第13話『やり過ぎました』



「7000万!」「7500万!」「2億!」


「はい!2億来ました!他にいらっしゃいませんか?」


 2億とかすげぇな!ある所にはあるんだねー!

 なんて、感心していたら、悪魔の蹂躙が始まった!



「テメェら全員殺す!」


 ミカさん来たー!みんな逃げてぇぇぇ!超逃げてぇぇぇ!


 釘バットで次から次へまた次へ――

 こちらに近付きながら会場の客達の頭を吹っ飛ばして行く。鬼だ、鬼が来た。


「キャー!」「うわぁー!逃げろー!」

「「ヒィー!」」

 会場には様々な悲鳴が響き、会場は大混乱である。

 非常用の出口へ貴族達が慌てふためき、我先にと押し合っていたり、引っ張りあっていたりして酷く醜い様を晒していた。


「毒霧」「氷結」「夢幻」「煉獄」


 ミカさんのありとあらゆる魔法が行使され、会場は地獄絵図の様だ。


「一人だって生かして帰さないわ!」


「お前……さっきエイルに鞭打ったな?」

「ご、ごめんなさいっ、ゆ、許してっくだっ!」


 司会役の男をの頭を捕まえ引き摺り回す。


「エイルを傷付けて良いのは私だけなんだよ!」

 何その歪んだ愛情!


 司会役の男は釘バットで打たれどっか飛んで行った。


 ミカさんがキョトンとしている俺の前に立ち


「エイル!」

「ヒィッ!」

 ミカさんが俺に抱き付いて来た。


「大丈夫だった?」

「うん」

「変なことされなかった?」

「うん」

「なんで直ぐに逃げなかったの?」

「割と楽しかったし?」

「本当に馬鹿ね」

「知ってる」

「今の気持ちは?」

「お腹空いた」

「……帰ったら沢山作るよ」

「……じゃあ帰るか」

「うん。外でセリス達が待ってる」


 ミカさんから俺の上着と雷電丸を受け取り、羽織る。


 上着に光る銀十字勲章を見ておっさんが驚いた。

「嬢ちゃん、本当にあの英雄エイルだったんだな!」

「おっさん!ちゃんと逃げろよ!じゃあね!」



「ヘブンクロス!」


 天属性の光が美術館を直撃し、地下まで大穴を開け俺達は建物の外へ出た。



 ◇美術館外周


 美術館からの悲鳴と共に我先にと逃げ出して来る紳士淑女の姿が多数。


 騎士団はこれを捕縛。

 与えられた任務を遂行していた。


 その時、空から白い光が美術館を直撃し、爆音と共に辺りは煙と炎に包まれた。


「何事かっ!」

 ベルド団長は突然の事態に驚くが、それが高度な魔法である事はわかった。


「まるで天の裁きが降りたみたいだな……」


 爆煙の中から2つの影が跳んだ。

 その姿を見たベルド団長は思わず、声を上げる。

「おお!エイル様だ!皆聞けぃ!エイル様は無事だぞ!」

「「「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」」」


 だが、エイルの帰還に喜ぶ騎士団だったが、その後の事態に戦慄する事となった。




 ◇美術館庭園


 爆音と共に現れたエイルとミカエルは戦闘中のセリス達と合流を果たす。



「エイル!無事か?」

「ご主人様!おかえりっスー!」


「待たせたな!話は後な!」


竜の咆哮ドラゴンロワ!」

氷結の槍アイシクルランス


 爆炎のブレスと氷の槍が約半数になった黒光重装騎士団に容赦なく襲いかかる!


 庭園は火の海と化し、炎上する美術館。


 問題は本日ちょっと強風だった。


 瞬く間に、辺り一帯に火の手が上がり、王都は大火事になっていた。


 幸いな事と言えばベルド団長率いる騎士団が美術館周辺に待機していた為、住人の避難と混乱は避けれた事だ。


 だが、この後がまずかった。



「ヤバい!やり過ぎた?」


「完全にオーバーキルね」


「火の勢い止まらんな」


「せ、聖域で火の手を閉じ込めますかぁ?」

「それやったら結界内部の俺たち死ぬから!」


「うちに任せるっス!これでも海神っス!」

 マリンが凶悪な胸を張り自信満々のご様子だ。

 確かに海神的な何かで火消しが出来るのかもしれない。


「よし!任せた!」


 この判断がどうやら間違いだったみたいです。


大津波タイダルウェイブっス!」


 ◇翌日◇



 朝から王宮の謁見の間に正座している6人が居た。

 もちろん『銀の翼』である。



「……説明して貰おうか……」


 謁見の間の玉座には目にクマが出来、少しやつれた様子のユリくん。いやユリウス国王陛下が居た。

 多分、寝てないのかかなり疲れてるみたい。


「……えーと、ごめんなさい!」

 とりあえず土下座謝罪した。


 何故、こんな事になったかと言うと

 被害が甚大過ぎた。


 美術館全壊。築300年の歴史ある建物であった。

 その上、展示、保管されている美術品は国宝級、重要文化財に指定される物も多く……

 その殆どを焼失、又は行方不明にしてしまった。


 時計台の半壊。これまた築200年以上の立派な建物で、ファミリア王都で最も高い。街のシンボル的な感じでした。時計は止まったままだそうだ。


 美術館周辺の被害。

 幸いな事に住民に死者は出なかったが、負傷者多数。

 半焼、全焼、合わせて100棟。床上、床下浸水、合わせて500棟。大災害の様な被害であった。


 ここまで被害が拡大したのは、火消しの為にマリンが大津波を起こしたのが原因である。


「まぁ、とにかく負傷者は今、教会で治療を行っているみたいだが、人手が足らないので、ティファは直ぐに行ってくれ。スピカ聖女も大忙しだそうだ」


「わ、わかりましたぁ」

 そそくさと謁見の間を逃げる様にティファは去って行った。


「それと、人身売買の件はゲスマルク侯爵関与で間違いない様だ。現在は身柄を拘束して余罪を調査中だが、極刑と一族の追放処分は免れまい」


 その他、関与した貴族や商会の人間はかなりの数だが、その殆どが美術館で死んだ。ミカさんによってだが。


「君達には、暫く奉仕活動をして貰う事になるから覚悟しておいてくれ」


「奉仕ってエロい事っスか?」


「「「違うわ!」」」


 マリンには後でお説教だな。



「まぁ、エイルがボクと婚約でもしてくれたら奉仕活動は無かった事に……」

「「「「奉仕活動頑張ります!っス」」」」


 この辺の連携は最上級の様だ。


「くっ!だが、まだ諦めないぞ!」


 ユリくん諦めてくれ。



 ◇王宮客室



「あー、疲れたぁ」


 風呂入って寝たい……


「とにかく街の被害はあれだが、私はエイルが無事で良かった。貞操に問題無かったか?」

「あー、そう言うのは無かったし、監禁先のおっさんはいい人だったよ、ほぼ裸だったけど」


「それはそれで苦痛だと思うのだが……」

「うちも裸は気にしないっス!」

 いや、マリンは気にしろ。



 俺たちは数日ぶりの再会を過ごした。




 ◇教会大聖堂


 スピカは野戦病院と化した教会で負傷者の治療にあたっていた。


「エイルさんに会ったら、何か奢って貰わないと割に合わないわね」


 ブツブツと文句言いながらも治療に専念していた。



「し、失礼しますぅ……」

 ティファの到着である。


「良かった!ティファさん、お手伝い感謝します!ティファさんは回復術式はどれくらい出来るのかしら?」


「えーとぉ、一応全部出来ますよぅ」


「は?全部って?広範囲も?」

「はい。多分出来ますよぅ」


「エリアヒール!」

 巨大な魔法陣が教会を包み込み、収容されている負傷者全てに回復を施した。しかも無詠唱で。


 流石のスピカも無詠唱且つ、何の魔力を高める集中すらせずにエリアヒールは出来ない。

 これには驚きだ。


「かなり、はぁ、はぁ魔力……使いましたぁ」


 そりゃそうだろう。一発回復だし。

 エイルのパーティは規格外の集まりの様だ。


「ティファさんは、何処でそんな高度な聖魔法を覚えたのかしら?」


「あ、えぇと、実わ、アチナ様から、この腕輪を授かりましたら、全ての聖魔法使える様になりましたぁ」


「え?アチナってあのアチナ様?神の?」


「はい、そうですよぅ!誰も信じてくれませんけど、サインも貰ってるんですから!」


「そ、それは大変羨ましいですね!私も是非一度お会いしてみたいです」

 エイルさん達は一体何者なんでしょうか?

 メンバーのスペックはかなり高い。

 それに比べてうちのメンバーはリュウタロウ様とリズ。

 リズは夜伽専門だし。リュウタロウ様は強いけど……

 トータル戦力で負けているかもしれませんね。


「アチナ様呼びますかぁ?」

「へ?」

 何言ってるのかしらこの子。神ってそんな簡単に呼べたら、お祈りの意味ないじゃない!


「アーチーナーさーまー!」

 呼ぶって名前を呼ぶだけ?なんか儀式的なものも無し?


「呼んだ?」

 大聖堂の物置部屋の扉が開き、白金色の長い髪の女性が現れた。女神アチナである。


「お久しぶりですアチナ様ぁ」

「元気そうだね、そちらの子は初めましてだね。ボクはアチナ。一応女神やってるよ」


「初めましてアチナ様、私はスピカと言います。先代の大聖女様にお会い出来て光栄です!」


「君は現在の聖女だよね?あのさぁ、召喚した勇者さぁ素行悪過ぎないかい?あんまり酷いと抹殺するから言っておいてくれる?」


「……はい、申し訳ありません」

 スピカは俯き涙を流した。

「う、ごめん、ちょっと言い過ぎたよ」


「いえ、私の責任ですので……ちょっと手に負えない時は仕方ありません……私は失礼しますね」


 そう言ってスピカは大聖堂を出て行ってしまった。



「アチナ様どうしたんですかぁ?スピカさん泣かしちゃダメですよぅ」



 エイルの強化を急がないと行けないかもしれないな。

 椿つばきちゃんに頼むかな。




 ◇教会外


 スピカは教会から走り去り、近くのベンチに座り込み頭を抱えた。


 まさか!本当に女神アチナが降臨するとは思いませんでした!

 どうしましょう。気づかれてしまいましたかね?


 私がアルテミス様の使徒の生き残りということに。


 禁断の地へ行く為に、急がねばなりませんね

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