第16話 『エイルVSクズ(勇者)』



 コロシアム闘技場の傍らにはエイルの仲間たちとリュウタロウの仲間たち、スピカとリズの姿があった。


「この度はうちのリュウタロウ様が無理な要求をして申し訳ありませんでした」

 スピカはミカエル達に深く頭を下げる。


「ホント迷惑なんだけど」

 この試合を了承してはいないミカエルは終始不機嫌であり、セリスやマリンも怖くて何も言えない空気がパーティ内に漂っていた。ティファは完全に八つ当たりを受けて朝から酷い扱いをされていて目が死んでいた。


「エイルに何かあったら、セブール王国が地図から無くなるから覚悟しなさい!」


「うっ!それは……それだけは許して下さいませんか?セブールと今回の件は無関係です!リュウタロウ様には命のやり取りはしない様には言ってありますので……」


「当たり前よ!でも怖いの!嫌な予感しかしないし!代われるなら代わりたいし!また失うんじゃないかって不安でいっぱいなの……もう、嫌なの……」

 ミカエルは涙を堪えられずグズグズと泣き崩れた。


「ひ、姫様ぁー」

 ジスは何故かもらい泣きしてミカエルに抱きつく。


 セリスは、ミカエルの普段の姿とは違う一面を見て驚くが、それだけこの試合が重い雰囲気を感じさせる事に気づいていた。

 私だってエイルの為ならば、国を捨てる覚悟は出来ている筈だ。だが、ミカエルとエイルの間にはセリスの入る余地など無い絆が存在するのだろう。それでもセリスはエイルに付いて行くと決めた。

 今はエイルの無事を祈るだけだ。


 スピカは改めて、自分の監督不行届のせいで、この様な事態になってしまった事を深く反省していた。

「ミカエルさん……」


 これが愛と言うものなのでしょうか?

 私にはまだ解らない感情故、同調出来ないのが、悔やまれますね。

 大切な人か……エイルさんの事、大切では無いのですが、不思議と無事で居て欲しいです。

 エイルさんはひょっとして……?



 ◇


「聖域!」

 観客の安全を考え、スピカによる広域の結界が張られた。だが、それ故に外部からの手出しも出来ない。




「皆様大変永らくお待たせ致しましたっ!いよいよ竜殺しドラゴンスレイヤーエイルVS勇者リュウタロウの御前試合を開催致します! 」


「「おおおおお!」」

 会場のボルテージは上がりっぱなしだ。


「さて、今回は解説に王国騎士団団長のベルド団長でお送り致します。どうぞ宜しく御願いします」

「よ、宜しく頼む!」

 かなり緊張しているベルドだった。


「いやー、ベルド団長、この試合どの様な展開になるでしょうか?やはり勇者が有利でしょうか?」


「う、うむ。だが、エイル様もお強い!そして可憐だ!頑張れー!ベルドが応援してますぞー!」


「そ、そうですか…」


 解説には向いてないらしい。


「それでは両者、始め!」



 リュウタロウは少し右に傾いた正眼の構えで動く気配がない。


 エイルはすぐさま突進し、片手で連続の突きを繰り出す。


 だが、リュウタロウはそれを全て最小の動作で弾く。

 カカカカカッ

 静まる会場に刃引きされた試合用の剣のぶつかる音が響く。


 リュウタロウはエイルの刺突の連撃を防ぎきると左から右へ一文字に薙ぎ払ったが、エイルは後方に高く飛び

 剣閃は空を切る。

 エイルは空中でくるりと宙返りしトンと着地した。


「「お、うおぉぉぉ!」」


 静まり返っていた会場が2人の剣技に歓声で返す。

 正直剣閃は見えていなかっただろうが、何か凄いのはわかった様だ。


「なかなかやるね。うん。やっぱりうちのパーティおいでよ」


「……お断りします」



「じゃあ力ずくで君を手にいれるよっ!」


 リュウタロウが突進から唐竹割りに剣を振り下ろす。

 ガンッ!

 エイルは刀の腹で受け止めるが、重く、少し膝が折れる。

「つっ!」


「ふふっ!良い反応だ!だけどっ!」


 リュウタロウの蹴りがエイルの腹を真正面から突く。


「ぐへぇっ!」


 そのまま30メートル位は飛ばされ転がった。だが、

 リュウタロウの攻撃は止まらない。


 リュウタロウが剣を構えると刀身に光の粒子が集まり始める。


 そして八双の様な構えから、剣を突き出す。


「スターライトバスター!」


 光の波動砲が突き出された。

 見覚えのある攻撃だ。

 ボアキングを一撃で仕留めた技だ。


「「エイル!」」

 ミカエルとセリスが同時に叫んだ。



「シールド!」


 マリンのスキル「シールド」を使用して受け止めた。

 波動砲を上に逸らして回避したが。

 パリンッ!

「シールド」は粉々になった。


 マリンのシールドが一瞬しか持たないとか恐ろしいな。

 ちゃっかり覚えておいて良かった。


「うちのスキルっスー!ご主人様ずるっスー!」


 マリンが地団駄踏んで悔しがっている。

 すまんね!


「スターライトバスター」獲得しました。

「バトルマスター」獲得しました。


 なんか覚えたらしい。バトルマスター?

 剣術の上位スキルかな?

 とりあえずゴチです♡


 それと、キラーボア大量に討伐しておいて良かった。

 エイルLv30

 実は結構レベル上がってたりして、能力アップしている。



「さてと、せっかくだから使ってみるかな」


 バトルマスター、縮地。


 30メートルほど離れた場所から瞬時に間を詰める。


 左逆袈裟に斬りあげるが、これは躱された。

 続いて刺突連撃。

 防がれているが、試合開始時の時の様な防ぎ方では無く、明らかに後退しながらの防戦になっていた。

「くっ!調子に乗るな!」


 リュウタロウが苦し紛れに袈裟斬りを入れてくるが、

 剣撃で返す。

 バトルマスターの補正のおかげか、ある程度の剣閃の予測が出来る様になっていた。


 互いの剣撃のぶつかり合いへと突入していった。


 闘技場は2人の剣にただ見とれており、誰1人として声を発しようとはしなかった。




「あの馬鹿……」

 1人ミカエルだけは、予想以上の善戦をしているエイルに苛立っていた。



 ◇試合前控え室


「作戦?」


「ええ、そうよ!この状況を打破する完璧な作戦を思い付いたの!」


 作戦

 とりあえず適当に試合を進める。

 試合は基本的に防御全振りで、リュウタロウのスキルを一つでも多くものまねする。


 頃合を見てわざと負ける。

 因みにこんな感じ。

 ↓

 リュウタロウの剣がエイルの剣を弾き飛ばした!

「きゃっ」

 エイルははらりと倒れる。出来れば女の子座り風に。

 うるうると涙を流し、「ま、参りました……やっぱり勇者様はおつよいですね♡」


「フッ当然の結果さ」←キモイ

「わ、私を仲間にして下さいますか?」上目遣いね。ココ重要!

「もちろんさ!今夜部屋で待っているよ」←マジキモイ

「は、はい!私の身も心も捧げます♡」

「ムハー!」←ぷぷぷ


 ジスに超睡眠剤をリュウタロウに届けさせるわ。

「勇者様!エイル様よりお預かりしました、これを!」

「ん?なんの薬?」

「超強力精力剤にだそうです」

「マジすか?エイル……そんなにボクと……ムフフ」


 そして爆睡しているリュウタロウを置いて、皆で、デスニーランドに逃げる作戦だ。


「自信ないなぁ。絶対棒読みになりそうだよ」


「無事に逃げるにはこれしか無いの!やらないと殺すわよ!」



 ◇現在に戻る



 そんな作戦ではあったが、上手く行くわけないし、演技とか言われてもね。それに、中々リュウタロウが、攻めて来ない不気味さがあり、実行出来ずにいた。


「うりらー!」


「はっ!」


 剣撃のぶつかり合いから両者鍔迫り合いの力較べ。


竜の咆哮ドラゴンロワ!」

 至近距離からの火炎攻撃。

「うわっ!」

 堪らず、リュウタロウも回避行動でエイルから離れる。



 予想以上だ。

 リュウタロウはエイルの予想以上の強さに驚くが、焦りはしない。

 試合前にスピカから、大衆の目があるから、程々にする様、念を押されたが、それも飽きた。

 さて叩きのめしてしまうか。

「エイル……いや、結城さん。君もしつこいよね。わざわざ異世界転生してまでボクを追って来たんでしょ?」


 ん?そうか、コイツ俺の事、ミカさんだと思ってるのか!まぁそりゃそうか……

 ここで俺が咲野大河である事をバラしたらどうなるかな?

 ミカエルがミカさんだとバレたら……ミカさんを狙うかもしれないな。それはダメだ!

 なら、結城美佳のふりをしないとだな。


「ふん!ニートの癖に勇者とか笑わせるわ!」


「相変わらず、客への態度が気に入らないね!」


 剣を左下に構え突進する。瞬時に間合いを詰め切り込んで来た。

 エイルは抜刀術の構えでそれを、体勢を低くし、紙一重で躱す。リュウタロウの剣が顔スレスレを通過し髪を少し斬った。

 リュウタロウの渾身の一撃を躱した時。その瞬間こそ最大の隙が生まれる。この機を逃すまいとするエイルの剣がリュウタロウの胴を狙う。



 取った!

 エイルは完全にリュウタロウの胴を捉えた―――


 筈だったが


 シュンッ


 エイルの剣がリュウタロウの胴を打つより先にリュウタロウの剣が


 え?!なんでそこから剣が出てくる?


 状況を理解する前に目の前の光景が更にエイルを混乱させた。


 目の前には剣を握ったままの右手が宙を舞い、エイルの視界から離れて行く……


「え?」


 ほんの数十センチ先にドサッと右手が落ちた。


 恐る恐る自身の右手があった場所を見る。


 肘から下は無くなっていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 エイルの悲痛な叫びが闘技場に響き渡る。


 闘技場の観客は状況を理解出来ず、崩れ落ちる少女を見つめる。


「いやぁぁぁ!」


 ミカエルは泣き叫んだ。


「リュ、リュウタロウ様……あなたって人は!」

 スピカは拳を握りしめふるふると震えた。



「あっはっはー、腕切れちゃったね?痛い?ねぇ?痛いの?泣いてるひょっとして?」


「うっうぅ」

 痛い痛い痛い痛いっ!

 寒い寒い寒い寒いっ!


 景色が白くなって行く……


「おっと、眠るのはまだ早いよ!」


速度低下スロウ


 エイルの流血は止まった。いや、止まったのでは無く限りなく停止に近い速度まで低下され、貧血による意識低下を遅らせた。


「君にかけた状態異常は君の全ての速度を低下させるスキルだよ。って説明しても思考も低下しているから解らないか?」


 エイルは瞬きもせずほぼ停止に近い状態で聞いていたが流れる時間が違う為理解は出来ていない。


「無視すんな!」


 リュウタロウはエイルの顔を蹴飛ばし、地に伏せさせた。

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