第二章
第1話 『ココ村』
異世界に来てから約二ヶ月が過ぎた。
ありがちなファンタジー世界だったが、世界が危機に陥っているわけでもない。
仮に世界が、危機でも俺は勇者ではないので世界を救う義務はないと思っている。
俺は女神の使徒。与えられた役割りは世界の調律。
のはずだったが、逆の事してる感があるのは見て見ぬふりしよう。
今はファミリア王国の王都へ向かう途中の馬車の中だ。
退屈なので、スキルについて考えていた。
俺が与えられたユニークスキルは「ものまね」
最初はなんだそれ的なスキルだと思っていたが……
かなり便利なスキルだった。
他人のスキルをものまねして、自分のスキルに出来る反則的なスキルだった。
獲得条件は二つ。
一つはスキルを使用した相手のスキルを受ける事。
受けた際に死ななければ獲得出来る。
状態異常スキルの場合は耐性も付くらしい。まぁ素敵♡
二つ目は非戦闘スキルの場合だ。この場合は同じスキルを三回見ると獲得出来る様だ。
例を上げると「錬成」等のスキルはミカさんに見せて貰った事で獲得した。
この様に、ありとあらゆるスキルを……
「さっきからブツブツうるさい!集中出来ないでしょうが!」
ミカさんに怒られました。
ミカさんはと言うと、車内で新しい武器を錬成していました。
「出来たわ!釘バット改!」
また釘バットですか。
赤龍の鱗でコーティングし、釘はミスリル製で錆びない。鉄製の釘だと血で錆びるらしい。
血で錆びるほど釘バットを使う人は世界にミカさん位しか居ないと思うが……
釘バットを眺め、うっとりしている女の子はどう思いますか?
「それで殴られる魔物達に同情してしまいますね」
「ふん!役立たずに同情されている魔物も可哀想」
「や、役立たずじゃないです!私だって戦えますよ!」
「アチナに貰った腕輪のおかげでしょう?魔力不足で直ぐ倒れるじゃない?」
「うっ!でも前よりは魔力増えましたよ!」
「役立たず、腕輪無ければ、ただの人」
ミカエルが俳句でティファにとどめを刺した時、急に馬車が停止した。
「急に停車してすみません!只今、本国の斥候がおりましたので、話を聞いている所です」
護衛の騎士が、説明に慌ててやって来た。
「わかりました。わざわざありがとうございます」
俺は騎士に笑顔で返すと、騎士は顔を赤くして
「し、失礼しました」
と言って去って行った。
去って行った方を見たら、なんかガッツポーズしていた。
少しして、ガッツーリが車内に入って来た。
「失礼します。まずは急な停車の件、お詫び致します。それと斥候からの情報ですが、帝国が挙兵したとの事でした。ですが、こちらの予定には変更はございませんのでご安心を。まもなく出発致します」
「わかりました。ありがとうございます」
ガッツーリが去った後、直ぐに馬車は動きだした。
今日中には中間地点のココ村に到着するそうだ。
「で、どうなの?帝国挙兵らしいけど」
「せ、戦争がまた始まるんですかね?」
ティファは戦災孤児なのでかなり動揺してる。
「別に帝国が挙兵したところで北方砦で無惨に散るだけだわ」
あら?国が心配じゃないのか?
「北方の砦……いえ、元北方砦と言った方がいいかもね。私が国を出るついでに鬼強化しておいたから大丈夫よ!その名もデストロイ要塞!」
「「デストロイ要塞!」」
ネーミングセンスは別として、ミカさんの性格の悪さを具現化した様な要塞なんだろうな。見てはみたいけど。
日が暮れる前に一行はココ村に着いた。
村と言っても、温泉リゾート地として栄えており、正直、港町サクルより人で賑わっていた。
村に入ると温泉地特有の硫黄の匂いと、屋台などの食べ物の香りが漂い、観光地感を出していた。
驚いたのは、建物の多くは和風建築だった事と、行き交う観光客が浴衣を着て歩いていた事だ。
「なんだこの異世界感皆無の村は!」
「修学旅行思い出すわね」
「ココ村は、先代の勇者様が温泉を掘り当て、湯治場にしたのが始まりだと聞いております。そのため建築など、至る所にそのなごりがあるのでしょう」
ガッツーリが誇らしげに説明してくれた。
「宿はココ村で最高の宿を用意させて頂いてますので、まずは旅の疲れをお取りください」
早くゴロゴロしたいです。なんせ退屈な馬車の旅二日間は苦痛だ。エコノミー症候群にこそならないが、娯楽のない旅はやはり現代人には退屈過ぎた。
途中、お土産が並ぶ店の店頭に木刀が並んでた。
「あ、木刀売ってる」
「何故か修学旅行で木刀買う男子いるわね」
◇旅館 「イケダヤ」
あからさまに日本を思わせるその旅館はココ村で最高級と言われるだけあって、入口に着いた途端
「「「いらっしゃいませ!ようこそお越し下さいました!」」」
ほぼ従業員全部じゃね?と思わせる人数で、おもてなしされた。
何処かの大統領でも来てるのですか?
見ると玄関先に、歓迎 銀の翼御一行様と書かれた横断幕が掲示されていました。
良かった、「死ね死ね団」にならなくて。
仲居さんに案内された部屋は畳の部屋で露天風呂と室内風呂付きと言うスイートルームだ。
「「「おおっ!」」」
シンプルだが、襖、障子が煌びやかで、屏風まで金をあしらった贅沢な和室だ。
「ここなら竜化しても寝返りうてるっス!」
無理だ、やめとけ。
「お風呂に飛び込めるなのです!」
深さはないから怪我するぞ!
「手裏剣でも試そうかしら」
畳返しですか?
「そんな事より食事来るまでに温泉入りに行こう!」
俺は密かに楽しみにしていた。二日も前からココ村の温泉を!いや、大浴場を!
「む、そうだな。皆で旅の疲れを癒そう」
「了解っス!」
「お腹空いたなのです」
「楽しみですね!」
浴衣に着替えたメンバーは、美しさの個性が現れる。
セリスはやはりスリムなので、浴衣を着ると美しさに目を奪われる。
ティファは少し見える胸元が、色っぼさを感じさせる。
マリンは最早隠しきれない凶悪な谷間がより一層破壊力を増す。
リオは、獣耳×浴衣のコラボが可愛さをブーストしている。モフりたいぜ!
ミカさんは、長い黒髪を頭の上で結って、うなじとやや見える首筋がどセクシーだ。やはり着こなし方がわかっている。
俺は平べったい胸のお陰で、色気もなんもない。
座敷わらしみたいとミカさんに笑われたが、お前の身体だぞ。
「さて、行こうか」
浴衣に着替え、皆に続いて部屋を出ようとした時、後ろから肩を掴まれた。
「エイルくーん。君は部屋風呂でも入ってなさい」
ミカさんは全てお見通しだった。大勢の宿泊客がいる旅館の大浴場……しかも女子風呂に堂々と入れる機会を心待ちにしていた俺の企みなどミカさんは察知したらしい。
「はい……」
入浴イベント=覗く
が女子サイドから楽しめると思っていた俺の野望は散った。
結局ミカさんと二人で部屋の露天風呂に入る事になった。
「女の裸なんて今更見慣れてるでしょう?」
「わかってないなー、ロマンだよロマン」
「大体、自分が覗かれる側なのを理解してないよね?それに、背中の紋章はなるべく見せない方がいいんじゃないの?」
ハッ!確かにそうだった。別に覗かれるのは気にしないが、背中の紋章はあまり見られると面倒だ。
すっかり忘れてた。
「それに相変わらず無防備過ぎるの!今日だって馬車に来た騎士にバンツ丸見えだったわ」
「あ、あーそれでかー」
あの騎士のガッツポーズがようやく理解出来た。
「だから今日は我慢しなさい!」
「はい……じゃあ後で木刀買いに行ってもいい?」
カポーン
風呂の良くある効果音が二人の沈黙に響いた。
一方その頃
その者は旅館の裏側から侵入し、屋根を伝い、ある場所を目指していた。
忍者さながらの、俊敏性と気配を完全に消した隠密で
その者の侵入を許した。
が、どうやら先客が居たようだ。
その数1.2.3.4……10か。
どうやら同業ではないが、目的の邪魔なら排除しなければならない。
相手に全く気付かれずに背後から口を抑え、麻痺毒の付いた小さな針を首筋に刺し、無力化して行く。
ものの数分で全員を無力化した、その者は目的のポイントまで急ぐ。
その者には旅館に侵入するなど容易い。
その気になれば王宮の宝物庫にだって侵入する事も可能だ。以前、遊びで王宮の王の寝室に侵入し、王を起こさずに部屋の酒を飲んで帰った事もある。
その卓越した技術を最大に活かす。
そして、ポイントに到着した。
◇大浴場
「いやー、足を伸ばせるお風呂っていいですね!」
「極楽浄土っスー、やっぱり水に浸かってないと、ウチはダメッスー」
ティファはマリンの規格外の胸の双丘と自身の形は良い胸を見比べて
「マリンさんのそれは尻ですか?」
「尻が、胸にあるわけないっスよー」
二人の胸に関する話題には一切入らないセリスはリオの頭をわしゃわしゃと洗っていた。
だが、リオは浴場外に不審な匂いを察知した。
スンスン。
「セリスー、誰か外に居るなのです」
一応はセリスにしか聞こえない様に言った。
「な、に?」
セリスは警戒モードに入る。
リオの頭を桶でゆっくり静かに流しながら、目線で探る。
「そこっ!」
セリスは左手で石鹸を露天風呂の柵の隙間から、こちらを伺う不審な目線に飛ばす。
スコーン!
甲高い音が、大浴場に響きわたる。
入浴に来ていた、他の宿泊客は騒然とする。
「ぐわっ!」
石鹸の直撃を目に受けた不審者は流石に声を発してしまった。
しまった!感ずかれたか!
だが、ここまで来て逃げるなど、選択肢には無かった。ならば!強行突破あるのみ!
「キェー!」
奇声を発して大浴場に侵入し、目的目掛けて特攻だ!
「マリン!」
「了解っス!」
マリンの見えないシールドで不審者は張り付いたカエルの様にビタン!とシールドに激突して湯船に落ちた。
◇客室
「で、なんでマリーが此処にいるんだ?」
俺はセリス達に連れられ、浴衣の帯で縛られているマリーを見て言った。
「あぁ!エイルちゃんの浴衣姿たまんないわ〜」
全員茫然自失してからため息しか出なかった……
めんどくさいので、マリーは解放した。
既に満足したのか、マリーはサンクに帰って行った。
来る時は俺たちの馬車の床に張り付いて来たらしい。
その技術と根性は、とても凄いが目的がただの覗きって所が、マリーの残念な所だろうか。
その後、俺たちは高級旅館の食事を堪能して、就寝した。因みに木刀は買えなかった。
翌朝、女将さんの話だと、護衛の騎士団10名は明け方まで部屋に戻らなかったそうな。
何処で遊んでたのだろう?
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