壇上を降りる。
「ご立派です、姫様!いえ、ミカエル陛下♡」
「やめてよ、ジス。陛下とか言われるのはまだ、馴れない。あー緊張した……」
手の震えが止まらない。人前に出て演説とか生徒会長じゃあるまいし、普通は聞く側だよ。
「四天」
司令室に入り、私は最高戦力である四天王を呼んだ。
「炎の未亡人サクヤ、御身の前に!」
「獄炎のベリアル!御身の前に!」
「死者王シピン……御身の前に……」
「…………」
「ミカエル様、四天揃いまして御座います」
傍らにいるジスが告げる。
「うん。よろしい。明日からの作戦指揮は母様宜しくお願いします。私は前に出て暴れます。それと母様……未亡人アピールいらないから」
「あら、未亡人なら男がよって来るかと母さん思ったのだけれど……まだまだ現役で行けるかしら?」
「あの……戦場で男漁りはしないでね」
「それと、ミカエル様。バースは里帰り中の為、間に合いませんでしたので、代わりに、それっぽい竜を代役にしております」
ベリアルが衝撃発言をした。
よく見ると首からネームプレートを下げていて、汚い文字で『邪竜バース』と書かれている。
「偽モンかよ!通りでちっさいなぁとは思ってだけど……要らなくない?」
邪竜の里の所在も気になるが、居ないなら仕方ない。
そもそも竜族って里あるの?
「まぁ、バースなんて居なくても、この四天最強のベリアルがおれば勝ったも同然!」
「……とりあえず明日の作戦は?帝国の兵力は?ルーさん説明してくれる?」
ミカエルに指名されたのはデストロイ要塞司令のドワルデス将軍ではなく、彼の側近で実家が農家のルー・ペタジーニであった。
ルー・ペタジーニはミカエルが6歳の時に提案した義務教育制度による学校の一期生の卒業生であり、才能溢れる若き士官だ。
ミカエルの方が年下ではあるが、ミカエルの秘蔵っ子の様なものだ。こういう場面の為に育てたと言って良いだろう。
基本的に魔族は教育が行き届いていないのだ。
超脳筋の集まりみたいなもので、基本的に力押しの戦略で、情報戦と言う概念が無い。
突っ込んだらたくさんいてビックリしました!みたいな感じだ。
「僭越ながら小官が説明させていただきます。まず帝国の駐屯地である、連合国砦ですが、現在の司令官バルバトス大将。駐在している戦力は二個師団相当です。歩兵12000、範囲6000、魔導兵4000、騎兵2000。移動式大砲が80門、固定砲台8門…それと剣聖シズカが先日、砦入りしています 」
「剣聖シズカ……面倒ね」
別に戦力的に面倒な存在と言う訳では無い。
死なれたら面倒なのだ。
死んだら死んだで別に良いけど、結界石だけは回収しなければならない。
アルテミス復活を目論む存在の手に渡るのが困る。
「ルーさん、良く分かったわ。楽観視出来る戦力差では無いみたいね」
「とにかく今日は冷えるから風邪引いて明日休むとかしないように!帝国の皆さんも風邪引かない様に暖めてやろうかしら?」
「ミカエル様!その役目是非私に!」
「ジス……程々にね♡」
◇連合砦帝国軍司令部
「デストロイ要塞に魔王軍が集結しているだと?」
「ええ、ただいま戻りました斥候からの情報です閣下」
帝国軍第一軍バルバトス大将は自室でデストロイ要塞をどのようにして攻略するか練っていた所だった。
あの忌々しい堅固な要塞で多くの戦友を失った。
無謀とも言える突撃作戦はことごとく失敗し、戦果も挙げれず最近は降格人事が怖いのだ。
「フハハ!やっとやる気になったか魔族のゴミ共め!」
これは汚名返上の好機!敵兵の撃墜スコアでも稼いでおけば、無戦果ではない。大将首の一つでも大戦果だ。
剣聖もいる。これなら何とかなるんじゃないか?
そんな事をバルバトスが考えていた時だった。
「敵襲!」
外から銃声と爆発音が聞こえた。
「夜襲だと?敵の数はどのくらいだ?」
連合砦の外壁の上に桃髪の女が一人、帝国軍駐屯地を見下ろしていた。
闇に紛れ一人で夜襲を実行しているのはジスだ。
「炎弾……この中で一番燃えそうな場所に飛べ!」
ジスは火炎魔法を並列展開し、片っ端から燃えそうな所に火を放っていた。
「居たぞ!外壁の上だ!撃て!」
タタタッ
「フフッ」
向かって来る銃弾を持っていたククリナイフで全て弾き落とすと、帝国兵の中に飛び降りた。
「お、女?!」
「怯むな!女だろうが魔族だ!殺せ!」
帝国兵が驚くのも無理はない。
襲撃者は戦場に似つかわしくない可憐な少女で尚且つメイド服なのだ。
只、人と違うのは、その頭に生えた小さな角と背中にある黒い翼が、魔族であると物語っていた。
「き、貴様!何しに来た?」
勇気ある帝国兵が質問とかして来る。
「何しにって?ミカエル様が、今夜は冷えるから風邪引かない様に暖めて来て♡って」
悪戯っぽい笑みで素直に答えるジスを帝国兵は絶句するが、駐屯地は大混乱だ。
瞬く間に帝国兵に囲まれるが、余裕の表情は変わらない。
「こういう時に数を減らす!」
ジスがククリナイフを両手に持ち、帝国兵達を切り刻んでいく。
「あっはは♡雑魚ぉ!雑魚♡雑魚雑魚っ!」
狂気に満ちた笑顔が、血飛沫を上げながら帝国兵を人形の様にバラバラにして行く。
「ねぇ♡もっと♡来てぇ♡あははは♡」
ジスが30人程切り刻んだ時。
「そ、そこまでよ悪党!」
まるで正義の味方みたいなセリフで颯爽?と現れた栗色の髪を無造作に下ろした少女が、刀を構えて現れた。
「シズカ様っ!……!?」
帝国兵達が剣聖シズカを二度見する。
「私は剣聖シズカ!大人しく投降なさい!さも無くば斬る!」
その顔は凛々しく整った顔立ちであったが……
「あなた、なんてはしたない格好してるのかしら?」
「え?」
剣聖シズカはジスに言われて自身の格好を見て驚愕した。
どれだけ慌てて飛び出して来たのだろうか。
上のシャツはボタンを付け間違えて二つはズレており、下は下着姿で、靴はサンダルを右と左を履き間違えてる始末だ。
「ひょっとして、お楽しみ中だったならごめんなさいね♡」ジスは艷絶な笑みを浮かべ剣聖シズカを見る。
「ち、違うわ!ちょっとお風呂に入ってたの!本当なの!」
剣聖シズカは身振り手振りで周りの兵に説明するが、兵達は勝手な妄想と目の前の剣聖シズカの下半身に釘付けだ。
「はぁ、今日の所はこれで退散するわ。明日、お前らは至高なる魔王様が降臨なされる様を見届けて死ぬ事になる!せいぜい最後の夜を楽しむがいい!」
ジスはそう言って黒翼を広げ羽ばたき、連合砦を去った。
明日、魔王が来る。
その一報はバルバトス大将に速やかに報告された、
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