第3話 『貧乏大家族』
スピカはマリーの古城から帝国に向かい、10日程でリュウタロウの屋敷に着いた。
「ただいま戻りましたーって、これは一体?!」
居間に入るなり、見た事のない情景に驚愕する。
3台のゆりかごにベビーカー、ベビーグッズの数々が部屋を占拠しており、ゆりかごの前でリズがぐったりしていた。
「リズ!大丈夫ですか?一体何が?」
慌ててリズに駆け寄り、声をかける。
「ス、スピカさーん!おかえりなさいにゃー……」
酷く疲れた様子で目にクマが出来ていて虚ろな表情だ。
体力自慢のリズがこんな状態は今まで見た事がない。
どうやら元メンバーの3人、マミヤ、ユリア、リンが、押しかけて来たらしく、共同生活が始まり、一気に大家族になってしまった様だが……
その当事者達が見当たらない。
3人の子供達をリズに預けて一体どこへ?
どうやらリュウタロウは生活の事を真剣に考えて金を稼ぐと言って、カジノに行ったらしい。
その心意気は大いに成長したと言いたいが、カジノはどうだろうか?
母親達は、元々高ランクの冒険者だったのでギルドに向かい、そのままクエストに行ったきり帰って来ないそうだ。既に3日程経っている。
で、今現在はリズが1人で、子育て奮闘中と言うわけだ。
「リズ、私が代わりますので、休んでください」
「た、助かるにゃー……」
ふらふらと2階の寝室にリズは向かって行った……
とりあえず、子供達は今は寝ていますね。
しかし……
「可愛いなぁ……」
自分が言うのも何ですが、天使みたいですね!
私、天使ですけど!
今は擬似母親プレイでもして癒されたいですね!
暫くは単独行動は出来ないかもしれないですが、仕方ない。だって子供達を面倒見なければならないから仕方ないですね〜。
スピカは自分にそう言い聞かせ、使徒としての行動を一旦逃げた。
エイルとの約束もあるので、上手い事時間を稼ぐ事にした。
とはいえ、レグルスはかなりの方向音痴と頭の出来が宜しくないので、到着は未定だ。
スピカとしては、アルテミス復活が目標だ。
それは変わらない。
その為に必要な事は、剣聖の持つ結界石の奪取及び破壊。剣聖は3人。
そして、封印を解く鍵として勇者が必要。
勇者に関しては、ある意味手の内にあると言っていい。
問題は動かすのが面倒な人物だと言う点だが。
勇者を禁断の地に連れて行くのが大変そうだ。
禁断の地は魔族領内にある。
魔族領内に入るには、やはりデストロイ要塞が壁だ。
帝国を操り、攻略させて見たものの、厳しいらしい。
使役した黒竜を向かわせた筈なんだが……
辿り着く前に消息を経った。
正直手詰まりな状況だ。また何か考えないと……
スピカの中で状況は更に変化しつつあった。
アルテミス復活後、勇者リュウタロウは用済みで、殺すつもりだった。彼が人畜無害な存在であれば、殺すつもりは無かったが、百害あって一利なし。
迷惑が剣と腰振って歩いている様な勇者だ。
正に死ねばいいのにと言うのが、女からするとしっくり来る存在だ。
今でも、エイルにした事はスピカは同じ女性として許せない。それもある。
だが……子供達。
あんなクズでも、この子供達の父親だ。
この手で奪う事は気が引ける。
かと言ってエイル達にリュウタロウを殺されるとアルテミス復活は消える。
スピカはリュウタロウを命懸けで守らねばならない。
「なんだか複雑なポジションにいますね……」
すると、玄関が開く音がして、スタスタとリュウタロウが居間に入って来た。
「……ただいま」
無表情で尚且つ、肩を落として覇気のない挨拶をして椅子に座った。
「リュウタロウ様……あの、スピカ帰りましたですけど……」
まるでこちらに気付いていない様な雰囲気でしたので、帰って来ましたアピールをする羽目に。
「あー……スピカか。おかえり……」
虚ろな表情で、こちらを見てますが、心此処に在らずです。一体どうしたのでしょうか?
その時、玄関からガヤガヤと話し声か聞こえて、例の3人が帰宅しました。
「ただーいま!あれ?スピカじゃん!えへへ、お久〜♡」
ユリアさんが、足取りおぼつかない感じで抱きついて来ました。
「ユリアさん!お久しぶりです!うっ!お酒臭いですよ〜」
どうやら、他の2人もかなり、お酒を飲んでいる様子で、なんだか上の空で、こちらを見ています。
「遅くなりましたが、改めて御出産おめでとうございます!皆さんの赤ちゃん達可愛いですね〜」
正直誰がどの子の母親かは分かりませんが……
「あはは、ありがとう。いきなり大家族になってて、驚いたと思うけど、また宜しくね」
「……みんな、聞いてくれ……」
突然リュウタロウ様が、口を開きました。
「全財産を失った……」
「「「「は?」」」」
「カジノで全て失ったんだ!ちくしょう!あのカジノめ、絶対イカサマしてやがる!」
「ちょ、ちょっとリュウタロウ様、全財産って、あの2億ですか?」
「そうだ。2億全てだよ!」
あちゃー、この人、馬鹿ですよ。イカサマ云々の前に2億注ぎ込むのが信じられないです。
「なんでまた2億も……使ったんですか?」
「取り返せると思ったんだ……」
あー、ダメなタイプの人ですね。
典型的な賭け事で身を滅ぼす人の思考です。
こういう時に不必要な負けず嫌いを発揮してどうするんですかね?
「ちょっとリュウタロウ!これからどうするのよ!」
「私たち、2億あるのあてにしてツケが溜まって……あっ!」
「ちょっと馬鹿!それは今言っちゃダメって……」
「なんだって?ツケがあるだと?お前らクエストしに行ったんじゃないのか?説明しろ!」
マミヤ達3人は、ギルドに行くと嘘をつき、若い男性達が勤める飲み屋みたいな場所で豪遊してたようです。
三日三晩酒池肉林の宴をして、代金はツケにして帰って来たと。
子供達をリズに押し付けて、豪遊して、借金まで……
フォローのしようがないです。
「ふざけるな!このあばずれ共が!大体本当にボクの子か?何処のヤツの子か分からんだろ!」
いや、バリバリあんたの子供達ですよ。
全員黒髪です。
「そんな言い争いしてる場合じゃありませんよ?この状況を何とかしないと、いけませんよ。マミヤさん、ツケはいくらでしょう?」
「500万ジル……」
俯きながらマミヤさんが驚愕の金額を言いました。
「500万だと!馬鹿かお前らは!ボクが稼いだ金をなんだと思ってるんだ!」
リュウタロウ様……稼いだお金じゃないです。
セブールのアーロン王から奪った、税金です。
しかも、カジノで全て使いきりましたよね?
500万が可愛く見えます。
「じ、自分は2億使っておいて何言ってんのさ!リュウタロウがカジノで負けなければ良かったんだよ!」
醜い争いが始まりました。
ですが、リュウタロウ様が魅了を使ったのか、マミヤさん達は大人しくなり、リュウタロウ様をうっとりとした眼で見ています。
どうやら丸く収まったみたいですね!良かった!
いや、良くない。
何も解決してない。この金欠を何とかしないとミルク代にもなりません。
「そうだ!スピカ達みんな娼館で働けば何とかなるんじゃないか?」
名案だろ?とでも言う様な自信たっぷりな表情で是非を問うて来ました。
「リュウタロウのためならぁ、私たちは構わないよ♡」
マミヤさん達は完全に魅了にやられてますね。
「なんならここを売春宿にするか!HAHAHA!」
このクズは簡単に私達を売るんですね。
最低です。
「リュウタロウ様!それはダメです!それでも勇者ですか?」
「うるさいな!もう勇者じゃないよ!全部あのエイルが悪いんだ!エイルがボクに従っていればこんな事にはならなかった!」
遂にエイルさんのせいにし始めましたね。
エイルさんは被害者ですよ。リュウタロウ様がシャルロット王女を人質にしなければ、こんな事にはならなかったはずです。
「リュウタロウ様。エイルさんは関係ないですよ。財産を失ったのはリュウタロウ様の責任です。とにかく子供達を食べさていく事を最優先に考えましょう。借金は私が何とかしますから、リュウタロウ様には働いて頂きます!幸い、帝国に伝手がありますので宜しいですね?」
「な、なんでボクが、」
「宜しいですね?」
「……分かったよ。働く……」
◇
その夜
帝都の城の最上階に再び使徒が舞い降りた。
「んしょっと」
皇帝の寝室に窓から侵入して来た使徒はゆっくりと皇帝の眠る寝台にそっと近づいた……
「もしもーし」
寝台に座り、眠る皇帝を起こす。
「!……使徒様!」
慌てて起き上がる皇帝……ニコライは深夜の訪問者が使徒だと理解する。
「どーもお久しぶりです皇帝さん。砦攻略は進んで無いみたいですが……」
ちょっと意地悪してみます。
「も、申し訳ありません、奴ら砦を強固な要塞に造りなおしたそうで……」
「……それでどうするんですかね?」
「つ、次の作戦で剣聖シズカを投入する予定です!次こそは攻略してみせますので、見捨てないで下さい!」
「そうですか……剣聖を。なら次は期待してますね♡」
「か、必ず期待に応えてみせます!」
「ふふ、いい子。それと幾つかお願いがあるのですが……500万ジル貸していただけますか?」
「はい?」
「ダメ?ですか?」
「いえ、使徒様の頼みなら何でも聞きますが、50億くらいならすぐ用意しますよ」
「50億!そっ、そんなにいらないです!本当に500万で大丈夫です!」
「……そうですか」
何故かガックリと項垂れる。
「ありがとうございます!これはお礼です」
そっと皇帝の唇に唇を重ねた……
◇
翌朝
日がまだ登り始めた紫色の空を羽ばたき使徒スピカは屋敷へと戻った。
とりあえず借金とリュウタロウ様の仕事は何とかなりましたね。
汚れ役は任せろ!ですね。
帰宅し、居間に入ると……
リュウタロウとマミヤ達は全裸で寝ていた。
そこら中に服や下着が散乱しており、悲惨な光景だった。
「人族は反省って事を知らないのかしら……」
スピカは持っていた、500万ジルの入った袋を床に落とした。
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