第12話 『参上!キャッチャーアイ』


 王都中央時計台


 街を見下ろせる程高い場所であり、中央美術館に近い時計台の針が零時を指した時、その時計台に5人の姿があった。


 5人はボディラインのハッキリとわかる肌に密着した衣装をお揃いで着ており、腰には色違いのスカーフの様な腰巻きをしていた。


 要するにレオタードに腰巻きした馬鹿が5人である。

 なんかのアニメに出てくる、女泥棒に扮した『銀の翼』メンバーだった。


 勿論、その衣装を皆に勧めた、いや、無理に着させたのは暴君ミカエルだ。

 エイルが居ない事をいい事に好き勝手やってしまった結果がこれだった。


 美術館に潜入?ならレオタードしかないでしょ?

 メンバーの反対を押し切り、ほぼ無理矢理着せた。

 反対しなかったのはマリンくらいである。



「作戦開始時刻ね!美術館の周りには敵の護衛部隊がウヨウヨいるわ。私達はここからワイヤーを蔦って、美術館の屋上から潜入よ!」


 ミカエルが、自信たっぷりに立てた作戦だが……


「待て、何故わざわざ屋上から行く必要があるんだ?騎士団が、既に周りを取り囲んでる。ならば正面から堂々突破で良くないか?」

 セリスが異を唱える。


「だ、だってその方がカッコイイでしょ!ガタガタ抜かしてないで、サッサとワイヤー張りやがれ!この壁パイエルフが!」

「よし!今すぐ貴様の乳をもいでやる!」


 作戦開始からこれである。


「ちょっとぉ!いい加減にしないとリオちゃんが寝ちゃいますよぅ!」

 ティファの言う通りリオは目蓋が重くなっていた。


「む。仕方ない。少し待て」

 バシュッ!

 セリスがワイヤー付きのボウガンで、美術館と時計台を繋ぐ。


「で?誰から行くんだ?」


「あ、うちから行くっスー!一発屋は譲れないっス」



 王宮からパクって来たハンガーをワイヤーにかけてサーっと行く予定である。


「マリン!行くっスー!」「ヒャッハー!」


 ハンガーにぶら下がりV字開脚で青髪を靡かせ勢いよく美術館へ降りて行った。


「次、ミカエル、イキまーす!」


「て、ティファ行きまぁぁぁぁぁ……」


「リオ行くなのでーーーーすーー」


「セリス……出るぞぉぉぁあ」


 潜入の意味があまり分かってない5人だった。


 問題は直ぐに起きた。


 5人が、余り間隔を空けずに降下したため、ワイヤーの先端が重量に耐えきれずに落ちた。

 その為、当初の予定であった屋上では無く、美術館正門と、美術館の中間地点……



 つまり、敵さんのド真ん中に落下したのである。



「シュタッス!」

「あ痛っ!」

「へぶぅっ」

「ごフッなので……す」

「ととっと!」


 それぞれ締まらない登場の仕方で、警備兵は茫然自失だ。


「き、貴様ら何者であるか?!」


 警備兵数十人の間から指揮官らしき人物が、突如空から現れた女5人に、問う。


 するとミカエルは……


「私は漆黒の魔女……ミカエル!」


「も、森人はスナイパー……セリス!」


「魚は飲み物!海神マリンっス!」


「魚より肉派ー、リオなのーデスっ!」


「み、未来の大聖女……」

「5人揃って!キャッチャーアイ!」


 ティファは途中で聞いて貰えなかった。


「なんだそれは?」


「フフフ、美術館のお宝は根こそぎ頂いて行くわ!」


 最早、目的が変わっていたミカエルである。


「頭の可笑しい奴らめ!大体、こんな遅い時間に子供連れ回して、盗賊気取るとか非常識にも程があるぞ!」

 敵に常識を語られる5人。


「うっ!確かにリオには遅い時間過ぎたな……」

 セリスがちょっと反省させられた。


「う、うっさいわね!これから死ぬお前らなんかに名乗る名など無いわ!死になさい!地獄の千本ノック!」

 苦し紛れに火玉を釘バットで打ちまくり、力押しで色々誤魔化し始めたミカエルを停めれる勇気ある者は居ない。


「「「名乗ってたよな!」」」

 敵兵の鋭いツッコミなど気にしない。


 ライナー、ワンバウンド、フライなどランダムに放たれた火炎の玉に敵兵達は蹂躙されて行く。


「やるしかないみたいだな!」

 ハンドガンを2つ構え、セリスも敵兵に向かって行く。


「大暴れっスー!おりゃあああ!」

 槍を振り回し敵兵を遥か高く弾き飛ばすマリン。


「皆殺しなのです!」

 鉄の爪で敵兵を刻んで行くリオ。


「フフフ……私も居るんですよ」

 やる気スイッチを見つけられないティファは杖をコツコツと床を叩いて俯いていた。



 ◇一方、美術館地下



 外の騒ぎはまだ誰も気付いてなく、競売が開始されていた。


 商品保管庫の檻の中に鎖で繋がれ、裸同然の服で出番を待っていたエイルだが……


「(おっさん!とりあえず手筈どおり頼んだぜ!)」


「(任せろ!他の奴隷達は俺が必ず逃がすから、嬢ちゃんは好きに暴れてくれ!)」


 完全に結託していた。


「おい!3番の商品は次だ!そこの昇降機に檻を運べ!」

 係員が俺の檻を移動させるよう指示を出す。



 いよいよ出番だ!

 ワクワクするなぁ。

 奴隷落ちしているのに常に平常運転のエイルだった。




 ◇美術館外周



 美術館を取り囲むおよそ1000人の騎士団を率いたベルド団長だったが、当初の作戦と違う展開になっている事にようやく気付いた。


「なんか戦闘開始速いな……」


 ミカエルの立てた作戦


 騎士団は外周を囲み敵の注意を引き付け且つ一人も逃がさない。


『銀の翼』は美術館に屋上から潜入。エイルの身柄確保の後、会場で戦闘する。



「まぁいいか」


 案外適当であった。


 美術館庭園から戦闘音が深夜の街に響く。


 タタタタッ

 キィン!キィン!


 銃声と金属のぶつかる音が激しさをまして行く。


「ミカエル!ここは任せろ!エイルの元へ急げ!」


「ん、わかったわ、セリス」


「マリン!ミカエルの道を作るぞ!援護しろ!」


「ほいさっさーっス」

「海神の逆鱗!」

 威圧で敵兵の行動を鈍らせる。



「どおりゃあぁぁぁ!」

 ミカエルの釘バットで身体をフルスイングされた重装備の騎士は、豪快なアーチで時計台の壁にめり込んだ。

 正にバックスクリーン直撃の120メートル弾だ。


 そのまま、美術館の正面入口に突入して行った。

 館内からは轟音と悲鳴が多数聞こえて来る。

 大暴れの様だ。



 庭園では、ミカエルを欠く銀の翼と敵兵達100人の戦闘は続く、善戦しているが、多勢に無勢の為、膠着状態にあった。



「ガーハッハッハッハッハッハ最早袋の鼠とはこの事よ!女4人など物の数では無いわ!」

 他の場所を警備していた部隊が中央の庭園へと駆けつけて来た。

 隊長と思しき大柄な体躯の鉄の塊みたいな男が前に出てくる。


「ふん!下品な輩のセリフは何時も同じだな!」


「ほぅ……貴様確か剣姫セリス殿とお見受けする。だが今は窃盗団の真似事とは堕ちた者よ!この黒光重装騎士団のガデムが御相手致す!剣を抜けい!」


「黒光重装騎士団……!そうか。黒幕はゲスマルク卿と言うわけか……良いだろう、御相手、受けて立つ!」



「くくく、裸にひん剥いて酒の肴にしてくれるわ!」

 ガデムが大剣を構える。



「だが、生憎私は剣を捨てた身でな、悪いがこれが私の今の剣だ!一騎撃ちだ!」

 セリスはバックパックから対魔物用ライフルを構え、ガデムに向け至近距離から発砲した。



 ドバシャッ



 ガデムは至近距離からのライフルをまともに受けて爆発四散した。


「一人残らず殲滅する!銀の翼に刃を向けた報いを受けろ!」

 ガトリング砲を取り出し、黒光重装騎士団に向け容赦なく狙いを定める。


 ドガガガガガガガッ


 セリスが、ガトリング砲を向ける度、敵兵の死体が増えて行く。セリスはエイルを攫った連中を絶対に許さないのだった。

 攫ったのはコイツらではないけど。




 ◇美術館地下競売会場


 外の戦闘など未だ気付いてない会場にいる貴族や商会の腐った金持ち共は、本日の目玉商品に拍手喝采であった。


「永らくお待たせしました!本日の商品の中でも絶品の奴隷を御用意致しました!ご覧下さい!」



 ステージに置かれた檻に掛けられた布を剥がすと、会場は割れんばかりの歓声に包まれる。


 銀髪金眼の小柄な少女は雪の様に白くきめ細やかな肌。

 均整のとれた美しい顔はまるで神の造形美だ。

 因みにエイルである。


「どうでしょう!皆様!正に人類の最高傑作と言っても過言ではない!」


(やたら持ち上げますねー、悪い気はしないけども)


 ちょっと褒められ過ぎて顔が緩むと、客の反応が変わる


「笑顔が天使のようだ!」

「可愛い過ぎる!」

「剥製にして飾りたい!」

「毎晩抱いて寝たい!」


 歪んだ欲望が人を狂わせるのか、それぞれの思惑が渦巻く様はとても汚く気持ち悪い。


「この商品……ただ美しいだけでは御座いません!」


 周りの客達が静まり、目を丸くする。


 檻から出された俺は立たされた。


 司会の男は鞭を容赦なく俺の身体に撃ち続ける。


 会場からは、わざわざ商品に傷を付けるなんてと野次も飛ぶが、お構い無しの鞭打ち。


 だが、その意図がわかった会場は更に歓喜に包まれた。


 傷が再生するのだ。


 鞭打ちの傷は既になく、美しい肌に戻る。


「どーですか!皆様!どんなに痛ぶろうが!死にません!やりたい放題です!壊れてしまって買い替えの必要はもうありません!無限サンドバック!」


「ぶっ」

 ヤバい、無限サンドバックで笑ってしまった。


「ではこの商品!5000万ジルからスタートですっ!」



 俺の競売が始まった。

 幾らになるだろうかなぁ?なんて考えていた時、会場の奥に鬼の形相で会場を見下ろす女がいた。



「……エイルを傷付けたわね」


 そこには紅い眼をしたキリングマシーン……じゃなくて

 ミカエルが血だらけの釘バットを持って立っていた。



 血の宴が始まろうとしていた。

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