第14話 『深夜の来客』


◇王宮客室


コンコン

夜になり、そろそろ寝ようかななどと思っていたら

まさかの来客。

「どうぞー」



「失礼するよ、遅くにすまない、ちょっと大事な要件を伝え忘れてたので……」


「大事な要件?」


「数日前に勇者リュウタロウが来てね。エイルと試合をしたいとの申し出があり、これを了承した」

リビングのソファに座るなり、本題から入った。


「……ユリくん。幾つかツッコミ所があるね。まず、受けるとは言ってないし」

俺は何故か、ミカさんの膝の上にちょこんと座っている。



「すまない」

拳を膝の上で握り締め、口を真一文字にしてユリウスはただ謝るだけだ。



「拒否権は?」

恐らくないだろうが、理由も解らずに受ける気にはならない。


「頼む!受けてくれ!シャルロットが人質になっているんだ!」


「ざけんな!こっちはシャルロットなんかよりエイルが大事なの!」

ミカさんご立腹です。


「シャルロットさんて誰?」

「シャルロットはユリウスの妹だ」

ソファの後ろで腕を組んで、話を聞いていたセリスが口を開く。


てことは姫様なんだ。普通に呼び捨てにしてるセリスは顔見知りですかね。


「人質とるとか本当にクズだね勇者。ていうか勇者なの本当に?」

しかし、試合かぁ。勝てる気はしないが……


スキル盗む事くらいは出来るかな?


「エイル?まさか受けるつもりじゃないわよね?」


「何の目的で試合するつもりなのかな?」


「勇者が言うにはエイルをパーティに入れたいそうだよ」


「お断りだねー。でも、そんな目的じゃない気がするよね?」

「大方、エイルより目立ちたいだけじゃないか?」


「まぁ適当にやってやばかったら降参すればいいか」


「受けてくれるんだね?ありがとうエイル!」

ユリウスが感激のあまり、手を握ろうとして来たが、ミカさんに睨まれたユリウスはその手を引っ込めた。


「そのシャルポッポさんの為にがんばるよ!」


「……シャルロットね」

ミカさんが耳元で突っ込みを入れた。




◇深夜◇



ベッドの中、ミカさんの腕枕でいつものように寝てると、ふと目が覚めた。

なんで腕枕されている側なんだろう?

別に嫌じゃないし、寝心地は悪くないからいいのだ。

誘拐事件以降、ミカさんは俺の側から離れなくなった。

リビングにいる時はミカさんの膝の上。

お風呂は前から一緒だが、部屋から出歩く時は手を繋いでる。

半ば身柄を拘束されている気分だ。

ただの過保護かもしれないが。


窓を見ると、こちらを見ている人と目が合った。

「……」

少し考え、もう一度見た。やはり目が合った。


ここは確か……5階だったはず。


やだ怖い。


「ミカさん、ミカさん!」

俺はミカさんを揺すり、起こした。


「……ん、なぁに?」

「窓になんかいる」


ミカさんが眠そうな眼を細め窓を見つめる。


「ジス?」

ミカさんは窓に駆け寄り、窓を開けその夜の不審者を招き入れた。


明かりを付けたリビングにボロボロになったメイド服を着た桃髪の少女は少し考えてから

「姫様!早くデスニーランドへお戻り下さい!」


なんですか?その夢の国みたいな名前は?

ミカさんを見ると、なんか天井見上げてこちらを見ない様にしていた。


「なぁ、ミカさん?デスニーランドって何?」

「……国の名前……魔族国デスニーランドだよ!確かにどっかで聞いた事ありそうな名前で、メルヘンっぽいけど?正真正銘魔族国の国名だよ!」


「いや、なんかアレだけど……大変だね」

深く突っ込まない様にしよう。笑ったら殴られるし。



「姫様。なんですか、この貧相な胸のガキは?姫様に対して無礼です!至高なる姫様と寝台を一緒にするなど、羨ま……いや、身の程を弁えろ人間の雌豚!」


うわっ!ガキとか言われだけど、見た目対して変わらない位じゃないかな。


「……ジス。貧相な胸のガキの雌豚で悪かったわね!」


「?!何故姫様がお怒りになるので?……なるほど!きっと弱みを握られて……無理矢理夜伽を!このクズでちんちくりんのガキを私が始末して見せます!」


「ジス!黙れ!」


「ひっ!」



ミカさんが俺の身体は自分の前世の姿である事。

俺が、天族である事を説明した。



「そうでしたか……失礼しました!良く見たらなんて高貴な姿!流石姫様!前世も美しく、控えめな胸でも麗しさは異次元ですね!

申し遅れました、私、姫様の一の家臣、ジス・バレンティンです」

手のひら返し早っ!

散々罵ってましたよね?


「さっきからやかましいが、何かあったのか?」

セリスが起きて来た。


ジスがセリスを下から上へと見てから

「フッ」と鼻で笑った。


「なんだそいつは!今、人の胸見て鼻で笑ったぞ!」


「所詮はエルフ。至高なる姫様の足元にも及びませんね!」


何この人?敵ばかり作ろうとしてない?


「ジス!いい加減にしなさい!」

ミカさんが机に置いてあった灰皿でジスの頭をかち割った。どこのヤクザですか?


「っつ!……申し訳ありませんでした……」

頭から大量の血を流してるが、大丈夫だろうか?



とりあえず夜も遅いので、ジスには空いてた部屋で寝て貰う事になった。



そして朝。



「おはようございます!」


バーン!と挨拶と共に、部屋に侵入して来るジスに、ビックリして起こされる。


心臓に悪い寝起きだ。


「……お、おはようございますジスさん」

「エイル様!おはようございます!朝食の準備が出来ていますので、姫様とご一緒にお召し上がり下さい!」


それだけ言って、部屋を出て行ってしまったが……



「お前誰っスー?」

「おはようございますぅ……あのぅどちら様ですかぁ?」

「いただきますなのです!」


それぞれの反応が聞こえて来たが。

リオは無関心過ぎるね。



皆にミカさんからジスの事を紹介された。


ジスはミカエル付きのメイド兼部下。

幼馴染みで幼少の頃からの付き人。


ジス本人からの説明。


国を飛び出したミカエルを追って辿り着いたらしい。

居場所が分かった経緯は幼馴染みパワーだそうです。

幼馴染みって凄いね!と関心してしまった。


「という事ですので、帰りましょう姫様!」


「やだ!まだ帰らないわ!」


こんなやり取りをしているのでは埒が明かない。


「なら皆んなで、デスニーランド行こうか?」


少しの沈黙の後、ミカさんが口を開く

「あのねぇ、魔族国よ?遊園地じゃないのよ?エイル解って言ってるの?」


「解ってるつもりだけど、ミカの故郷でしょ?行ってみたいし」


「魔族は人類の敵国だし……」

「俺は人族じゃないから別に気にしないよ。皆んなはどうなの?」


「私はエイルの監視が任務だからエイルが行くなら付いて行くだけだ」

「うちもご主人様が行くなら行くっス!」

「リオも行くなのです!」

「……私も付いて行きますよぅ」


「皆んな大丈夫みたいですが!」


「んー……馬鹿ばっかりね!」

ちょっと目が潤んでいながら悪態付いてるが、嬉しそうだ。


「でさ、どうやって行くのかな?」


「……そうね。基本的に陸路しかない。しかもデストロイ要塞しか入口はないから」


「え?なんで?」


ミカさんから魔族国の説明をうける。


魔族国領は大陸の西側一帯、瘴気の森があり、陸路はデストロイ要塞しか通れない。瘴気の森に入ると、普通の人間は生きていられないレベルの魔素らしい。


海路は近隣海域はクラーケンなどの大型魔物が多く、船ではまず無理だそうです。

故に300年間の鎖国状態なんだそうです。


「陸路でデストロイ要塞行くとなると、戦場真っ只中になるのではないか?」

セリスの言う通り、現在は帝国との戦闘中な筈だ。


「海路はマリンで何とかならないか?」


「無理っスね。クラーケンはなんか話通じないっス」


「うーん。そもそもなんで戦争しているのかな?」

俺は素朴な疑問を聞いた。


「「「さぁ?」」」


皆揃って知らないと来た!


という事でアチナを呼ぶ事に。

「アチナ様、アチナ様。至急お越しください」



カチャ


寝室から出て来ました。


「こんな朝早くになんだい?」

上下ユニク〇のスウェットで登場した。

なんか、地球産の物多くない?今度頼もうかな。


「あのさー、魔族と人族ってなんで戦争しているのか知らない?」

俺は皆も知らないらしい戦争の理由についてアチナに聞いてみた。


「……うっ。それは、そのだね……えーと、なんだったかなー、しら、知らないな」


明らかに知っている反応じゃないか。

全く、嘘の下手なやつだな。←君もだよ。


「何か知っている口ぶりね!おい女神!怒らないから吐きなさい!」

ミカさんがアチナの胸ぐらを掴み脅す。


「わかった!わかったから!手を離して!伸びちゃうから!」


ミカさんの手から解放されたアチナは、近くの椅子に腰掛け語りだす。


「これは、世界の創世からの深い事情があるのだよ……」


珍しく真面目な表情になり、落ち着いた口調だが、スウェット上下が雰囲気を緩くしていた。

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