第15話 『神のゲーム』



 かつて、この世界には三柱の神がいた。


 人族の神アルテミス、亜人族の神バステト、魔族の神ベルセポネ


 神々はそれぞれの眷属を従え、戦争を起こした。

 時には人族が勝ち、時には魔族が勝ちを繰り返しては争いは終わる事なく続く。


 創造の神はこの争いに終止符を打つべく人族と魔族に力を与えた。亜人族には何も与えなかった。


 人族には光の宝玉を。

 魔族には黒のコアを。


 人族に与えた光の宝玉は異界から勇者を召喚する事を可能にした。


 魔族に与えた黒のコアは魔を統べる力を宿しその者を魔王にする事を可能にした。


 何も持たない亜人族は時には魔族に組みし、ある時は人族に従い、争いに巻き込まれていた。


 人族と魔族の争いは幾代の勇者と魔王が争ってもまた繰り返していた。



「っていうのが、邪神戦争前の歴史だよ。今は全く伝えられてないけど」


「今は伝えられてないってなんで?」


「それは全てが創造の神のゲームだったからだよ」



 創造の神と人族の神と魔族の神、そして亜人族の神は全て同じ神だった。

 それがアルテミスであった。


 アルテミスはある時は魔族の神になり、魔族に降臨し、人族と争う様に仕向け、ある時は人族の神として魔族と戦い、ある時は亜人族の神として、魔族に付くか人族に付くかを繰り返し、世界を使った暇つぶしをしていた。


 だが、アルテミスの予想を裏切る事態が起きた。

 先代勇者リョーマは、魔族と戦うのではない道を作り始めた。

 魔族と人族の亜人族の仲介役として、活動し始めた。

 人族からは衣食住の知識を。

 魔族からは強大な魔力による資源を。

 亜人族からは労働力を。

 これらを上手く回せば世界は争う事なく済むのではないかな?という勇者リョーマの発想が世界を変え始めた。


 アルテミスは勇者リョーマの存在を排除する様に当時の教団の聖女に神託として命じた。

 それと同時に魔族、亜人族の神からも勇者リョーマを排除する神託が降りる。


 さすがに神の行動を不審に思った勇者リョーマ一行は神が全て同じと言う真実にたどり着く。



「それが邪神アルテミスと戦った、邪神戦争だ」



「勇者グッジョブだね!」


「だけど、アルテミスを倒しても争いは終わってないわよね?それはどうしてかしら?」


「それは、アルテミスがこの世界を創った時の決まり事。即ち世界設定による影響だよ」


「「「世界設定?」」」


「うん。種族ごとに設定されていて、魔族は人族を見下すとか、人族は魔族を排除するとかの設定が恐らく存在するんだ」


「その設定は神であるアチナでも無くせないの?」


「悪いが、ボクの権限だと無くせない様だ。封印したにせよ、この世界の最高管理者はアルテミスだ。ボクは代理に過ぎないので、設定レベルを最小にはしたが、ゼロには出来なかった」


「それでも、魔族と人族が血みどろの戦いにならない様に魔族を瘴気の森で何とか抑えた。あの地には人族に入って行けないようにする為でもあるけど」


「なんで?」


「アルテミスを封印してある場所……禁断の地があるんだよ 。封印の結界石は剣聖が持っているし、封印は勇者じゃないと解けない 」


「一ついいかしら?」

「なんだい?」


「今、魔族で信仰している神、デススデスはなんなの?」

 また変な名前出て来たー。

 魔族ってデス付けとけばなんでもいい感じか?


「あー、あれは一応ボクがやってるね」


「そうなんだ……なんか一気にありがたみ無くなったわ」


「当時の魔王が神居ないと困るって言うから仕方なく作ったんだ」


「なんか聞いてるとアルテミスと対して変わらないよね」


「ち、違うよ全然!ボクは人界になるべく干渉しない様にしてるし!大体、神が戦争止めて!とか言ってたら、アイツうぜーとかなるだろう?」


「なるわね確かに」


「でも、設定は無くせないと」


「申し訳ない……」



「ならさぁ、いっそアルテミス復活させて、設定無くして貰うってのはダメなのかなー?」


「「「ダメ!」」」


 さすがに総ツッコミが入りました。


「設定は無くす事出来ないけど、話合えば戦争は無くなるレベルなんだけどなぁ」


「話し合いして、休戦条約したのに、帝国は破ったわ」


「なんか裏で戦争させている存在がいる筈だよ、例の十二天将の生き残りとかね」



「それじゃ、ボクは失礼するよ、あんまり朝は呼ばないでね」


 アチナは空間転移し、帰っていった。



「で、なんでアチナ呼んだんだっけ?」


「戦争してる理由でしょ!」


「あ、そうそう。設定て理由だったけど……どうすんの?」


「話し合いで何とかなるレベルって言ってたわよね?でも帝国はそんなの通じない所まで来てるわけだし……」



「あと十二天なんとかさんを見つけて、何とかするしかない訳だな」


「そうね……見つけて殺すわ」

「ぶっ殺しなのです!」

「殺るっスー!」

「うむ、腕がなるな!」


 なんでこの人達は血の気が多いのかな?



「とりあえずデスニーランドは勇者との試合終わったら考えようか」


「それより、今日の奉仕活動頑張りましょう」


「ひ、姫様が奉仕活動など!なんて酷い国だ!」


 ジスの絶叫は無視して、すっかり冷めてしまった朝食を食べたのだった。

「ん?美味しい」



 ◇王都孤児院



 朝食を食べた後、俺とミカさんは奉仕活動として、孤児院に来ていた。

 ジスは勝手に付いて来た。


 因みにセリスとリオは街のゴミ拾いをしている。


 マリンとティファは用水路の掃除だ。


 街にあれだけの被害を出して、これくらいの奉仕活動で済んだのは、ユリくんの優しい所だな!

 良い友達を持ったぜ!


 そして、俺達に与えられた任務は孤児たちの世話だ。


 子ども達は俺を見るなり突撃して来てすぐに囲まれた!


「わぁーエイル様だ!」「本物ー?」

「意外とちっさいー」「おっぱいないのー」


 失礼な発言が乱れ飛ぶが悪意がない子ども達ほど怖いものは無いな。子どもは正直なのだ。

 これが、大人なら今頃数人はミカさんに吹っ飛ばされるだろう。

 そんなミカさんを見ると……

 今まで見た事ない笑顔でこどもと接していた。

 てっきり、子どもにも厳しいイメージしかなかっただけに意外だった。


 だが、驚いたのはそれだけではなかった……!



「みんな!お歌を歌いましょう!」


「「「はーい!」」」


「きーらーきーらーひーかーるー」

「「「キーラーキーラーひーかーるー」」」


「よーぞーらーのーほーしーよー」

「「「よーぞーらーのーほーしーよー」」」


 マジか?ミカさんがオルガン弾きながら歌うとか終末は近いのか?世界崩壊は直ぐそこか?

 なんて驚愕していると、隣りのジスはうっとりしてミカさんを見つめていた。


「あぁ、さすが姫様ぁ!子ども達と歌う姿も絵になります!」

 どこまでもミカさん推しだな!


「これは目に焼き付けておかねば!ご飯3杯は行けます!はぁはぁ……」

 うわぁー変態がいるよ!ミカさん逃げてー!


「ミカさん、オルガン上手いな」

 俺が関心していると

「当然です!姫様は幼少の頃からピアノにバイオリン、あらゆる楽器をマスターしています!」


 この世界では良い所の令嬢みたいな感じか?

 まぁ実際は魔王の娘なのだが……


 そのあとはジスが子ども達に花冠を作ってあげたりしていた。

 意外と器用だな!

 そう言えば、ジスも魔族なんだよね。ミカさんは淫魔だけど、ジスってなんだろ?

 怖くて聞けないオーラあるからなぁ。


「さぁ、みんなご飯出来たわよー!ちゃんと手を洗ってから座りましょう」

 うわぁ、完全にミカさん保母さんと化してる。

「わーい!ご飯だー!」

「お前が喜んでんじゃねえ!」

 頭突きくらいました。

 いつものミカさんでしたね。


「エイル様ー、手洗わないとだめだよー」

「「だよー」」


「……すいません」

 子ども達に注意されました。


 くそぅ!このままでは子ども達の信頼はガタ落ちだ!

 何かないかな?俺に出来る事は……ない!

 あれ?コンビニ店員として頑張ってたスキルが全く役に立たない。レジ打ちなら任せろ!必要ない!

 揚げ物出来ます!フライヤーがない!

 あと、えーと……何も無かった。


「ははは……どうせ俺はドラゴン倒す事しか出来ない役立たずか……うっうっ」


「ミカおねーちゃん!エイル様が泣いてるよー」

「「泣いてるー」」


「放っておきましょう……」


 結局、俺は子ども達のお馬さんになったり、ドラゴン役になったりして、子ども達に遊ばれて終わった。

 本当に火を吹こうとしたらミカさんに殴られた。


 奉仕活動が終わり、王宮までの帰り道。


「私ね、保育士になるの夢だったんだよね」


 あら意外。


「そうだったの?てっきり、料理人かと思ってたよ」


「料理は単なる趣味だし。大学は幼児教育学部だったんだけど、知らないか……」

 知りませんでしたね。

 そんな事、バイトの時には話した事無かったな……


 俺の知らないミカさんの一面を見た一日だった。




 ◇そして勇者との試合当日


 遂にこの日が来た。


 場所は王都コロシアム

 収容1万人の施設は超満員で割れんばかりの歓声と熱気が、更に会場を盛り上げる。

 少し肌寒いが。見上げる空は晴天。運動会日和ですね。


 必ず生きて皆の元に戻る。

 大丈夫だ、これは試合で殺し合いでは無い。

 だけど、試合用に用意した木刀を持つ手は汗が凄い。

 喉が渇く。緊張はしているがわかる。


 大丈夫!頑張れ俺!



 そしてゆっくりとコロシアムの中央で待つ勇者リュウタロウの前に進んだ。

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