第7話 『パンティパーティーノーパンティ』


 勇者リュウタロウと俺たちに何があったか?


 それは簡単に言えば被害者と加害者だな。うん。

 殺された者と殺した者。非常に特異な関係だと思う。

 殺された者が再び会えるなんて、普通は無い。

 俺とミカは死んで、リュウタロウは生きた。

 自身の仇をとる事が出来る事、こんな事普通じゃない。

 転生。そして異世界。何故俺は使徒に選ばれたのか?

 この復讐のためか?いや、神の勘違いだった様な……

 だったら何故今、異世界に居るのだろう?

 復讐?そこまで実は恨んではいない。

 でも俺は――


「どうなんですか?もしもーし?」


 おっと、つい考えこんでしまってたよ。

 スピカさんは可愛いけど敵だ。多分。

 敵にこちらの目的と素性を話す訳には行かない。

 可愛いけど。だからとりあえず今は秘密なのだ。

 可愛いけども!


「ひ、秘密だよ!何も言わないよ!」

 フッ、完璧に秘密を守った。俺は口が硬いのだよ。


「バカ……」


 おや?ミカさんは不服な感じですか?

 俺はちゃんと秘密を守ったよ?


「わ、解りました。言えないなら無理には聞きませんわ」



 この娘……多分馬鹿だわ。良い子なんでしょうけど嘘が下手なのね。

 リュウタロウ様と因縁があるとすれば、召喚前と言う事は間違いない。

 という事は、この二人は転生者?



 だとしたら



 スピカの推測などエイルはつゆ知らず、秘密を守ったつもりで平静を保っていた。


 王都へは明日の朝に到着予定だ。

 今日は疲れたし、早く寝ないとだな。

 しかし、勇者……名前忘れたけど強かったな。

 戦わなくて済んだけど、戦ったら?

 勝てるだろうか?無理かなぁ。



「そんな事より、ヒマね。野営地まではまだ時間かかるし、エイルなんか面白い事しなさいよ」


「え!面白い事って言われてもなぁ」

 無茶ぶりが過ぎますぞミカさん。

 だけど、恐らく話題を代えてくれたのだと思う。



「じゃあパンティ大会でもするか?」


「名案ね。負ける気がしないけど」

「私も今日は負けませんよぅ」


「――って何の大会なんですか?」

 スピカさんは顔を真っ赤にして慌てている。

 知らないのも無理はない、前に家で飲んでた時に皆に教えた日本の伝統的な?パーティーゲームだ。



 ルールを説明する。

 まず、ジャンケンで鬼を決める。

 鬼はリズムよく「パンティパンティパンティパンティ」と言い、両手で次の鬼を指名する。

 選ばれた鬼は「パンティパンティパンティパンティ」

 と言ってまた次の鬼を指名する。リズムに乗れなかったり、パンティと言えてない場合はアウト。

 更に鬼の両隣は「ノーパンティノーパンティ」と言わなければならない。これもちゃんと言えない場合はアウト。


「準備はOK?」

「「パンティイェイ!」」

「……」


 ★エイル

 ◆ミカエル

 ◇ティファ

 ♡スピカ


 ◆「パンティパンティパンティパンティ」


 ◇「パンティパンティパンティパンティー」

 ★「ノーパンティノーパンティ!」

 ♡「ノーパンティノーパンティ……」


 ★「パンティパンティパンティパンティ!」

 ◆「ノーパンティノーパンティ」

 ◇「ノーパンティノーパンティ」


 ♡「ぱっパンティパンティ……うっ」


「スピカさんアウト〜」


「あら、聖女って案外対した事ないのね」

「初めてだから仕方ないですよぅ」



「くっ!」

 なんて事ですか!このパンティ、じゃなかった。このパーティは!聖女である私にこんな破廉恥な遊びをさせて喜んでいるのでしょうか?

 でも、このスピカ、どんな事でも真面目に取り組み成果を上げてきました!やってやりますとも!


 スピカは負けず嫌いだった。



 ♡「準備はOK?」

「「「パンティイェイ!」」」


 ♡「パンティパンティパンティパンティっ!」


 ◆「パンティパンティパンティパンティ」

 ★「ノーパンティノーパンティ」

 ◇「ノーパンティノーパンティ」


 ♡「パンティパンティパンティパンティィィ!」


 ★「パンティパンティパンティパンティ!」


 ◇「パンティパンティパンティパンティぃ」

 ★「ノーパンティノーパンティ」

 ♡「パンティっあっ!」


「ダメ聖女アウトー」

「あはははっスピカさんアウト!」



 聖女の自信は跡形もなくエイル達によって粉砕されたのであった。




 野営予定地に到着した。



 まだ日は沈んでなく、王都は目と鼻の先で、今いる高台からは王都が一望出来る場所だ。

 このまま王都行った方が良くない?ってガッツーリに言ったのだが、朝に到着の予定は厳守のようで、仕方なく野営なのだ。



「銀の翼とダメ聖女は集合!」

 ミカさんが、野営のテントを準備している護衛隊以外を呼んだ。


「今日の晩御飯はキラーボアのシチューを作るから手分けして取り組みましょう」


「はーい」

「うむ、任せろ!」

「早く食べたいなのです」

「了解っス」

「わかりました」



「……おい、聖女。語尾は?」

 ミカさんがスピカさんに高圧的な態度で声をかけると

 スピカさんは恥ずかしそうに


「わ、わかりました……にゃん……」

 顔を真っ赤にして顔を下に向けながらスピカさんはミカさんの命令に従う。


 単なる罰ゲームである。


 パンティゲームで敗北を喫したスピカさんは罰ゲームとして、王都に着くまでの間、語尾に「にゃん」を付けなければならない。

 大した罰ゲームではないが、今代の聖女であるスピカさんに言わせてる事を考えると、とんでもない事のようです。



「わかったならばよろしい」

 超、上から目線のミカさんがまた、なんともハマってるので、スピカさんのプライドはズタズタだ。


「セリスとリオは近くの森からキノコ採取!セリスはリオがつまみ食いしない様に気をつけて!」


 多分、リオは毒キノコとか平気で食べてしまいそうだからの念押しだな。


「マリンとティファは川に行って水を持って来て!」

 マリンは馬鹿だからティファがいないと川下りとかして面倒臭い事になりそうだ。


「エイルは風呂の準備ね」

 まぁ空間収納から浴室を出して水待ちだな。


「あと、キラーボアの解体ね」


 うわぁぁぁ、やりたくねー

 グロいのダメなんだけどなぁー



「聖女は私の補助ね」


「任せて下さいにゃん……」


 テンションの低い「にゃん」を初めて聞いた気がする。でも可愛いからいいか。


「ではとりかかれ!」



「「「サーイエッサー!」」」

「サーイエッサーにゃん!」



「なぁ、マリン。このパーティのリーダーって誰だか知ってるか?」


「えっ?ミカエルっス」


「……そうなんだ……」

 ほんのちょっぴり涙が出たのは秘密だ。



「スピカはこのトマトの皮向いて、あと種の部分も取って」

「わかったにゃん!」

 スピカは手馴れた手つきでミカエルの指示に従いテキパキとトマトの皮むきをする。




 そして、食事を皆で囲む時には辺りはすっかり暗くなっていた。


「温まるし、美味いなぁ、このシチュー」

 俺はお世辞でなくミカさんの料理はいつも美味しいと思う。この料理チートめ!


「まさかキラーボアを食べてるとは思えないくらいに美味しいにゃん!リュウタロウ様にも食べてもらいたいにゃん」


「……アイツには毒ベースでしか与えたくないわ」

 毒入りでは無く毒から作るのね。


「食事の時に勇者の話は下品だろう。せっかくのシチューが不味くなるぞ」

 セリスの中で勇者は汚物と同格らしい。


「ひどい言われようです……にゃん」

 目を細めながら皆の酷評を受けるスピカだった。


「そうだ!×××が使えなくなる様な毒とか盛れば楽しそうね」

 ミカさんが突然×××とか言い出した。女の子がサラッと言う言葉じゃないだろ!しかも食事中だし。


「それは賛成にゃん!あの元気過ぎる×××を不能にしてしまいたいですね!……にゃん」

 スピカさんまで!


「二人とも、ちょっとは場をわきまえてよ!護衛の人もいるんだよ!」


「ハイハイ」



 とはいえ護衛の騎士達共々、ミカエルの美味しい料理で終始満足したのだった。




 皆が寝静まった頃、ミカエルは一人焚き火の前でワインを飲んでいた。

 焚き火の音がパチパチと鳴る中、火を見つめていた。


「眠れないのですか?」

 そんなミカエルを見つけ、馬車からスピカが近づいて来る。


「……語尾」


「まだ有効なんですか?……にゃん」


「ちょっとお酒飲みたかっただけよ」

 ツンとした表情でスピカから顔を背ける。

 見られたくなかった。ミカエルは泣いていたのだ。


「私も頂いてもよろしいにゃん?」


 するとミカエルは空間収納からワイングラスを出し、スピカに渡す。

 コクコクコクとボトルからワインが注がれる。


「いただきますにゃん」



 一口飲んでからスピカが口を開く。


「やはり、国が気になるのですかにゃん?」


「!……知ってたの?」


「ええ、休戦調停の席に貴方が居たのを覚えているにゃん」



「で、私が魔族と知ってどうするつもりかしら聖女様?」


「別に何もしないにゃん。協定を破ったのは帝国だけにゃん。セブールは今はまだ動かないにゃん。貴方はどうするにゃん」



「……別に帝国ごときに破られる要塞じゃないし」



「確かにそうでしょうにゃん」


「……どういう意味?セブールは今はないならファミリア?まさかのセイコマルク国かしら?」


「……どうかしらにゃん」


 こいつ。何か知っているかの様な感じが腹立つ。


「これだけは言っておくにゃん。貴方はもうじきエイルさん達とは一緒に居られなくなる……にゃん」


「――っ!」

 わかっている。理解してはいるつもりだ。

 帰らねばならない場所がある。

 でも後少しだけ……一緒にいたいよ。



「じゃあおやすみなさい……魔王様……ふふ」

 スピカはそう言って馬車へと戻って行った……




 テントに戻り、既に寝ているエイルの隣りに寄り添う。静かな寝息を立ててる顔を目に焼き付けて、エイルの手を握り眠りについた。




 ◇ファミリア王都


 勇者リュウタロウはスピカを置いて来てしまったが、割りと気楽だった。


「ようし!今日は夜の街に繰り出して酒池肉林と行くかな!」



 夜の王都は酒場や娼館を除き灯りが消えているが、人は割と多く出歩いていて賑やかであった。

 リュウタロウはそんな夜の街並みを見ながらセブールとは違う雰囲気を感じていた。


 それは、皆リュウタロウを見ても逃げたり、舌打ちをしたりしないのだ。


「良い国だなぁ。魔物暴走スタンピードから守ってやった甲斐があったなぁ」


 自分の都合の良い解釈しているリュウタロウに、見知らぬ男が声をかけて来た。

「おにーさん、一人かい?いい店あるよ!」


「ほう。良い店とは?」


「この店だよ。可愛い娘いるよ!どうだい?」

 その男が、案内した店は大通りから路地裏に入った所にあり、どうやら地下にある様だ。

「獣耳BAR」

 どうやら亜人専門のガールズバーらしい。


「うむ。たまには良いかもな。案内してくれ」


「へへっ、一名様ご案内!」


 カランコロン

 階段を下り、入口の扉を開け店内に入ると、キラキラした照明で店は明るく華やかな雰囲気で迎えられた。

「「「いらっしゃいませにゃん!」」」



 リュウタロウの夜はまだ終わらない。



「うほほーい!」

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