第5話 『キラーボア戦②と迫り来るアイツ』
「まぁ冒険者さん達に頑張ってもらおう」
「え?リュウタロウ様は行かれないのですか?
「うん、でもボクには関係ないよね?この国を守る義務は無いし、何よりボクは長旅で疲れてるんだ。今日はゆっくり過ごしたい」
やはり、自分勝手な理由で動こうとしないようだ。
どうしてこの男は他人の為に何かしようとか思わないのだろうか?長旅で疲れたと言うが、馬車の荷台で過ごしていただけで、何もしていないはずだ。
馬車の操車、馬の世話、野営の準備から食事の支度に片付け、野営中の警戒は全てスピカ一人でこなした。
にも関わらず感謝の言葉すらない。
「で、でもリュウタロウ様は勇者様ですので先頭に立って頂きたいのです……」
「いやいや、ボクが先頭に立って戦ったら、冒険者達の手柄を横取りして恨まれるよ、きっと。ならわざわざ出しゃばらずに宿でスピカと過ごしてた方が有意義な時間だよ。最悪冒険者が全滅してからでも遅くないでしょ?」
「何を言ってるんですか!むしろ逆効果です!最初からリュウタロウ様が出ていれば、死なずに済む人達もいるのではないですか?きっと遺族に恨まれますよ!」
「なんで恨まれなきゃいけないの?冒険者なんだから死んだって仕方ないだろう?死にたくなければ冒険者にならなければ良いでしょ?」
あー、駄目だコイツ。勇者の責任というの理解出来てないどころじゃない。人間として欠落してる部分が多すぎる。そもそもなんでこんなクズを召喚してしまったのだろう?自分自身の召喚センスの無さを嘆くしかない。だが、300年振りに勇者召喚を成功させて、教会本部の幹部達からは聖女の称号を与えられた。
召喚した責任もあり、何とかしてこの勇者に役目を果たして貰おうと、この身体すら捧げた。
初陣の時も、ご機嫌とりのために色々したが、結局またこれである。何かと理由付けて働かない。
だがしかし、最近はリュウタロウの操作方法が日々の努力により、解って来たのである。
「リュウタロウ様!ここで颯爽と現れ、魔物を殲滅したら……モテます!もう街の女性は全てリュウタロウ様のものですよ!あー大変だー整理券作らないとー!」
「むっ……」
フフ、考えはじめましたね?
結局メリットがある事(女性関係)に特に反応する。
彼が変態である事は100も承知です。
あと一押しですね。
「あと、現在、とあるパーティが既に交戦中でしたよね?このタイミングで西側から来てるパーティって例の竜殺しではないでしょうか?彼女のピンチを救ったら……間違いなく堕ちます!」
どうですか!これでどうだ!
「……い、急ぐぞスピカ!」
「へ?」
リュウタロウはすぐさまスピカを抱えあげ、宿の窓をぶち破り、王都の門へ爆走する。
「HAHAHA!待ってろマイヒロイン!今助けに行くぞぉぉぉ!」
そのまま、砂埃を上げて物凄いスピードでエイル達目掛け走りだした。
◇
一瞬変な悪寒を感じたが、気にしてる余裕などエイルにはなかった。
依然、戦闘中である。
雷刃之太刀でキラーボアを切り捨てて行くが、戦闘開始時の様にスムーズに行かない。
何故ならば、大量に斬ったキラーボアの屍と流れた血で足場はぬかるみ動きが鈍る。
屍が周りに増える度、行動範囲は限定され、仲間達との距離もつかみにくくなっていた。
「くっそ!」
一度体勢を立て直さないと……。広範囲魔法か、ブレスで焼くか……
「だっ!だっ!」
リオはエイルに与えられたギミックスーツでキラーボアを確実に減らしていた。
キラーボアの突進を躱し横腹に蹴りを入れるとキラーボアの腹が爆ぜる。
篭手には20センチほどの三本の鉄爪と小型のクナイが有線式で飛ばせる。
ブーツには足裏に仕込まれた魔石で爆発効果。
つま先にはナイフが飛び出す仕組みだ。
奮戦しているものの数の暴力で押され始める。体力的にも限界が近付く。
「お腹空いたなのです……」
一瞬の隙をキラーボアが襲い掛かってくる。
「げぅっ!」
キラーボアの突進をまともに受け、リオの小さな身体は宙を舞い.、数十メートルは突き飛ばされた。
「ゲホッ」
まともに背中から落ち、呼吸が出来なくなる。
それでも立ち上がらないとキラーボアの群れに踏みつけられないためには寝ては居られない。
「リオ!」
タタタタッ!タタタタッ!
キラーボアの群れの上を走り飛び、両手のハンドガンでキラーボアを撃ち殺しながらセリスが駆け寄る。
「リオ大丈夫か?」
倒れそうになる、リオの身体を優しく支え問いかけるが、リオは呼吸がままならない為、声を発する事が出来ない。「セっ……リス……」
「よく頑張った……後は任せろ!」
リオを抱え一時ティファの元へ下がった。
「ティファ!リオを頼む!」
「はっはひっ!」
汚してしまった服を着替えたものの、やはり落ち着けない様子で馬車の近くをウロウロしていたティファは急にセリスからリオを託され声が裏返った。
「オラァ!」バゴーン!「オラァ!」バゴーン!
ミカエルが釘バットをフルスイングする度に、キラーボアの汚い花火が打ち上がる。
「はぁっはぁっ……キリないわこれ」
返り血と汗で白い肌が余計に際立つが、その姿を見ていた護衛隊は最初はその美しい姿に見とれていたが、今ではドン引きである。
「旋風」
自身の周りの血と屍を吹き飛ばし、回避スペースを確保する。
「ミカエル!」
ミカエルを見つけたセリスがキラーボアの上を走りやって来た。
「後方に上位個体らしき姿を見た!恐らくキングボアだ」
「ボスキャラかぁ……尚更、雑魚の相手してる場合じゃないね」
「ミカエルの魔法で一掃出来るか?」
「無理。広範囲はエイル頼み」
「わかった。エイルに合流してくる」
「任せたわ」
タタタタッ
タタタタッ
そしてまたキラーボアを撃ちながらキラーボアの上を走り去って行った。
「こういう時は残念じゃないのよね……」
「竜の
上に飛び上がり、自分の周りにあるキラーボアの屍を焼却する。
辺りは火の海と化し後方のキラーボアの牽制にもなった。
「エイル!」
「ん?セリスか、どうした?」
「後方に上位個体のキラーボアが居た。かなりやっかいな相手だ消耗してからでは危険だ。広範囲で雑魚諸共消せるか?」
「やってみる。巻き込まれるなよ!」
「わかった、一旦下がる」
セリスはそう言うと、緊張した顔つきから笑顔で返した。
「ふぅー」
呼吸を整えて集中する。
空に右手をかざし雲ひとつない青空を見つめる。
「ヘブンクロス!」
天から一筋の光が地に落ち、光の柱が十字に上がると同時に多数のキラーボアは焼失または吹き飛ばれたが、範囲外のキラーボアはかろうじて難を逃れた。
その数は既に十分の一を下回っていた。
「やったか?」
セリスがお約束過ぎるフラグを立てながら前線に戻ってくる。
「いや。わからないよ」
辺りは大量に焼却された煙と焼けた血肉の匂いが充満しているため、視界も悪くなっていた。
「どうやらボスは無事みたいね」
煙の中からスタスタとミカが現れたがその姿はボロボロだった。外傷は無いが服が所々焼けたのか、中の下着まで見えてしまっている。
「酷い格好だけど大丈夫?」
そんな恥ずかしい姿のミカに心配して声をかけたが、睨み返され右脚にローキックをされた。
「てめぇの魔法に巻き込まれたんだよ!死ぬかと思った!」
地団駄踏みながら激怒りですが、パンツ見えてますよ。今日は情熱的な赤かぁ。
「悪い悪い、ミカさんなら大丈夫だろうと思ってさ」
「後で覚悟しなさいよ!てめぇ!」
口悪いなぁ相変わらず。
「二人ともイチャついてる場合じゃないぞ、第二ラウンド開始のようだ」
「「イチャついてねーよ!」」
煙の中から明らかに他のキラーボアとは格が違う上位個体が姿を表した。
◇
リュウタロウとスピカは街道を西にひたすら走っていた。
正確には走っているのはリュウタロウで、スピカは肩に担がれた状態なのだが……
二人は現在、街道にある監視塔を五つ通過した辺りだ。
ファミリア王国の王都から街道沿いには2キロおきに監視塔が設置されている。
光る魔石を用いた信号を各監視塔に送る事で襲撃などの情報を迅速に行う事が出来る。
「あのー、リュウタロウ様ぁ」
リュウタロウの肩に担がれた状態のスピカは現状の扱いに不満だった。
「ん、どうしたスピカ。トイレか?」
リュウタロウは少し後ろを振り返ったが、スピカの顔は見えない。
何しろリュウタロウの顔の隣りにはスピカの形の良い尻があり、スピカの上半身はリュウタロウの背中側にあった。髪は逆さにバサバサと舞い、両手はバンザイしながら運ばれた死体のようだ。
「ち、違いますよ〜、この現状を〜何とか〜して〜下さらないと〜吐きそうです〜」
「急ぎだったから仕方ないだろう?」
リュウタロウは仕方なく、足を停め、スピカを下ろした。
「もっと女の子は大切に扱って欲しいものですよ」
乱れた髪と衣服を直しながら、ちょっと拗ねた表情でリュウタロウに訴えかける。
「ふむ、ならば手を首に回して足で腰でしがみつく様にしてくれ」
「は、はぁ」
言われたとおりにスピカは前から抱きつく様に手を首に回し、両足をリュウタロウの腰に蟹バサミしてみたが……
「これはなんか卑猥な感じがします。何か当たりますし。却下ですね」
「チッ」
今舌打ちしませんでしたか?
「ならば肩車かお姫様抱っこの二択しかないぞ」
「肩車は多分、さっきの二の舞いになりそうです。お姫様抱っこは……恥ずかしいかな。何故おんぶは選択肢に入ってないのですか?」
「むぅ、なら仕方ない、ほれ」
「では失礼して……よろしくお願いします」
「では全力で行くからな。しっかり胸を押し付けておけよ!」
「なんで胸ですか?」
そしてまたリュウタロウは走りだした。
まだ見ぬエイルに向かって彗星の如くスピードで。
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