第23話 『エイル、王都に行く』



 翌朝、王都からの使者が訪れた。


 ついにこの日が来てしまった。

 王城で開かれる叙勲式とその後に開かれるであろう宴等、行きたくない。

 しかし、赤龍討伐、爪の牙壊滅など、少々目立つ事をしてしまった感はあるので仕方ない。

 今回与えられる爵位は騎士爵。

 爵位の中では最も低い爵位で、一代限りだ。

 天族に寿命は無いので、一代でも永遠じゃね?

 なんて事を考え少しでも現実から目を逸らしていた。


 王都へは片道4日かかる。途中ココ村に立ち寄り1泊するらしい。

 ココ村とは街道沿いにある。宿場町で、温泉があり、観光地としても人気があるらしい。


 最初、自分で王都に行けば早いと、言った所、王都に到着からイベントスケジュールに入っているらしく、仕方なく迎えを了承した。なんだ?イベントって!嫌な予感しかしない。


 王都へは、護衛の騎士団が10名いるが、正直自分よりも弱い人達に守って貰うのはどうなんだ?

 因みに今回の護衛には1000人を超える志願があったらしい。ヒマだったんですかね?

 結果、王室警護隊が担当する事になった。

 セリスによると超エリート部隊だそうです。

 家柄、実力、容姿の3つ揃った方達ですってさ。


 なんでこんな大事になっているのか、セリスに聞いて見たところ。ファミリア王国は戦力的には弱小国家で

 英雄には無縁であった。勇者は神聖王国セブールの専売特許で、武勲はローゼン帝国が多い。

 その為、赤龍を単独で討伐した猛者が、ファミリア王国下に居たなんて事は、待ってました的な感じらしい。

 まぁ王様の名前すら知らないけど、歓迎されてるなら別にいいか位のノリで行く事に。


 出発は明日の朝。

 今日は旅の準備をしなければならない。

 とは言っても私物は全て、空間収納で持っていける。

 準備が必要なのは、セリスやリオ、ティファだったりする。


 セリスはフレオニールに王都に行く報告が必要だ。多分わかってはいるだろうが、しない訳には行かないようだ。

 リオは学生なので、しばらく休む旨を士官学校に伝える必要がある。無断欠席はセリスが許さない。

 教育ママ化してるけど、セリス自身に教育が足りてない気がする。

 ティファは教会のシスターに許しを貰えるかだが。



 リビングで一人暇をしていると、アチナが2階から降りてきた。昨日は泊まっていたのだ。


「頭痛い……水くれるかな」

 二日酔いですね。神が二日酔いとかなんか冷める。


「昨日はエイルや、ミカエルの事が少し解ったけど、余計に謎が増えた気がするね」


「今考えた所で答えは出ないよね多分」


「うん。銀髪の天族に、ミカエルを転生させた神の存在。あと、エイルの本体に発生した魔法陣。勇者の召喚。この世界に何かが起ころうとしているのか、ただの偶然か」


「あっ!1つ聞きたいのだけど、勇者が死んでも、また復活するのは本当?仕組みは?」


「あー、勇者は確かに復活するね。あれは確か、死ぬと教会本部の召喚の間に転送されるシステムだったかな」


「ほほう。なるほどね」

 これは良いことを聞いた気がする。教会本部に何らかの秘密がありそうだが、最悪、教会本部を吹っ飛ばせば、良い。


「エイル。教会本部を吹っ飛ばすとか考えてないだろうね?」


 ギクリ


「う、うん。いや、ちょっと考えてた」

 嘘をついてもバレそうだから正直にいう。


「一応この世界の唯一神アチナ教の本部なんだから勘弁して欲しいな」


「前向きに検討します」



「あっ、アチナ様っスー!お久っス!」

 相変わらず軽いノリで居間に入って来たマリン。


「え?誰だい?この爆乳のメイドは?」


「竜族のマリンっス!昔子どもの頃、リョーマ様に助けてもらいましたっス!」


「あー、なんかあったね。語りはしないけども」


 気になる。



 翌日。


 王都からの使者と護衛の騎士10名が屋敷の前に整列し、俺たちを待っていた。


 俺は一応正装に着替えた。騎士風の服装だ。

 極力露出度低いものを作って貰ったが、スカートなのがやはり落ち着かない。

 季節は既に秋なので、生地は少し厚手になっている。

 紺色の襟付きワンピースの様な作りで、金色の釦がダブルになってる。一見Pコート風だ。


「初めましてエイルです。道中護衛宜しくお願い致します」


「この様な大任を任され光栄に思っております!

 あ、私、ガッツーリ・スケベールと申します」

 ここでもスケベール!

 道中の不安が1層増した。


「エイルに触れたら殺すから気を付けなさい」

 初対面の人に殺すとか言うな。


「よ、宜しくです。あとうちの青い髪と獣耳が多分迷惑かけると思いますので、今の内に謝っておきます。ごめんなさい」


「は、はぁ」

 困惑した表情でガッツーリは首を傾げるが、理由を直ぐに理解した。

 言った傍から、青い髪の美女が馬車の屋根に乗りピョンピョン跳ねていた。


「やべーっス!馬車っス!幌じゃないっス!」

「中はフカフカのベンチなのです!」

 リオは鍵が、かかっていたはずの車内から出て来た。


「こらー!2人ともやめんか!」

 パンバンバン!

 セリスがマリンに容赦なく発砲する。

 リオには撃たない所が甘過ぎだ。セリスも迷惑人員だったか。


 騎士達は皆固まって動かなくなった。


 出発前からこれでは気が重くなってきた。



 馬車2台に別れ、皆乗り込む。


 いざ王都へ。


 馬車で町の大通りをゆっくりと進む。

 王家の紋章入りのVIPな馬車が珍しいのか、皆足を止めて注目している。窓から顔を出すと、ギルドや、宿のメンツが、手を振って見送りしてくれた。

 なんかロイヤルな気分だ。

 すると、見送りの面々の視線が馬車の後方に移る。

 窓から顔を出し、視線の先を見ると……


 大荷物を抱えたティファが、泣きながら爆走していた。

「ちょっと置いてかないで下さいよー!」


 忘れてたよ。



「酷くないですか?私を忘れるなんて!」

 汗と涙でびっしょりなティファが掴みかかって来た。


「忘れたんじゃないわ、置いてったの」

 ミカさんが余計な事言う。


「もっと酷いじゃないですか!あれですか?イジメってやつですか?」



 まぁそんな感じで、俺たちはサンク市を離れ、王都へと向かったのだった。

 まだ、その時は直ぐに戻って来れると思っていたんだ。


 だけど



 俺がサンクに戻って来れたのは2年後だった。





 ◇神聖王国セブール王の間


「おい!王はいるか!」

 王の間の巨大な扉を開け、足早に玉座に向かう男がいた。


「勇者様!何事で御座いますか?、謁見ならば事前に言って頂かないと……」

 国王直属の近衛兵に制止させられたのは、勇者リュウタロウだ。


「ふん!なんだ居ないのか。いつも玉座に座ってるだけかと思ってたのに!まぁ良い。連れてこい!」


 国王が四六時中、玉座に座ってるのはゲームだけである。現実で国王が、玉座にずっと座っているだけの国は、直ぐに滅びるだろう。実際は執務室にて書類やらに目を通し、サインをしたりと、山ほど仕事があるのだが、リュウタロウはそんな事は知らない。



「これは勇者様、お待たせして申し訳ない。火急の用件でしょうか?」

 国王アーロン・フォウ・セブールは、この無礼極まりない勇者でも、顔色一つ変えず王の威厳を保っていた。


「うん。ボクはしばらく旅に出る。だから路銀として

 2億ほど用意してくれ」


 冷静沈着、賢王との呼び声高いアーロン王でも

 持っていた杖を落とした。


 なんだ、この勇者は。散々迷惑をかけた挙句、旅に出るから金を出せと。しかも2億!どんな旅をすれば2億必要になるのだろうか。

 国家予算の内訳で、勇者養育費で年3000万ジル。

 召喚から半年ほどで既に2500万ジルを消費させている

 この、超浪費家の勇者が、更に2億出せと!


「ん?早くしろ!本来なら3億の所、国民達に悪いからな、2億にまけてやってるんだ。優しいだろ!」


「わかりました……直ぐに用意させましょう。ですが、これ以上の資金は一切出せませんので、御容赦下さい」

 これは手切れ金だ!アホ勇者め!何処へでも行ってしまえ!二度と来るな!

 これで宮仕えの女中も、王都の若い女達も安心して生きられる。もう妊娠だの、賠償金の支払いや、謝罪等で余計なストレスを抱えなくて済むなら2億でも高くない!


「うん、すまないな国王よ。国民からの税金だ、大切に使わせて貰う。安心しろ!半年以内には戻って来てやる!」


 えええーっ!戻って来るの?


 リュウタロウが王の間を去った後、アーロン王は膝から崩れ落ちた。

「血税が、血税が……すまぬ国民よ……」



 王都セブンスヘブンの南門ではスピカはリュウタロウを待っていた。


「やぁ、待たせたねスピカ」

 町の人が避けて行った中心から、こちらに向かって来る、煌びやか甲冑を来た青年。勇者リュウタロウが手を振り近付いて来た。


「いえ、私もつい先程でしたので」


「そうか。良かった」


 本当は2時間は待たされたのだが、そんな事言って気を悪くさせたくないスピカだった。


「旅の準備は全て滞りなく出来てございます。直ぐに出発なさいますか?」


「準備って、馬車はあるけど御者は?」


「私、馬の扱いも出来ますので、必要ないかなと。少しでも節約出来たらと思ったのですが、ご不満でしょうか!」


「そうなんだ!流石スピカだね!頼りにしてるよ!まぁ金は国王から2億貰ったから、余り貧乏旅行にはならないよ」


 2億!?


 流石にスピカも言葉を失った。



 アーロン王……心中お察しします。


 スピカは王城に深く、深く頭を下げてから馬車の御者台に乗り込んだ。


「よし!行こうか!ファミリア王国へ!」


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