第2話 『ココ村観光』



 ◇ココ村


「え?延期?」

 ガッツーリから式典が数日延期される事になったと報告を受けた。

「ええ、なんでも国王が緊急四カ国会談に向かわれ、帰還に数日かかるらしく、式典は延期に。それまでエイル様御一行はココ村で待機される様、伝令が来た次第であります」


 ふむ。延期はちょっと嬉しいかも。だが気になるのは、帝国の挙兵による緊急四カ国会談だ。

 神聖王国セブールとファミリア王国、あと中立国であるセイコマルク亜人国が、どんな判断をするのだろう?

 なんて下唇を尖らせ考えてたら、ミカさんに頭をチョップされた。

「てっ!」

「あんたの無い頭で考えても状況は変わらないわ」


「そりゃそうだけど……」

 叩かれた所が痛い。バカ力だなホントに。

「せっかく、滞在が伸びたんだから、今日は一日観光しましょう?」

 ミカさんからの素敵な提案が!



「と、言うわけで滞在が伸びました。とりあえず自由行動だけど、お小遣いは一人10000ジルね。夕飯までには旅館に戻る事。特にリオは食べ過ぎ注意してね!セリスしっかり見張っといてね。では解散!」

 なんか引率の先生みたいになっているな。まぁ、息抜きも必要だな。いつも息抜きしてるけど。


 解散の合図と共にリオは残像を残す程のスピードで屋台に直行した。

「おじちゃん、甘栗くれなのです」

「お嬢ちゃん可愛いね〜おまけしてあげよう」

「ごくろうなのです」

 甘栗を受け取ると隣りの屋台へ

「おばちゃん、焼きバードのネギま、くれなのです」

「はいはい、お使いかい?」

「さっさとよこすなのです」

 受け取るとまた隣りへ

「リョー饅頭よこせなのです」

 どんどん言葉使いが悪くなってるが、屋台コンプリートする気か?セリス頼んだ!


 マリンとティファはどうやら二人で観光しに行ったようだ。ティファ頼んだ!マリンの暴走を止めてくれ!


 ミカさんは……何やら特産品の食材などを見ていた。

 我が家の台所は任せます。


「さてと、俺はどうするかな」

 特に目的はないけどブラブラ歩いてみると、団子屋があったので、ちょっと入ってみる。

「お団子くださいな」

「いらっしゃい!お一人様かい?」

「ええ、一人です」

「そしたら、外のベンチでも良いかい?あんたべっぴんさんだから客引きになるよ」

「はぁ」


 外のベンチで団子を食べながら、お茶をすすってると謎の老人に声をかけられた。


「お嬢さん、ちょっと隣りよろしいかね?」

「いいですよ」

 老人が隣りに座ると

「お嬢さんは観光かね?」

「いえ、ちょっと立ち寄っただけですよ」

「そーか、そーか、この村はね、あの勇者リョーマ様が温泉を掘り当て……」

「それは聞いたよ」

「そっかそっか……では三人の勇者と剣聖について語ってもよろしいかな?」


 あっ、これ長いやつだ。

「結構です」

「まぁまぁそう言わずに聞いて下され」

 強制イベントか!



 世界には剣聖と呼ばれる者が三人いる。

 剣聖は全て、過去の勇者の末裔か縁者である。

 一人は帝国に一人は亜人国に一人は自由過ぎてよくわからない。

 に、居るとされているらしい。

 初代とされる勇者はクロウ。まるで舞う様に美しい剣技の使い手だった。馬が得意でこの世界の騎兵の祖となった。現在の剣聖はシズカ。帝国にいるようだ。


 二代目の勇者はサブロウ。二刀剣術の使い手でどんな硬い物でも斬ったとさえ言われる剛の剣。大軍を率いる才にも長けていたとか。現在の剣聖はウメ。亜人国にいるようだ。


 三代目の勇者はリョーマ。一刀流の使い手で神速の剣。鞘から刀が出た時、敵は既に斬られていると言われた。銃火器にも精通していて、その技術は帝国が引き継いだらしい。現在の剣聖はツバキ。自由人なので所在は不明。


 そして三人の剣聖はそれぞれアチナより授かった結界石を持っていて、邪神の封印を守ってるらしい。


「というのが、三人の勇者と剣聖の話じゃ」

「は、はぁ」

 正直、あまりためになる気はしない話だ。とりあえずこの場から逃げたいです。


「聞いてくれてありがとうの。お礼にこれをやろう」

 じいさんは懐から小さな鈴を出して俺に渡した。

「鈴?こんなん貰っても------?」


 隣りに居たはずのじいさんは消えていた。

「え?あれ?じいさん?」


 きっと超高速でトイレにでも行ったのだろう。とりあえず、そう思う事にした。


「土産でも見に行くかな」


 土産屋で木刀を手に取ろうとしたら


「あっ、居た」

 タタタッとミカさんが駆け寄って来た。


「チッ」

 見つかったか。またしても木刀を買いそびれた。


「てめぇ!今舌打ちしたろ?」

 あっ怖い。チンピラみたいな口調やめて欲しい。


「し、してないしてない」


「ふーん。まぁいいわ、買い物に付き合え」

 拒否権はないみたいですね。


「わかったよ。で、何買うの?」

「地酒に決まってんだろうが!」

 決まってんのそれ。

「アイテムボックスになりなさい」

 要するに荷物持ちね。


 地酒も無事に買い揃え、旅館に戻る途中、マリンとティファが変な店の前で絡まれていた。


「そこの青髪のお姉ちゃん、うちで働かない?」

「え?うちッスか?」

「お姉ちゃんならきっとナンバーワンになれますよ!」

「ちょっ、ちょっとマリンさん、この店は、その……裸で踊るお店ですよぅ!」

「裸踊りならうちは得意っス」

「おっ、いいね!天職ですね!じゃぁほら!」

「ダメです!」

 なんて押し問答を繰り広げていた。


「マリン、帰るよー」

 俺はマリン達に声をかけた。

「あっ!ご主人様っス、一緒に裸踊りするっス」

「しねーよ!」


「おや、なかなか皆、美人揃いだね」

「夢幻」

 ミカさんが突然、男に魔法をかける。前に盗賊を殺した魔法だ。

「おい!殺すなよ!」

「わかってるわよ!軽めにしてあるわ」

 軽いとかあるんだ?

 店の前にいた男は失禁して倒れた。

 どんな夢を見させられたのだろうか。失禁する様な夢って怖い。


 少し歩くと人だかりが出来ていた。

 その中心にセリスとリオがいた。嫌な予感しかしない。

 どうやら射的の屋台のようだ。


「セリスーあれ欲しいなのです」

「よし!任せろ!」

 パコン!

 コルクの弾が景品に命中する。

「「おおー!」」

 周りのギャラリーが拍手喝采を贈る。

 店主は青ざめている。一体どれだけ命中させたの?

「セリスーあれもーなのです」

「よーし!」

「もう勘弁してくれ!」

 店主が土下座してセリスに懇願しているが……


「セリス!リオ!帰るよ」

「うむ!わかった!リオまた明日にしよう」

「頼むからもう来ないでくれ!」

 店主の悲痛な叫びが辺りに響いた。



 俺は思った。こいつらから目を離してはいけないらしい。うちのメンバーはアレだな。個性が強いのかな?




 ◇




 旅館の二日目の食事は海鮮料理だった。

 だけど、やはり醤油とワサビは無かったので、ミカさんに出して貰い、美味しく頂く事にした。ミカさん最高です!


 と、そこで

「やっぱり魚にはこれでしょ!」

 ミカさんが、先程買った一升瓶の酒を出して来た。

 リオ以外は成人なので皆で呑むことに。

「「「おいしい!」」」


 これは、日本酒みたいな酒だ。造り方までは知らないが、かなり近いものがある。やはりリョーマゆかりの村と言うことだからなのだろうか?

 だけど、アルコール度数はかなり高い気がする。


「きっと、この辺りには良いお米が採れるのね」

 なんかミカさんが感心しながら酒を呑んでいる。

「これは中々美味いだにゃー」

 セリスが真っ先に酔っていた。早っ!


「あはは、セリスは酒弱いっスか?」


「マリンさんはいつも酔っ払いみたいですよぅ」


 確かに無駄にテンション高くてシラフなのが信じられないな。


「あーこれはぬる燗で呑みたいわね」

「それいいね、風呂で温めるか?」


 リオは食事で満足したのか、既に寝ていた。


「リオ〜風邪引くぞ〜」

 足どりが既におぼつかないセリスが布団を敷き始める。


「ティファ。食事の片付け、お願いして来てくれ」

「はい!わかりましたぁ」


「マリンは何もするな」

「何でっスか?」

 余計なことしかしないだろうに。


 あれ?ミカさんは?

 見ると部屋の露天風呂で酒を呑み始めてました。速っ!


「エイル、付き合いなさい」

「は、はい……」


 とりあえず1杯付き合うか。

 風呂で酒とか体に悪そうだな。言われるがままに露天風呂へ。


「なんかいいわね、平和で」

「うん?あ、まあ騒がしいけど」

 なんだ。なんか普段なら、「あいつらうっさい」

 とか毒づくのに。変だ。


「なんかこうしてると異世界って感じしないわよね。向こうでも、君とこうしてたかな?」


「いや。それはないでしょ。男だったし?」


「……そんなの分からないでしょ!ひ、ひょっとしたら二人で旅行とかしてたかもしれないじゃない!」


「いやー、無いだろ普通に」

 ミカさんと旅行なんて絶対に無いな。あー、でも無理矢理連れて行かれる可能性がありそうだな。荷物持ちとしてかな。


「君にとって私はただのバイト先の仲間?」

「え?……それってどういう……」

「あのね、わたし……」

「は、はい……」

 ミカさんが、少し赤い顔で見つめてくる。

 近い。なんだか直視出来ないので下を向くと、けしからん胸の谷間が!

 胸を凝視する訳にも行かず、キョロキョロしてしまう。

「わたしを見て!」

 ガシッと両手で、顔を固定されてしまいました。

 ヤバい。ドキドキしてきた。心臓が脈打つ速度が上がる。

「わたしね……ず」

「ずるいっスー!何二人だけで呑んでるっスか?ウチも参戦っス!」

 貝殻下着姿のマリンが登場した。

 見事なまでのムードクラッシャーだよ。


「とうっ!っス」

 飛び込むかと思いきや、普通にスタスタと近づいて来た。そして、貝殻下着を外して、洗い始めた。

「その貝殻まだ使ってたんだ?」

 下着の役割を果たしてないだろうが。


「これはリョーマ様に貰ったウチの宝物っス」


 宝物の使い方間違ってるだろ。


「でも最近キツくなって来たっス」

 食い込むからな!大体紐だしね。


「上の紐の長さが足りないっス」

 そっちかよ!てかまだデカくなる気なの?


 ガララ


 ふらふらのセリスが、ティファに掴まりながらやって来た。

「セリス大丈夫か?」


「だ、大丈夫だ、私はまだ戦えるぞ」

 何と戦うんですか?


 結局、寝ているリオ以外みんなで風呂で酒呑んでしまいました。



「さてと寝るか」

 布団に入ろうとしたら


「まだっス!今日こそはご主人様の隣りはウチっスよ!ミカエルには負けないっス」


「うむ!そうだにゃ、ここら全員で枕投げで勝った者らエイルの隣りっれ事はどうだりょ?」

 呂律回ってないよセリス。


「私も負けませんよぉ!」

 何がティファの心に火をつけた?


「いいわ、お前らまとめてぶっ殺す!」

 何で枕投げで険悪な空気作ろうとするの?



 と言うわけで、第一回枕投げバトルロワイヤル開始!


「シャーオラーっス!」

 先手を切ったのはマリン。両手に持った枕をフリスビーの様に回転させて、ミカさんに投げる。

 無駄にポージングしながら下にしゃがみ躱す。

 が、「ハッ!」海神の逆鱗発動!

 枕がミカさんの上空を通過せずに真下に落ちる。

 ドカっドカっ!

「ゲフッ」

 流石のミカさんも膝をつく。

 まさか枕に重量アップかけるとは!


 セリスが、枕をミカさんの顔目掛け投げ、更にその枕に飛び蹴りかまして追撃をかける!


 これは効果的で、払おうとした枕にセリス自身の蹴りと体重が乗っているので潰され、尻もちをついた。


 そこにティファがありったけの枕を投げる。

「うおりゃああああああああぁぁぁ」


 大量の枕の下敷きになり、身動き取れないミカさんにマリンがダイブする。

「どりゃあーっス!」


「ざけんな!」

 ミカさんが浴衣の帯をマリンの顔面に振り払う。

 パシーン!

 見事にマリンの目に命中した。

「ふぎゃっ」


暗黒闘気ダークネスオーラ

 ミカさんの周りを黒い気が覆う。

 完全に魔族化し、ツノと尻尾が現れる。

 帯を外した事により、浴衣はスルりと落ち、下着姿が顕になる。黒い下着姿ですね。

 下は意外にもボクサータイプだ、レース付きだが。


 マリンの頭を掴み、露天風呂に放り投げ、扉ごと場外。マリン、アウト。


「あわわわ、聖なる力よ、邪悪なるものを拒め。聖域!」

 ティファが聖魔法で防御に徹する。


暗黒領域ダークテリトリー

 ティファの聖域が黒く侵食されていく。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

「インパクト!」

 ミカさんが枕をフルスイングしてティファを打った。

 ティファは頭からふすまに突っ込み沈黙。

 ティファ、アウト。


「拘束」

 今度はセリスを帯で縛り上げた。

 セリスの帯を取り、ムチの様にセリスを何度も叩く。

 バチーン!バチーン!


「グアッ!」

 叩かれる度に悲痛な叫びをあげるセリス。

「誰の隣りで寝たいって?」


「ぐ、くっ!殺せ!」

 ここでクッコロかい!

 まさか枕投げでこの展開!

 いや、すでに枕投げじゃないよね?


「淫魔式マッサージ壱の型」

 ミカさんがセリスに、あの秘技を発動した。

「くっ、や、やめろ!私はそんな事れ、くっしらいぞ!んっ!ら、らめー!あっ!……っ」

 セリス、アウト!


 スリーアウト試合終了?


「あ、あ、」

 俺が部屋の隅で怯え震えていると

「ジュルリ……」

 飢えた淫魔が、舌なめずりしながら近づいて来た。


 後ずさるが逃げ場が無い。


「フフっやっぱりあたしの勝ちね!」


 ミカさんに抱きつかれ……

「カプっ」

 血を吸われました。


 そのまま抱きつかれながら眠りについた……



 翌朝、女将さんにお説教されたのは云うまでもない。



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