第20話 『銀の翼』



 港町サクルから戻って、その夜

 辺境伯の屋敷にて俺の叙勲の前祝いの宴が開かれていた。兼ねてから、スルーしたかったイベントだったが、辺境伯の顔を立てないといけないらしく、渋々、開いて頂く事になった。

 自分が主役の会なんて、小学生の時の誕生日会くらいしか記憶にない。

 礼儀作法とか心配で、セリスに聞こうとしたら、フレオニールに止められた。セリスは無礼者だから、参考にしない方が良いらしい。フレオニールは見た目傭兵団の切り込み隊長だが、一応貴族だ。

 聞いてみたが、貴族令嬢の作法など知らないらしく、結局ミカさんに手ほどきを受けた。


「とりあえず礼をして笑顔作ってればいいのよ」

 なんとも雑な作法だな。


「エイル、マリーからドレスを預かってるから、き、着替えようか!」

 え?ドレス着るの?俺が?ていうか何セリス興奮してるの?


 やれやれ仕方なく、ドレスをミカさんに着せて貰い、何とか準備出来た。腹に巻かれたコルセットが苦しい。


 やがて迎えの馬車が到着し、俺たちはスケベール邸へと向かった。因みに初馬車に興奮したマリンが馬車から落ちたりしたが、無事に着いた。


 スケベール辺境伯の屋敷は兵舎に隣接しており、警備も万全だ。


「でっけぇなおい!」

「エイル、言葉使い」

「あ、うん……」


 門から屋敷までサッカーグラウンドくらいのスペースがあり、中央には噴水。その周りを馬車がグルグル回って、来客が降車している。

 それぞれに案内のメイドが付き、屋敷へと案内されて行く。

 屋敷内とは思えない広さの会場の隅にはちょっとしたオーケストラな演奏者達がゲームの城っぽいBGMを奏でる。

 会場の奥には今回の主催者であるチョー・スケベール伯爵とその夫人(だと思われる)真っ先に挨拶へ向かう。

 見た目オークかと思われるメタボリックな男性がスケベール伯爵、傍らにいる金髪縦ロールの若い貴婦人はどうやら第三夫人らしい。


「今宵は素敵な会を催して頂きまして、ありがとうございます」ドレスのスカートの左右を少し掴み、膝を曲げ礼をする。

 正直に言う。ドレスを着たくはありませんでした。

 やはりスカートのスースー感は慣れないものだ。

 マリーのゴリ押しに負け、ドレス着る事になったのだが。

「冒険者エイルよ、貴君の活躍はサンクのものとして大変鼻が高い。今後の活躍も期待しておるぞ」


「ご期待に添えますよう、精進致します」

 このスケベール、さり気なく目線が俺の胸へと向いている。最近は、こう言う視線がわかるようになった。

 いやらしい視線は殺気と同じように感じるのだ。

 とても不快だ。

 スケベール伯爵は、俺の胸が無いのを確認すると、視線を外し、少し鼻で笑った様に見えた。

 お前も胸か!


 とりあえず挨拶は済んだので、一緒に来た仲間達を探す。

 スケヘール伯爵から離れると、すぐさま華やかなドレスに身を包んだ、貴族令嬢の集団に囲まれてしまった。

「なんて美しい肌なのかしら」「とても剣を降ってるとは思えない程、細い腕に腰ですわ」

「どんな化粧品を使ってらっしゃるのかしら」

 完全に周りこまれた!返答すら許されないマシンガントークが俺を襲う。

 駄目だ、どう対処していいかわからん。


 離れた所にドレス姿のセリスを発見したが、貴族男性の群れに囲まれてる。くっ!人気者め!


 メイド姿のマリンは楽器が珍しいのか、演奏者から楽器を奪おうとしている。やめとけ!


 リオはテーブルに並んでる、食事をこっそり盗っては、テーブルの下で隠れ食いをしていた。忍びこんだガキか!


 ミカさんは、黒いドレスを着て、壁際で気配を消して酒をラッパ飲みしていた。ほどほどにね!


 ティファは教会の門限あるので不参加。


 完全に孤立!ソロ攻略か!


 敵(令嬢の群れ)のマシンガントークを適当に返し、たまに来る鋭い口撃はやんわり躱す。

 だが、徐々に体力を削られて行く。(精神的に)

 1人去ると、仲間を呼ぶ。エンドレスバトル。

 なんだこの強制戦闘は。


 なんとか切り抜け、命からがら生還。

 が、喉がカラカラだ。ポーション、じゃ無くて飲みものプリーズ!


 近くを通った若い男性に声をかけた。

「の、飲みものくれ」


「はい。どうぞ」

 男性はグラスをそっと手に持たせてくれた。

「あ、ありがとう」

 礼を言って一気に飲み干して、おかわりを貰おうと男を見たら、驚愕した。


 超イケメン!しかもボーイではなくて貴族さんでしたよ!

 恥ずかしくて顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「す、す、すみませんでした……」


「いえ、構いませんよ。おかげで、こうしてお話する事が叶いました。私はムッツーリ・スケベール。この家の三男です。エイル嬢」

 乙女ゲーに出て来そうなイケメンは、俺の手を取り片膝になり、そっと手に唇を付けた。

 乙女ゲーだったら主人公は恋に落ちるんでしょうか?


 だが、気持ち悪っ!


 男が男にされたくないことベスト3(俺100人に聞きました)

 ①キスされる②手を握られる③髪を撫でられる


 ダブル来たー!


「ちょっと風にあたりに行きませんか?」

 イケメンはニコリと微笑み歯並びの良い白い歯が光った!

 光ったよ!今、キラッ☆ってなりましたし!


「行きません!寒がりなんで!」

 ヤバい!今、私口説かれてますわ!やべ、女口調になってしまった!


 そうしたら、バサッとマントを肩にかけて来たー!

 なんて素早い!

「これで寒くありませんよ」キラッ☆


 完全に退路を絶たれた。

 イケメンからは逃げられない!



「その辺にしてもらうか、ムッツーリ卿」

 セリス来たー!セリスが、王子様に見える!


「私の身体エイルに何してくれてんの!死んで侘びなさい!」

 ミカさんも来たー!悪魔にしか見えねー!


「ご主人様を守るのはうちの役目っスー!」

 演奏者をチラチラ見ながら、マリンが離れた所から叫ぶ。

 来るの?来ないの?


「肉〜」

 ガブっ

 リオがイケメンの腕に噛み付いた。


「痛たたっ!何だこの子は!」


「リオ〜痛いってさ。離してあげなさい」


「エイルにお前如きが触れるからいかんのだ」

 辺境伯の息子に対して無礼過ぎる発言のセリスに誰も咎めないから不思議。


「名残り惜しいがセリスに言われたら仕方ない、話できて楽しかったですよ。それではごゆっくり」

 爽やかな笑顔でイケメンは去っていった。



「みんな助かったよ、ありがとう」



 スケベール邸での宴は無事終わり、皆で屋敷に戻った



「あ〜疲れた〜、そして腹減った〜」

 ドサッとソファに倒れ込み、我が家の居心地で安心する。

 結局俺はあまり食べる機会がなく、宴を貴族達に囲まれ過ごしてしまった。


「軽いものなら作るわ」

 ミカさんが有り合わせのもので食事を作ってくれた。


 セリスとリオは入浴して寝るみたいだ。

 リオは明日も学校だから早めに寝かしたいらしい。

 最近のセリスはママ感すごいですね。


 マリンは貰って来た楽器を大事そうに抱えながら、眠っていた。




 翌日の夕方


 屋敷には、新しく入ったマリンやティファも含め、パーティメンバーが揃っていた。


「えー、これからパーティ名を決める会議を始めます!」

 パーティ名を決めるのは義務ではないが、指名依頼が受けやすくなるなど、ギルドを通さない依頼が発生する事もあるので、メリットもある。

 大所帯のパーティなどは最早、傭兵団扱いになっていたりする。

「皆で意見を出し合って決めたいので、ドンドン出してくれ。ティファは書記よろしく」


「因みに今日の晩御飯は先日ゲットした海鮮料理だ」

「「「「いえーい!」」」」


「では張り切って決めよう!じゃ、ミカから」


「漆黒の闇ね」

 ミカさん厨二病か?


「エイル騎士団が良いだろう」

 セリス、冒険者だからね!


「皆殺しのエイルなのです」

 リオは、俺に何になって欲しいの?


「エイル海賊団っス」

 海賊王にはならないよ!


「女神アチナ様のこどもたち」

 長い、そして意味わからん。


「はい!2周目行くよ、ミカから」


「漆黒の翼ね」

 カラスっぽいね。あと漆黒はやめようね。


「銀の天使エンジェルはどうだ!」

 チョコボー〇か?おもちゃの缶詰め遠いね!


「肉の団なのです」

 肉団子食べたくなるね!


「七武海っス」

 今6人だよ


「女神の使徒」

 まんまだねー。


 碌な名前が出て来ない。こいつらやる気あんのか?

 その後も

「ロンドベル」鐘でもならしてろ!

「鷹の団」白い鷹は居ません!

「天使のブラ」寄せて上げて!

「マシンガン打線」野球か?

「白い悪魔」連邦のモビルスーツはバケモノか!

「女子ーズ」コメディ戦隊!

「エイル特戦隊」変なポーズしそうだな!

「から揚げ」腹減るわー

「バルチック艦隊」海軍じゃないからね!

「死ね死ね団」稲〇卓球部みたいだな!

「六魔将軍」魔王軍の幹部っぽい



 あー、もうなんか面倒くさくなって来たな。

 ここは公平にジャンケンで決めるしかない。


「とりあえずジャンケンで決めよう。勝った人が決めるって事で、あと一応俺も参加するわ」


「「「「「「「ジャーンケン」」」」」」」




 翌日ギルド受付


「じゃあ、パーティ名は「銀の翼」ですね。これで登録依頼しておきます。既に同じ名称が合った場合は、第二候補の……死ね死ね団……ぷっ、に、なります……宜しいですか?第二候補変更するなら、してもいいんですよ?」

 ローザさんが、第二候補を必死に変更させようとするが、ジャンケンで順番が決まったので代えない旨を伝えた。因みにジャンケンは俺が勝った。2位はリオだ。



 数日後、「銀の翼」で登録されました。


「よし!ではパーティ名も無事決まったから、討伐頑張ろー!」

「ふん」

「まかせろ!」

「おー、なのです!」

「了解っス」

「が、頑張りますぅ」


 で、俺たちはサンク市から北西にある森に囲まれた街道に狩りに来ていた。

「スンスン…魔物の匂いなのです…」


「数はわかるか?」


「多分、30くらいなのです」


「30!?」


「待機!」

 耳をすませると、風が木々の葉を揺らす音に混じり、集団の足音が近づいて来る。


 街道をこちら目掛けて魔物の群れが近づいて来た。

「ゴブリンだ!」


「30、いや40は居るな」


「皆殺しよ!」


「よし!誰が1番多く狩るか、競争だ!」


「ビリは明日の洗濯係ね」


「よっしゃっス」


「ぶっ殺すなのです!」


 一目散にゴブリンの群れへ駆け出す。


「ちょ、ちょっと待って〜!一人にしないで下さいよぅ!」

 ティファは思った。このパーティは


 エイル 魔法剣士?

 ミカエル 魔術師でも武闘派

 セリス 騎士

 リオ 格闘(ナイフも使えるらしい)

 マリン 盾&槍

 自分 治癒術


 前衛ばかりだ……













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