第21話 『ミリタリーエルフ』


 ゴブリンの群れが、人間達に襲われている。


 本来であれば、40体のゴブリンが、人間を襲う方が多いだろう。小さな村を襲ったり、冒険者や行商人を襲う事が、このゴブリン達には出来た。

 だが、彼等ゴブリンはとある事情により、大陸の北から移動して来た。南の森にでも移住して人を襲うつもりだった。

 彼等は驚愕した。南の人間怖ー!

 背丈の低い少女は真っ先に突っ込んで来て一振で三体を切り捨て、既に10体以上は斬り殺していた。


 黒髪の女は鎖付きの鉄球を振り回し、次々に撲殺して行く。その顔は喜びに満ちていた。


 エルフ族の女は素早さで、複数体のゴブリンを翻弄し

 確実に急所を突いて来る。


 獣人の子どもは素手でゴブリンの頭を粉砕し、骨を折り、または噛み付き、返り血で真っ赤だ。


 青髪の背の高い女は見えない壁でゴブリン達を押し潰して行く。ヒャッハーと奇声を発している。


 バケモノだ。こんな事なら大人しく魔王軍の砦で下働きでも、させて貰った方が良かった。

 今、この場所より、地獄は無い。


 ん?一人弱そうな人族が取り残されている。

 泣きわめき、杖を振り回して逃げ回っている。

 あれなら捕まえて盾にして逃げれるかもしれない。

 すぐに周りのゴブリンを連れ、弱そうな人族に飛びかかる!


「ヒィーっ来ないで下さーい!誰か!お助けー!」

「せ、聖なる光で浄化せよ!ホーリー?」


 天の雲がさけ一筋の光がティファの周りに射し込む。

「「「ぎぃええぇー」」」


 複数体のゴブリンは消滅した。

 消えゆく意識の中でゴブリンは思った。あ、こいつもヤバいや。生まれ変わったら人間に敵対しないで生きよう……



 ゴブリンの群れ全滅!



 ティファが魔力枯渇で倒れたので、俺たちは屋敷に戻った。無理もない初心者がいきなり上級魔法を使用したのだ。

「皆さんすみません……」

「ホーリー一発で魔力枯渇とか、役に立たないわね。捨ててく?」

「レベルが上がれば大丈夫じゃないか?」

「が、頑張ります……」




 翌日、回復したティファから戦闘に関する意見があった。リオは学校で不在だ。


「私、思うのですけど、このパーティ、バランス悪くないですか?私以外は皆さん前衛が主じゃないですか!戦闘になったら皆さん、ピューって居なくなって私、孤立ですよぅ!」


「自分の身も守れないなんてゴミね」

「ミカさんの言う事もわかるけど、確かにバランスは良くないな」

 わかるのは、守れない点ですか?ゴミの所ですか?


「なら、ティファも前衛になればイイッス!」

 発想が斬新ですね。無茶過ぎる。



「まぁ、それについては前から考えてた事があって、セリスに中衛を担当して貰おうかと」


「「「?!」」」



「セリス、確か弓使えるでしょ?」


「た、確かに使えるが、弓は混戦時には使い憎いぞ」


「まぁ、そうだよね。それで試しに作ってた、これが役に立つかなと」

 空間収納から、銃器類を取り出す。


 ライフルにハンドガン、ガトリング砲。


「弓の矢みたいに、毎度装填しないで撃てるんだよ」


「こ、これは帝国兵が似たようなものを使っていたが、それよりも高性能な代物だな」


「それと、空間収納付きのバックパックに、各ポケットに空間収納機能付きの服ね」

 マリーに頼んで作って貰った、迷彩柄の軍服だ。

 これで、セリスは遠距離と近距離の両方出来る訳だ。

 この銃器類は魔力で発火して弾丸を飛ばすので、無駄に魔力のあるセリスが、適任だ。

 異世界なのに、近代兵器を装備したエルフ。

 ミリタリーエルフの誕生である。

 下がパンツではなく、ミニスカートなのは珍しくマリーと意見が一致したので採用した。


「庭で使い方をレクチャーするから、マリンは的になってくれ」


「ちょ、ちょっと待って下さいっス!いきなり銃殺とか勘弁っス!」


「いや、お前シールドあるだろ。マリンは盾と乳は立派なんだから大丈夫だ!」


「ご主人様に褒められたっス!なら頑張るっスー」


 マリンが阿呆で良かった!背中に冷たい視線を感じるが、気のせいだ。多分。


 気を取り直して、始めます。


「まずはハンドガンから、両サイドの太ももにあるホルダーに二丁ある。とりあえず一丁をホルダーから出してくれ」

 因みにホルダーを太ももにしたのは見た目だけだ。

 解るだろう諸君!


「左にあるレバーは3段階で、1番上は安全装置、2段目は実弾モード、3段目は魔力弾になってる。実弾はマガジン式12発。予備マガジンは収納にある。魔力弾は実弾が切れた時か、実弾の効かない魔物用にあるが、魔力を消費するので気を付けてくれ」


「うむ、何となくわかった」


「じゃ、とりあえずマリンに向けて撃ってみて」


 セリスが銃を構え、マリンに向け発砲した。


 ドパーン!ドパーン!


 弾丸はマリンのシールドに弾かれたが、やはりセリスには射撃の才能がありそうだ。2発とも全く同じ場所を撃った。まるで冴〇獠だ。


「おお!これは凄いなエイル!戦闘の幅が広がるぞ!」

 そうだろう!なんてったって二丁拳銃で戦場を駆け巡るセリスを見たい一心で創りました。ふふふ。


 次はライフルだ。

 レバーの使い方はハンドガンと同じ。

 スコープ付きの狙撃用ライフルで飛距離は300メートル位。ほぼ確実に相手より、先に攻撃が出来る。


「この望遠鏡を覗いて狙うんだな。マリンだと近過ぎるな。む、道具屋の主人め、昼間っから遊郭通いとは!ハレンチなヤツめ!撃っていいか?」


「やめとうか。威力的には対魔物用だから人間だと爆発四散するよ多分」


「じゃあマリンで良いか」

 マリンに向けて構える


「うちなら大丈夫なんすか?爆発四散は嫌っス」

「安心しなさい。肉片は海に戻してあげるわ」


「マリンのシールドなら大丈夫じゃないかなー多分だけど」


「では撃つぞ。マリン、シールド忘れるな。まだお前を殺したくはないからな」


「まだってどういう事っスか?」


 マリンがシールドを展開する。


 セリスがシールドを確認して構える。


 ズバーン! ズバーン!


 ピシッ


 マリンのシールドにヒビが入る。

 思っていたより威力は高いようだ。ドラゴンの鱗より硬いマリンのシールドを傷付けるなら、ドラゴン倒せんじゃね?


「まじっすかー!うちのシールド破るとか勘弁っス!」


 続いて、ガトリング砲だが、街中では危険なので

 やめといた。マリンを的にするのも可哀想だからな。


「ティファ、これでバランス良くなっただろ?」


 ティファは思った。


 この人達に会う魔物達が不幸過ぎる。




 その日の夜


「えー、アチナ様、アチナ様、こちらエイル。応答願います」

 自室でアチナを呼んでみた。

 自室と言ってもミカさんと2人部屋なのだが。


「呼んだ?」

 ガチャっと自室のドアを開けて入ってきた。

 一体どんな仕組みになってんだろうか?


「あぁ呼んだよ。いくつか聞きたい事がある」


「うん、なんでも聞いてくれて良いよ」


「何その格好」


 アチナは赤と白の横縞のシャツを着ていた。


「あーちょ、ちょっと椿つばきちゃんとラグビー観てたんだよ。今結構、盛り上がってるんだ」


 神様ってヒマなの?って剣聖もヒマか!ヒマなのか?

 なんか守ってんじゃなかったっけ?


「そんな事よりも……天族って俺だけか?」

 マリンが見た天族の事を何か知ってるかもしれない


「うん、エイルだけだよ。ボクが初めて創った使徒だからな。それが、どうかしたのかな?」


「マリン……サクルの街で仲間になった竜族なんだけど、天族に会ったらしいんだ」

 マリンが天族に会い、何か変な物を飲まされ自我を失って暴れてた件を説明した。



 少しの沈黙の後アチナが口を開いた。

「別の世界の天族か、あるいは十二天将の生き残り?うーん、でもなぁ」


 何やら聞き捨てならないワードがありますね。


「説明しなさい」


「ん?どっちを?」


「両方だよ!そもそも別の世界って何?」


「別の世界ってのはそのまんまだよ。君のいた世界も別の世界だし、ここに似た異世界は多数存在してて、各世界に神が存在しているんだ。ただ、神にも悪いヤツが居て、たまに他の世界に侵略して来る事があるって言うのが1つ目の可能性だよ」


「2つ目は?」


「2つ目は邪神アルテミスの使徒の生き残りだよ。アルテミスには十二天将って言う使徒が居てね。ボクらも戦ったけど、全員を直接倒した訳ではないんだ。でもアルテミスの加護は消えてるだろうから、あまり脅威に感じてはいなかったけど」


「加護があったらどうなんだ?」


「ヤバいね。一人一人が勇者に匹敵する強さだよ」


 敵対は避けたい。今の所目立つ事はしていないが、この先何してくるのか?


「で、アチナ様的にはどっちの可能性が高いの?」


「うーん、2つ目かな。1つ目の可能性が低いのは、異世界から、こっちに来る場合はかなり強力なゲートを開く必要があるんだ。そんなゲート開いたら流石にボクでも気付くよ。実体を送って来た可能性はない。それは断言出来る」


「そうなると、アルテミスの残党が濃厚だ。目的はなんだろ?」

「それはアルテミスの復活しかないと思う。復活させて、加護を受けたら面倒くさくなるね」


「俺じゃ勝てないの?」


「無理だね、君はまだ未完成の天使だレベルが足らない」


「蜜柑製?」

 俺は自分の手を嗅いだりしてみたが、蜜柑の匂いはしなかった。

「未完成!蜜柑じゃないよ!バカかね君は!」


「じゃ、勇者に何とかして貰おう。俺は無理。はい、おしまーい」


 コンコン。

「入るわよ」

 ミカが部屋に入って来た。


「お邪魔してるよ。ボクはアチナ。これでも女神だよ」

「はじめまして、私はミカエル・デストラーデ、転生前は結城美佳ゆうきみかだったわ」


「え?転生だって?そんな馬鹿な!」

 動揺を隠せず、急に立ち上がりミカを凝視するアチナ。


「何?どうしたの!なんか問題あるのか?」

 訳分からず動揺するアチナへ問いかける。


「この世界でボクが知らない転生はありえないんだ。君は一体何者なんだ!」





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