第10話 『王都デート』



「ただいま〜」


 ベルド団長と模擬戦を終えて部屋に戻ったが、まだ昼過ぎで、やることなくなってしまい暇であった。


「おかえり。早かったわね」


「あれ?みんなは?」

 部屋にはミカさんだけのようですね


「さぁ、知らないわ」


「そっかぁ、じゃあちょっと街行かない?」


「街?2人で?」


「う、うん2人で」


「仕方ないわね。じゃあちょっと着替えて来るから待ってなさい」

「あーい」


 ミカさんは寝室で着替えに入ったが、中々出て来ません

 女の支度って長いよね。

 なんか機嫌も良さそうだ。


 ガチャ


「お待たせ」


「ゴスロリっすか……」


「な、何よ!嫌なの?」


「いえ。カワイイトオモイマス」


「心こもってねーなぁー!」



 釘バットで少し殴られたが、王宮を出て城下に降りた。


 やはりというか、なんか視線が凄いですね。

「サングラスでもすれば良かったかな?」


「この世界にサングラス無いから余計に目立つわ」


 なるほど、ただの変態にしか見えないか。


「とりあえずギルドに顔だしてキラーボアの討伐報告しないとだな」

「すっかり忘れてたわね」

 あれだけ派手に戦っておいて忘れられているキラーボアが、可哀想である。


 大通りを歩いていたら、何やら行列が出来てる店があった。

「なんだ木刀かな?」

「そんなわけないでしょ!」


 よく見ると。


『銀の翼人形入荷しました!』

『完全再現10分の1スケール。エイル様水着Ver.』

『等身大エイル様受注開始!』


 銀の翼メンバーの精巧なフィギュアが販売されていた。

 その他は抱き枕カバー、衣装や武器のレプリカ等。

 グッズが既に出回っていたのである。


「嘘だろ?王都に来てまだ一日だよね?」

「嫌な予感しかしないわね」


 2人でグッズ店に押し入ると並んでいた客達は大興奮。

「ほ、本物だ!」

「生エイル様だ!」

「ミカエル様!是非、踏んで下さい!」


 おかしな言動が混ざっているが、今はそれどころでは無い。


 フィギュアを手に取って見ると、確かに完全再現と言うだけあり、プロポーションのバランスも正確だ。

 こんな精巧な造りは一朝一夕で出来る訳が無い。


 フィギュアの台座の裏を見ると……


『製造元 マリー商会』



「「…………」」



 嫌な予感が的中した。



 この再現度はメンバー全員のスリーサイズを知っているマリーだからこその所業だった。

 しかも、幾度となく寝室の侵入。風呂の覗き等。

 メンバーの裸体すら記憶に収めている。

 全てはこの為だったのか!


「あの変態め!」

「どうする?どうやって殺す?」


 とりあえず人が多く、囲まれてしまったので、マリーへのお仕置き計画はサンクに戻ったら考える事にした。


 因みに銀の翼メンバーフィギュアにティファのが無かった事は本人には秘密にしておくことにした。



「ほら、行くぞ、ミカ!」

「う、うん」

 この場にいるのは面倒なので、ミカさんの手を握り

 逃げるようにその場を去った。



 しばらく手を握ったまま二人で街を歩いた。

 いつの間にか自然と恋人繋ぎになっていた。

「あ、悪い、手離すか?」


「……何?私に欲情でもした?相変わらず変態ね」


「手を握ったのは、何か……ごめんなさい」


 機嫌損ねたくないので、とりあえず謝りました。


「き、今日は特別に1000ジルで許したげるわ」


「金取るの?うわー。ん?金?ひょっとしたら握手会とかやれば儲かるかもしんないぞ!どうかな?」


「死ね!」

「あうっ!」

 ミカさんのローキックが俺の膝を破壊した。




 ◇ファミリア王宮王の間


 謁見の間でなく、密談などをする部屋だ。

 そこに意外な人物とユリウスが居た。


「ユリウス陛下にお願いがあってね、こうして遠路遥々来てやったんだよ」


 このお呼びでない珍客は勇者リュウタロウであった。



「……そうですか。で?どの様な内容でしょうか?」

 とっとと済ましてエイルの顔でも見に行きたいユリウスだったが、クズ勇者の事だ、どうせ面倒臭い事を持って来たのだろう。



「最近噂の竜殺しドラゴンスレイヤー居るだろ?あれをボクのパーティに入れるから連れて行く。それだけだ」


「断る」

 この勇者め。いきなり何を言うかと思ったら、エイルを連れて行くだと?そんな事許すわけないだろう。

 エイルは今やファミリアの至宝だ。



「そうか。なら仕方ない」


 やけにあっさり引いたな。

 何をら企んでいる?


「では、こうしよう。ボクと竜殺しドラゴンスレイヤーで試合をして勝ったら連れて行く。負けたら諦めるよ。どうだ?」


「なっ!?いや、それも断る!いくらエイルでも、勇者である貴方とは強さの格が違います!結果は見えてる勝負は条件には出来ない」


「うむ。ならうちのスピカを一晩貸すから何とか了承して欲しいな」


「そ、それでも断る!」

 仲間を交渉の道具にして差し出すとはなんて外道!

 こんな奴にエイルを任せる気にはならない。

 スピカは美人だから少し心動いたが。


「なら、諦める代わりに陛下の妹君のシャルロット様を連れて行く。確か魔術師としても優秀だとか。どうだろう?シャルロット様には先程、会いましたので別室で待機



「グッ!汚いぞ……」

 恐らく既にシャルロットは勇者の魅了で操られている可能性が高い。最初から人質を取っているからこその無理な要求だったのだ。

 これは試合を認めざるを得ない。

 身内とエイルを天秤にかけるなら身内を守るのは当然だ。

「……わかった。試合を許可しよう」


「話のわかる国王で良かったよ。では7日後に試合で準備してくれ」


 話が済むとリュウタロウは直ぐに部屋を後にした。




「すまないエイル……」



 そして絶望的な試合をしなければならない事になった当の本人は……


 ミカエルと冒険者ギルドに居た。


 キラーボア討伐数4632体


 ギルドの受付嬢な絶句していた。


「……しょ、少々お待ち下さい!」


 受付嬢はそう言って奥の部屋へ行ってしまった。

 一体あたり3500ジルだが、流石に討伐数があれである。

 受付でポンと払える金額では無い様だ。

 それも注目を集めるのに一役買っていたが、それ以上に竜殺しドラゴンスレイヤーがギルドに来た事がギルド内に居た冒険者達の注目を集めていた。


「ほ、本物だ!」「サイン下さい!」

「いい匂いがする〜」「可愛い」

「おっぱいなら負けないわ!」


 色々言われてるが……


 ミカさんの釘バットが怖いのか、近付いては来ない。


「待ってる間、暇だからエールでも飲むか?」

「そうね、すみませんエール二つ下さい!」


 日のある内から酒を飲むダメな2人だった。




 ◇東京都内某所



 女神アチナと剣聖椿つばき、魔女ノアの3人は

 都内に居た。

 高音量のサウンドと盛り上がる人々に紛れ、3人は異世界の食事と酒を楽しんでいた。


 今日に至っては3人共に普段の格好で来ているが、特別目立ってはいない。何故なら、ハロウィンだからだ。

 周りには仮装した若者が多数いる為、狐耳の椿つばきや魔女ノアは至って普通なのである。

 アチナは別の意味で目立ってはいたが……


「アチナよ、今日はヤケにアンデッドが多くないか?」

椿つばきちゃん、今日はそういう祭りなんだよ。だから変装無しで来てるわけなんだ」


「はろうぃん、と言うのだったか?なんとも奇怪な祭りだな」


「それより、このピッツァとか言うの、美味しいね!」


「ちょっといいかしら?確かに美味しいし、異世界を楽しんでいるのも良いけれど、今日の目的忘れてない?ただでさえ世界の役に立ってない女神とか言われてるんだから仕事しなさい!」


「酷くないかい?ボクでも傷つくよ?ちょっと寄り道しただけだよ」


 3人が地球に来たのは、ハロウィンのためではなく、エイル――咲野大河さきのたいがの死の真相の調査であった。

 ミカエルの話が本当ならば、咲野大河さきのたいがが勇者召喚された当人という事になる。


「とりあえず、ノアがうるさいから現場に行くとしようか」




 現場のコンビニは既に閉店していた。

 閑静な住宅地に位置するコンビニはそれなりに繁盛していたが、悲惨な事件の現場とあって止むを得ず閉店した。ただ、この事件は普通の強盗殺人事件とは違う点で世間を賑わした。


 現場に残された死体は当時大学生の結城美佳ゆうきみかだけであり、犯人と被害者のフリーター咲野大河さきのたいがは忽然と姿を消した。


 殺害の様子は防犯カメラに記録されていたが、肝心の所は防犯カメラの不自然な故障により、真相は謎に包まれ、メディアでは、「神隠し」「異世界召喚」「タイムリープ」等、色々と騒がれたが、半年も経てば人々の記憶からは忘れ去られていた。


「いやぁ殺人事件の現場ってなんか出そうで怖いね」

「化けて出る本人が転生してるからないわよ」

「「なるほど!」」


「とりあえず、召喚術式の痕跡を調べるわよ」

「よろしくお願いしまっす」

「私は眠いので早くしてくれ」


 剣聖は夜は起きてられないらしい。


 ノアによる現場の魔力感知が始まった。


 すると一つの魔法陣が薄いが見え始める。


「アチナ、術式の確認お願い」


「ふーん。間違いないね。勇者召喚の術式だよ」



「要するにエイルは勇者になるはずだった?」


「そ、そうなるね……」


「それはつまり、どっかの女神が余計な転生をさせたせいなんだろうな」


 アチナが使徒に咲野大河さきのたいがを選んでいなければ、勇者タイガだったと言う話ではあるが、リュウタロウの存在まで召喚されている事実は変わらない。


「とりあえず見なかった事にするしかないかな?」


 魔女と剣聖のため息が静かな室内に響いたのであった。

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