第3話 『デストロイ要塞』
大陸の北西部に死の大地と呼ばれる大草原がある。
何故、死の大地と呼ばれるのか。
永きに渡り、魔族と人族との戦場になっている草原は約1000年間、多くの死者を出した。
戦場にそびえ立つ魔族の砦。今まで数えきれない位、防衛を繰り返してきた砦はかつてない程、大幅に改修された。
上空から見ると巨大なひし形になっており、各角には
155mmの大砲が3門。計12門の大砲が戦場に向いている。
また、壁は15メートルの高さで厚い鉄板で補強されている為、破壊がほぼ不可能だ。
その上、壁には無数の窓があり、そこから連続して銃火器の弾が途切れずに飛んでくる。
砦の前方には有刺鉄線が張り巡らされ、兵の進軍を妨げていた。
これが、外から見たデストロイ要塞の情報である。
「魔族共め、厄介なもの創りおって!」
戦場に建設された、ローゼン帝国の仮設司令部で、本作戦の指揮を任された、帝国陸軍第一軍司令長官、バルバトス大将は持っていたグラスを床に叩きつけた。
が、投げた瞬間に、やべっ割ったら後で片付けるの大変だと後悔したが、奇跡的に割れずに済んだ。
ちょっとホッとしたバルバトスだったが、戦況は芳しく無い。開戦して半日で、5000人の兵が帰らぬ人となった。
未来ある若者が戦場に散った。遺族に合わせる顔は無い。こんな無謀な戦争で死なせた事が苦しい。
何故、こんな無謀な戦争を皇帝陛下は、休戦協定を破ってまで強行したのかはバルバトスには理解出来なかった。
◇デストロイ要塞
「ガッハッハッー、帝国なんぞ、姫様の造ったこのデストロイ要塞の前では猫に小判ってヤツだ!」
要塞の司令室で帝国軍が敗走して行く姿を見て間違ったことわざを使ってる男は魔族軍デストロイ要塞司令、ドワルデス・カブレラ将軍であった。
3ヶ月前に、突然訪問された、今は亡き魔王ラファエルの一人娘、ミカエル。その姫の能力によって改築された要塞はかつてないほどの強固造りだ。
ひし形の要塞は、正面角が「本塁」右が「一塁」左が「三塁」そして司令室がある「二塁」だ。
最初、何故この様な形にしたのかは理解出来なかったが、今は理解出来る。どの方角から敵が来ても各塁から兵や弾薬が要塞内部を走るトロッコによって迅速に移動出来る。常に最大火力で対応出来る。
このデストロイ要塞は、この異世界からしたら近代的と言えるだろう。航空戦力の皆無な世界なら攻略は不可能に近い。
この世界では軍事先進国である帝国軍でも、破壊する事叶わず、ただ兵力を失うだけだ。
「帝国軍指揮官宛にこの手紙を届けろ!」
ドワルデスは手紙を側近の士官に渡した。
「早くこんな戦争終わらして国に帰りたいな。なぁ?」
「はい!ですが、将軍の休暇より先に申請した自分が先であります!」
「なんだと!貴様、将軍である俺より先に国に帰るつもりか!」
「はい!当然です。前から申請してましたし。実家はもうすぐ稲の収穫で人手が足らないんで、だから自分が先であります!」
「ふざけるな!俺だって娘達に会いたいんだ!前に帰還した時、このおっさん誰?とか言われて傷ついたんだ!」
「いやいや、前に帰還された時、
「な、何故それを!」
「奥様に黙っていて欲しければ、休暇の順番は守りましょう。それに稲作農業はミカエル様が立ち上げた国家プロジェクトです。まさか将軍の帰還のせいで収穫が遅れたなんてミカエル様に知れたら……」
「わかった!わかったから!嫁はともかくミカエル様には絶対に黙っていてくれ!」
魔族軍の規律は割と緩いらしいが、魔族軍にとってミカエルの存在は恐怖の対象らしい。
◇帝国軍司令部
「閣下!魔族軍側からの書状に御座います!」
伝令役の士官が、作戦司令室に急ぎ入って来た。
「書状だと?差出人は……ドワルデスからか、読め!
書状を士官に渡し、内容を読ませる。
「帝国軍の諸君、我がデストロイ要塞は無敵である。お前ら如きに攻略は無理無理、さっさとおうちに帰れバーカバーカ。……です!」
「ふ、ふざけやがってー!」
バルバトスは近くの柱を思い切り蹴飛ばした。
が、直撃出来ずに小指を角にぶつけた。
「っのあ!」
やり場のない怒りと痛みに冷静さを失ったバルバトスは参謀達に命令を出す。
「夜襲だ!夜襲で突撃をかけろ!火を付けて来い!」
「了解しました!直ちに突撃隊を編成します!」
ドワルデスの降伏を促す書状はかえって帝国に火を付けただけであった。
帝国軍第一軍司令部は慌ただしく、動き出した。
「至急、大本営に伝令!」
バルバトスは司令部に響きわたる声で叫ぶ。
「直ちに280mm榴弾砲を本国から取寄せろ!」
280mm榴弾砲は本来、攻城兵器ではない。
海岸に設置し、対艦用に開発された大砲である。
その威力は抜群だが、砲台の設置と運用に難あり、今回の配備は見送らていたが、最早、そうも言ってられない状況である事は明確だった。
「ドワルデスめ、帝国陸軍の意地を見せてやる!」
魔族軍と帝国軍の戦争は激化して行く。
◇
突撃隊はコダマ大佐率いる1000人の部隊が担当する事になった。
突撃隊は軍服に白だすきを付け、その決死の覚悟を表していた。
「諸君、我々はこれより、死地に向かう!生きて帰るは恥と思え!」
「「「ハッ」」」
「よろしい。では遺書を回収する!遺書を渡した者は杯を受け取れ!」
皆、遺書を渡し、酒の入った杯を受け取る。
「勝利を我が祖国に!」
杯の酒を飲み干し、杯を床に叩き付ける。
杯を割る行為がもう二度と戻る必要など、無いと言う覚悟の表れであった。
この集団的ヒステリーの状態が戦争で言う所の士気である。
夜。空には雲がかかり月明かりは殆ど無い。
初秋とはいえ北方の気温は10度を下回るほど冷え込む
だが、1000の突撃隊は無言で進む。吐く息は白い。
突撃隊の任務は要塞の攻略ではない。攻略の為の道を作るだけだ。
無数に仕掛けられた有刺鉄線の排除とあわよくば要塞に侵入して火をつけろと言うのが与えられた任務だ。
帰還の為の援護は無い。
コダマ大佐はこのデストロイ要塞はとても魔族達によって造られたとは思えなかった。
あまりにも強固な造りと火力。今までの魔族軍は武器と言えば剣、槍、鎌、棍棒、弓などで銃火器の類は見た事が無かった。ましてや有刺鉄線なんて考えもよらないだろう。精々、使役した魔物達を突撃させる程度の力押しであった。魔族は大抵脳筋である。それが世界の常識だった。
有刺鉄線の第一ラインに到達した。
恐らくまだ、魔族軍は気付いていないだろう。
先日の戦闘で死んだ同胞達の死体が有刺鉄線に絡まっている。数えきれないほどだ。
銃撃に備え、鋼鉄のシールドを全面に出しつつ、有刺鉄線を切断して行く。入り込むスペースを造り、第二ラインを目指す。
◇デストロイ要塞の二塁にある司令室
司令室にあるコタツで仮眠をとっていたドワルデス将軍の部下で実家が農家の士官ルー・ペタジーニもコタツで仮眠していた。
「ん?どうやら何か来ましたかね」
ルーは異変に気付き、本塁の監視塔に向かう。直通のトロッコで移動は楽チンなのだ。
あの鬼姫……いや、ミカエル姫様の魔族国貢献度は高く、産業革命、農業革命など、魔族国は豊かになった。このデストロイ要塞はミカエル様の作品の一つに過ぎない。
監視塔から見ると、何やら帝国軍が有刺鉄線を除去しようとしていた。
「闇に紛れて奇襲ですか、丸見えですが」
夜目の効くルーは悪魔族だ。夜の活動は専売特許である。
「敵襲!直ちに一塁、三塁は銃撃で敵を正面に」
兵達に指示を出すと、要塞中央にあるマウンドと言われる施設に向かう。
「整備班!ピッチングマシンを使う!パチ弾装填かかれ!」
デストロイ要塞に敵襲のサイレンが響く。
「気付かれたか!」
コダマ大佐率いる突撃隊は第二ラインの有刺鉄線の除去作業中だった。
「撃て!撃て!弾は使い切れ!」
サーチライトが、部隊を照らすと雨の様な銃弾が降り注ぐ。
カン!カン!ヒュン!
すぐ近くでシールドに弾かれる音や、その間を通り過ぎてく弾丸の音、先程まで隣りにいた同胞は体に当たったのか倒れ呻き出す。絶命した者もいるだろう。
コダマ大佐は持っていた指揮刀を抜刀し、兵達を鼓舞する。
「突撃隊!進め!進め!」
要塞側からの迎撃は広範囲に展開されており、とてもじゃないが、散開させられる状況ではない。
むしろ、中央の弾幕が薄い、ならば中央突破し、爆薬で破壊を試みる。
移動式の大砲8門を進んでは撃ちを繰り返す。
要塞までの距離は50メートルにまで迫っていた。
流石に強固な要塞であろうと、近距離からの砲撃は効果ある様だ。要塞から煙が上がり始めた。
「撃て!撃て!」
「進めー!」
要塞側の砲撃により、いくつかの大砲が吹っ飛ばされたが、撃てる限りを尽くす。
少しでも要塞にダメージを与え、後の同胞に未来を託す。
コダマ大佐率いる突撃隊が、第三ラインに到達した時だった。
要塞の正面の門が開き始めた。
「門が開く!敵が出て来るぞ!」
が、出て来たのは兵隊ではなく、また魔物でもなかった。
ゴロゴロゴロゴロ
出て来たのは直径5メートルはある巨大な銀色の玉だった。
巨大なパチンコ玉である。
「なっ!」
巨大なパチンコ玉は勢い良く転がり、中央に集まってしまった突撃隊を踏み潰して行く。
次々と要塞からパチンコ玉が転がり出て、無残にも突撃隊が潰された結果、1000人居た突撃隊は負傷者12名
それ以外は戦死した。
デストロイ要塞は巨大な野球盤の様な造りになっている。野球好きのミカエルらしい造りだ。
因みに正面の門を突破した所で巨大な落とし穴が待ち受けている。落とし穴に落としたあと、パチンコ玉が降って来る仕様である。
◇帝国軍司令部
「作戦は失敗。突撃隊は生還者12名、コダマ大佐は戦死なされました」
伝令からの報告でバルバトスは拳を机に叩き付けた。
「くそぅ!だが、仇は必ずとってやる!無駄死ににはせんぞ!」
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