第9話 『銀十字勲章』


 式典は謁見の間で執り行われた。


 謁見のの間には、ファミリア王都にいる貴族達が王の両サイドに陣取っていた。

 多分、公爵とかそんな感じの方々ですよね!


 謁見の間は大きな入口から真正面の王の玉座までは

 お決まりの赤絨毯が続く。


 絨毯の両側には騎士団と魔術師団が整列しており、なんかアレだ、卒業式みたいだな。


 打ち合わせ通り、まず謁見の間の中央位まで進む。


 緊張して手汗ヤバイです。

 でも頑張れ俺!


 中央辺りで片膝を立て腰を下ろす。


 一応パンツ見えない様に股を開き過ぎるなとミカさんに念を押されました。

 俺は別に気にしないんだけどね。パンツ位別に見せても平気だ。

 ミカさん的には自分が見られる気がするようで嫌なんだそうだ。


 まぁ、元の持ち主の意見は尊重しておこう。



 腰を下ろした所で、司会進行のおっさん。

 多分そこそこ偉い人だと思います。が口を開く。


「その者、冒険者エイルは、我国において多くの生命を奪い、国民に憎しみと悲しみを200余年に渡り、深く、深く我国を苦しめた、赤き龍をその身一つで討ち滅ぼし者にございます」


 なんか芝居じみた話し方ですね。

 途中で三味線のベベンって入りそうな感じです。

 というか今200年とか言ってませんでした?

 200年もあんなのに苦しんだのか?

 あっ、なんか泣いてる人いる。

 すすり泣く声があちらこちらから聞こえます。

 身内を失った人も居るのだろうか?


「よって、その偉大なる、功績を称え、ここに銀十字勲章と、騎士の称号を授ける!」


「エイル、前へ」


 スっと立ち上がりユリウスの前に進み、玉座の前でまた腰を下ろした。


 ユリウスは立ち上がり、傍の者から勲章を受け取ると

 俺の首にかけた。

 そして式典用の剣の腹を俺の肩に乗せる。





 無事に叙勲を終え、皆の待つ部屋へと足早に戻った。


「ただいまん」


「「おかえり!」」

「おかえりっスー」


 皆の顔を見るとホッとした。


 だけど次は祝賀会か。

 程なくして呼び出され、部屋を後にした。



 その後は祝賀会やら、挨拶やらでかなり疲れた。



 祝賀会ではとにかく飲まされた。騎士団の団長とかはやはり豪快で飲み比べさせられた。

 か弱い女の子にしか見えない俺に酷い仕打ちだ。

 明日は騎士団の視察と、団長との模擬戦をする約束をさせられたが、忘れてて欲しい。



 部屋に戻ったのは皆寝静まってからになってしまいました。

 風呂を済ませ寝室に……と思ったが、部屋割りを決めてなかった。

 寝室は4つある。

 多分、部屋割りはセリスとリオ。マリンとティファ。

 俺とミカさんだろう。


 とりあえず入口に近い部屋をそっと覗くと、セリスとリオの部屋らしい。

 セリスの静かな寝息と、リオの「すぴー、すぴー」と言う寝息が妙に可愛らしすぎてリオに近づき尻尾をモフモフして見たくなったが、やめとく。セリスに怒られそうだ。



 隣りの部屋を覗くとマリンとティファの部屋でした。

 2人は同じベッドで抱きしめあって寝ていた。

 まさか2人は!?

「ご主人様〜それはもげちゃうっス〜」

 夢の中でお前は俺に何させてんだ?


 それよりも、マリンの胸の谷間に顔を完全に埋めているティファの様子がおかしい。

「んふっん〜ん〜」

 手足をパタバタさせているが、マリンにガッチリ抱きしめられているため息苦しそうだ。

 朝、死んでたら、ちょっと面倒臭いので助けることにした。


 まず、マリンの腕をティファから引き剥がすと

 巨大な二つの山脈が露になった。

「……うっわ……すげぇな」

 明らかに自分のとは規格が違うので比べ用がない。


 ティファの呼吸は静かな寝息に変わり安心した。

 だが、その時後ろから悪魔の気配が……


 闇の中に紅い眼が二つ光り近づいて来る……


「……エイルくーん、何してるのかな〜」

「ひぃっ! こ、これわ、ち、違うんだ!」


 白い手に頭を掴まれ闇に引きずり込まれて行った……



「帰りが遅いと思ったら、マリンの乳鑑賞とか、変態ね。死ねば?」


「いや、だから誤解だって。確かにマリンの乳を見て、すげぇなって思ったけど、誤解でございます」


「ガッツリ見てんじゃねーか!」


 左頬に強烈なミカパンチをくらいました。

 グーで殴るなよ。


「いや、マリンの乳に用があった訳じゃなくてティファが乳に挟まれてたの!助けたの!」


「ふん!どうだか」


「……ごめんなさい」

 なんで謝らないといけないのだろう。


「……こっちこそごめん。ちょっとイライラしてた。ちょっと血が足らなくて……」


 あー、そういう事か。女の子の日ってヤツか。


「俺にはそういうの無いから良くわからんけど……」


「!無いの?一度も?」


「うん、無い」

 無いとまずいの?俺的には助かります。天使は女の子の日は無い。


「なんかムカつくから血をよこしなさい!」


 やっぱりそうなりますよね。

 まぁ別に良いけど。


「今日寒いから布団の中で良いかな?」

 最近かなり冷え込むので、風邪引いてしまいそうだ。風邪引くか知らないけど。


「うん、わかった。ベッド行こ♡」


 そこに変なハート付けると意味深だから!


 そして僕らはベッドで仲睦まじく一夜を共にしたのだった……


「ちょっと余計に意味深だろが!」

「あ、すみません」


 血を吸われて寝ただけです。


「ハァハァ」

「変な声出すな!」

 バシッ

「いてっ」


「かぷっ……んちゅう♡」

「ん、んにゃぁ」



 翌朝



「ふぁー」

 朝起きたらベッドにミカさんの姿はなく、リビングで朝食を摂っていた。皆既に起きており、食事中だ。


「おはよう」

「ん、おはよう」

「エイルおはよう」

「おはなのです」

「おっス」

 マリン、略し過ぎだろ。

「おはようございますぅ」


「エイル、今日の予定はどうなった?」


「うーん、確か騎士団長のベルなんとかさんと模擬戦だったかな?」


「ベルド団長か。強いぞ、私やフレオニールの師でもある」

「あんたホントに人の名前覚えないわよね。ベルドのベルまで覚えて、ドが出て来ないとか阿呆ね」


 返す言葉もございませんね。





 ◇某宿屋


 スピカはリュウタロウの様子を見に宿に戻ったが、部屋に入ると、部屋は悲惨な状態だった。


「……臭っ!」


 部屋には衣服や下着が脱ぎ捨てられ、ベッドには全裸のリュウタロウと見知らぬ猫耳の女が横たわっていた。


 一晩中睦あっていたのか、部屋は男女の匂いで充満しており、スピカは鼻を摘みながら部屋の窓を開け換気をした。

「まったく、目を離すとこれですよ……」



「……にゃーん?誰なのにゃ?」

 どうやらお目覚めのようですね。

 これは昨晩はお楽しみでしたね?とか宿のテンプレ的なセリフを言った方がよろしいのでしょうか?


「おはようございます。私はスピカと言います。

 リュウタロウ様の仲間でございます。あなたは?」

 私は出来るだけ穏便に事を進めたいので笑顔で対応します。

「あれ?これは修羅場にゃーん?」


「いえ、リュウタロウ様の御相手、ありがとうございますっ!ですが、妊娠等されてしまいますと責任を取らねばなりませんので、お名前を伺いたいのです」


「……にゃるほど……でも妊娠はしないですにゃ、スキル毒耐性と異物耐性にゃ」


 なるほど、スキル持ちですか。

「左様でございましたか。ならば迷惑料だけでも受け取り下さい」


「別にいらないにゃ。リュウ様は今までで一番良かったにゃーん。まだし足りない位にゃ。」


 なんですと?

 大抵の女性はリュウタロウ様と性交すると壊れるのですが、まさかの足らない発言。いや、リュウタロウ様の方がグロッキーしてるじゃないですか!

 これは逸材です!


「すみません!お名前は?」


「リズにゃーん」


 勇者パーティに新たな仲間、性戦士リズが加わった。




 ◇王宮内


 俺は騎士団長ベルドのおっさんとの約束がある為、練兵場に向かっていた。

 途中で、ユリウス陛下に遭遇した。


「あっ、ユリくん!おはよう!」


 俺はこの世界に来て初めて出会った同世代の男子、ユリウス陛下と友達になったのだ。

 夜会で意気投合し、友人と言う間柄に発展したのだ。


「お、おはようエイル!」


「えへへ、ユリくんと友達になれて嬉しいよ!これから練兵場行って来るよ!ヒマだったら来てね!」

 タタタッと足早に去って行った。


 エイル的には同世代男子の友人が出来たと思っていた。

 だが、ユリウスからすれば、エイルは異性である。

 ましてや、神秘的な美少女が、「ユリくん」とか言って来るだけでも心臓を鷲掴みされた様な衝撃である。


 どうやら男女の友情は成立しそうに無いようだ。


「エイル……君は僕の天使だ……」



 ◇練兵場


「諸君!喜べ!今日は竜殺しドラゴンスレイヤーのエイル様がお見えなったぞ!」


「「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」」


 なんか大興奮である。



 そして、ベルド団長との模擬戦である。


 ベルド・ケーニッヒ(40)


 ファミリア王国最強の剣士


 身長は190を超える長身と恵まれた体躯で剛剣ベルドと言われている。


 だが、セリスとフレオニールの師であり、ただの力任せの剣では無さそうだ。


「準備は良いか?エイルよ」


「ええ、いつでもどうぞ」


 互いに剣を構える。


「始め!」



 初太刀はベルド団長だった。

「はぁっ!」

 突進からの上段切り下げ。

 長身から打ち下ろされ一撃は岩をも砕きそうだ。


 だが、当たらなければどうということはない。


 左に半身をずらして躱し、ベルドを飛び越え背後に回る。


「あれを躱すか」

 ニヤリとベルドの口角が上がる。

 再び剣を構える。


「なら、これはどうだ!」


 今度は刺突が連続で向かってくる。

 が、それを全て紙一重にかわす。

「よっと」

 更には刺突に混じり横なぎ払いを入れて来る。


 刀の腹でそれを受ける。


 ギィン!

 金属のぶつかる鈍い音が響いた。


「っつ!」

 かなり重い一撃だ。並の兵士なら真っ二つに体が離れてしまいそうだ。


「剛剣」を獲得


 なるほどね。スキルだったか。


 その後も剣撃を受けたが、スキルの獲得は無かったので

 終わりにする事にした。



 剣術 縮地 剛剣の同時使用だ。


 刀を一度鞘に納め、抜刀術で一撃を入れる。


 目標はベルドの剣。


 踏み込んだ地面が砂埃と共に沈む。


 ベルドが防御の構えを取った時には既に目の前からエイルの姿は無く、背後で刀を鞘に収めていた。


「なっ!」


 そしてベルドの剣は握りの部分と鍔を残し、刀身は折れて地面にゆっくりと落ちた。



「勝負ありですかね?」


 エイルは振り向き微笑んだ。


「ま、参った」



 見えなかった。恐るべし竜殺しドラゴンスレイヤー。なるほど、竜をも倒す者の実力は噂以上だった。


 この場にいたベルド以下騎士団は更にエイルの虜になって行くのだった。


 心酔者増加中!

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