第19話 『告白』

 魔族国デスニーランド


 この日、魔都はお祭り騒ぎだった。


 新たな魔王の誕生に国民達は喜びに満ち溢れていた。

 先代の魔王ラファエルの一人娘、ミカエルの即位は誰もが望んだ事であり、その実現に歓喜した。


 暗黒神デススデスを崇める暗黒神殿では今まさに

 降魔の儀が執り行われていた。暗黒神殿には、黒装束を身に纏った暗黒神官達が、暗黒神デススデスを召喚する為、詠唱を始める。


 降魔の儀。それは、創造の神より授かりし黒のコアを、次代の魔王へ授ける儀式である。

 黒のコアを授かりし魔王は、勇者と対の存在として魔界に君臨すべき存在となる。


 ミカエルは先代魔王の崩御と北方戦線での敗北、

 休戦協定での魔族の恭順を示す条件として、黒のコアの継承を放棄した。

 だが、帝国により協定は破られ、魔国は再び戦争を継続せざるを得ない事態に追い込まれた。

 これにより、ミカエルは黒のコアの継承を受諾。真なる魔王に即位し、帝国と人族に対し敵対する覚悟を決めた。

 その決意は帝国や人族に対する事もあるが、ミカエルの中では、エイルの事が大きい。

 勇者がエイルを狙うなら、エイルを守る力が必要だった。今の自分では勇者を倒すどころか、エイルを守る事すら出来ない。無力な自分を許す事が出来なかった事が大きかった。



 祭壇に、一糸まとわぬ姿で仰向けになり、暗黒神の降臨を待つ。



 やがて祭壇の後方の闇から暗黒神デススデスが降臨した。

 白金色の髪に金の瞳、頭にはちっさい角が生えた美しい女性だ。

「汝に黒のコアを授ける……」


 暗黒神デススデスはミカエルの心臓部分に手を当て黒い霧でミカエルを包む。

「ホイホイホーイ」


「……ぷっくく」


「(ミカエル!ちょっと笑わないでよ!)」


「(笑わせてるとしか思えないわよ!何そのコスプレ衣装!)」


「(ボクは真面目にやってるつもりだよ……これは○ン・キホーテで買って来たんだ)」


「(いいから早くしてアチナ!)」


「(ここでアチナって言わないでくれ!)」


「(はいはい)」


 なんとも締まらない2人だった。



 やがて、ミカエルの心臓が黒のコアに変換されると

 ミカエルの身体に変化が訪れた。

「うっ、はぁっはぁ……」


 頭髪は右半分が銀髪に、瞳は左眼が金眼になっていた。


 変わったのは見た目だけでなく。勇者リュウタロウと対等以上の闘いが出来る程に大幅に身体強化された。


 ミカエル・デストラーデは正真正銘の魔王になった。


 そして勇者リュウタロウをぶっ飛ばす準備が出来た。



 ◇ファミリア王国の王宮



 室内にはセリスら「銀の翼」メンバーとスピカだけになった。


「どうするっスか?」


「エイル……こんな事になるなんて……今は眠れ、私の胸の中で……」

 セリスはそっとエイルを抱きしめた。


「無い胸で何言ってるっスか?」


「なんだと!少し乳がデカいだけのお前に何が出来る!」


「セリスよりも乳で優しく包めるっス!セリスの胸じゃご主人様は安眠出来ねっス!床で寝させるのと変わらないっス!」


「わたしも多少は胸ありますよぅ!」

 ティファも主張し始める。

 ミカエルの不在をいい事に、誰がエイルに添い寝するかで喧嘩し始めるバカ3人はこんな時でも平常運転だ。

 シリアスな雰囲気は5分も持たない。


「やれやれなのです……」

 バカな大人を冷めた目で見る、ちょっと大人になったリオだった。



 ◇次元の狭間



「じゃ、機会あったらまた来るよ」


「そう滅多に来る場所じゃないが……貴様とはまた会える様な気がするのじゃ……息災でな」



「あ、そうそう!言い忘れて、おったが他の世界が……狙っ……」


 何だか気になる言葉が聞こえた様な気がするが、聴き取れ無かった……。



 ◇


「やったーっス!うちの勝ちっス!」


「くっ!無念……」


「……悔しいですぅ」


「何故勝てないのでしょう?」


 マリンがエイルの添い寝権を獲得した。



「もう離さないっス!」

 マリンはエイルの顔を自分の胸の間に挟み、抱きしめてた。


 とは言え、未だ意識の戻らないエイルを今後どうして行くか、話し合いが必要だと言うことすら、忘れてる銀の翼メンバーとスピカだった。


 ◇夜


「はぁ♡ご主人様ぁー、肌がすべすべっス!たまらんっス!」

 マリンはベッドで無抵抗なエイルを介護?と言うより、完全に自分の抱き枕にしていた。


 エイルは着ていた服はマリンに脱がされ、一糸まとわぬ姿でマリンに良いようにされていた。


「……あのぅ、隣で変な行為は困りますよぅ」

 同じ寝室で寝てるティファにはいい迷惑だ。

 睦あっている隣で寝れるわけが無い。

 いや、睦あっていると言うより完全にソロ行為だ。

 意識が無いのをいい事にエイルはマリンに使われている。


 ミカエルさんが、知ったら……なんて考えるのが恐ろしい。ミカエルは今や魔王なのだ。

 その魔王の大切な……?

 とにかくバレたらヤバい。

 ただでさえ、いつも八つ当たりの的になっているティファは、自身の身を案じた。



 深夜、エイルの身に異変が起きた。


 顔をマリンの胸に填めていてしばらくして……


「……苦しい……」


 気が付くと闇だった。

 だが、暖かい何かに包まれている。

 微かに心臓の鼓動がトクントクンと、聞こえる。


 息が出来ない。


 堪らず、顔付近にあった肉の谷から逃げ出す。


「マリン……か?」


 寝室の窓から月明かりが照らす肢体は青髪の美女を神秘的に映していた。

 だが、全裸である。


 隣のベッドを見るとティファがスヤスヤと寝ていた。


 どうやら無事に帰って来れたみたいだ。


 危うくマリンに殺されかけたが……


 スキル「次元移動」獲得しました。


 何か覚えたらしい。


 あと去り際に何か言ってたような?


「……まぁいいか」


 ベッドから起き上がり、自身の身体を確認すると、やはり全裸だった。

 衣服や下着が散乱していた。


「一体何された?」


 少し汗ばんだ身体に不快な感じがしたので、風呂に入りに寝室を出た。


 浴室の鏡を見ると髪がかなり伸びていた。

 肩に少しかかる髪。女の子みたいだ。

 いや、女の子だけど。

 髪が長いとより結城美佳ゆうきみかに見える。

 リュウタロウに引っ張られた髪、蹴られた顔、殴られた顔、そして殺された。


 リュウタロウを倒す。


 次は負けない。強くならないと。ベルちゃんの力で勝っても意味がないのだ。





 ガチャ


「エイルさん?」

 スピカさんが浴室に入って来た。


「あっ!スピカさん……心配かけました、それと色々ありがとう……」


「いえ、あ、お背中流しますよー」

 いきなり衣服を脱ぎはじめて、浴室まで侵入してきた。


「あ、恥ずかしいから!」

 慌てて制止するが、問答無用にわしゃわしゃと洗われました。


「一緒にお風呂なんて入ってたらミカさんに殺される!」

「えーどうしましょう?じゃあ黙ってる代わりに、一つお願い聞いて貰いましょう」


「う……変な事じゃないよね?」


「変な事?まさかエッチな事考えちゃいました?エイルさんは、おませさんですねー」


 おませさんて。

 あのー私実わ、中身23歳の男ですからね!

 多分スピカさんと同じ位の青年ですよ?

 そんな奴と一緒にお風呂入ってますが!


「……エイルさんは天族ですよね?」


「!…………」

 しまった!斜め上を行く質問に、対応出来ず沈黙してしまった!


「……やはり、そうでしたか。アチナ様の使徒かしら?」

 実は既に知っているけど、本人の口から言わせたい。意地悪かしら?

「……うぅ、はい……」


「リュウタロウ様には秘密にしておきますよー、それと、教えてくれたお礼に、私の秘密プレゼントします!」


 秘密?……だと!


 実は男ですとかはないよな?

 実は妊娠中とかリュウタロウに対する殺意ブーストですか?


「……私も天族なんですよねー、あはは、言っちゃいましたー」


「え?」


 わからん、さっばりわからん。

 今そのカミングアウトは何の意味が?


 一気に血の気が引く感覚だ。

 普通に考えて、殺られると思うのが適切だろう。


「私はアルテミス様の使徒。十二天将が1人、乙女座ヴィルゴです。大丈夫。今は殺したりしませんよ」

 ニコッと笑う顔が鏡に写る。


「何が狙いなんですか?」


 スピカさんは俺の頭を洗いながら、話し始める。


「私はアルテミス様の復活。それだけよ」


「それだけ?」


「ええ、それだけ。それだけで充分、他に必要な事なんてないの」


「なんでアルテミス復活させるの?世界に復讐?」

 スピカさんは頭を優しく流してくれた。


「さあ?私はただ、言われた通りにしてるだけよ?その先なんて興味無いの」


 言われた通り?

 他にもいるのか。


「私達の目的はアルテミス様復活。そのためだけの関係かしら?」


「だから、競争しましょうか?私達がアルテミス様を解放するのが先か。エイルさんが、リュウタロウを殺すのが先か?」


 何を言ってるんだろうか?


「ずるいです」


「ずるいかしら?」


「お……私はまだ弱いし、時間……かかるかもだし」


「あっ!そうでしたね!分かりました!その辺は考慮出来たらしますが、約束は私には出来ないかもしれないですよ?」


 何ともよく分からない。スピカさんにはあまりメリットも無い密約の気がする。

 今まで水面下で行動していた組織がいきなり「どうも!秘密結社です!」と言って来た様なものだ。

 しかも、これから悪い事しますから倒しに来てねと言う、フェアプレー精神丸出しだ。


「なんで、急に正体を明かしたんですか?言わずにいた方が目的を達成しやすいはずですよね?」


「私がエイルさんの事を気に入ってるからかなー」


「はぁ……」

 なんだろう、スピカさんの言葉って、どこか足らない感じがする。


「はい!交代!」


 その後、お互いの身体を洗いっこして風呂を出た。

 いきなり敵を公言して来た相手とまさかの、裸のお付き合いだ。ミカさんに知れたら……怖い。


「一応、2人の秘密って事でー」


 スピカさんは着替えて部屋を去って行った。



 皆はスピカさんの魔法で眠らされているらしく誰も起きて来ない。


 しかし……スピカさんが、アルテミスの使徒。

 使徒は複数いる。

 リュウタロウを殺したら勝ち?

 て事は……リュウタロウがアルテミス復活の鍵?

 わからない事だらけだな。

 考えても、スピカさんの裸体が出て来て頭回らないな!




 そして夜が明けた。


 結局眠れなかった。


 スピカさんの裸体のインパクトが強くて悶々としてしまいました。流石、神の造形って感じね。



 ガチャ


「エイル!気が付いたのか!良かった……」

 セリスが一番に起きて来て、抱きしめてきた。


「セリス……ただいま。心配かけてごめんね」


 そのあとは

 マリン、ティファ、リオの順で起きて来て。皆に抱きつかれ、もみくしゃにされた。


「やっぱうちのオッパイの力っス!」

「くっ!否定できん所が悔しいな」


「いや、死にかけたよ!息出来なくて!」



 ◇午後


 アチナを呼んだ。

 朝は呼ぶなと前に言ってたので昼に呼んでみた。


「エイル!心配したんだよ!でも良かったよ無事で!」

 そんな事言ってるが、家電やらを買ってたのか、幾つか家電量販店の袋を抱えていて説得力がない。


 その隣りに狐の亜人さんが居るが、どちら様ですかね?


「あっ!エイルは初めてだったね、こちら剣聖の椿つばきちゃんだよ」

 これが、剣聖ツバキか!

 噂どおりの美人で艶やかな雰囲気があるが、強そうには見えない。


「あの……はじめましてエイルです。お、わたしに剣を教えて頂けませんか?」


「……いいだろう。だが、私の修行は厳しいぞ」


椿つばきちゃん、弟子とった事ないだろう」


「……」


 ちょっと不安になった。


「だ、大丈夫だ、お前には我が一刀流のアレとかを伝授してやるぞ!」

 アレってなんだ?そこ奥義じゃないの?


「ミカエル呼ぶかい?一番心配してたのは彼女だったわけだし」

 アチナが珍しく気を利かせてくれた。

 だが、なんか怪しい……



 アチナが空間転移でミカさんを連れて来たのだが……


「エイル!てめぇ心配したんだよ!バカが!」


 はい。激怒りでしたね。


 久しぶりに見たミカさんは髪の色が半分変わっているのと瞳がオッドアイになっていて驚いたな。



 ◇


 久しぶりの再会を祝してささやかな宴を開いた。もちろんユリウス陛下の奢りで。

 宴は深夜まで続き、久しぶりに皆で騒いだ。

 今日はアチナと剣聖も空いてる部屋に泊まって行くようだ。神なんだから帰れとは言えなかった。


 懐かしの俺とミカさんの部屋。

 ミカさんと2人同じベッドで寝るのも半年ぶりだ。


 ミカさんに押し倒された。まさか!ヤラれる?


「……私、咲野くんが……エイルが好きだよ」

 そこそこ酔っているみたいだ。何時ぞやの様に性的暴行をされそうで怖い。


「ん、知ってる。俺の大切はミカさんとこの身体だよ!」


「……ありがと」


 二人の唇は自然と近づき重なった。



 暫くして……


「また離れちゃうね……」

 まだ肌寒い季節だが、二人の肌の体温で気にはならない。

「でも、直ぐ会えるよ。ちょっと修行するだけだし」

 ミカさんの髪を撫でて誤魔化す。


「んー!充電させろ!」


「えっ?あ、あー!」


「カプっ♡」



 ◇翌朝


「準備は良いか?」

 剣聖との修行のため、俺は旅立つ。目的地は北の山脈に須弥山と言う山の中腹にある剣聖の屋敷だそうだ。


「……はい、らいじょーぶれす……」


「エイル!明らかに大丈夫では無いぞ、なんでそんなにやつれている?ミカエル!エイルに何した?いや、ナニしたのか?」

 セリスがゲッソリした俺を見て、ミカさんに言及する。


「ご、ゴメン、半年ぶりだったのと、魔王化で加減が判らなくて……吸いすぎたわ!」



 予定外の体力消費だったが、強くなる為に俺は剣聖の弟子になった。

 強くなってリュウタロウを倒す。

 今更だけど俺は目的が出来た様な気がする。



 そしてまた次の冒険が始まるのです。

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