第11話 『奴隷始めました』



 目が覚めたら知らない場所にいた。


 どうやら牢屋みたいな場所で、腕には重い手錠。

 足には鉄球の付いた足枷がはめられていた。

 どうしてこうなった?


 確か……ギルドでミカさんと飲んでいたが、途中から記憶が無い。飲み過ぎてしまったようだ。

 ミカさんは大丈夫だろうか?


 頭痛いな……飲み過ぎたな……


 とりあえず、ここが何なのか、解らないから壁を吹っ飛ばして帰る訳にもいかないかな。


 窓らしきものは見当たらない事から地下の可能性が高い。

 故に時間の経過が解らない。

 みんな心配しているかもしれない。


「うっ、寒っ」

 上着を置いて来たのと、酔いが覚めた事で寒い。

 それと少しお腹空いたし。


 しばらくすると階段を降りる足音が聞こえて、その足音は部屋の扉付近で停まった。


「どうやら目が覚めたみたいだなぁ」

 人相の悪い、明らかに悪い感じの人が扉の窓から声をかけて来た。


「あっ、おはよう……ございます?」

 首をかしげ、とりあえず挨拶をしてみた。


「……お前、状況理解してないだろ?」

「はぁ、起きたらここに居たので……説明して頂けると助かるんですが……」


「お前冷静だな!普通なんかあるだろ?ここは何処!みたいなさぁ……まぁいい。お前は街で倒れてたから連れらて来たの!それでこれから奴隷として売られて行く。ってわけだ。どうだ?わかっただろぉ?げへへ」


「そうですか……ご迷惑かけてすみません」


「……お前話ちゃんと聞いてないだろ!俺達は人攫いだよ!何処に道端に倒れてる女を手錠して助ける奴がいるんだよ!」


「そんな事よりお腹空いたので何かくれませんか?」


「お前……馬鹿なのか?」




 ◇冒険者ギルド


「……あれ?」

 つい飲み過ぎてギルドで寝てしまったミカエルだったが、見るとエイルが居ない。

 確か……大声で「おしっこしてくるー」と言ってトイレに行ってしまった辺りから記憶がない。

 大体、アイツは、そういう事を大声で叫ぶとか女子としての自覚が無い。いや、今はそれよりも……


「すみません、うちの連れ知らないですか?」

 ギルドの受付に聞いてみた。


「えっ?まだ戻られてないのですか?確か、裏の通用口から、ふらっと出て行かれましたが……」


 通用口?


 とりあえずトイレに様子を見に行くと、誰も居ない。

 トイレの隣りに外への通用口が開いていた。

 外に出ると建物の裏路地に出る。見渡しても誰も居ないので中に戻って誰かに聞いてみる事にしよう。


 何人かの冒険者に話を聞いた所、確かに似た女の子が複数の男達に担がれてるのを別の場所で見たらしい。

 人攫いかもしれないが、役人じゃない冒険者は基本的に依頼以外は興味ないので見て見ぬふりだそうだ。

 ぶっ殺してやろうかと思ったが今はやめとく。


「人攫いかぁ……」

 一人では探しようがない。一度王宮に戻る事にした。

 人攫いは皆殺し確定だ。



 ◇王宮の客室


「みんな!大変なんだけど、エイルが攫われちゃった」


「「「えっ?」」」


 セリス、マリン、ティファの3人が目を見開いて驚く。

 リオは話聞いてない。

 とりあえず経緯を説明した。

 飲み過ぎて寝てたらエイルが居なくなってた。

 エイルに似た女の子が担がれて攫われた。

 以上。


「なるほど、どうやら地下組織に捕まったと言う訳か。では助けに行かねば!」

 部屋を飛び出す勢いのセリスの首根っこ掴んで止める。

「な!何をする!」


「馬鹿ね。場所解らないのに何処に行くのかしら」


「むぅ。確かに……だが、片っ端から地下に行けば何とかならないか?」


「地下組織が地下に居るとは限らないでしょう?地下に居るから地下組織ってわけじゃないのよ」


「そ、そうだな……お手上げだな!」

 諦めるのが速いセリスだった。


「いい?地下組織が一つとは限らないし、エイル自身が脱出するのは難しくないと思うの。その気になれば街ごと破壊できるだろうし。多分、エイルの事だから自分の置かれてる状況を危機と思っていないはずよ」


 アイツは昔から、トラブルを気にしないからなぁ……


「なら売られたら買いに行けばいいっス」

 マリンの斬新な発想だったが……


「それ、ありかも……上手く行けば、他の組織も一網打尽に出来るかもしれないわね」




 ◇王宮、王の間


「エイルが攫われただって!?」


 突然の報告に驚きを隠せないユリウス国王だ。


「どうやら地下組織に捕まってるらしいのだ。それで恐らく、競売にかけられるのではないかと……」


 エイルが売られてしまう!そんな事許されない。

 ファミリアの英雄が競売にかけられるなんて前代未聞だ。買う奴が羨ましいが……


「それで、私に競売の開催を探れと言うことかな?」


「そうだ。会場の特定と日時が解れば銀の翼で襲撃してエイルを奪還。組織の殲滅をするつもりだ」


「わかった……直ぐに騎士団を招集する。セリス、貸し一つだからな!」


「むぅ。仕方ない。エイルのためだ。とにかく今は貴様に頼らざるを得ない。頼む」




 ◇一方その頃エイルは……




「あはははっ!それ大変ですね!」


「だろ?その時は流石に肝が冷えたよ」


 人攫いの男と仲良く談笑していた。

 相変わらずの危機感ゼロである。



「いやぁ、嬢ちゃんは変わってるなぁ!俺がこんな事言うのも変だが、良い人に買われるといいな!」


「おっさん……ありがとう。私、立派な奴隷になるよ!」



「嬢ちゃん!」

「おっさん!」

 ガシッと握手して意気投合していた。


「そうだ!確か嬢ちゃん腹減ってたんだったな?今何か持って来てやるからな!」


「ありがとう!おっさん!」


「あぁ、それと、俺の名前はロイだ。おっさんて程、歳はとってねぇよ」


「ロイさんかぁ。お、私はエイルだよ。よろしく!」


「エイル?何かどっかで聞いたような……」



「何をしているのですか?」

 コツコツと足音を立て一人の中年女性が現れた。


「ボ、ボス!お疲れ様です!」


「随分と賑やかな話声がしたと思いましたら、奴隷の娘と何してるのかしら?、お前。売られるのが怖くないのかしら?

 性格の悪そうなおばさんが来ました。

 一瞬オークと見間違えたよ。


「トテモコワイデース」



「奴隷の癖になんてキラキラニコニコしているの!ムカつきますね!ちょっとロイ!コイツを繋ぎなさい!」


「へ、へい!」


 ロイに両手を天井から吊るされる形になった。


「フフフ、お前に恐怖と言うのを教えてやろう」



 もしかして、これはクッコロチャンスか?


「くっ、コロセー……」


「……なんだその棒読みの下手な演技は?お前馬鹿にしているのか?まぁいい、お前が恐怖に歪む顔を見せるがいい!」

 パシーン!

 鞭で身体を叩かれる。


「痛っ!」


「くくく、そうだ!もっと苦しめ!」

 パシーン!パシーン!パシーン!

 パシーン!パシーン!パシーン!


 衣服はボロボロになり、鞭で叩かれた場所は赤く腫れ上がり血が滲み出ていた。


「ん?おかしいですね、傷が増えませんね?」


 傷は再生して行くので鞭打ちを休むと、全く傷が無くなっていた。


「一体、どういう事ですか?!お前さっきから痛がるのも辞めてたな!何故、傷が無くなるんだ?言わないか!」


 パシーン!


「イタイよー、お腹空いた、イタイよー……」


「何ちゃっかり空腹を訴えてるのかしら!コイツと居ると頭おかしくなりそうだわ!もういいわ!明日の競売で高値で売っておさらばよ!」

 そう言っておばさん帰りました。



「嬢ちゃん大丈夫か?しかし、傷が治るって不思議な身体をしてるんだなぁ。一体嬢ちゃん何者なんだ?」


「話すから、下ろして下さい。あとご飯ね」


 裸同然の格好で、おっさんに見られるのは流石にミカさんに悪い。俺は平気だが……


 さてと、競売は明日か。俺はおっさんに身の上を話した


 明日は暴れてやるぜ!ぐふふふふ。


「さて寝るかな…………やべぇ寝れない!布団無いし寒いし……」

「ミカさんが一人、ミカさんが二人、ミカさんが三人……怖ぇよ!マリンが一人、マリンが二人、マリンが三人……馬鹿ばっかりか!。アチナが一人?一柱か、アチナが…………スヤァ」




 ◇王宮会議室


「街での調査は慎重に行えよ。情報が漏れる可能性がある。貴族内部に内通者が居ると思う」

 ユリウスはベルド団長を呼び出し、エイル奪還の説明をした。


「ハッ!了承しました!」


 情報の収集はベルド麾下の騎士団が単独で行う事になった。ベルドを始め、騎士団はエイルに心酔している為、今作戦の士気は異常なまでに高い。


「エイル様にもしもの事があったら騎士団の連中は暴れるでしょうな。その時は私でも抑えきれません」


「……し、慎重に頼むよ」


「まず、街の怪しい奴は片っ端から叩きのめしてから情報を吐かせます」

 ベルドがニヤリと微笑むが、これではどっちが荒くれ者か解らない。



 そして、夜が明けた頃、競売会場が特定された。

 競売は今夜零時。


 場所は中央美術館の地下オークション会場。

 普段は美術品のオークション会場になっており、貴族御用達の場所だ。

 どうやら普段から美術品の売買を隠れ蓑に人身売買が取り引きされているようだ。

 上手く行けば、ファミリアの地下組織を一網打尽に出来る千載一遇の好機である。


 そして、夜零時の鐘が鳴った――


 ――エイル奪還作戦開始





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