第19話 『暗躍』


 ◇エイル宅での出来事


「ところで、この屋敷の主が居ないと言うのに男を連れ込んでいるとは、どういう事なんだろうね?」

 長い白髪に黄色のТシャツを着ている美女は、暖炉の近くにある、ソファーにデーンと座り、その前に正座させられているセリスに問いた。

 白髪の美女の後ろには、狐族の亜人が立っていた。

 剣聖の椿つばきである。


「誤解です!アチナ様!あの男は私の上官でありまして、エイルに用があったらしく来ただけで……」

 青ざめた表情で必死に説明をするセリスであったが、女神アチナに対し、先程までストーカー扱いをしてしまった事の方が深刻であって、フレオニールが居た事などは、正直どうでも良かった。


「ふーん。本当かな?」

 アチナはフレオニールに眼を向け、そう言った。


「本当です。本日来ましたのは、赤龍討伐報酬の一部、赤龍から取れた魔石を届けに」

 女神の前で嘘など付けないし、嘘をつく理由もないフレオニールはありのまま説明する。


「ふむ。ボクの前で嘘は付けないのはわかってるようだね。ならば女神として貴様らに聞きたい事が1つある」

 クワッとその美しい金眼を見開き、フレオニールとセリスを見る。

 屋敷に緊張した空気が流れる。その場にいた、全員が固唾を飲んで、女神アチナの問を待つ。

 アチナが口を開き何かを言いかけたその時。



「ただいま〜なの〜っです!」


 一瞬にして、場の空気を日常に戻した、その人物は

 士官学校の初等部の制服にランドセルを背負った牙狼族の少女……リオである。

 最近、冒険者をしながらセリスの勧めで学校に通い始めた。


「お客の野郎共なのです?」

 キョトンとした表情で、相変わらず口の聞き方がちぐはぐだが、多少の敬語を覚えたらしい。


「こらこら、野郎共じゃあなくて、お客様だろう?」

 緊張で張り詰めてた表情だったセリスが、リオに駆け寄り、笑顔でリオを迎える。その顔は子煩悩な母の顔だ。


「なんか、一気にやる気失せたな。今日は予定があるから帰る。また来るからね」

 アチナと剣聖は魔法陣を出して、その中に消えて行った……


「助かった……リオのお陰だな」

 胸を撫で下ろし、安堵する一同だが……


「完全に忘れられていますね私」


 頑張れ!ティファ!




 ◇妄想の勇者


 ■注意■

 ここからは勇者リュウタロウの妄想の世界です。

 妄想の中に登場する人物の容姿、性格等は本編とは異なります。あくまでも勇者リュウタロウの都合の良い展開になります。



 勇者リュウタロウは、考え事をしていた。いや、考え事と言う程のものではない。

 まだ見ぬファミリア王国の英雄、竜殺しドラゴンスレイヤーのエイルに会えた時の事を勝手にシミュレーションしていた。


 王城で叙勲式は盛大に行われた。

 式の後に王城の中庭で立食パーティー。

 式の主役エイルは沢山の貴族に囲まれ、困惑していた。

「失礼、ボクにも英雄のお姿を見せてくれないかな?」颯爽と煌びやかなマントを翻し、現れるボク。


「おお!貴方様はまさか伝説の勇者リュウタロウ様!」

 エイルの周りに居た貴族達が皆、ボクのタメに道を開ける。

 その先には、まだ幼さの残る可憐な少女がボクを見る。

「勇者様、お会い出来て光栄です」

 それからボク達はパーティーを抜け出し、2人で会話を楽しんだ。

「勇者様!是非、手合わせをお願いしたいのですわ」

「ふふ、良いでしょう」


 勝負は一瞬で決まった。

 エイルの剣は弾かれ、地面に刺さる。

「なんて事かしら、こんなにも強いだなんて!素敵!今すぐ抱いて!」

「HAHAHA」


 ――完璧だ。これで行こう!ぐふふ


 ■ここから現実で■

「リュウタロウ様?」


 ふと、隣りで寝ていたはずのスピカに声をかけられ、現実に戻った。

「起こしちゃったね」


「なんかニヤニヤしてましたよ。他の女の子の事考えてたんですか?」

 それはもう酷い顔でしたよ。


「うっ!スピカは本当鋭いな」


「この浮気もの〜」

 リュウタロウの事だから、どうせ、そんな事だろう。

 例の竜殺しドラゴンスレイヤーについて、少し調べようかしら?

 リュウタロウが目を付けたなら、仲間なるかもしれないし。普通ならリュウタロウの魅了が効くはずだ。

 以前、ファミリア王国の女騎士セリスには効かなかったが。

 あれは例外だと、思いたい。リュウタロウは振られ、やけくそになり、見境なく女に手を付け、後始末が大変だったのだ。リュウタロウが手を付けた女性は全てスピカが管理している。子を宿したりした場合のケアや、補償など、とにかく大変だった。

 人妻に手を出した時は最悪だった。謝罪と賠償で胃が痛くなったものだ。

 リュウタロウの寝顔を見ながら、ため息をつくスピカだった。





 ◇ローゼン帝国 帝都スタットブルク


 大陸北部に位置するローゼン帝国は大陸で最も文明が軍事のみ発展していて、強大な軍事力を誇る大国である。

 先の大戦で、魔族側との休戦協定に唯一反対した国家でもあり、未だ戦争継続を模索している。

 帝国の狙いとは戦勝国で最も功績を上げ、領土拡大と兵力の増大が狙いである。



 ひと月前

 魔王崩御の一報で事態は急激に変化した。

 魔族側からの休戦協定は4カ国会談で賛成3反対1で

 可決された。

 帝国としては、実に不愉快な結果であった。


 ある夜

 皇帝ニコライ・ストライフの寝室に1人の女が侵入した。

「もしもーし」


「.........!」ニコライは深夜突然の呼びかけに驚いた。

「.........誰かいるのか?」

 天幕付きのベッドから降りると、窓際に一人の女性が立っていた。


「ふふっ、初めましてですね。皇帝陛下。ちょっとお邪魔させて頂いてますね」

 黒いフードを被ったその女はひどく落ちついている。


「どうやって入って来た?、部屋の前には兵が居たはずだが?」

 恐らく、他国の放った、暗殺者だろう。出来るだけ話を延ばし、兵が異変に気付くのを願う。


「窓からですよ?開いてましたので普通に」


「ここは最上階なはずだが?」

 地上80メートルはある巨城である。よじ登って来るのは監視の目があり、不可能だ。


「普通に空から来たんですよ。その方が楽でしょ?」

 そう言うと女は突然、翼を広げた。銀色の翼を。


 金色の眼、銀色の翼、フードから少し見える銀色の髪が、見える。

「まさか!有り得ん!」

 天族など、居るはずがない。


「でも居るわよ。ここに」

「な!?心を読んだのか?」


「今日は皇帝に、お願いがあって来たんですよ。魔族領の北方砦を攻めて下さると嬉しいです」


 何を言ってんだこいつは?

 休戦中に、軍事行動に出たら、条約違反になる。

 その場合、帝国が単独で魔族と戦争に突入する事になる。他三国の支援無しでだ。


「そんな事出来るわけ――」

 言いかけた時、自分の口を女の唇が塞いだ。

 抵抗出来ずに、女の舌が入り込んでくる。

 少しして離された唇をペロリと舐める女。

「なんのつもりだ?」

「ご褒美の前払いですよ」


「大丈夫です。必ず上手く行きますから」

 女は、指で皇帝の唇に触れ、そっと下へなぞる様に指を動かした。


「あぁ、大丈夫だ、必ず成功する」


 皇帝の思考は完全に支配された。




 ◇サンク市近郊


「ヒャッハーっス」

 青髪を靡かせ、魔導式三輪の陸王の座席でやたらテンションの高いのは、メイド服に身を包んだ阿呆、いやマリンだ。

 余程、旅が嬉しいのか知らないが、港町サクルを出てから、ずっとこの調子である。


 帰りの運転はミカさんが担当し、後部座席にマリン。

 その股の間にちょこんと俺が座る。身体のサイズ的に仕方ないのは解るが、丁度、頭の後ろにマリンの凶悪な胸が当たり、マリンが動くたび、ポヨンポヨンするのである。心地よいが。


 そんな様子をたまに振り返って、俺を睨むミカさんが舌打ちをする。この繰り返しだ。代わって欲しいのか?


 街が見えて来たので、徒歩に変更する。

 流石に異世界でトライクは目立つので、街中爆走する訳には行かない。前回ちょっと騒ぎになった。


 街に入り、大通りを歩く。マリンは港町以外の街中が珍しいのか、真っ直ぐ歩かないのでウザイ。


 屋敷に帰るついでにギルドに寄り、マリンの冒険者登録をしておいたり、マリーの店に行き、注文していた服などを取りに行った。


「ただいまー」

 2日ぶりの我が家に戻ると真っ先にリオが出迎えてくれた。

「おかえりなのです」

 ビシッと敬礼して迎えてくれたが、セリスの教育に不安を感じずにはいられない。



「おかえりなさいませエイル様」

 居間に入ると知らない人いた。

 少し、思考停止。


「誰でしたっけ?」


「私はティファと言います。隣りの教会でシスター見習いをしています。エイル様には以前教会で」


 あー、確かアチナ呼んだ時にロケットダイブして気絶した人だ。

「そうでしたか。き、今日はどの様なご用件でしょうか?」


「はい。今日はお願いがありまして、お邪魔させて頂きました、是非、私をお仲間に入れて下さいませんか?、聖魔法は全て使えますので、お役にたてるかと」


 聖魔法を全て?幾つあるか知らないが、凄い事なのかな?

 うーん、確かに回復使えるメンバー居ないから、助かるとは思う。

 真面目そうだし、いいか。


「うん。いーよ」


「よっしゃぁぁぁ!」

 いきなり奇声を発しガッツポーズし始めるティファ


 あれ?さっきまでの真面目キャラどこいった?

 早まったかもしれない。


 ティファ、無事に合流成功!



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