第18話 『勝利の代償』

 ファミリアの王宮。意識の戻らないエイルの元に女神アチナが訪れていた。




「天使ってのは段階があるんだけど、エイルはまだ最下位の見習い天使なんだよ。天使は大まかに、見習い、天使、大天使の三段階だ。邪神の使徒達も殆どが天使で、大天使は一部だけだったはず」


「じゃあエイルはなんで、その大天使?みたいな事になったのかしら?」

 落ち着いてきたミカエルが眠るエイルの頬にそっと触れ、アチナに質問を投げかける。


「ああ、本来。クラスアップしないとなれないはずなんだよ。きちんと段階ごとにね。いずれにしてもエイルの意識が回復してみないとボクにも分からないよ」


「んだよ、使えねぇな!」


 ミカエルの沸点は相変わらず低いようだ。




 ◇



「失礼するよ」


 いつになく、真剣な顔をしたユリウス国王が、勢いよく入って来た。


「ユリウス!女性の部屋に許可なく入って来るとは、相変わらずだな!」

 セリスのユリウスに対する言動は相変わらず無礼者である。それでも怒らないユリウスは優しいのだ。


「くっ、今はそんな事言ってる場合じゃない!セリス、エイルは何者なんだ?説明してくれないか?国王として、知る必要がある」


「それは……」

 さすがに自身から語るべき事で無いのを珍しく理解したセリスはミカエルに目を向けた。


「私から説明するわ。エイルは天族よ。女神アチナの唯一の使徒。それだけよ」

 もはや隠すつもりも無いと判断し、あっさりとエイルの正体を告げる。


「天族!…エイルは神の使いだと言うのか?」


「まぁ、使いって言うほどの役割りはないけどね。それでもボクの大切な娘だよ」


「?!あの、失礼ですが、どちら様でしょうか?」


「あー、紹介がまだだったね。ボクはアチナ。一応この世界の神で、エイルのお母さんだよ!」


「え?アチナ?本物の?神?」


「うん。そうだよ」


 ユリウスは驚きが多すぎるのか、落ち着くまで、少し時間がかかった。




「エイルが天族。そしてアチナ様の降臨。私のエイルに対する友情は変わらないが、あの場にいた国民の混乱は、収集つかない。天族だとバレるのは時間の問題だ。その時国民が、エイルを受け入れてくれるかは、私にも分からない。最悪は討伐対象指定モンスター扱いだ」


 聖教会と冒険者ギルドによる、討伐対象の判断基準の一項。人型であっても、ツノ、あるいは翼がある場合は魔族同様、討伐対象となる。と記載されている。

 エイルが例外として認められるかは、聖教会の判断に委ねればならない。

 聖教会としては、勇者を召喚し保護しているため、今回の件で、どう動くか不明だ。


「確かにその可能性はあるね。でも安心してくれ、国民の記憶操作しておくよ」


「珍しく神みたいな事するのね」


「珍しいは余計だよミカエル」


「さすが!アチナ様!いや、お義母さん!」


「ユリウス!何いきなりお義母さんとか、言い始めてるのかしら!」


「おや?エイルを妃にでもするつもりなのかな?」


「是非とも宜しくお願いいたします!お義母さん!」


「エイルは絶対に渡さないわ!エイルに変な事したら魔王軍を全軍、ファミリアに侵攻させるわよ!」


「じ、冗談だって!相変わらずミカエルは短気だな!」


「姫様、コイツさっきから姫様の胸ばかり見てますよ!ジスが殺してもよろしいでしょうか?」


「殺しなさい」


「えぇ?見てない見てない!」


 ひとまずはエイルの回復を待つと言う事になったのだった。



 ◇



 だが、一週間が過ぎてもエイルの意識は戻らず、ミカエルは魔国に帰らねばならなくなった。


 ファミリア王都正門


「本当にイッちゃうっスか?」


「ちょっと発音おかしいわよマリン……」


 陸王に跨り、青髪の阿呆に向かって残念な目を向けるのはミカエルだ。

 後ろにはジスが座っている。


「道中気を付けてな。と言ってもミカエルなら大丈夫か」

「ミカエル様は私が付いてますから大丈夫です!」

 ジスは自信満々に胸を張る。


「リオ!これ新しいギミックスーツあげるわ。エイルと私の合作よ!大事になさい!」

 空間収納から黒いボディスーツの様な物を取り出し、リオへ渡した。

 ところどころに施された魔石が身体強化に変換される特殊スーツだ。ステータスが数倍になるだろう。


「ありがとうなのです!ミカエルまた会えるですか?」


「当たり前よ!銀の翼はまだ終わらせないわ!帝国潰したらまた冒険しましょう。その時はエイルも一緒よ!」


「じゃあまたな淫魔」

「またね残念エルフ。エイルの事よろしくね」


 2人は再会を誓いあい、それぞれのすべき事をする。


 ミカエルとジスはデストロイ要塞を目指し、王都を去った。



 ◇帝国郊外



 勇者リュウタロウはリズを連れ、帝国領内にある屋敷に潜伏していた。

 ファミリア王国での一件がセブールにも伝わってしまい、居心地は悪くなってしまったためである。


「クソっ!なんでボクがこんな目に合うんだ!」


「リュウ様、自業自得ですニャン。それよりスピカさんはどうするニャン?ファミリアに置き去りニャン」


「そのうち、ここを嗅ぎつけてやって来るから大丈夫だ。暫くは二人きりの生活だが……身の回りの世話は任せる」


 スピカを犬か何かと勘違いしているらしい。


「了解しましたニャン♡」


 エイルに無様な敗北を喫し、リュウタロウは初めて本格的にレベリングをしようと思った。


「強くなって、今度こそエイルをボクの物にしてやる!リズ!今日は遅くなるかもしれん!」


「リュウ様、修行ですニャン?」


「いや、今日は長旅で疲れたからカジノに行って来る!修行は明日からだ」


 長旅?転移ですぐだったはずでは?とツッコミたいリズであったが、機嫌を損ねられても面倒なので、あえてスルーした。


 明日やる。おそらくやらないやつだ。

 リュウタロウは自分に甘いのだった。




 ◇



 一方、エイルは次元の狭間に再び戻っていた。



「おい!あれはやり過ぎだよ!話が違うじゃねーか!めちゃくちゃ一方的に勇者ボコってたよね?しかも、最初とキャラ変わってるし!あれじゃ、なんか危ない子だよ!それと何あの変身?もはや人間じゃないよね?完全にみんなドン引きだよ!」


 エイルは謎の神みたいな幼女に掴みかかり、闘技場での闘いに対して異を唱えていた。小さく軽い幼女の身体は手足をパタパタさせていた。

 さほど身長差が無いので、傍から見れば子どもの喧嘩である。


「ギブ、ギブ!苦しいのじゃ!謝るから!謝るから、降ろして欲しいのじゃ!」


「よし、そこに座りなさい。それと名前をいい加減名乗れ」


「な、名前は……えー、べ、ベルセポネって事で」


 ベルセポネ?何か聞いた事ありそうな気がする様な。まぁ知らん。


「うん。分かった。ところでポネ、なんであんな事になったのかな?ちゃんと説明しろ!」


「いやいやいや!名前の略し方おかしいじゃろ?普通、ベルじゃろ?なんでポネの方持って来るんじゃ!」


「ん?そうか?じゃあベロ言ってごらんなさい!」


「早く人間になりたーい。って違うわ!」


「え?何それ?早く話せよ。あのピカピカした状態になった事をさ!」


「ピカピカってなぁ、あの状態をピカピカで表すなんて妾は驚きじゃよ。まぁあの状態は強制的にクラスアップして神格化した様なもんじゃな。あと久しぶりに人界に出たもんじゃから、テンション上がってしまい、やり過ぎたみたいな(笑)」


「ホントやり過ぎだよ!」


「すまんすまん。妾達、体の相性が良いみたいじゃ♡」


「変な言い方しないで!……それであのピカピカにはまた成れるのかな?そこんとこ興味津々だよ」


「んー……段階が本来必要じゃから、アチナに会ったらクラスアップを頼んでみると良いじゃろ」


「そっか。じゃあ行って来る!」


「待て待て待て待てー!ま、まだ帰れんぞ!」


「え?なんで。俺こんな所に用無いし、帰りたいんだけど」


「言ったじゃろう!暫くは廃人になるぞって!今、お主の本体は心の抜けた状態じゃ。まぁ色々あって、戻れるのに半年はかかるのじゃ」


「半年!うっわぁ……マジか。こんな所に半年も居たら頭おかしくなりそうだよ」


「相変わらず失礼じゃな。とにかく暫くは一緒じゃ!何か話でもしようじゃないか♡」


「話って言われでもなぁ」


「そうじゃ!好きな子とかいるのか?」


「なんでいきなりガールズトーク始めるんだよ!そ、そう言うの無理だから!俺、男だもん!」





 そして、時は流れ季節は秋から冬になり、やがて春を迎えようとしていた。

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