幕間 『スケベール家長女』
エリカ・スケベール(12)は気になる人物がいた。
最近士官学校に編入して来た、リオと言う亜人の少女が気に入らない。
士官学校は原則的に貴族で無くては入学出来ない。
平民は基本、兵学校に入る。
将来の佐官や、将官を目指す士官学校と、陸兵や騎士団員を目指す兵学校では、スタート地点が違うのだ。
だが、例外がある。特別推薦枠による、平民のクセに士官学校の入学許可制度だ。
だが、これは異例中の異例で、前にあったのは10年も前の出来事だ。
その時の特別推薦枠はあの剣姫セリス・アレクサンドロワだ。
王国騎士の中でも五指に入る実力は私達、女生徒の憧れの存在だ。
そのセリス以来の特別推薦枠でしかも、セリスの推薦で入って来たリオは注目されていた。
「エリカ様!アイツです!」
取り巻きの生徒が、その平民を指さした。
その先には少し尖った耳が生えた犬みたいにも見える亜人の少女がいた。
私は彼女を観察する事にした。
朝、私は早起きして、馬車で登校して彼女が来るのを待った。
だが、遅い。遅すぎる。もう登校時間ギリギリだ。この私を待たせるとは無礼な平民め!
……すると、通りの方から物凄い速度で走って来るリオがエリカを越え、柵を越え通り過ぎて行った。
「な、なんですって!」
速い。流石は亜人。身体能力は良いみたいですわね!
◇教室
退屈な座学だが、士官になるには武力よりも大切な戦略授業ですわ。
この授業では過去の戦史を分析したりして、個人の見解と実際に起こりうる場面を想定し、頭を鍛える大切な時間ですわ。
しかし、あの亜人は全く話し聴いてませんね!
尻尾が垂れ下がっていると言う事は……
苦手なんでしょう。
所詮は平民。人を使う等は出来ぬ存在ですわ!
ジリリリリリリリリリリ
授業終了のベルが鳴る。
昼休憩だ。
昼食は食堂で摂るのが普通ですが、あの平民はどうやら弁当を持参しているようですわ。
驚いたのは弁当箱が5つもあった。
食べ過ぎでは?
だが、あれだけ食べるのにスリムな体形が羨ましいですね。
しかし、なんて美味しそうに食べるのでしょう。
「随分と沢山召し上がるのですね!」
私はついに話しかけてしまいたわ。
「……欲しいのですか?」
リオは弁当を隠す様に警戒している。尻尾がピーンと立っていた。
「……別に……」
思わず、冷たい返答をしてしまいたわ!
ごめんなさいね!別に嫌っているわけじゃないのよ!
◇数日後
今日は授業参観!
とは言っても、私の父は忙しいらしく、代わりに執事が見に来ておりますわ!
他の生徒の親は派手な服を着て目立とうとしている方が多いですわ。見栄を張るのも貴族ならではですわね。
その中でも、違う意味で目立っている保護者?を発見しました。珍しい模様の衣服を着ていてるのですが、それよりも異様なのは黒いメガネをかけている金髪のエルフが、腕組みをして立っておりましたわ!
メガネが黒くて前が見えるのでしょうか?
なんとも珍妙な出で立ちで、周りの保護者は引き気味ですわ。
見るとあの平民獣耳のリオが、その怪しいエルフを見て嬉しそうな顔をしてますわ!
尻尾がヒュンヒュンと左右に揺れております。
まさか!セリス様でしょうか?
あの平民獣耳娘を推薦しただけでなく、保護者としても、あの平民獣耳娘を推しているとは!
……羨ましい限りですね。
因みに、授業参観に行きたいが、目立ちたくないとセリスから言われたエイルが作ったサングラスだが、特に認識阻害などの付与はされておらず、本当に単なるサングラスだ。セリスはエイルが作ったのだから大丈夫だと思ってかけていた。
異世界にサングラスなんて無いので逆に目立っている事など、エイルは気付いてなかった。
1限目が終わり、2限目は戦闘訓練所に移動しました。
今日は授業参観と言う事で教官と模擬戦がメインとなっておりました。
模擬戦と言っても生徒の成長を保護者に見せる程度の物で、退屈な物でした。
ですが、あの平民獣耳娘の時は体術教官が本気になっておりました。
「始め!」
開始と同時にリオの突進からの肘打ちを両手でガードした教官が数メートル吹っ飛ばされる。
そのあまりの速さに皆が驚愕するが、リオの追撃は止まらない。
「だっ!だっ!だっ!」
リオの蹴りを左手で防ぐ教官も顔をしかめる。
たまらず、反撃するも、難なくリオに躱される。
流石は現役のシルバーランク冒険者で『銀の翼』メンバーは伊達じゃないですわ。
赤龍を討伐したエイルという少女をリーダーとする『銀の翼』は今一番注目されている、冒険者パーティだ。
近く、王都で叙勲されるらしいですわ。
兄のガッツーリが確か護衛役になったと父がおっしゃっておりました。
兄の剣の腕で護衛役が務まるとは思いませんが、道中セリス様と御一緒等、羨ましいですね。
士官学校の教官レベルでは既にリオの相手は務まらない。リオはスタミナと腕力こそ高くはないが、敏速に関してはセリスを凌ぐ。エイルの剣も躱す事が出来る。
ただ速いだけでは無い。
リオは気配や魔力感知に優れている。
目で追って躱すのではなく、気配と相手の繰り出す攻撃に纏う魔力を察知し躱す。
高レベルの戦いにおいて魔力感知は必須である。
この世界の生物は基本的に全て魔力持ちだ。
魔法は魔力を具現化した物を放出する。
剣撃や打撃のスキルは魔力を力に変えて繰り出される。
つまり、より高いレベルの戦いは目に見えない域に達した戦いと言うことだ。
そんなわけで、教官ではリオに触れる事さえ叶わない。
やがて教官が疲れて降参した。
いつしか、私はあの平民獣耳娘に見とれてしまいました
この感情はなんでしょう?
もっと見ていたい。
これは、友人からはじめてみようかしら?
折角の学友ですもの!逃がしてなるものか!
よく見たら容姿も愛らしい顔してますわ!
将来が楽しみな逸材ですわね!
明日、勇気を出して声をかけてあげますわ!
翌日
「えー、リオさんは家庭の事情で王都の本校に転校しました」
なんですって!
追うわ!私も父に頼んで本校に行きますわよ!
待ってなさい!
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