第22話 『ミカエル・デストラーデ』


「何者って言われてもね。ただの魔族だけど?」

 何言ってんのこいつみたいな顔してアチナをアホを見るみたいな顔で答える。


「では質問を変えよう。どうやって転生した?その時の事を詳しく話してくれないかな。とても気になる」

 いつになく真顔だが、落ち着きを取り戻しゆっくりと話かける。



 少し考えてからミカさんが語りだした。



 結城美佳ゆうきみか18歳 大学生

 飲食店を経営している両親の長女として生まれた。

 小さな頃から活発で小学生の時から野球を始める。

 中学生の頃は……


「そんな前から話始めるの?」

「もっと最近の部分から話してくれない?」

「…………」



 2019年5月1日 日本

 平成が終わり、令和に改元した日

 大学に入学してから初めての大型連休だった。

 高校時代からバイトをしていたコンビニで週末と連休期間中は深夜シフトに入り、小遣いを稼ぐ。

 その日は、いつもと同じ顔ぶれ咲野大河さきのたいがと深夜勤務だ。いつもの様にこき使って、休憩しよう。いつも奴の分のお弁当作って持って来てるので、こき使ってもバチは当たらないだろう。

 胃袋は掴んでるのでるわ。ふふ奴隷ね。

 そんな事を調理器具の洗浄をしながら考えていたら……


「俺の事、奴隷とか酷くない?」

「回想中に話しかけんな!」


 えーと、なんだっけ?

 洗い物してたら、入店の音がなる。店内から咲野の阿呆の挨拶が聞こえた「いらっしゃっせー」

 ちゃんと言え!阿呆が!死なすぞ!

 どうやら来店した客は直ぐにレジに来たようだ。

 タバコかな?

 調理場からレジに、足早に向かう。

「いらっしゃいませ、大変お待たせいたしま……」


 え?なんだコイツ。ストッキングを頭から被ってる男性がレジに立っていた。

 右手にはプラスドライバー。

 変態の作業員?

 大体この店は変態が多い。先日も下半身裸の客が、レジに来て、粗末な物をカウンターに置いて

「温めて下さい」とか言ったので、セロテープ台を落としてやったら気絶した。ざまぁ!

 あと、釣り銭を受け取る際に手を握って来るヤツ等

 キリがない。いや、今はそれどころではなかったわね。

「あの、お金、下さい」


 あっ、これは強盗だ。えーと、どうすれば良いのだっけ?

 血の気が引いた。怖い。殺されるかもしれない。殺される前に殺す?厳しいかな?ヤバいどうしよう!

 助けて咲野くん!咲野くん!咲野くん!


 異変に気付いた咲野くんが、レジに来てくれた。

 これで2対1だ!どうだ!バカめ!


「か、金を出せー!」

 まさかのヒートアップ!

 ダメだ!刺激は与えないように、穏便に対処しないと殺られる!


 その時だった。


「ぶほっ!」


 あろう事か咲野くんは強盗見て吹き出した。

 確かに見た目変だけど!笑う状況じゃないし!てか笑って刺激すんなバカ!


 ドンッ!


 強盗は持っていたドライバーで咲野くんを刺した。


 咲野くんはそのままドサッと倒れた。

 そして動かなくなった……。


 嘘でしょ?何?死んだの?まだ生きてるよね?

 ねぇ?ねぇ?


「いやあぁぁぁぁ!」


 動かなくなった咲野くんにすがりつき、泣き叫ぶ。

 信じたくない現実と向き合えない。


「ねぇ、お金はー?」


 まるで死の宣告の様に聞こえるアイツの声。

 人を一人殺してるのに、自分の欲求の方が大事なのか、それとも既に狂っているのか。


 後ろから髪を掴まれ、引きずり回され顔を蹴られた。

 仰向けになった所を馬乗りになり、強盗は持っていたドライバーで私を刺した。

 私は最後の力を振り絞り被っていたストッキングを掴んで剥がした。


 ああ、コイツ見た事ある。いつも夜中に来て立ち読みを散々してから、カップ麺と飲み物買ってく客だ。

 通称ラーメンマン。勝手に私が付けたあだ名だ。

 咲野くんと私だけが、そう呼んでいた。


「お前、絶対殺してやる……」


 薄れ行く意識の中、最後に倒れて動かなくなった咲野くんを見た。すると咲野くんの周りに魔法陣が見えた気がしたけど……


 私も多分このまま死ぬのかな?


「………………」


 そこで意識は途絶えた。




 でも直ぐに目がさめた。

 知らない場所。と言うより空間?


 目の前には見知らぬ美女が立っていた。


「ここは?」


「ここは次元の狭間。あらゆる世界の中間地点。結城美佳ゆうきみかさん、あなたは残念ながら亡くなりました。ですが、あなたにもう一度、チャンスを与えましょう。これからあなたは転生する事を許します。何か望みはありますか?」


「……」


 転生?人生をやり直すってことかな?

 やり直せるなら。


「過去には戻れないのですか?」


「残念ながら過去に戻る事は出来ません。次の人生であなたがどの様な境遇に転生するかを選ぶ事が出来ます。裕福な家庭か、恵まれた能力、会いたい人に会える人生等です」


 会いたい人!ひょっとしたら咲野くんにまた会えるかもしれない。違う人生でもまた……!


「決まりました」


「そうですか。やはり、あなたはその道を選びましたね」


「では、新たな人生で、あなたの望むものを授けます。それとちょっとサービスしておきます。探しものが見つけやすい様に、記憶を消さずに送りますね」


 身体は光となり、次元の狭間から飛び立った。

 新たに宿る命となるために。


 絶対に君にまた会いに行く!



 ◇


「誰かと違って神っぽいね」

「悪かったね神っぽくなくて。でもその神っぽい人は何者なんだろうね?多分ボクよりも上位の神だと思うけど」


「知らないわ、特に聞いたりしてないし」


「その先も気になるね」


「俺ちょっと喉乾いた」


「じゃあ下から酒持ってこい!」


「じゃボクも頂こうかな」




 では続きを



 私は、地球じゃない世界。いわゆる異世界に転生した

 父は吸血鬼バンパイア母は淫魔サキュバスだった。

 大陸の西側。魔族国だ。

 父の名前はラファエル・デストラーデ

 母はサクヤ。父の側近だった。因みにできちゃった婚だ。

 父ラファエルは魔族で王様っぽい仕事をしている。


 要するに魔王だ。

 私は魔族国の魔王の一人娘ミカエルとして転生した。

 記憶持って転生したので、生まれた時の事は覚えていた。


 魔王城デスパレス21階


「ラファエル様!大変です!サクヤ様が!」


「直ぐに行く!」



 寝室


「サクヤ!生まれたか?」


「はい、元気な女の子でございます」


「おお!サクヤに似て美しい顔だな」


「ラファエル様のお役にたて、もう思い残す事はございません、ぐふっ」


「サクヤ!」


 母は私を産んで直ぐに……


 死んだふりをした。



「なーんちゃって!てへぺろ」


「ガハハっ全く、驚かせやがって!」


 ああ、馬鹿だこいつら……

 生まれて最初に両親に対する感想がそれだった。



 母の隣で寝てる私を父は抱えあげた。


 首も座ってないのにやめて!


「ハッハッハー可愛いぞ我が子よ!そうじゃ!名前を決めないとだな!よし!お前の名は、ピュンピュン丸だ!サクヤどうだ?」


「ラファエル様、その子は女の子ですよ。もう忘れたのですか?」


「ガハハ!そうだったな!ならば、ピュンピュン子か!」

 ピュンピュンから離れろ!阿呆か!


「全く、相変わらずセンスが皆無ですね。ミカエルなんてどうですか?」


「おお!ミカエルか!良い名だ。そう言えば代々エルの付いた名前だったな!」


 そこ忘れんなよ。



 でも。赤子スタートからかぁ。これから大変だ。

 こうして私の異世界生活は始まった。



 ◇

「とりあえず、こんな感じだけど」


「うーん、エイルの前世の周りに現れた魔法陣ってのが、気になるね」


「てか、ミカさんって魔王の娘だったとかの方が俺はビックリだけど。魔王って死んだんでしょ?なんで死んだかはミカさんは知ってるよね?」


「う!知りたいの?」


「「知りたい」」




 あれは今年の正月


 魔王城では新年の挨拶を魔王ラファエルにするため、各部族の長たちが、多数訪れていた。


 正月くらい家族で過ごしたいと思うのは日本人だからかな。

 それと、今年で私は15歳になる。この世界では成人だ。やっと魔族国から出る事が許される年齢になる。

 これでようやく君を探しに行ける。

 転生なのか、召喚なのかわからないが、この世界の何処かに居るはずだ。

 問題は過保護な両親を説得しなければならないのだが。

 今日はそのために準備をしていた。


 おせち料理と、お雑煮を作っておいた。

 あとコタツに蜜柑。完璧だ。


 コタツは私が8歳の時に創ったので、魔族国では普及している。


「姫様、ラファエル様とサクヤ様が、お戻りになりました」

 傍付きのメイドが両親を案内してくれた。


「うん、ありがとうジス」

 ジスは同じ歳で子供の頃から一緒だ。

 私は前世含めると年上だけどね。


「ミカエル!随分豪勢な食事だな!全部一人で作ったのか?」

 相変わらず、無駄に声のデカい父は、見慣れない料理に大興奮だ。

「ふふ、ミカエルは良い奥さんになれそうね」

 母はセクシー過ぎる服装で寒くないのか?


「嫁になんか絶対出さんぞ!」


 嫁に行く気はないから。



 家族でコタツを囲み、おせち料理を食べながら、私は話を切り出した。

「あのさ、私も15になったから、国を出てみたいな〜、なんて?」


 その時だった。


 父が、話に驚き、お雑煮の餅を喉に詰まらせてしまった。

「んぐっ!んん!ぐぐ!」

 目を見開き、苦しみ出す。胸をドンドンと叩くが意味ないだろう。


「ジス!水を早く!」




 父は死んだ。



 ◇



「「は?」」


「これが魔王の死因よ」


 なんとも言えない空気と沈黙する3人。


「魔王は餅を喉に詰まらせて死んだ?」


「ん」

 コクリとミカさんが頷く。


 なんだその、正月に必ず何件かあるニュースみたいな死に方は。そんな簡単に魔王は死ぬのか。


「正確には餅を喉に詰まらせた事による窒息死よ」


 同じだろ!



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