第6話 『勇者と聖女』


 立ち込める煙の中からその姿を現したキラーボアの上位個体であるキングボアは体格はおよそ通常のキラーボアに比べ1.5倍ほどなので、それ程巨大では無い。

 だが、その強さは段違いであった。


 タタタタッ!


 姿を現すや否やセリスが先制攻撃をしかける。


 だが、撃ち込まれた弾丸はキングボアに傷一つ付ける事なくパラパラと落ちた。


「あー、硬いやつか」


「二人とも離れろ!」


 キラーボアが俺目掛けて突進してくる。

「速っ!」

 雷電丸で受け――


「がはっぁ!」

 受けが間に合わずモロに突進を喰らってしまい数十メートルは飛ばされた。


「縮地」を獲得。


 そうか、あの速さはスキルって事か。

 それにあの硬さは斬れるのか?


「てめぇ私の身体エイルに何してくれてんだゴルァ!」

 ガァン!ガァン!ガァン!

 ミカエルが釘バット改でキングボアの背中に乗り、頭部を叩くが、まるで金属の激突音みたいに響く。



 だが、あまりダメージを与えられないまま、振り落とされる。ちょうどキングボアを挟む形になった。



 俺は雷電丸を握り、抜刀術の構えから、「縮地」を使用して突進する。

 キングボアがこちらに気づくが、キングボア左肩から尾に向けて斬って行く。


「ブモォォ!」

 変な鳴き声だが、とりあえず浅いけど斬れた。

 そのまま、俺はミカさんに向けて突進する。


「え?え?」


 ミカさんが慌てる。


 俺は空中で回転してミカさんの方に足を向ける。

 足を向けるとかすみません。

「ミカさん!俺を打て!」


「え?あっ!任せて!」


 ミカさんの釘バットが俺の足裏を捕らえる。


「うおりゃああああああああぁぁぁ」


 打たれた勢いでキングボアの腹目掛けて雷電丸を突き刺す。刀身は鍔まで突き刺さる。


「100万ボルトォ!」


 バチバチとキングボアの体内に電流が走り、内側からキングボアの身体を焼く。そのままキングボアは地に倒れた。



「やった!」

「おっしゃああああああああぁぁぁ」


「おお!さすがエイルだ!あと淫魔もな!」

「淫魔いうな!」



 俺達は三人でハイタッチし合い、互いの無事を喜びあった。

「うほほーいキングボアに勝ったもんねー!ピースピース!」

 キングボアの屍の前で記念写真撮るみたいなポーズを決めて喜ぶ。カメラ無いけどね。

「キングボア殺ってみた」

「何それ?動画投稿?スマホないから」

 ミカさんもノリノリで応えてくれた。


「殺ったっスかー?」

 マリンが馬車からこちらにデカい胸を揺らしながら駆け寄って来るが、途中でクルっと回転し馬車の方へ引き返した。



「第三ラウンドスタートっスー」



「「「は?」」」

 俺、ミカさん、セリスの三人は恐る恐る後ろを振り返るとキングボアが立ち上がり、飛びかからんとしていた。

「ブモォォ!」


「嘘だろぉー!」

 なんてタフな奴だ。キングボアの眼光は鋭く光り狂った様に俺達に襲いかかる。


「逃げろ!なんかめんどくさい!」


 逃げる三人をの上をキングボアが飛んで来た時だった。


 突如、光の筋がキングボアの横腹を直撃し、1メートル大の風穴を開けて行った。

 更に上から真っ二つになり、地面に数キロは及ぶ斬った跡が走る。

 何かが、大地を


 すると、光の発信源の方角から超高速でなんか来た。



「どうやら間一髪無事のようだね!」

 そう言った男は白い甲冑を身に付けていて、髪の色は黒で、切れ長の瞳も黒の日本人。

 どっかで見た事がある。そうだ俺はコイツをよく知っている。コイツは……


「やぁ!はじめまして!ボクが伝説の勇者リュウタロウだ!君をスカウトに来たよ!」



 勇者リュウタロウ……

 この世界の人類の希望であり、最強の男。

 だけど、その正体は俺とミカさんを殺し、転生する羽目にした張本人のコンビニ強盗……

 通称ラーメンマン(ミカさんと俺だけのあだ名)だ。


 だが、突然の再会でいきなりスカウトに来たとか訳が分からない。

 ていうか自分で伝説の勇者とか言ってたし。

 伝説ってあとから付くものかと思います。

 それよりも、この勇者の背中から降りた銀髪金眼の女性、何かを感じる。

 ハッキリ言って、凄い美人なのだ。なんだろう、可愛らしさを残した美人と言うか何と言うか。とにかく可愛いは正義!って感じだ。正直勇者リュウタロウとかどうでもいいモブになりつつある。

 あれだ、ようやくヒロインが登場したんだ。

 生きてて良かったー!

 1回は死んでますけどね!

 その可愛いは正義さんが、ニコリと微笑み、口を開いた。

「あ、わたくしは、スピカと言います。リュウタロウ様の仲間です」


「あ、俺、じゃなかった、私はエイルです。はじめましてスピカさん!」

 思わず、ガシッと両手で握手をしてしまった。


「なんだスピカか久しいな。相変わらずこのクズの子守りとは、お前も大変だな」

 おっとセリスさん!知り合いですか?


「あら、セリスさん、ごきげんよう。美しさだけは健在のようで何よりですね」


「ふははは」

「うふふふ」


 二人の間に何か冷たい空気が流れた。

 ひょっとしたら仲悪いのかな?


「やぁ、セリスは相変わらずボクに冷たいね。いい加減ボクのパーティに入ってくれないかな?」


「それだけは断ると何度も言ったが、忘れるとはやはり阿呆か」

 セリスの無礼を通り越した喧嘩売ってるとしか思えない返しが今はホントに怖い。


 だが――

 正直どうする?この勇者、仇だけど、今は戦いたくはない。先程のキラーボアをオーバーキルした力を見ると勝てる気がしない。幸い、勇者はこちらの事を気付いていないようだし……


「君が竜殺しドラゴンスレイヤー?思ってたより子供っぽいね」

 下から舐める様にいやらしい目で見てくる。

 気持ち悪い。

「一応、そうです……」

 俺は出来るだけ顔を合わさない様に目を背けた。


「何をそんなに恥ずかしがってるのかな?」

 こちらの顔を覗いて、近づいてくる。

「う……」


「君……どこかで会ってないかな?」

 ギクッ

「気……気のせいですよ、ないですっ!」


「ふーん、そうかなぁ、なんか見た事ある気がする」


「よくある顔ですよ」

 こんな美少女がよくあったら天国だな!なんて自分で自分にツッコミ入れてみた。


「それより、さっきから黒髪の子が凄い殺気でボクの事睨んでるけど、ボク何かしたかい?」


 見るとミカさんが、今にも勇者に飛びかかりそうな剣幕でこちらを睨む。お願い。今は堪えてミカさん!

「……エイルから離れろ」


「ハイハイ、怖いねー、それよりどうかな?勇者パーティ入らない?」


「おいスピカ、確か他に三人居たメンバーはどうした?」

 セリスがスピカさんに問いかけた。


「そ、それが皆さん、産休に……」


 なんとも言えない静寂に包まれました。


 絶対入りたくない!勇者パーティ……



 スピカは困っていた。とてもじゃないがパーティに入ってくれそうな空気では無い。セリスがいる時点で勇者リュウタロウの悪評は多分浸透しているだろう。

 スピカとしてはメンバー増えて欲しいのだが。

 はっきり言って一人だと色々キツいのだ。

 しかし、このエイルと名乗った少女は何か不思議なものを感じる。容姿はずっと見ていたくなる程に可愛いが、それだけはなく惹かれる魅力がある。


「ちょっと君、気に入らないなぁ」


 リュウタロウがミカエルに近づいて行く。



 リュウタロウは先程から殺気を向ける黒髪の女が気になっていた。会った事は無いはずだが、不思議と知っている気がする。いや、知っている。

 その眼。その表情。見た目は違くともまるであの女を連想させる。

 思い出した。エイルという少女はあの女に瓜二つなのだ。だが、殺気はこの黒髪の女だ。

 何故?何がどうなっている?


 リュウタロウがミカエルの目の前に来た時――

「ミカ――」

 ドンッ


 俺が声をかけるより先にミカさんの足が出た。


 ミカエルの予備動作の無い超速の蹴りはリュウタロウの顔目掛けて放たれた。が――


 簡単に防がれ、その足を掴まれた。


「何すんの?」

 足を掴んだままでミカエルに問う。

「くっ」


 ビリビリとした緊張が走る。


「どうしたっスかー?」


 このタイミングでマリン来たー!


「なんすかこのキモメンは誰っス?」


「何かやる気失せた」

 ふうっと肩を落としてミカエルの足から手を離した。


「今日の所はこれで失礼するよ」

 そう言ってミカさんから離れ、俺の横を通り過ぎる際にアイツは俺の耳元でこう言った。


「ドライバーは痛かった?」



「あ、あっ……」

 背筋が一瞬で凍りつく一言だった。

 気付いていたのか?始めから?


「じゃあまたね」

 リュウタロウはそのまま転移魔法で姿を消した。



「行ったか……」

 緊張の糸が切れ、皆安堵の表情になったが、俺はまだ震えが止まらない。

 殺された瞬間がフラッシュバックする。


「うっ、」

 急に吐き気を催してしまい、吐いた。


「おいっ!エイル大丈夫か!」

 セリスに背中をさすられ落ち着きを取り戻す。



「あのー、私、置いて行かれちゃったんですけど、どうしましょう?」

 スピカが申し訳なさそうに佇んでいた。


「「知るか!」」

 セリスとミカさんはご立腹のようです。



 と言うわけで、再び馬車の旅は再開したのだが……


 新たな仲間?スピカを加えて一行は進む。

 そんな車内。


「本当にご迷惑かけてすみません」

 スピカさんは先程から謝ってばかりだ。


「いえ、なんならこのままうちのメンバーになってくれても良いですよ!うち回復役居ないので」


「エイルさん、それあんまりですよぅ!そりゃスピカ様とご一緒出来るなら嬉しいですけど、完全に被ってますからね!あっ、美人差は完全に劣りますけど!」


「あら、お上手」


「能力も劣ってるのに気付けないとはいよいよ末期ね」

 ミカさんのティファ口撃が始まった。



「ところで、リュウタロウ様との間に何があったのでしょうか?」


 車内はシンと静まりかえる。

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