第2話『勇者剥奪』


 前方に黒いドラゴンが飛んでいる。

 黒いから黒竜とか?

 それにしても、俺はドラゴンに遭遇する確率高くないかな?

 赤竜に海竜、そして黒竜か……


 しかし今は、あの黒竜を倒すか倒せないかと言うよりも、あれが食べれるか、食べれないかの方が気になる。

 何せ食糧不足なのだ。

 あの肉があれば、暫くは持ちそうだし、狩るか!


 俺は雷電丸に柄に手をかけた、その時……


 黒竜の更に先から何やら高速接近して来る未確認飛行物体が、先に黒竜に接触した。


 その未確認飛行物体は持っていた武器の様な物で黒竜の頭に一撃を入れると、黒竜の頭は爆ぜた。

 そのまま、頭を失った黒竜は落下していく。


 一撃!たった一撃で撃破だと?


 その黒竜を一撃で撃破した飛行物体がエイルに迫る。


「エイル!」


「あれ?ミカさん?」

 黒い翼を広げ、髪は銀髪と黒髪の2色。

 瞳は紅眼と金眼のオッドアイの女性はミカエルだった。


「君が心配で来ちゃいました!」

 雪の様に白い顔の頬を少し赤らめながらミカエルは照れくさそうに微笑む。


「そ、そうか。俺も会えて嬉しいよ。でもさ、あのドラゴン一撃って凄い……ね」

 正直会えた嬉しさより、先程の一撃のインパクトが強くて喜びを表せない。

 一体どんな腕力してるんだ!


「あー……なんか飛んでたら邪魔だから釘バットで叩いたら死んじゃったみたいね。ウケる(笑)」


 邪魔だったとか理由で殺すとか酷い話しだ。

 いつか殺されるかもしれない……

 身の危険を感じたエイルだった。


「そんな事より、剣聖はどうしたの?」

 黒竜の死がそんな事扱いなのは少し黒竜に同情する。


椿つばきちゃんならまだ寝てるよ。なかなか起きてくれなくて、辺りを散策してたら今って感じだよ」


「そうなんだ。ご飯食べてるのちゃんと?」


 俺は昨日のご飯が油揚げ1枚だった事。

 そして食糧が無くて困っている事を説明した。



 俺達は一度椿つばきちゃんを起こしに家に戻った。


 案の定、まだ剣聖は夢の中だった。


「起きろ!このダメ剣聖が!」

 ミカさんが寝てる椿つばきちゃんを蹴り飛ばした。


「ぐぼぁ!……??」

 状況が理解できず、目をシパシパしてる椿つばきちゃんの髪を掴みミカさんが顔をおこす。


「おい!起きろ!」


「はい……」

 完全に萎縮し、狐耳が垂れ下がる椿つばきちゃん。

 剣聖相手に強気なミカさん。

 そもそも、寝込みを簡単に襲われるとか剣聖としてどうなんだろう。


「それにしても、酷い家ね。うちの魔物兵の家の方がまだマシなくらいよ。人の住む所じゃないわね。少し改装させて貰うわよ」


「私の家を勝手に変えないでくれ!」


「あ?」

 ミカさんが今にも殺しますよ的な眼で睨む。


「すいません、宜しくお願い致します」

 剣聖よわー!


 そうして、匠によるリフォーム工事がはじまりました。


 隙間だらけの壁は内側から土魔法によるコーティングを施し修繕した。

 玄関は二重にする事で、開閉による室温変化を抑えた。


 屋根はよく見ると穴だらけだったので全撤去し、先程倒した黒竜の鱗を使用して作り直した。

 ミカさん曰く、槍の雨でも防げるらしい。


 土間だった所は石畳にして水はけを良くした。

 土釜が並んでいた部分はミカさん特製のシステムキッチンに早変わり。

 火の魔石を使用したIHヒーターだ。

 冷蔵庫も勿論ある。


 居間は畳を残し、ちゃぶ台がコタツに変わった。

 風呂とトイレは既に俺が作り直してあるので、そのままだ。


 こうして匠のリフォームにより椿つばきちゃんの家は生まれ変わった。


「おお!ミカエルは凄いな!流石は魔王だな!」

 あんなに嫌がっていたのに、今は目を輝かして尻尾をフリフリしている。

 ヤバい可愛い。


「助かったよミカさん!これなら生きて行けそうだ」


「問題は家より剣聖にありそうだけど。とりあえずご飯作るわ。さっきのドラゴン使いましょう」


 その後はミカさんのドラゴンを使った料理を堪能して過ごした。残った分は冷凍庫に入れてくれた。




「じゃあ、私はそろそろ帰るね。エイルちょっといい?」

 ミカさんに誘われてちょっとお外に2人で出た。


 外に出るなり唇を重ねて来てビックリしたが、されるがままに、身を任す。

 そしてお約束の吸血タイムである。

「ん、カプっ、ちゃー♡」


 吸血されるとなんかモゾモゾするのはまだ慣れないなぁ


 吸血のあと、軽く唇を重ねたら血の味が少しした。


「うん!充電完了!またエイル切れになったら来るわ」


「う、うん……またね」


 漆黒の翼を広げて飛び去るミカさんを見えなくなるまで見送って、家の中に戻ると、椿つばきちゃんがニヤニヤしながら見てた。


「恋する乙女の顔になっておるぞ〜。可愛い奴め」


「え、そ、そんな事ないし!普通だし!」

 慌てて否定するが、多分更に顔を赤くしてしまったようだ。

 やっぱり俺は女の子ですかね。

 前世はナイスガイだったつもりなんだが、今は恋する乙女ですか……


 そして日は暮れていった。


 あれ?今日結局なんもしてませんが、修行大丈夫か?

 そして本日も椿つばきちゃんに抱き枕にされて寝ました。




 ◇天使達のアジト(マリー所有)


「ねぇねぇ、みんなはアルテミス様が帰って来たら何をしてもらう?」


「俺は頭悪いからなぁ、やっぱ頭良くしてもらうかな」


「その発想が既に馬鹿なんだなぁ」


「んだと!じゃあマリーはなんだよ?」


「あっしはアルテミス様にあっしの作った服を着てもらうんだ!はぁはぁ……」


「スピカは?」


「私は……愛する心が欲しいです……」


「スピカちんは愛されてばかりだもんねー」


「お、俺が愛されてやってもいいぜっ!」


「ごめんなさいレグルスは無理……」


「まーた振られた♡何度目?ねぇ何度目?ねぇねぇ今どんな気分?」


「100回くらいだろ?」


「いや、1000は行ってるだろ」


「そんなに?アルゴはどうしたいんだ?」


「私は……それより、この食事は美味いな」

 アルゴはあまり聞かれたくないのか話を逸らした。


「スピカちんは料理も上手ですなぁー、流石嫁にしたいランキング一位の女や」



「一応これでも元主婦ですからね。これくらいなら出来ますよ〜」

 褒めて貰えたのはやはり嬉しいのか顔が緩む。


「「なんだって!」」

 野郎2人が驚き立ち上がる。


「お、お、おい!い、今の話は本当か?何処のどいつだ?殺してやる!羨ましいぞ!」

 レグルスがかなり動揺してる。


「…………」

 無言だが、アルゴも動揺してワインのグラスを倒した。


「もう200年は前の話ですよ〜、今はもう亡くなったわ……」


「女の過去には色々あるもんですよ」


「スピカちん、とにかく飲んで話して!詳しく聞きたい!天族と人族の禁断の恋!ムハー!野郎共!酒持って来いや!」


 十二天将達の昔話は夜遅くまで続いた。


 翌朝


「んじゃ俺はサクッと剣聖殺って来るぜ!」

 レグルスは皆に見送られ剣聖ウメの所に向かうはずだったが。


「レグルス……場所は分かっているの?」

 スピカが心配そうに問いかけた。


「おっと。そういや知らねえな何処だ?」


「セイコマルクよ」

 呆れ顔でスピカが剣聖が滞在している亜人の国を伝えた。


「よし!セイコマルクだな!じゃあな!」

 再び手を振り別れようとするが……


「セイコマルクは逆方向よ」


 こんな調子では剣聖に辿り着くのはいつのことやら。




 ◇帝国某所リュウタロウの屋敷


 リュウタロウは酷く荒れていた。


「くそっ!なんでボクがこんな目に合わないといけないんだ!俺は勇者だぞ!それが称号剥奪だと?ふざけやがって!散々人をこき使っておいてこの仕打ちとは!許せん、セブールも教会も潰してやる!」



 リュウタロウはファミリア王国王女拉致監禁変態容疑で聖教会から勇者の称号を剥奪された。

 女神アチナが降臨し、聖教会に直接働きかけたためだ。

 勇者であった時の犯罪は罰する事が出来ない法律になっているため。投獄は避けれたが、称号を剥奪されたので今は無職の平民である、晴れて召喚前と同じ職業になった。


「しかもなんだ!拉致監禁変態って!変態は犯罪か?ちくしょう!勇者なら他人の家に入って金目の物奪ったり出来たというのに!」


「いくら勇者でも他人の家は入ってはダメにゃー」

 リズが荒れるリュウタロウに阿呆を見る様な顔でツッコミを入れるが、リュウタロウは気にしない。


 そんなリュウタロウに更に追い討ちをかける現実が現れる。



「遂に見つけたわよ!リュウタロウ!」

 ズカズカと勝手に屋敷に3人の女性が入って来た。


 3人の女性達はリュウタロウの元パーティメンバーだ。

 女騎士マミヤ、魔術師ユリア、武闘家リン。

 その3人が揃いぶみで尚且つ皆、赤子を抱えている。

 勿論全てリュウタロウの種から生まれた子である。


「「「養育費払いなさい!」」」



 リュウタロウが勇者の称号を失った事で、国から出ていた補助金がストップしてしまったらしい。

 これからはリュウタロウ自身が責任を負い、面倒を見なくてはならない。


 散々女の子達を貪って来たツケがやって来たのだ。

 ただ、蓄えはあるものの(セブール王から奪った2億)ずっと引きこもった生活をする訳にはいかなくなりそうだ。


「今日から私たちもここに住むから宜しくねパパ!」


 3人が子をリュウタロウに押し付ける。


「……どうしてこうなった?」


 完全に自業自得である。


 セブールではリュウタロウは王女拉致監禁変態のレッテルを貼られているらしく、リュウタロウの子はどんな扱いを受けるか分からないので3人は逃げる様に国を出て来たそうだ。


 まさに、女神アチナの娘エイルに酷い事した天罰が下ったリュウタロウだった。

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