第8話 『王都』
翌朝、エイル達一行は王都へ到着した。
王都は高い壁に囲まれた巨大な要塞のようだ。
異世界の街は比較的この様な造りが多い。
やはり魔物の侵入を防ぐためにこの様なRPGゲーム的な造りなのだろうか?
建物の多くは中世ヨーロッパ風の石造りの建物が殆どで、貧民街は木造家屋が多い。まぁ中世ヨーロッパなんて行った事ないから知らんけど。
人口は約100万人の大都市で、大陸では2位。但し、魔族国は国家として認められていないのと、規模と魔都の所在地不明のため除外されている。
因みに1位はローゼン帝国、3位は神聖王国セブール
4位は亜人国のセイコマルク
5位に妖精の国ミストリア
という順番だ。
そしてその人口第2位の都の正門前に着いたのだが……
想像していた以上の熱烈な歓迎を受けていた。
馬車はパレード用?な馬車に乗り換えさせられ、その屋根の上に立たされた。
屋根には手すりが付いているので、落ちる事はないが、まるで選挙カーに乗ってる気分だ。
馬車の前には金管楽器を抱えた音楽隊が200人
馬車の後ろには騎士団が100人の行列で王都の正門を通った。
門の先の大通りの歩道に多数の人で賑わっていた。
ファミリアに誕生した英雄をひと目見ようと、溢れんばかりの人の群れがエイル達を迎えた。
「凄い人っスー!」
「壮観だなこれは」
「みんな暇なのかしら」
「おなか空いたなのです」
「はわわ、興奮して出ちゃいそうですぅ」
「やべぇ恥ずかしい……」
生まれてこの方、注目を浴びるというのはあまりなく
ましてや何万人がいるか解らないレベルの注目は難易度が高過ぎである。
ティファの何か出ちゃう気持ちが解るエイルだった。
エイルからすれば、異世界に来て最初に倒した魔物がたまたま赤龍と言われていた災害指定のドラゴンだっただけであり、人々を救う英雄的な戦いをしたつもりもなく、なんか感謝されてんならいいか。位の気持ちで王都に来たのだが、これである。
精々犯罪を未然に防ぎ、警察署長から感謝状を贈られる程度の軽い気持ちだっただけに、後悔していた。
逃げれば良かったと。
まるで世界的スポーツで優勝したか、アメリカで毎年あるローズパレードとかの様な「祭り」と化した王都はエイルの到着により、ヒートアップして行った。
その災害レベルの凶悪な魔物を一人で討伐した少女を見た国民の感想は「美少女」としか言い表せなかったのである。
ドラゴンを倒す戦士なら屈強な体躯を持ち、大剣を振るうのかと大抵は想像していた。
ところが、現れたのはスライムすら倒せそうにない、推定14.5歳の可愛らしい少女だった。
「やばっ可愛い!」
「結婚してくれ!」
「小さいっ!」
「エイル様ぁー」
男性も女性も老人も子供も虜にする容姿はエイルを一躍アイドルに推し挙げた。
もう国民全員エイル推しである。
そんな様子を一人、気に食わぬ様子で眺める男がいた。
勇者リュウタロウである。
リュウタロウは前日から王都入りしており、大通り沿いの割りと高い宿に宿泊していた。
その宿の窓からパレードを眺めていたが、とても不愉快であった。
勇者であるボクを差し置いて目立つなんて許されないよね。
さほど英雄的な活動をしていないにも関わらず、嫉妬だけは人並み以上であった。
なんとかして、この人気を奪えないだろうか?
そんな事を考えていた。
そもそも人気を上回るのではなく、奪うと考える所がクズ発想であった。
そんなリュウタロウに背後から迫る女がいた。
「リュウ様〜何見てるにゃーん?」
後ろからリュウタロウに抱きつき、振り向いたリュウタロウの唇をペロッと舐める。
「くだらない祭りを見てたよ」
女に優しく応えるとリュウタロウは女の髪を撫でた。
「今日は
「だから今日はずっと愛して下さいにゃ?」
「うーん、どうしようかな」
流石のリュウタロウもちょっと困っていた。
昨日の夜に持ち帰った、猫耳の娘は容姿とスタイルも抜群であったが、チートじゃないかと疑う程のスタミナの持ち主で、リュウタロウを寝かさないのである。
「お願いだから寝さしてくれ…」
リュウタロウの訴えは却下され、部屋のベッドは一日中軋むのだった。
リュウタロウが絶倫娘に捕まっている頃、スピカはアチナ教団ファミリア支部の本部に来ていた。
「大司祭様、お久しゅうございますにゃん」
「にゃん?」
「し、失礼しましたっ」
つい罰ゲームの癖が出てしまいました。
「お久しぶりですね、スピカ。噂は聞いてますが、大変ですね。ですが、慈愛を持って支えれば、必ずや勇者も希望へと変わりましょう」
「……はい。励みます」
いや、無理でしょ。とか反論したくなるのを抑え、教会本部を後にした。
教会本部を出た所で意外な人物に出くわした。
「む?貴様は確か最近の聖女だな?」
最近の聖女というのが少しひっかかるが、気に止めず
挨拶をする。
「お久しゅうございます、剣聖
いつも煌びやかな着物を着ていたはずなのだが、奇妙な服装をしている。
上下同色のゆったりとしたサイズで伸縮するのか、なんとも柔らかそうな生地で出来た衣服だ。
腰の辺りからは紐が垂れており、部屋着の様な気もしないでもない。
「この服装が気になる様だな。これはスウェットと言う物でな。ちょっと古い友人に頂いたのだ」
「はぁ、そうでしたか。ところで教会に御用でしょうか?」
「あぁ、今は教会に居候させて貰っていてな、朝の散歩のついでにパレード見て来たのだ」
世界最強の剣聖である
◇
大通りのパレードから解放されたエイル達は、王城内の客室に案内され、ようやく一息付けたのである。
「うわぁぁぁ、もうおなかいっぱいだよ!」
客室のやわらか過ぎるソファに身を沈めながら俺は叫んだ。
「コラコラ、本番はこれからだぞ、式典にお披露目、夜会に……」
「やめてぇぇぇ」
俺は耳を塞ぎ、そのスケジュールを無かった事にして逃げたかった。
今いる客室は、まるで家の様な広さで、リビング
に寝室が4つ、浴室にトイレがあるVIPルームの様だ。
コンコン
どうやら誰か来たようだ。
「失礼するよ」
入って来たのは20代位のブロンドヘアのイケメンだった。乙女ゲームキャラの様な優男で、軍服なのか、騎士服なのか解らないが、ジャラジャラと重そうな勲章を付けた出で立ちだ。
多分、良い所の坊ちゃんか。だとすると、どうせスケベールの長男とかか?
「なんだ、ユリウスか。女性の部屋に来るとは、相変わらず変態は治らんようだな」
セリスがどうやら知り合いみたいだ。
「セリスは少し変わったか?以前よりは顔付きが優しくなったな。私の求婚を受けてくれる気になったかい?」
「それは何度も断った筈だが」
セリスはようモテますな。
大方振られた貴族さんですかね。
「手厳しいな。ところでキミがエイルだね?」
「あ、ええ、エイルです」
「とても可愛らしくて驚いたよ。キミが赤龍を倒したとは信じられないね。良かったら結婚してくれないか?」
「は?」
呆気に取られて何コイツみたいな空気感が部屋に広がる。こういう時ミカさんが必ず毒づくのだが、ミカさんは部屋の隅で腕組んで見てるだけだ。
堪らずセリスに助けを求める様に見つめた。
「あー、こいつはユリウス・ウィル・ファムール、ファミリアの国王だ」
「「ええっ!?」」
意外にも驚いたのはティファと俺だけだったが、リオは部屋にあったフルーツや菓子を食べるのに夢中で、それ所ではないようだ。
マリンは人族の王様とかにまったく興味が無いのか、部屋の調度品を持ったり置いたりを繰り返してる。
壊すなよ!
それよりも、国王に向かってタメ口聞いたり、馬鹿にする様な態度のセリスの無礼者は神がかっている。
セリスって何者なんだろうか?
「驚かして済まないね、セリスとは愛し合っている間柄でね、言葉使いの悪さは、それだけ愛し合ってる証拠さ」
「ユリウス、愛した覚えは無い。エイルが勘違いするから品のない冗談は辞めないとまた痛い目にあわすぞ!」
王様を痛い目に合わせたの?
反逆罪とかで捕まるよ?
「まぁまぁ、それはそうと、あちらに居られるのはミカエル・デストラーデ王女では?」
「ミカエルと顔見知りか?」
「お久しぶりね。ユリウス」
「相変わらずの美しさ、感服致します。が、何故に国を出て、そしてセリス達と一緒なのでしょうか?」
「それは殿下には関係のない事ですわ。あくまでも個人の行動でエイル達と冒険者をしているだけ」
「そう……ですか。ならばこれ以上は聞きますまい。式典にはエイル嬢のみの参加ですので皆はごゆっくり旅の疲れをおとり下さい。ではエイルまた後でね」
ユリウスは部屋を出て行ったが、代わりに宮仕えの女性達が入ってきた。
式典の作法の説明と練習。
式典の前に入浴を済ませた。
「綺麗な肌でございますね」
ありがとうございます。傷一つ、余計な体毛すらありません。神の造形ですから!
「お胸はまだまだ、これからですからめげないで下さいね!」
なんで励まされてんだろうか?
確かに絶壁の様な胸だ。お陰で動き易いから気にしてないが、鏡に映る裸身を見ると少し大きくなってる様な気がする。
アチナの話だと天使もある程度は成長するらしい。
「少し髪が伸びたかな」
もうすぐ式典が始まろうとしていた。
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